仕事人

カフェやレストラン，美容室(びようしつ)などの店舗(てんぽ)をデザインするのが私(わたし)の仕事です。床(ゆか)や壁(かべ)は何を使ってどのような空間にするか，テーブルや家具はどんなものをいくつどこに置くか，照明(しょうめい)はどんなものを使うか，外観はどうするか，トイレはどんな空間にしようか，ディズプレイのデザインはどうするかなど，お客さんの要望に合わせて絵を描(か)きながら提案(ていあん)します。初めは家のデザインはするつもりはなかったのですが，友人の翻訳家(ほんやくか)さんに家のデザインをして欲(ほ)しいと頼(たの)まれて仕事をしたのがきっかけで家のデザインもするようになりました。家が出来た時「オープンハウス」と呼(よ)ばれる，お友達やお仕事仲間，親戚(しんせき)の方などを呼(よ)んで出来た家を見てもらう日があります。初めての事だったので人が集まるのか？と不安に思っていましたが，なんと300人もの人が私(わたし)のデザインした家を見に来てくれたのです！ほんとに驚(おどろ)きましたね。とっても嬉(うれ)しくて自信にもなりました！

好きなこと・好きなものはなんですか？私(わたし)が家のデザインをする時は，お客さんの好きな事や好きな音楽，好きな服，好きな食べ物，好きな家具，どんな家に住みたいかなどを1ヶ月くらいかけて聞きます。そうして出来たイメージを，実際(じっさい)に家やキッチンやリビング，寝室(しんしつ)などの絵というカタチにして，お客様に見せます。建物がカッコイイとか，デザインが優(すぐ)れている事も大切ですが，何よりも住む人が喜んでくれるものをデザインしたいと思っています。私(わたし)は今でもパソコンではなく自分の手で描(か)くことがほとんどです。そのデザインを元に一級建築士(けんちくし)さんに設計(せっけい)をして頂(いただ)いて建てるのですが，設計(せっけい)に入るまで1年から数年かかることもあります。「デザイナー」は一見華(はな)やかな仕事に見えるかもしれないですが，完成までの道のりも長く，私(わたし)は，職人(しょくにん)さんと一緒(いっしょ)に道具を持って仕事をしたり，家の壁(かべ)を塗(ぬ)ったり，椅子(いす)を作ったり，といった仕事もしています。

私(わたし)がこの仕事を選んだ理由は「好きだから」。これってすっごく幸せな事ですね。小さい頃(ころ)は模様(もよう)替(が)えが好きだった事と，よく家の絵を描(か)いていたことが影響(えいきょう)したのかもしれません。絵を習っていた訳(わけ)ではないので，家をどう描(か)くかは自分で考えていました。「デザイナーになる！」って学校の先生に言っていたみたいですね。私(わたし)はあんまりよく覚えていませんが（笑）。デザイナーとして働く場所は，沼津(ぬまづ)と決めていました。ロンドンでもNYでも東京でもなく，沼津(ぬまづ)。地元に自分の仲間が集って，美味しいものを食べて，楽しく過(す)ごすことをずっとイメージしていたんです。一人っ子で長男だったので，家を継(つ)がなければいけないし，親の面倒(めんどう)も見なければいけない。だから，地元で仕事をするのは最初から決めていたんですよ。

私(わたし)はデザインの勉強をする為(ため)に，ロンドンのデザイナー育成学校に通っていました。ロンドンに行こうと決めたのは，ただの憧(あこが)れからでした。デザイナー育成学校の面接(めんせつ)に受かったものの，最初は英語も話せず大パニックでした。日本人の居(い)ない場所に住めば英語も話せるようになるかなと思ってケンブリッジという町にたどり着き，毎日2時間かけて学校に通っていました。「よく通った！」と，褒(ほ)められましたよ･･･遠かったので。学校は50人クラスで，半分はデザイナーや建築家(けんちくか)の仕事をすでにしている人達でした。最初は授業(じゅぎょう)についていけなかったですね。でも，この学校を卒業しなければ先はないと思って，絶対(ぜったい)に諦(あきら)めませんでした。入学当初は５０番だった成績(せいせき)が，卒業の時には６番！すごく大変でしたよ。でも，苦労した訳(わけ)じゃありません。それを乗り越(のりこ)えた先しか見えていないから，苦労とは感じなかったんです。

