※このページに書いてある内容は取材日(2024年10月15日)時点のものです
「商品を陳列する棚」を作る仕事
私が社長を務めている「モアコーポレーション」は、木工什器とアクリル什器を製造・販売している会社です。「什器」というのは、もともとは「日常的に使用する家具や道具、食器」という意味の言葉ですが、店舗や会社などで使用する家具や道具のことを指すことも多く、当社が扱うのはこちらの意味の「什器」です。店舗で使用する什器は「店舗什器」、 会社で使用する什器は「オフィス什器」と呼ばれます。当社では、店舗什器のうち、商品を陳列する棚を扱っています。
私たちが主に作っている什器は、みなさんがドラッグストアやデパートでよく目にする化粧品売り場や時計売り場、家電量販店などで使われています。いちばん多いのは、ドラッグストアの化粧品売り場で使われる什器の製造と設置です。ドラッグストアの化粧品売り場にはさまざまなメーカーの商品が並びますが、メーカーやブランドによって商品のサイズが違うので、棚の形も変えなくてはいけません。しかし、棚のデザインがバラバラだったり、ブランドやメーカー名の看板もバラバラだったりすると、店舗の統一感がなくなってしまいます。そのため、私たちはドラッグストアから依頼を受け、店舗の棚を設計、製造し、ブランド名の看板なども統一したデザインで作り、店舗に設置していきます。
棚はどの店やチェーンでもいくつかの統一したサイズで作られ、その中に各メーカーが自分たちで「カセット什器」と呼ばれる小さなカセットを設置し、最終的に棚が完成します。メーカーによっては、このカセット什器の製造も私たちが請け負います。
依頼が来れば日本全国のお店に設置
こういった什器を扱う会社は、取り扱うのは木工什器だけ、もしくはアクリル什器だけ、というところが多いのですが、私たちは両方を取り扱っています。そのため、通常は金属で作ることが多いアクリル什器の棚の下部を木工で作る、といったこともできます。アクリルと木工を組み合わせることで高級感を出すことも可能ですし、お客さまにさまざまな提案ができるのがモアコーポレーションの強みです。昔は街の化粧品店から注文を受け、お店の内装として棚の製作と設置を請け負っていましたが、今はドラッグストアの多くがチェーン店となりました。そのため、北は北海道から南は沖縄まで、仕事の発注は全国から入ります。
また、もう一つのモアコーポレーションの強みは、図面作成から什器の製作、最終的な設置まで、すべて社内で完結するということです。店舗から依頼が来ると、まずはお店の大きさや完成イメージ、要望などを聞き、図面を作り、製作に入ります。棚が完成すると、店舗に運んで設置まですべて私たちが行います。私も以前は現場を担当していましたので、全国あちこちを飛び回っていました。今は、本社にいて社員たちからの提案や書類をチェックする仕事がメインとなっています。
テクノロジーの力でより仕事をスムーズに
2023年から、社内のDX化を進めています。具体的には、受注した仕事の内容や作成中の図面、工場作業の進捗などをすべてパソコンに入力し、社内から誰もが確認できるようなシステムを今、作っています。これまでは、店舗との打ち合わせを何度も重ね、その上で図面を作成し、製作を担当する工場には最終的な図面しか渡すことができませんでした。しかしこの方法だと、工場のほうでは「今どういう状況になっているのか」というのがわかりづらく、いつまで待てばいいのか、いつ作業がどのくらい入るのかという見通しが立ちません。忙しい月は新たな作業の依頼が50〜60店分ほど入ることもあるので、その「見通しの立たなさ」が現場の不満となっていました。でもこのシステムがあれば、今どのくらいの仕事がどんな進行状況かを常に確認でき、自分たちのペースで仕事ができます。そうすると仕事を「やらされている」のではなく、自分たちの意志で主体的に仕事を調整していけるように変わっていくのではと思っています。
会社にいる時間を「楽しい」と思ってもらいたい
会社として誇りに思っているのは「社員が辞めないこと」です。モアコーポレーションは、社員の離職率が非常に低いです。私は社員には、「会社にいる時間は“楽しい時間”にしてほしい」と常日頃から言っています。せっかく同じ会社にいるのですし、会社は一日の中でとても長い時間を過ごす場所です。だったら楽しくあってほしい、と思うのです。そのためにも、全社員の面談を年に3回行っています。以前は「離れている工場同士でコミュニケーションを取ることで効率化が図れるのでは」という発想から、工場で働く幹部同士のミーティングを行っていました。けれども、お互いに作業内容が違うことや、幹部の話だけを聞いていても現場の声とは違っていて、なかなか難しいなという現実がありました。そのため、私自身が直接社員の生の声を聞くような形に変えました。忙しいと面談の時間を取るのは大変なこともありますが、ほんの少しの時間でも社員の声を聞くことによって、現場を改善できたり、社員一人一人の状況を把握できたりするのはとてもメリットが大きいです。それが離職率の低さとなって表れているのでは、と思います。また、社員からいいアイデアや提案がたくさん出てくるようになったのも、とてもうれしい効果だと思っています。
