仕事人

私(わたし)は陸上自衛隊(じえいたい)・第１師団(しだん)の第１普通科(ふつうか)連隊に属(ぞく)しており，東京都の練馬駐屯地(ちゅうとんち)で勤務(きんむ)しています。第１師団(しだん)は東京都を含(ふく)む１都６県の防衛(ぼうえい)・警備(けいび)・災害(さいがい)派遣(はけん)・国民保護(ほご)などを担当(たんとう)していますが，その中でも私(わたし)は幹部(かんぶ)として，主に防衛(ぼうえい)や防災(ぼうさい)などに関わる計画を立てたり，さまざまな訓練の企画(きかく)を考えたりする仕事をしています。
例えば，国全体に関わるような非常(ひじょう)事態(じたい)が起こった際(さい)に自衛隊(じえいたい)が行うさまざまな役割(やくわり)がありますが，そうした場合を想定して，計画を作成したり，修正(しゅうせい)したりします。防災(ぼうさい)などに関わる計画には，自治体をはじめ，多くの機関が関係してきます。それらの関係機関と話し合って，調整を行うのも大事な仕事です。
また，防災(ぼうさい)については，普段(ふだん)は災害(さいがい)に備(そな)えて準備(じゅんび)を進めたり，自治体と連携(れんけい)して，防災(ぼうさい)訓練を企画(きかく)して行ったりしていますが，実際(じっさい)に水害などの災害(さいがい)が起こったときは災害(さいがい)派遣(はけん)で現地(げんち)へ行き，初動対処(たいしょ)の活動を行います。

災害(さいがい)派遣(はけん)では，いろいろなところに行きました。幹部(かんぶ)になる前は九州の部隊に所属(しょぞく)していたのですが，平成２２年，牛や豚(ぶた)などの家畜(かちく)がかかる，口蹄疫(こうていえき)という伝染病(でんせんびょう)が九州で流行したときには，小隊長として現場(げんば)の指揮(しき)をとり，処分(しょぶん)する家畜(かちく)を運んだり，消毒や清掃(せいそう)などの活動を行いました。また，九州は台風が多いので，数日間の災害(さいがい)派遣(はけん)がしばしばありました。
その後，幹部(かんぶ)になり，東京へ異動(いどう)になってからは，平成２５年，伊豆(いず)大島で大規模(だいきぼ)な土砂(どしゃ)災害(さいがい)が起こった際(さい)に災害(さいがい)派遣(はけん)を行ったほか，鬼怒川(きぬがわ)の堤防(ていぼう)が決壊(けっかい)した平成２７年の関東豪雨(ごうう)の際(さい)も現地(げんち)に入り，現場(げんば)の被害(ひがい)状況(じょうきょう)を把握(はあく)し，現地(げんち)のニーズに合わせて救助活動などをスムーズに行なえるように活動しました。
災害(さいがい)が起こった現地(げんち)ではさまざまな情報(じょうほう)が入ってくるので，適切(てきせつ)に判断(はんだん)して，現場(げんば)の行動を決めます。救助活動にあたるのは自衛隊(じえいたい)だけではなく，警察(けいさつ)や消防(しょうぼう)もおりますので，どこまでは警察(けいさつ)でどこからは自衛隊(じえいたい)，というように調整をすることも重要です。いろいろなところから情報(じょうほう)が来て，情報(じょうほう)が錯綜(さくそう)することも多いのですが，その中で的確(てきかく)に，素早(すばや)く判断(はんだん)して，現場(げんば)に指示(しじ)や情報(じょうほう)を伝えるのが私(わたし)の仕事です。

災害(さいがい)派遣(はけん)の場合，被災(ひさい)された方のニーズを最優先(ゆうせん)し，住民の方の場所をお借りしつつ，活動を行います。ふだんはさまざまな訓練を行っていますが，やはり勝手が違(ちが)い，気を遣(つか)うところです。また，先にお話ししたように，錯綜(さくそう)する情報(じょうほう)を選り分けて判断(はんだん)するというのも，苦労するところではありますね。でも，いちばん大変なのは，やはり現場(げんば)で汗(あせ)をかく隊員たちだと感じています。現場(げんば)の隊員たちがスムーズに働けるよう，適切(てきせつ)な情報(じょうほう)をスピーディーに伝えることを心がけています。
また，私(わたし)はまだ幹部(かんぶ)になる前に，海外派遣(はけん)に行きました。平成１７年の，第８次イラク復興(ふっこう)支援(しえん)群(ぐん)です。４ヶ月間，派遣(はけん)されてさまざまな任務(にんむ)を行っていましたが，気温が５０度にもなる中，重装(じゅうそう)な防弾(ぼうだん)チョッキを着て任務(にんむ)につかなければならないので，とにかく暑くて大変でした。緊張感(きんちょうかん)はもちろん，常(つね)にありました。毎日，服がびっしょりになるくらいの汗(あせ)をかきました。でも，今では自衛隊(じえいたい)が整備(せいび)した学校や道路がどんなふうになっているか気になるので，もう一回，行って見てみたい気持ちになります。

