仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

長野県に関連のある仕事人
1955年 生まれ 出身地 長野県
水上みずかみ 平八郎へいはちろう
子供の頃の夢: 農家
クラブ活動(中学校): 陸上部
仕事内容
森を育て,しいたけをさいばいする。
自己紹介
自然が大好きで,仕事の合間にウラナミアカシジミ,オオタカ,ハイタカなどの生き物の写真をるのがしゅです。ナチュラリストとばれています。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2017年08月22日)時点のものです

「山づくり」も大切な仕事

「山づくり」も大切な仕事

わたしは長野県こまで,むすいっしょに,自分の山を使ってしいたけの「原木さいばい」をしています。原木さいばいというのは,天然の木を用いてキノコをさいばいする方法です。キノコのさいばい方法には,他に,オガクズを使ってふくろやビンでキノコを発生させる「きんしょうさいばい」というものもあるのですが,原木さいばいでできたしいたけは,えいようざいなどの化学ぶっしついっさい使用しておらず,より安全で,安心して食べることができます。うちのしいたけはかおりがゆたかで,とてもおいしいんですよ。
作業としては,まず,原木にしいたけの種となるきんを植えつける「しょっきん」という作業を行います。きんを植えつけた原木を「ほだ木」といいますが,ほだ木に温度や水などのげきあたえることで,しいたけが発生します。きんはんしょくしやすいように,ビニールハウスや山の中など,ほだ木を置いておく「ほだ場」を,しいたけを発生させる時期におうじて使い分けて,温度と湿しつを調節します。さらに,しいたけの発生をうながすために,ほだ木をえたりする作業によってげきあたえ,さらに,ほだ木を水にける作業をすることでげきあたえて,しゅうかく時期を調整します。
原木にはクヌギを使っていて,自分の山からばっさいします。ばっさいするだけでは山の木がっていくばかりですから,新たな原木を作るために植林・育林もしています。こうした「山づくり」も,大切な仕事です。植林したクヌギは,育て始めてから20年ほどで,原木として使用できるまで成長します。

しゅうかくは毎日

収穫は毎日

毎日,早朝から,しいたけのしゅっ作業を行います。それが終わったら,ほだ木を水にけてげきあたえる作業や,育ったしいたけのしゅうかくかたけなど,1年365日,休むことなく,毎日の日課をこなしています。最近では科学的なデータも使えますし,ビニールハウスも活用できるなど,じゅつが進歩して定期的にしいたけをさいばいできるようになりました。このため,年間を通じてしいたけの注文があります。毎日の作業は大変ですが,お客さんの期待にこたえるためと思って,仕事にはげんでいます。
また,決まった時期にしかできない仕事もあります。原木にしいたけの種となるきんを植えつける「しょっきん」は,1月から3月のちゅうじゅんにかけて,年間を通じてしゅうかくする予定の原木,すべてに行います。今年は2万3千本の原木にしょっきんをしました。3月末から4月になると,品種によってはしいたけの「自然発生」が始まります。「自然発生」とは,ほだ木にげきあたえる「発生そう」を行わなくても,自然にキノコが発生することです。そうした自然発生でできたしいたけをりながら,4月から6月にかけては,山に新たな原木が育つように,クヌギの植林も行います。夏場は夜にもしいたけがれるようになるので,しゅうかくしゅっの量もえ,いそがしくなります。そして,秋も深まった10月ちゅうじゅんこうには,原木を切り出すばっさいの作業を行います。

発生量のコントロールは「神わざ」

発生量のコントロールは「神わざ」

ほだ木はとてもデリケートなものです。ほんの少し動かしただけでも,それがげきとなって,木の中の水分のじょうきょうが変わってしまい,予定していたしゅうかく時期がずれてしまうことがあります。また,気候の変動にもつねに気を配らなければいけません。特に夏場は,気温が上がりすぎることに注意する必要があります。
しいたけの品種によって発生量もことなります。このため,しいたけが発生しやすい品種の場合は,あらかじめしょっきんする量と,あたえるげきを少なくして発生数をおさえます。発生しにくい品種であれば,多めにしょっきんをして,げきやすために,ほだ木を叩いたりもします。たんじゅんに「多くのしいたけが発生すればそれでいい」というわけではなく,一つのほだ木からしいたけが大量に発生すると,一つひとつのしいたけが細くなってしまい,ひんしつもそれなりのものになってしまいます。ぎゃくに,しいたけの発生量をおさえれば,一つひとつがひんしつのいいものになります。できるだけしつの高いものをりつつ,しゅうかくの量もたもたなければなりません。
以前,どうすればもっとうまく発生量をコントロールできるのか,がくじゅつてきな意見を聞きたくて,大学の先生に話をうかがったところ,「それは神のりょういきだよ」と言われたことがあります。つまり,しいたけの発生量のコントロールは「神わざ」と言っていいほどなんです。この仕事の最もむずかしいところであり,長年のけいけんによるうでの見せどころでもあります。

「ダラリ」をなくす

「ダラリ」をなくす

小さな失敗は,数え切れないほどけいけんしました。むすは,ビニールハウスの温度が上がりすぎていることに気づかず,2000本分のしいたけをムダにする大失敗をしてしまったこともありました。
そうした失敗を苦労だと考える人もいるかもしれませんが,わたしむすにとっては,じゅつけいけんを得られるぜっこうのチャンスです。だから,チャレンジすることがおもしろくて仕方がありませんね。せつを立てて,ためして,その結果から分かったことを,次に生かしていく。失敗のけいけんをもとに,よりよいさいばい方法のためのろんみがいていくんです。
重要なことは,どんな作業であっても「ダラリ」をなくすことです。「ダラリ」とは「ムダ」「ムラ」「ムリ」のこと。かいぜんできる部分をいつもさがして,つねに新しい方法をためしています。より良い方法を使って,より良いしいたけを作れるようになることが本当におもしろいんですよ。

