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神奈川県に関連のある仕事人
1969年 生まれ 出身地 岐阜県
もり 信人のぶひと
子供の頃の夢: 研究者
クラブ活動(中学校): 陸上部
仕事内容
さいがいについて、かいし、ぶんせきし、そなえることで、安心できる社会をつくる。
自己紹介
楽観的で気楽なせいかくです。陸上部だった名残なごりで毎月50km走るなど、休日は体を動かし、トレーニングをしてごすことが多いです。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2025年07月10日)時点のものです

よこはまたんじょうした、日本初となる台風せんもんの研究機関で研究をする

横浜に誕生した、日本初となる台風専門の研究機関で研究をする

わたしは台風科学じゅつ研究センターにしょぞくする研究者です。台風科学じゅつ研究センターは、2021年によこはま国立大学内にせつりつされた、日本初の台風せんもん研究機関です。日本中から主にしょうの研究者が集まっていて、68名がざいせきしています(※取材日時点)。台風のかんそくそくぼうさい、そして研究結果をらしに生かす活動を行っていて、研究テーマ別に、台風かんそく研究ラボ、台風そく研究ラボ、台風発電開発ラボ、社会じっそうすいしんラボ、いきぼうさい研究ラボ、台風データサイエンスラボの6つに分かれています。
そもそも台風は、南のあたたかい海で海水がじょうはつし、すいじょうによって大気のうずが発生することから始まります。すいじょうすいてき、雲、やがてせきらんうんへと成長し、そのていで熱エネルギーを生みます。発生した熱エネルギーによってじょうしょう気流が強まることでせきらんうんはどんどん発達し、台風になります。そして太平洋こうあつや、へん西せいふうなど上空の風のえいきょうで北にどうし、日本にやってきます。
海と陸地の位置関係により、大きな台風が来るのは北西太平洋と北大西洋のため、先進国の中では特に日本とアメリカが台風のえいきょうを受けやすくなっています。日本には、大体1年に1~2の台風が上陸(台風の中心が北海道・本州・四国・九州の海岸線に達すること)します。
ほんてきには海水温が高いほど大気がる熱エネルギーも多く、台風がどんどん強くなります。ただ、今のところ、いつ、どうしたら、どのくらい強くなるのかという台風のメカニズムはせいかくにはかいめいされていないため、台風科学じゅつ研究センターでは、台風そのものについて知る研究も行っています。

最終目標は、台風を自由にコントロールできるようになること

最終目標は、台風を自由にコントロールできるようになること

みなさんは台風に対してどのようなイメージがあるでしょうか。「こわい」「不安」と感じるでしょうか。しかし台風が来ることには、良い面もいろいろあります。例えば、夏の海はとてもあたたかいため水がじゅんかんしづらく、海の底のほうのさんが少なくなりますが、台風は海の底から上までかきぜてくれるので、それによって海底のさんりょうえ、生き物がびることができます。それから、夏は東京から西側にあまり雨がらないのですが、台風は雨をらせて湖やダムに水をめてくれます。その水はやがて、わたしたちの飲料水や農作物に変わります。
一方で、今、地球おんだんが問題になっていますが、地球おんだんによって海水温が高くなり、そのためしょうらいへ向かって台風もどんどん強くなると予想されています。するとさいがいけんしていきます。台風は来ても来なくてもこまるので、どううまく付き合っていくかを、ちゃんと考えていくことが必要です。
うまく付き合うためにも、台風科学じゅつ研究センターでは「台風をせいぎょする」という大きなミッションをかかげています。せいりょくを弱めたり、がいを少なくしたりして、人間が台風をコントロールできるようになることが目標です。最終的には、台風の力を電力や風力のようなエネルギーに変えることができないか、ともたくらんでいます。このミッションは「ムーンショットがた研究開発せい(※)」とばれる国家プロジェクトの一つにも選ばれています。

