社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
皆(みな)さんは"めっき"と聞くとどんなことを思(おも)い浮(う)かべますか。「めっきがはがれる」という言葉があります。その"めっき"とは何でしょう。簡単(かんたん)に言うとものの表面に薄(うす)く金属(きんぞく)をつける技術(ぎじゅつ)のことです。昔は金属(きんぞく)がさびるのを防止(ぼうし)したり,見た目を美しくしたりするためにめっきが使われてきました。使われ方は多様になり,最近では,自動車やスマートフォン,タブレット端末(たんまつ)にも使われる最先端(さいせんたん)の技術(ぎじゅつ)になっています。私(わたし)は,その先端(せんたん)的なめっき技術(ぎじゅつ)の開発,研究をしています。 お客様からは,具体的にこのような技術(ぎじゅつ)のめっきができませんかという要望を受けます。もっと漠然(ばくぜん)とした要望には,技術(ぎじゅつ)職(しょく)である私(わたし)からお客様にめっきの技術(ぎじゅつ)や,使う素材(そざい)などを提案(ていあん)します。また,お客様からやってみないと分からない難(むずか)しい依頼(いらい)が来ることもあり,手さぐりで研究しながら進めることもあります。
私(わたし)は技術(ぎじゅつ)部のリーダーでもあるので,後輩(こうはい)の育成にも力を入れています。ある1日をご紹介(しょうかい)しましょう。朝7時には出社して,メールをチェックしてから1,2時間ほど後輩(こうはい)と会話しながら,その日に実施(じっし)する内容(ないよう)の確認(かくにん)や相談を受けたりします。そして,昼から午後にかけては私(わたし)が取り組んでいるめっきの試作や研究を行います。夕方になると後輩(こうはい)の報告(ほうこく)を聞き,今日の内容(ないよう)を踏(ふ)まえて明日やることの確認(かくにん)をします。自分の研究をするだけの時間というのは,なかなかとれないのですが,試作の内容(ないよう)を研究に当てることで確保(かくほ)するようにしています。 私(わたし)の研究対象は,皆(みな)さんが目にする車のホイールやアクセサリーなどではなく,スマートフォンの中で使われている部品など,目に見えないほど小さなものです。非常(ひじょう)に小さいものなので,目ではなく電子顕微鏡(けんびきょう)を用いて確認(かくにん)をしています。
私(わたし)は,入社したころから粉末へのめっきの開発に携(たずさ)わってきました。樹脂(じゅし)の粉一つひとつにニッケルでめっきをします。小さいものは髪(かみ)の毛(け)の太さの20分の1,約5ミクロンくらいの粉末にめっきをするんです。そうすることで,めっきをした樹脂(じゅし)の粉に電気が流れるようになるのです。身近な例をご紹介(しょうかい)しましょう。家電の電子部品には電気を効率(こうりつ)よく通すための素材(そざい)として,値段(ねだん)の高い銀などが使われています。この銀を使わなくても,めっきをした粉末で代用することにより,電気を流すことが可能(かのう)になるのです。めっきをした粉末は銀と比(くら)べて非常(ひじょう)に安いので,これにより家電自体が安く製造(せいぞう)できるようになるのです。しかし,実はこの目で見えない大きさの粉末にたった1粒(つぶ)でもめっきができていないと,電気が流れなくなることがあります。そこで私(わたし)は研究を重ね,粉末すべてにめっきができる技術(ぎじゅつ)を開発しました。この研究の成果が認(みと)められ,ありがたいことに,平成28年度の文部科学大臣表彰(ひょうしょう)科学技術(ぎじゅつ)賞を受賞しました。今は,更(さら)なるめっき開発技術(ぎじゅつ)に励(はげ)んでいます。
お客様が要望されたものを開発するのに,1,2か月かかることがあります。時には出口が見えず,最終的に駄目(だめ)だったというつらい経験(けいけん)もたくさんありますね。お客様の要望を100%満たすとことができない場合,別の提案(ていあん)をすることもあります。失敗してしまったことは,ひとつの良い経験(けいけん)として次に生かすようにしています。めっきに携(たずさ)わって長い年月が経(た)ち,やってみないと分からないことはまだまだ多いですが,これが研究というものです。試行錯誤(さくご)しながら,失敗したことは次に生かせるよう,日々(ひび)研究に励(はげ)んでいます。
研究職(けんきゅうしょく)としての魅力(みりょく)は,自分で仮説(かせつ)を立て,それが思った通りの結果になったときですね。その瞬間(しゅんかん)の喜びは今でも忘(わす)れられないほどです。会社として,お客様の要望に応(こた)えることが第一なのですが,その前に自分が納得(なっとく)できていないものを出したくないという気持ちがあります。自分が納得(なっとく)できていないものを届(とど)けて,お客様は果たして喜んでくれるのでしょうか,と常(つね)に思うのです。しかし,納期(のうき)はお客様との重要なお約束で,守らなければなりません。いつもできるとは限(かぎ)りませんが,自分が納得(なっとく)し,お客様の要望も満たした最高の品質(ひんしつ)になるよう,普段(ふだん)から最善(さいぜん)を尽(つ)くしています。
福井(ふくい)県には化学系(かがくけい)の会社が多く清川メッキもその一つです。私(わたし)は大学では化学を専門(せんもん)にしていたので,化学系(かがくけい)の仕事をしたいと思っていました。そんなときに福井(ふくい)県の産業会館で就職(しゅうしょく)セミナーが開かれており,清川メッキが出展(しゅってん)していました。清川メッキは全国でも有数のめっき技術(ぎじゅつ)の会社ですが,県内にこのような会社があるとは,恥(は)ずかしながら就職(しゅうしょく)活動をするまでは知らなかったですね。大学での専門(せんもん)分野をそのまま生かせるわけではなかったのですが,同じ化学分野でめっきにも興味(きょうみ)がありましたので,入社を決めました。会社はアットホームな雰囲気(ふんいき)で仕事もやりがいがあり,入社して良かったです。
小学生のときはソフトボール,中学生ではサッカー部に入り,外で体を動かすのが大好きな子どもでしたね。また,小学生のころから理科室で実験することが大好きでした。科学雑誌(ざっし)を頻繁(ひんぱん)に購読(こうどく)し,ミジンコを育てたり,プリズムで遊んだりしました。そのころは特に星座(せいざ)などを覚えて宇宙(うちゅう)に興味(きょうみ)を持っていたので,宇宙(うちゅう)飛行士にあこがれていましたね。理科への興味(きょうみ)は未知への好奇心(こうきしん)なんです。子どものときの経験(けいけん)が,今の仕事にもつながるきっかけになりました。
皆(みな)さんには,いろいろなことに興味(きょうみ)を持ってほしいと思います。興味(きょうみ)を持ったら,調べて実際(じっさい)に行動し,試してほしいですね。それは科学に限(かぎ)らず,自分が疑問(ぎもん)に思ったことでもかまいません。考えるだけではなく,実際(じっさい)に行動することが大切です。行動した先に,うまくいけば感動がありますし,うまくいかなくとも決して無駄(むだ)にはなりません。それは自分の経験(けいけん)として蓄積(ちくせき)されるからです。やってみて駄目(だめ)だったとそこで終わるのではなく,次への意欲(いよく)に変えて,また新しく興味(きょうみ)のもったことにチャレンジしてほしいと思います。私(わたし)はこれからもチャレンジし続けます。