※このページに書いてある内容は取材日(2017年11月02日)時点のものです
原木が売り買いされる市場
私は,東京都西多摩郡日の出町にある原木市場「多摩木材センター」で働いています。「魚市場」では魚が売り買いされるように,「原木市場」では,山で伐採された原木が売り買いされます。私が働いている多摩木材センターは,東京都で唯一の原木市場です。多摩木材センターで売買されるのはスギやヒノキが主で,取り引きされる量の約9割はスギとヒノキが占めます。その他に,モミ,マツ,サワラ,ナラ,カラマツなども扱っています。
この市場では,毎月2回,原木が売り買いされる市が開かれます。市の日は,原木を買いに来た製材業者の人たちで「せり」を行います。せりでは,仕分けされた木の「はい」(木をまとめてピラミッド状に積んだ山)ごとに,一番高い値段をつけた人が,原木を買うことができます。1回の市では,約6000本くらいの原木が,取り引きされています。
原木の価値ごとに並べて,売る
山で伐採された原木は,トラックで原木市場に運ばれてきます。市場では,まず荷台に積まれた原木を下ろす「荷下ろし」の作業をします。次に,原木の種類や価値,長さや太さごとに原木を仕分けします。仕分けされた原木は,ピラミッド型に積んでいきます。このピラミッド型に積まれた山を「はい」と呼び,山に積んでいく作業は「はい積み」といいます。
原木を仕分ける際,まずはホイルローダーという大きな作業車で大まかに仕分けをし,さらにフォークリフトで細かく仕分けをして,積んでいきます。このときには,原木がまっすぐか曲がっているか,傷や腐りがないか,など,品質をさらに細かく調べながら,原木を積んでいきます。
せりで買い手の決まった原木は,置き場に運んでおきます。そして,せり落とした業者が原木を引き取りに来たら,私たちがトラックに積み込みます。その「積み込み」までの作業が,私たちの仕事です。
ホイルローダーに乗って作業をする
仕事は,朝の8時から,夕方の5時まで行います。作業を始める前には,毎朝必ず,みんなでミーティングを行います。その日1日の予定をあらかじめ立てて,それぞれが作業車に乗りこんで,作業を開始します。
現在,市場の現場作業は6名で担当しており,私は主に,ホイルローダーの作業を担当しています。市場で使われているホイルローダーには,クレーンの先に丸太をつかむための部品がついていて,これで原木をつかんで,荷下ろしや積み込みを行います。また,場合によっては,私がフォークリフトで作業することもあります。
仕事が忙しくなるのは,秋から冬にかけての間です。木は,ある程度乾燥している時期の方が,品質の良いものになります。そのため,秋から冬に切られた原木の方が,人気があり,この時期に伐採をすることが多いんです。
また,市の日が近くなると,やはり仕事は多くなりますが,あまり遅くまでは働かないようにしています。なぜなら,陽のある明るい時間帯でないと,木の善し悪しの判断が,難しくなってしまうからです。事故が起こらないようにするためにも,なるべく陽のあるうちに,仕事を終えるようにしています。
雪で仕事が止まってしまうこともある
毎日,外で仕事をしているので,天気には影響されますね。多摩木材センターは山から近い場所にあるので,冬はとても寒く,大雪が降ることもあります。雪が積もれば,現場の職員全員で,除雪作業をします。フォークリフトに,余った丸太を1本乗せて,雪を押していく作業を,手分けして行います。そもそも,大雪が降ると,山での伐採作業もできなくなってしまい,市場に原木が届かなくなって,私たちの仕事が止まってしまうこともあります。
また,市場には毎日,トラックなどの大型車両が行き来します。そのため,原木とトラックがぶつかったり,トラック同士が接触しないように,職員全員が声かけをして,注意して作業を進めるようにしています。ホイルローダーでつかんだ原木が風であおられたりすることもあるので,安全にはいつも気をつかっています。
見ばえよく木を並べる
市に来るお客さんに見やすいように原木を並べることが大切ですが,木は丸いので積むと崩れやすく,きれいに三角形の形に積むためには,技術が必要です。細い原木は並べるのが難しくて,雑に扱うと,折れてしまうこともあります。また,太い原木は,市で高い値段がつくことが多いので,例えばフォークリフトで原木を刺してしまうようなミスをしないよう,特に気をつけています。積みづらい木をうまく積めたときには「よし!」と心の中で思いますね。