(※)なんが高いものの、もしじつげんできたら世の中に大きなインパクトをあたえるであろう研究開発をすいしんする、国のおおがた研究プログラム

台風科学じゅつ研究センターと京都大学の2きょてんで研究

台風科学技術研究センターと京都大学の2拠点で研究

わたしは台風科学じゅつ研究センターの「いきぼうさい研究ラボ」と「台風そく研究ラボ」の2つにしょぞくしています。いきぼうさい研究ラボではラボ長をつとめ、台風が来るときに、いきとしてどういうじゅんをすべきかを考えるほか、昨年からは、よこはま国立大学にぞくする小中学校とれんけいしてぼうさい教育も行っています。台風そく研究ラボでは、どうしたら台風が強くなるのかを研究しています。台風さいがいは強い台風が来ないかぎりは起こりません。そのため、台風の強くなり方を研究し、強い台風が来るのをそくすることができれば、てきせつそなえができてさいがいけいげんにつながると考えています。
実は、わたしが台風科学じゅつ研究センターで活動するのは大体、月2日ほどで、だんは京都大学で研究をしています。京都大学ではぼうさい研究所にしょぞくし、20人ちょうの学生とともに研究にはげんでいます。研究たいしょうは台風科学じゅつ研究センターでの研究よりも広く、沿えんがんリスクと気候変動です。具体的には、さんたんや温室こうガスのはいしゅつにより、どれくらい地球の気温が上がって、台風が変化して、雨が強くなるのか。また、それによってせんこうずいなみたかしおなどの強い自然さいがいがどのくらいえて、どのくらいのひんで、どのくらいの強さになるのかというそく研究です。
台風科学じゅつ研究センターでの台風に特化した研究も、京都大学でのより広い自然さいがいたいしょうにした研究も、ゴールはともに日本のさいがいけいげんです。それぞれでられた研究結果をたがいに生かしながら、取り組んでいます。

台風のデータを集めて、よりこうせいな台風そくのう

台風のデータを集めて、より高精度な台風予測を可能に

台風科学じゅつ研究センターにしゅっきんする日は、研究室で、台風や台風がいを正しくかいするためのすうモデリングに取り組みます。すうモデリングというのは、数式やアルゴリズムを用いてげんじつ世界のげんしょうやシステムをシミュレートしたりそくしたりできるようにすることです。わたしが取り組んでいるのは、台風などの自然げんしょうをコンピューター上でさいげんできるようにすることで、例えば台風であれば、げんざいしょうじょうきょうなどのデータをすうモデルに入れれば、台風がどれくらい発達するか、どこに行くかをシミュレーションすることができます。まだまだせいが高くないので、アップデートにはげむ日々です。
アップデートの方法はさまざまですが、主に台風付近の気温や水温といったデータを使います。大学内の高いとうの上にあるかんそくようのセンサーなどを使って、台風の目の周りの気温や水温のデータを集めます。そしてすうモデル上の台風とじっさいの台風とで、動きや強さなどにどんなズレがあるのかを調べ、見つけたズレをすうモデルにはんえいし、モデルをせいかくにしていくのです。
台風に関するすうモデル自体はしょうちょうでも作られていますが、わたしたちはそのデータががいにどう関係しているのか、ということまで調べています。さいがいは「ハザード(Hazard、けん)」「エクスポージャー(Exposure、さらされるたいしょう)」「ヴァルネラビリティ(Vulnerability、きずつきやすさ)」の3つが高まると起きるとされています。台風の場合だと、「ハザード」は台風がどれくらい強いか、「エクスポージャー」は人や鉄道など何ががいを受けるか、「ヴァルネラビリティ」はがいを受けるものがどれくらいこわれやすいか、にあたります。例えばとても強い台風が無人島に来てもさいがいは生じないですが、人口が集中している上、あまり守られていないところに台風が来るとだいさいがいが起きます。台風の強さとがいの大きさはイコールではないので、どのくらい強い台風が来るのか、何にがいあたえたのか、どういうじょうきょうだったのかなどふくすうの面を調ちょうすることによって、台風とさいがいかんけいせいかいしていきます。

国内外のさいに足を運び、台風がいじつじょうを知る

国内外の被災地に足を運び、台風被害の実情を知る

げん調ちょうさいじょうきょうを知ることができます。台風の中心のあつを表す単位を「ヘクトパスカル(hPa)」といい、hPaのあたいが低いほど台風は強くなります。日本に950hPa以下の強い台風が来て、もしがいがあれば、さいに向かいます。げん調ちょうの機会は数年に1回ていです。
台風やなみが来た直後にさいに行くと、かべなどにどろみずのあとが残っているので、どこまで水が来ていたのかをそくりょうします。どういう建物がどれくらいこわれていたかを見たり、いきの住民の方々に、どのタイミングでどういうじょうほうもとづいてどうやってげたかをインタビューしたりもします。
日本だけではなく、海外にげん調ちょうに行くこともあります。これまでフィリピン、南太平洋、カリブ海などに調ちょうに行きました。海外の場合、えいせいじょうたいが良いとはかぎらず、かんせんしょうにかかるけんせいもあるため、ワクチンを打ってたいさくしていきます。国によってはさいがいが起こると治安が悪くなります。フィリピンに行ったときには軍をやとって守ってもらいました。また、強い台風が来るのは大体、暑いいきのため、日焼けたいさくも必要です。ほかにも食事や宿のかくなど、日本でのげん調ちょう以上に気にけなくてはならない部分もありますが、かえればどれもじょうに良いけいけんです。