自分の働きが国のため，防衛(ぼうえい)のためになるというのは，この仕事をするうえでの大きなやりがいです。普段(ふだん)から，国の安全のために働いているという思いは，強く持っています。この点は，他の仕事にはなかなかないのではないかと思います。
ほかに，災害(さいがい)派遣(はけん)の際(さい)に，現地(げんち)の方から「ありがとうございました」と直接(ちょくせつ)言われるときもやりがいを感じ，嬉(うれ)しいですね。また，私(わたし)は防災(ぼうさい)計画の調整で警察(けいさつ)や消防(しょうぼう)の方とも関わりますので，そういう方々(かたがた)から，「自衛隊(じえいたい)さん，いつもありがとうございます」と言われると，やっていてよかったと感じますよ。
仕事を進めるうえでは，やはり一人ではできない仕事がたくさんあるので，周りの人たちとはしっかり情報(じょうほう)を共有し，連携(れんけい)して進めていくことを大事にしています。この点は自分の属(ぞく)しているチーム内でもそうですし，防災(ぼうさい)や警備(けいび)の計画に関わる関係機関との間でも同じことですね。

私(わたし)は元々(もともと)，博物館の学芸員になりたかったんです。昆虫(こんちゅう)をはじめ，生物が好きで，興味(きょうみ)がありました。でも一方で，小学校から高校までずっと野球をやっていて，体を動かすことも好きでした。それで，体を使う仕事もいいなと思っていました。なかでも，年上のいとこが航空自衛隊(じえいたい)のパイロットだったということもあり，自衛隊(じえいたい)には興味(きょうみ)があったんです。
高校２年生になって進路を決めるとき，学芸員と自衛隊(じえいたい)の間で迷(まよ)ったのですが，自衛隊(じえいたい)の方が学校に来られて，その勧誘(かんゆう)を受けて，資料(しりょう)を読んだりするうちに，「この仕事は自分に合っているな」と思い，自衛隊(じえいたい)に入隊することにしました。また，幹部(かんぶ)になればリーダーシップを発揮(はっき)できると聞いていたので，頑張(がんば)って幹部(かんぶ)になろうと，入隊のときから思っていました。結果的に努力して，幹部(かんぶ)になれました。今後も努力を怠(おこた)ることなく，任務(にんむ)に励(はげ)んでいきたいと思っています。

子どもの頃(ころ)は，虫が好きでした。なかでも蝶(ちょう)が好きでしたね。捕(つか)まえて，標本を作ったりもしていました。今でも蝶(ちょう)は好きで，飛んでいる蝶(ちょう)を見れば，たいていは名前がわかりますよ。図鑑(ずかん)もたくさん持っています。
小学校から野球を始めて，中学校・高校時代，放課後はほぼ部活ばかりの日々(ひび)を過(す)ごしていました。土日も試合や練習がありました。野球部では，中学校でも高校でも，副キャプテンを務(つと)めました。練習内容(ないよう)など，監督(かんとく)から指示(しじ)があったのをキャプテンと相談して決めて，それをみんなに伝達したりしていましたね。副キャプテンを務(つと)めたことで，チームをまとめる経験(けいけん)ができましたし，このときの経験(けいけん)は今の仕事に生きていると思います。

自分がやりたいことをやったほうがいいと思います。ただ大学に行くとか，ただ仕事をするというわけではなく，しっかりと自分がやりたいことを目標にして，そのために努力することがいいと思います。
私(わたし)もどちらかというと，高校１年生くらいまで「これをやりたい」ということはそんなに深く考えていなかったのですが，高校２年生で「自衛隊(じえいたい)に入りたい」と決めてからは，筋(きん)トレに励(はげ)むなど，目標に向かって努力するようになりました。人から言われて決めたことではなく，自分がやりたいことを頑張(がんば)ってやると，長続きするはずです。私(わたし)も，自衛隊(じえいたい)に対する思いは入隊当初から変わっていませんよ。何となく職(しょく)について，すぐに辞めてしまう人も多いと聞きますが，そうなってしまわないためにも，みなさんには自分でやりたいことを決めて，そこに向けて努力してほしいと思います。