※このページに書いてある内容は取材日(2021年06月04日)時点のものです
狭いスペースにたくさんの車を駐車するための立体駐車場を販売
私は,マンションや商業施設などの建設時に,立体駐車場を販売して納める「道商事株式会社」の社長を務めています。道商事は,1987年に私の父が設立した会社で,本社は東京都文京区にあります。立体駐車場は,駐車場を2段,3段と立体的に重ねて,狭いスペースでもたくさんの車を駐車できるようにしたものです。
立体駐車場にはさまざまな形,機能のものがありますが,大きくは2種類に分けられます。一つは,平面の駐車場と同じように,利用する人が目的の階まで自分で車を運転して駐車する「自走式」の駐車場。もう一つが,エレベーターのように,人が駐車装置を操作して車の入庫や出庫を行う「機械式」の駐車場です。私たちの会社では,主に株式会社IHIというメーカーの機械式駐車場設備を販売していますが,自走式の立体駐車場や自動車用のエレベーターなどを取り扱うこともあります。
私たちの会社では,ただ立体駐車場設備を売るだけではなく,新しく建てられるマンションや施設の条件に合わせて,どの形の立体駐車場が合っているのか,どのように設備を取り付けたらよいか,などを建物の設計担当者と考えるほか,立体駐車場の納入工事の進行管理もします。私は社長なので,そういった現場の仕事をしながら,会社全体の受注管理や売上管理,社員の仕事の状況の確認といった,会社の運営に関わる仕事もしています。
建物に合った立体駐車場を納入するまでが仕事
私たちのお客さまはマンションや施設を建てる建設会社です。例えば新しいマンションを建てる場合,建物本体を施工する建設会社のほかに,コンクリートを作る業者や,エレベーターを造る業者,電気設備や空調設備を担当する業者など,いくつもの専門業者が関わります。その中で立体駐車場を専門に担当するのが当社です。
マンションや施設を建てるにあたっては,その建物の大きさに対して必要な駐車場の収容台数が法律で決められています。30台置ける駐車場を造らないといけない建物なのに,平面だと5台分しかスペースが取れない,という場合は,立体化しなくてはいけません。そうなると,私たちの出番です。立地なども考えながら,どのタイプの立体駐車場にするかなどを,建物本体の設計担当者と話し合い,提案します。建設プロジェクトの内容によっては,私たちと同じような仕事をしている他の会社がそれぞれに提案をしていることもあります。その場合は,当社の案が採用されれば,受注が決まります。
設計図が固まると,立体駐車場の納入工事自体は外部の職人さんに依頼して行いますが,工事が予定通りに進んでいるかの管理や,アクシデントがあったときの調整は私たちの担当です。販売した立体駐車場がきちんと予定通り造られるのを見届け,お客さまに引き渡すまでが仕事です。100台の車が置けるような大きな駐車場の場合は,設計の相談から納入を終えるまでに約2年かかることもあります。5台,10台規模の小さなものであれば半年くらい。工事中,特に工事の開始直後と完成間際には何度も現場に足を運びます。
自走式の立体駐車場については土木分野の知識が必要
これまでの仕事で印象に残っているのは,2009年にオープンした茨城県守谷市の守谷駅前にある商業施設,「アワーズもりや」に立体駐車場を造ったときのことです。200台以上が駐車できる自走式の立体駐車場で,数億円規模の大きな仕事でした。しかし,普段取り扱うことの多い機械式と比べると,自走式に関するノウハウが当時は当社にあまりなく,建設会社の指導をたくさん受けて勉強をさせてもらいながら,何とか納めることができました。
自走式の場合は,建設現場の地面の基礎を造る作業にも関わっていく必要があり,土木分野の知識が必要になります。機械式の場合は,地面の部分がすでにできあがっている状態で立体駐車場の工事をするので,どちらかというと建築分野の知識が求められます。これが自走式だと,立体であっても1フロアの面積が広く,建物の重さを支えるために地面に杭を打つなど,目には見えない基礎の部分をしっかり造ることも仕事の中に含まれます。慣れない作業がたくさんあるため,打ち合わせをどう進めたらよいかも手探りでしたし,普段関わらない職人さんや関係会社との話し合いや調整にも苦労しました。
また,この仕事では工事期間が長かったこともあり,約5か月間,現場に道商事の社員が,管理者として常駐しました。私たちの仕事は現場ありきですし,常に周りへの目配りや気配りが大切だと考えて取り組んでいます。でも,折々で足を運ぶという形ではなく,危険作業を行うところを含め,毎日の現場の様子を見続けた経験は,道商事という会社にとっても,いい経験になりました。
新技術の勉強は常に欠かせない
機械式の立体駐車場には常に新しい技術が取り入れられ,進化しています。そういった新製品の説明会や,メーカーによる研修会に参加して学ぶのも大切な仕事です。例えば今まで,シャッターの開け閉めや駐車スペースの呼び出しなどを,パネルのボタンで人が操作する方法が一般的でした。ところが最近は,操作用の機械にあらかじめ登録したICカードをかざすだけで,自動的に契約中の駐車スペースを呼び出してくれるタイプの製品ができています。