やりがいは、自分のやっていることを社会にかんげんできるところ

やりがいは、自分のやっていることを社会に還元できるところ

ぼうさいは、人々のらしや社会活動の中でこそ生かされるものです。そのためごろから、研究したことをいかに社会につなげていくかをしきしています。そのときに役に立っているのが、台風科学じゅつ研究センターで出会うしょうほうの方々の意見です。例えば、自然げんしょうを語る上で「かくりつぶん」という用語を使うことがあるのですが、その用語はいっぱんの人はわからないのではないか、とか、わたしが作ったグラフだといっぱんの人には説明しづらい、とか、日々、世の中にしょうじょうほうとどけている方々ならではの意見をもらえるので、助かります。台風についてメディアでかいせつするときや、いっぱんの方向けのシンポジウムに出るときに、どういうひょうげんや言い方をすべきかの参考になっています。
ときには研究を通じて社会の役に立てたと実感することもあります。例えば、大阪市にはきょだいな3つの水門があります。台風によるたかしおや、地球おんだんによって海の水位が上がっていることへのたいさくとして、げんざい、付近に新しい水門をつくり直すこうしん事業を行っています。研究のいっかんとしてわたしもそのせっけいに関わっていて、目に見える大きな成果があるのはじょうおもしろいと感じます。

夏休みの自由研究をきっかけに研究者の道へ

夏休みの自由研究をきっかけに研究者の道へ

わたしは、アクティブで自然が大好きな子どもでした。家の近くになががわという川があったので、放課後はよくそこでりをしていました。研究者をこころざしたのは小学校高学年ごろです。夏休みの自由研究がとても好きで、ものを落下させて重力加速度をはかる研究などを、自分でかくしてやっていました。毎年とても楽しくて、いつしか「これをしょくぎょうにできたらいいな」と思い、研究者がしょうらいゆめになりました。
中学校と高校では陸上部にしょぞくし、ちゅうきょ走とちょうきょ走に取り組んでいました。苦しくても必ずゴールがやってくると信じて走り続けることで、にんたいりょくきたえられました。研究も、コンスタントに、コツコツとやっていればいつか結果が出るにちがいないと信じてやるものなので、陸上に通ずるところがあると思います。また、研究結果を世の中に伝えるしゅだんの一つにろんぶんほうこくしょがあります。年に1~2本出すことを目標にしており、大体1~2か月かけて作成します。スケジュールを組み、コツコツと進めることで、り前に急がなくても完成させることができており、陸上でつちかったペース配分が生きていると感じます。
大学では、海の波がどのようにできて、どのように大きくなるかをかいする研究に取り組み、卒業後は、発電所の研究者として火力発電所や原子力発電所のせつ設計を考える仕事をしていました。その後、大学での研究にうつり、大阪市立大学でのこうよこはま国立大学でのじょうきんこうて、2008年には京都大学にうつり、2021年から台風科学じゅつ研究センターで台風の研究をしています。実はよこはま国立大学でじょうきんこうをしていたときの教え子が、今、よこはま国立大学のきょうじゅになっています。「先生」とい、台風科学じゅつ研究センターでいっしょに研究をしていて、えんやつながりを感じています。

こうしんさえあれば、いつでもだれでも研究者になれる

好奇心さえあれば、いつでも誰でも研究者になれる

人生何でもできるので、目標に向かって楽しくがんってほしいです。わたしが小学生のときの目標と言えば「ちゃんと次の日起きる」くらいでした。でも、そんな小さなことでもいいので、何か目指すものがあるといいと思います。
もし研究者になりたいと考えているのであれば、こうしんはとても大切です。こうしんは研究を続ける上でモチベーションになりますし、研究者という仕事のりょくは、自分のこうしんを原動力に仕事ができることです。そのため自分のやりたいことや好きなことをめていっしょうけんめいやっていけば、いつでもだれでもなれるはずです。もしかしたらこうしんを持って始めたことでも、だいになったりつらくなったりすることもあるかもしれません。そのときはきょを置いてちょっと別のことをやってみるなど、いったんきゅうけいしてみてもいいと思います。無理に自分をまないことが大切です。
わたしが今きょうを持っているのは、日本全体のさいがいリスクです。結局、日本は一体どれくらいさいがいを受けるのうせいがあるのか、そしてそのリスクに対してどういうじゅんをすればよいのかを知りたいと思っています。一方で、わたしたちの研究活動はぜいきんによって成り立っているので、自分の知りたいことだけを研究しているのでは不十分です。自分のこうしんを生かしつつ、ちゃんと社会にこうけんすることをしきしながら、これからも研究にはげんでいきます。

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私は小説家レイモンド・チャンドラーの大ファン、通称「チャンドリアン」です。『長いお別れ』は1953年に刊行された長編ミステリー小説です。もちろんミステリーとしても面白いのですが、行間を読み取る必要のある緻密なやり取りが、文章として好きです。
マルクス・アウレーリウス
マルクス・アウレリウス・アントニヌスが、自らを律して、正しく生きるために書いた内省の記録です。ここ1年ずっと読んでいます。「前向きになれるかどうかは、基本的には自分の気の持ちよう」というメッセージがたくさん書いてあり、仕事に生かされているほか、人生の在り方について考えるきっかけにもなっています。

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取材・原稿作成:横塚 瑞貴(Playce)・東京書籍株式会社/協力:横浜銀行