自然へのかんしゃわすれない

自然への感謝を忘れない

ただ単に,数多くひんしつの良いしいたけをしゅうかくすること,お金をかせぐこと,自分たちの都合のいいようにコントロールすること,そういった目先のことだけにとらわれていてはダメなんです。つねに広く大きなを持っていなければ,この仕事は成り立ちません。
原木しいたけさいばいは,自然,つまり山の力を借りてはじめて成り立つ仕事です。わたしたちも山に入り,木をばっさいして他の植物に光が当たるようにふうしたり,ばっさいした場所を整地することによって,植物が育ちやすいかんきょうにしたり,山全体が元気になるように手助けをしています。山が本来持っている力を100パーセントはっできるようなかんきょうを作り出すことができれば,山の力を借りて,より良いしいたけをさいばいすることができるのです。
しいたけさいばいの時間にくらべれば,山が力をたくわえていく時間ははるかに長いものです。そのため,山の自然かんきょう全体をじゅんかんさせるためには,しいたけのことだけを考えるのではなく,より長期的な計画を立てて,山を育てていかなければなりません。原木さいばいを続けていくためには,自然へのかんしゃ,山への思いがともなっていなければいけないんです。

一番大切なのは「思い」をつなげること

一番大切なのは「思い」をつなげること

先代である父やが原木しいたけさいばいを行っていたので,ごく自然に,わたしも同じ仕事につこうと考えました。なによりわたしは,山が大好きなんです。今でも仕事の合間には,山にいる生き物の写真をったりしています。うちの山には,ウラナミアカシジミというちょうや,オオタカ,ハイタカなどの鳥がいるんですよ。
先代のころから,ただしいたけを作るということだけでなく,「原木しいたけさいばいは山づくりから行うものだ」ということを考えてきました。お金をかせぐためだけなら,仕事は他にいくらでもあります。お金のためだけではなく,自分たちのいるかんきょうかんしゃし,かんきょうし,育てるという「思い」を持って行うこの仕事が,おもしろくて仕方がないんです。自然というものは,から未来へとつながっていくものです。自然をつなげていかなければ,原木しいたけさいばいも続けることはできません。
幸いなことに,むすわたしあといで,この仕事を続けてくれています。しいたけさいばいも,山も,人も,そのような「思い」を大切に持って,その「思い」を未来につなげていくことが大事だと思います。

かんを手に,キノコを調べていた少年時代

図鑑を手に,キノコを調べていた少年時代

おさないころ,「好きなものを買ってあげるから」と言われて,いねのミゴ(だっこくして残った部分)をホウキにする作業を手伝ったことがあります。その時,わたしは「本を買ってほしい」とたのんだんです。買ってもらったのは,『原色日本きんるいかん』という,とても子どもが読むようなものではないせんもんてきむずかしい本でした。さまざまな種類のきんるいっているかんで,父の作っている原木からざっきんが出ているのを見つけたら,そのかんくらべて「これは何ていうきんだろう」「このキノコはどういう種類のものだろう」「あ,カワラタケっていうのか」「これはヒイロタケか」など,だれに言われるでもなく,自然とキノコについて調べていました。好きになるとちゅうになるせいかくなのですが,このせいかくわたしむすにもがれていて,むすもとても研究熱心です。
山や自然が大好きなのは,中学生になってからもまったく変わりませんでした。自然の中に,当たり前のようにけこんでいたのだと思います。山へカブトムシをりに行ったり,川へ魚をきに行ったりするのは大人になってからも続きましたし,今でも山へイノシシをりに行くことがあります。ウリボウ(子どものイノシシ)くらいならつかまえることができますよ。

あとからくる者のために

あとからくる者のために

自分のできること,好きなこと,やりたいことをしっかりやる。あたえられた場で,何事も自分のできるかぎいっしょうけんめいやるということが,一番大事なんじゃないかな。
あとは,そういうふうにいっしょうけんめいやることができる場所があるということを,わすれないでほしいですね。わたしの仕事でいえば,自分たちがしいたけを作り続けることができるのは,山があってのこと。ゆたかな自然かんきょうがあってはじめて,自分たちの生活があり,しいたけを作ることができる。どんなことであっても,自分の置かれているかんきょうかんしゃすることをわすれてはダメだと思います。そして,自分がいっしょうけんめいにやっている姿すがたというのは,きっとだれかが見ていてくれます。
さかむらしんみんさんという詩人の人が書いた『あとからくる者のために』という詩がわたしは大好きなのですが,自分がかつやくできる場で,とにかくいっしょうけんめいにやっていれば,それがきっと,その姿すがたを見ていた後進の人たち,つまり「あとからくる者」にえいきょうあたえることになると思います。自然と「思い」がつながっていくのですね。むすが自分の仕事をいでくれたのも,いっしょうけんめい仕事をまっとうして,山への「思い」,自然への「思い」をつなげることができたからだと思います。

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取材・原稿作成:東京書籍株式会社/協力:株式会社ファミリーマート,林野庁,NPO法人 共存の森ネットワーク