また50台以上も置けるような大型マンションの立体駐車場で出入口が一つしかないと,出勤時や休日などの入出庫が重なる時間帯には,他の人の操作を列になって待たなくてはいけません。それは利用者にとってストレスですよね。そこで,スマートフォンから出庫の予約ができるシステムを組み込んだ立体駐車場が登場しています。あらかじめ,専用のアプリで出庫希望時間を登録しておけば,その時間に駐車場の入口に行くと,自分の車が用意されているのです。最近ではそういったものがどんどんスタンダードになりつつあります。
建物の設計をする人はもちろん設計のプロですが,立体駐車場の専門家というわけではありません。技術的に複雑な部分の話が必要になればメーカーの技術者に相談をするものの,概要や基本的な構造,新製品の情報などは,われわれがきちんと説明できなくてはいけません。だから,常に勉強は欠かせないのです。
いちばんやりがいを感じるのは,名指しで仕事をもらえたとき
この仕事でやりがいを感じるのは,やはりお客さまから感謝されたり,「道商事にお願いしてよかった。またよろしくお願いします」などと言ってもらえたりしたときです。特に大きなプロジェクトにおいて,これまでの成果を認められ,名指しで仕事をいただけたときはとてもうれしいですね。指名をいただけるのは,私一人だけの力ではなく,社員が日々,地道に学びや誠実な対応を重ねてきたことが実を結んだ証ですから。
また,難易度の高いプロジェクトを受注できたときにもやりがいを感じます。1年前,駐車場を造るスペースの関係で,非常に難しい提案をする機会がありました。立体駐車場設備はいくつかのメーカーが造っていて,それぞれ寸法や出庫にかかる時間などが異なります。その中で当社が扱っているIHI運搬機械株式会社の製品は,対象のプロジェクトで予定されている駐車場スペースに対して少し寸法が大きかったのです。といっても50mm,100mm単位の話ですが,標準のものでは駐車場スペース内に収まらないため,メーカーの技術者や施工主である建築会社を交えて,どうすれば収められるかを何度も相談しました。調整するのは大変でしたが,何とか解決法を見つけ出して,受注することができました。多くの関係者の協力があって最終的に仕事を受けられたのは,とてもうれしかったですね。
どんなときも,喜びすぎず,落ちこみすぎない
私は大学卒業後に知り合いが経営する金融関係の会社に就職し,26歳のときに道商事に入社しました。その一年くらい前から父の会社で働くことは考え始めていましたが,家族と仕事で関わると家でも会社でもずっと同じ相手と顔を合わせることになり,うまく距離が取れなくてケンカになるのではないか,という不安がありました。ところが,実際に入社してみると特に大きな衝突はなく,スムーズになじむことができました。おそらく一度違う仕事を経験して,社会人としてワンステップを踏めていたことがプラスに働いたのではないかと思います。
とはいえ,全く畑違いの仕事からの転職だったので,入社後は自分で製品や設計について,かなり勉強をしました。知識に基づいた説得力のある提案をして採用されるために,今でも日々,試行錯誤しています。
多くの人と関わり調整をする仕事の中で,常に頭にあるのは「情けは人のためならず」という考えです。こちらがきちんと相手に気持ちを向けて接していれば,もちろん相手のためにもなりますし,結果的に,自分にとってよいリアクションが返ってきます。まずは社員,お客さま,関係会社など,関わる人たちを大切にすることが大事です。また,長いスパンの仕事をする中では,つらいこともあれば,「ラッキー」と言えるような出来事が起こるときもあります。ただ,どちらにしてもそれは一時期だけのことで,時間が経てば逆の状況になるかもしれない。だから,いいことでも喜びすぎず,悪いことにも落ちこみすぎないようにしよう。いつもそう思って自分を戒めています。
やりたいことができないときは「エネルギーを溜める時期」。興味を持つことを止めないで
小学生のころはとてもおっとりした性格で,クラスの中で目立つ子とも,おとなしい子とも関係なく仲よくなれました。放課後はベーゴマや,スーパーカー消しゴムでよく遊び,高学年になるとプロレスにはまり,自分でプロレスの漫画を描いたりもしていました。中学校では,朝から晩までほぼ毎日,部活でやっていた軟式野球に熱中し,足立区の大会で準優勝したこともあります。私の通っていた中学は荒川の近くにあったため,ベースやバットを乗せたリヤカーを引いていき,土手でもよく練習をしました。だから今でも休日になると,つい荒川に行きたくなってしまうのかもしれません。
読者のみなさんには,今はまだ,将来,何になりたいかが分からない人も多いと思います。また,やりたいと思っても,状況が許さず,できないこともあるでしょう。けれど,やりたいことがすぐできなかったとしても「今はエネルギーを溜める時期」なのだと考え,いろいろなことに興味を持つことを止めないでください。また,失敗したり落ちこんだりすることがあっても,ずっとつらい状況ばかりが続くことはありません。「やりたい」という意志をもって,いろいろなことに取り組むのは素晴らしいことですから,自分を信じてどんどんチャレンジしてみてほしいです。