私(わたし)は，デザイナー育成学校に通っている時，球の絵を毎日描(か)き続けました。球を描(か)くのって色々(いろいろ)な要素(ようそ)が組み合わさっているから，基礎(きそ)が出来ていないと全く上手に描(か)けないんです。授業(じゅぎょう)では，Foundation（基礎(きそ)）が一番楽しかったですね！だって，応用(おうよう)は基礎(きそ)と基礎(きそ)との組み合わせ。だから基礎(きそ)がちゃんとできるようになると，応用(おうよう)も理解(りかい)できるようになる！それを実感出来るのがとっても楽しかったんです！自分のやりたい事，なりたい職業(しょくぎょう)が決まったら，それに向けた準備(じゅんび)が必要です。明確(めいかく)な準備(じゅんび)が出来れば，夢(ゆめ)は叶(かな)えられます。将来(しょうらい)の自分の為(ため)に，今やるべき事を一生懸命(いっしょうけんめい)，完璧(かんぺき)にやる。今日より明日，今年より来年，少しずつでもいいから出来る事を増(ふ)やしていけば，どんどん次のステップに繋(つな)がっていくんです。

デザインの仕事を始めたばかりの頃(ころ)はまだあまり仕事が無かったので，自分でカフェを開いて運営(うんえい)していました。人が集まるようになるまで苦労しましたが，カフェをきちんと運営(うんえい)できるようになってお客さんの立場に立って物事を考えられるようになりました。カフェで働いたことがあるからこそ，イメージをカタチにできるんですよね。カフェの運営(うんえい)は本当に大変でした。でも，それが分かるからこそ，本気で自分のお店を流行らせたい！こんなに良いものを出している！というこだわりとやる気を持った人からの仕事を受けて，その人たちが必要としていることに応(こた)えたいと思っています。そうやって仕事で繋(つな)がった仲間は，お互(たが)いのお店を行き来したりお客さんに紹介(しょうかい)したりコンサートを企画(きかく)したりしているうちに，プライベートでも仲良くなっていきます。そうした繋(つな)がりは，どんどん大きくなっていっています。相手を認(みと)め，尊重(そんちょう)すること。これがお互(たが)いに出来る相手だからこそ，素晴(すば)らしい仕事ができるんですね。幸せなことだと思います。

デザインをする時，最近は考え込(かんがえこ)むことはあまりありません。相手を見ただけでもイメージは浮(う)かぶんです（笑）。そして，お客さんの話や希望を聞いていくと，さらにイメージが浮(う)かび，カタチに変わっていく。それは才能(さいのう)か？というと，そうではないと思います。色んな事を見たり聞いたりして感性(かんせい)を磨(みが)く事が大切です。経験(けいけん)を積んだ今でも，いいお店があると言われればどこにでも見に行きますし，色んな音楽を聴(き)いたり，自然に触(ふ)れたり，花や食べ物の香(かお)りを意識(いしき)したり，友人の話を聞いたり，美味しいものを食べたり，いつも五感で使って自分の中にいっぱいアイデアの種を多く持つ事で，イメージをカタチに変えていけるのです。つまり自分の中に多くの「引き出しを持つ」っていうことですね！私(わたし)が「最高！」と言えるデザインが出来るのはきっと７０歳(さい)位になった時でしょう。だってそれまでに作った引き出しをたくさん持っているんですから！

仕事で大切な事は何かって？それは「愛」ですよ。愛がなければ，人のための仕事は出来ません。その為(ため)には，まず家族を幸せにすること。仕事に夢中(むちゅう)になりすぎるといろんなことを忘(わす)れてしまうんですよ。優(やさ)しさを忘(わす)れてしまう。親の存在(そんざい)や，おじいちゃんおばあちゃんの存在(そんざい)とか墓参(はかまい)りも忘(わす)れてしまう。感謝(かんしゃ)の気持ちを忘(わす)れてはいけないんです。感謝(かんしゃ)の気持ちや愛があれば，人のための仕事でもいい仕事ができるのです。ここ２～３年，やっと仕事が楽しくなりましたが，朝から晩(ばん)まで仕事ばかりで大変な時期もありました。本当にきつかったんですよ。でも，4年前に結婚(けっこん)したことで，なるべく夫婦(ふうふ)の会話を増(ふ)やそうとか，団欒(だんらん)の時間を増(ふ)やそう，仕事は7時までに終わらそう，と気をつけるようになりました。仕事はその分，朝早く起きてやればいいだけですからね。

皆(みな)さんは笑っていますか？怒(おこ)って過(す)ごすのも一日，笑って過(す)ごすのも同じ一日。だったら，笑って過(す)ごした方が幸せですよね？笑っていると人が集まってくるんですよ～（笑）。だって，怒(おこ)った人の所には近寄(ちかよ)りたくないでしょ？笑っているためにはどうしたらいいかって？それは，何でも楽しんじゃえばいいんです。何でも夢中(むちゅう)になって欲(ほ)しい。今から夢(ゆめ)を決めるのは難(むずか)しい事だろうから，一日一日を大切に，「今」をちゃんと生きればいいんです。「今」を一生懸命(いっしょうけんめい)生きる！人生頑張(がんば)っただけ，ご褒美(ほうび)がもらえるんですよ。それに，人生は辛(つら)い事があった分だけ幸せな楽しい事がある。だから諦(あきら)めずに，頑張(がんば)って楽しんでみてくださいね！