※このページに書いてある内容は取材日(2020年03月10日)時点のものです
数千億円もの大きなお金を貸し出す仕事
銀行の仕事には,お金を預かる(預金)・お金を貸し出す(貸出)・遠くはなれた人にお金を送る(為替)の3つがあります。社会のお金の流れを調節して,暮らしを支える役割を果たしているのが銀行です。
私は三井住友銀行で,お金を貸し出す仕事の一つである「プロジェクトファイナンス」を担当しています。
「プロジェクトファイナンス」は,銀行の中でも専門的な仕事です。一つの会社にお金を貸すのではなく,ある目的をかなえるためにたくさんの会社が集まった「プロジェクト」にお金を貸し出す仕事です。その中でも,私が担当するのは,太陽光発電や風力発電など自然の力で発電する「再生可能エネルギープロジェクト」です。貸し出すお金はプロジェクトの規模によって違いますが,だいたい百億円〜数千億円。なかには一兆円ものお金の貸し出しを検討することもあります。
たくさんある複雑な課題を一つ一つクリアに
再生可能エネルギープロジェクトには,関係する会社がたくさんあります。発電所を動かす事業者,建物を建てる施工業者,環境への影響や事業の成功に向けたアドバイスをするコンサルタント,法律面をチェックする弁護士,そしてプロジェクトに必要なお金を貸し出す私たち銀行などです。このような関係者が集まり,複雑な問題を一つ一つ解決していくことで,プロジェクトが実現していきます。
銀行は,半年から1年くらい、長いときにはそれ以上の時間をかけて,「プロジェクトが本当にうまくいくのか」「社会に貢献するものなのか」「お金をきちんと返してもらえるのか」など,たくさんの課題を細かくチェックして,お金を貸し出すかどうかを決めます。プロジェクトがしっかり成功するようにいろいろな面からアドバイスするのも私たち銀行の仕事です。
風力発電所が寿命を迎える未来まで考える
例えば,陸上の風力発電プロジェクトでは,準備に3~4年,建設に2~3年かけて,ようやく発電事業が動き出します。
そして,その後およそ20年で,プロジェクトが終わるのですが,建設した風力発電所をどのように片付けるかなども最初から考えておかないといけません。また,風力発電所を建設する地域で暮らす人たちは発電所をつくることに賛成してくれているのか,環境に悪い影響を与えずに発電所を建設して使い続けることができるのか,なども重要なチェックポイントです。
今のことだけでなく,ずっと先のことまで考えて,問題がないかどうか。もし,問題が起きたときは,誰が責任を持って対応するかなども,あらかじめ決めておくことが大切です。
1日に読むメールは数百通にも
私が働いているのは,東京・大手町のオフィス街にある三井住友銀行の本店です。朝9時くらいに出社しますが,帰る時間はそのときどきの忙しさによります。18時に帰ることもあれば,いくつものプロジェクトが進んでいるときは遅くまで会社に残っていることもあります。
会社に来ると,最初にするのがメールチェックです。多いときには,1日に何百通ものメールをやり取りします。
プロジェクトに関わる会社や弁護士,コンサルタントとの会議や,社内で一緒に仕事をするチームのメンバーやほかの部署の人たちと打ち合わせをすることも多いです。
太陽光発電所や風力発電所が開発される場所に足を運んで,現地の様子を確認することもありますね。それ以外は,たくさんの書類や契約書に目を通して,お金を貸すために必要な条件を検討する時間も多いです。
お金を通して,より良い社会をつくる
仕事をしていて大変だと感じるのは,関係者全員が納得するまで意見の調整を行うことです。
再生可能エネルギープロジェクトは,関係者がたくさんいるうえに,とても大きなお金が動きます。それぞれ意見や立場が違うものを,時間をかけてていねいに話し合いまとめていきます。特に,難しいのは,何か問題があったときに誰が責任を取るのかという「リスク分担」です。「工事が遅れた場合はどうするのか」「国の法律が変わる可能性があるのかどうか」「自然災害が起きたときはどうするのか」,といったリスクを一つ一つ考えて,責任のありかを決めていくのはとても難しい作業です。
それだけに,みんなの意見がまとまって契約までこぎつけたときは,ものすごく達成感があります。自分が関わった発電所が実際に動いているのを見たり,ニュースで紹介されているのを目にしたりするとうれしいですね。私たち銀行がお金を貸し出すことで,社会がより良くなっていく。SDGsにも貢献する「人の役に立つ仕事」ができたと感じる瞬間です。
大学時代からの夢を,銀行の仕事でかなえたい
私は大学時代,「恵まれない国や人の役に立ちたい」との思いから,国際協力の勉強をしたり,海外や災害地域でボランティア活動をしたりしていました。将来は社会を支える仕事をしたいと思って就職活動をしていたところ,ある銀行員の方が「プロジェクトファイナンス」という仕事を教えてくれたんです。「銀行の仕事を通じて,社会を支える基盤をつくるのもやりがいがありそうだな。銀行という立場なら,いろいろな業界の人と関わって,幅広く社会の役に立てるのではないか」と考えて,縁あって銀行に就職することになりました。
銀行に入ってからは,中小企業のお客さまを担当してお金を預かったり貸し出したりする仕事,病院やオフィスビル,商業施設をつくるプロジェクトにお金を貸す仕事などを担当。2019年からプロジェクトファイナンスの担当になりました。複雑で規模の大きなプロジェクトを扱う仕事ですが,一つとして同じプロジェクトはありません。毎回,分からないことや,困難な問題がありますが,失敗や壁にぶつかりながら,分からないことが分かるようになる。チームのメンバーと協力しながら壁を乗り越えていく。そういう経験を重ねることで,自分が成長していると日々感じています。
夢中になれることを見つけて,「今」を頑張って
みなさんは,大人になるのはまだまだ先のことと思っているかもしれませんが,あっという間に大人になってしまうもの。大人になってから,「あれをやっておけばよかった」と後悔しないように,今のうちに夢中になれるものを見つけてほしいですね。「これをやりたい!」という目的を持って,「今」を頑張ること。それが自信につながると思います。
まわりの人と比べてしまうこともあるかもしれませんが、「自分は自分」と考えると,いい意味で肩の力が抜けて,前向きになれるものです。たとえうまくいかなくても,自分が努力したことであれば,それは必ず将来の財産となります。正解は一つではありません。失敗を怖れずにどんどんチャレンジしてみてください。