市に出された木は,平均してスギなら1立方メートルあたり1万円,ヒノキだと2万円くらいで,取り引きされます。取り引きされた金額に応じて,手数料が市場に入ります。最近では原木の値段が下がっていますが,市に出した木が高く売れれば,私たち市場にとってだけでなく,森を育てる人たちにとっても,いいことなんです。なぜなら,木が高く売れれば,そのお金をつかって,また新たに,山に木を植えて,育てることができるからです。私自身,東京の森を次の世代まで残していければと思っていますし,そのためにも,少しでも高い値段がつくように,見ばえよく木を並べられるように心がけています。
ボランティア活動が原木市場での仕事につながった
私は高校生のときから,ボランティア活動をしていました。校内のボランティアサークルの顧問をしている先生に誘われて,軽い気持ちで参加してみたのがきっかけです。農家で田植えを手伝ったり,障がい者の方の買い物を手伝ったりするうち,人に必要とされたり感謝されたりすることがうれしくて,活動を続けるようになりました。
その活動の中で,田中林業株式会社の田中惣次さんという林業家が主催する林業体験に,ボランティアスタッフとして参加するようになったんです。この活動を続けているうちに,自然と,林業や山に親しみを持ちはじめました。
高校を卒業してから専門学校で食品開発を学んだ後,食品工場に就職しました。その後,退職して地元に帰ってきた後は,福祉施設で働きながらも,ボランティア活動は続けていました。そんなとき,林業体験を主催している田中惣次さんから,多摩木材センターでの仕事を紹介してもらい,運良く23歳のときに,原木市場で働きはじめることができたんです。多摩木材センターではちょうど人手が足りなくなり,人員を探していたところでした。私自身,林業体験のボランティアを通して「森や林業の助けになれれば」と感じていたので,原木市場の仕事をすることに決めたんです。
近所の林が遊び場だった
私は小さいころから,のんびりした性格でした。口数の多い方ではなくて,おとなしめな子どもだったと思います。それでも,家の中で遊ぶよりは,友だちと外で遊ぶ方が好きでしたね。東京都の西多摩に住んでいたのですが,東京の中でも自然が豊かな場所だったので,近所の林が遊び場でした。かくれんぼをしたり,クワガタやカブトムシを捕ったり,そんな毎日を過ごしていましたね。
中学生のときには陸上部に入り,高校に進学してからも続けていました。400メートルまでの短距離走が専門でした。部活で鍛えたおかげか,いまでも体力には自信がありますよ。また,ボランティアサークルの活動は,陸上部の活動と並行して行っていました。平日は陸上部,毎週ではありませんが土日にはボランティアサークルの活動,という感じです。ボランティア活動を通してさまざまな人に出会うことができましたし,やりがいも感じることができました。いまでも,原木市場で働きながら,ボランティア活動は続けています。
いろいろなことにチャレンジしてみよう
子どものころからなりたいと思っている職業につければ一番ですが,途中で将来の道に,迷うこともあるかもしれません。また,なりたい職業や,やりたいことが,なかなか見つからないこともあるかもしれません。そんなときは,今いるところが新たなスタートだと思って,がんばることが大事です。
私自身,専門学校を卒業してから,食品工場で働いたり,福祉の仕事をしたり,さまざまなチャレンジをしてきました。そして,ボランティア活動をしている中での出会いが,現在の仕事につながりました。多くの人たちと出会いながら,つながっていって,いまの自分があります。いま目の前にある何かに夢中になれたら,きっとそれが将来につながると思います。そのためにも,みなさんもぜひ,いろいろなことにチャレンジしてみてください。
また,私が,森に関わるボランティアや仕事をするようになって気づいたことは,森には,多くの人の手が入っているということです。勝手に成長しているように見える森や山も,実際には,多くの人たちが協力をして,育てているんです。だから,みなさんも,山や森や自然に関心を持って,大切にしてほしいです。そして,多くの人たちが協力して,自然環境を守っているということを,忘れないでほしいですね。