仲間を増やすためには、ありのままでいることが大切
私が仕事で大切にしているのは「ありのままでいること」です。裏表をあまりつくらない性格なので、社員にも取引先の方にも喋りたいことを喋るし、嫌なことははっきりと「嫌だ」、できないことは「できない」と言います。でも、結局はそのほうがいいのでは、と思うことが多いです。心になにか秘めているようなタイプの人は、他人と打ち解けにくいものですが、仕事というのは「仲間」を増やさないとうまくいかないものです。どんなに能力がある社長であっても、一人では限界があります。やはり助けてくれる人や優秀な社員がいてこそ、会社が成立する。このことは絶対に忘れてはいけないなと思っています。
実は父から社長を引き継ぐときに、父と話し合い、父には現場から退いてもらいました。というのも、私が社長になり、父が会長になってそのまま会社にいると、会社に経営者が二人いるような状態になってしまいます。父は職人気質で私とは考え方が異なるタイプだったので、こうした状態は社員を困らせてしまうのではないか、と思ったからです。いろいろと大変なこともありましたが、この選択は結果的によかったと思っています。
父が創業した会社を引き継ぎ、二代目社長に
モアコーポレーションは、私の父が1984年に創業した会社です。私が高校3年生のときに社会情勢や景気の影響もあり経営状況が悪くなったことで、大学生になったころから会社を手伝っていました。通学との両立は大変でしたが、なんとか大学を4年で卒業し、そのままモアコーポレーションに入社することになりました。父としては、やはり息子と一緒に働きたいという思いもあったのだと思います。入社後は営業をやったり、工場で勤務したり、配送や設置をしたりとほかの社員と同じように仕事をし、2020年に社長に就任しました。
会社自体は私が入社してからはしばらく厳しい状況が続いていたのですが、LED照明付きの什器を開発したことが転機になりました。什器には商品をきれいに見せるために照明を付けることも多いのですが、従来の蛍光灯は熱と光でどうしても化粧品が劣化してしまいます。そこでLEDを使ってみたところ、それらの問題が解決できたのです。2006年からLED照明付きの製品の販売を始めましたが、最初はなかなか売れませんでした。しかし、2011年の東日本大震災の後に安全性や節電の観点からLEDの注目が高まったこともあり、注文がたくさん入るようになります。会社が大きく成長していくきっかけになりました。
楽しさでつくるリーダーシップ
子どものころは、典型的なガキ大将でした。4月生まれだったこともあり、体も大きくスポーツ万能で、目立つタイプでした。でも正直、当時は乱暴者でもあったと思います。中学校では「もうそういう自分ではいたくないな」と思い、どちらかというとあまり目立たないような「いい子」のタイプでした。このときに、普段目立たない人には人がどういう態度をとるのか、ということを学んだ気がします。高校生になるとその反動で、学級委員長をやったりとまた人前に立つようになります。でも中学校での経験も生かし、人に厳しくするというよりは、みんなに楽しいことを提案して、みんなで参加したくなるようなクラスにすることを心がけたいと思うようになりました。このころの「楽しい、面白いことを提案して人をまとめる」という体験から得た考え方は、今の仕事でも根本は変わっていないように思います。
笑顔でいれば、周りに人は増えてくるもの
これを読んでくれているみなさんにお伝えしたいのは、大切なのは真面目さと、人生を楽しく生きるということ、そして、笑顔を忘れないということです。特に笑顔は大事で、笑顔でいることを心がければ、いつしか周囲に人が寄ってくるものだと思っています。私自身、若かったころは後輩や部下にも仏頂面で接していたことがありました。しかし、自分が笑顔でほかの人に接していれば、後輩や部下ともうまく会話できるし、ほかの社員ともコミュニケーションが円滑になるし、社員が会社を辞めずに一緒に働いてくれる、ということに気づいていったのです。なによりも、笑顔でいたほうが人生は楽しいと思います。今よりももっと笑顔になれば、もっと楽しくなり、もっと知り合いも増えるはず――そんなふうに考えてもらえたらと思います。