社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2006年10月24日)時点のものです
看護師(かんごし)というと「病院」をイメージしませんか?確(たし)かに病院で働く人は多くて,僕(ぼく)も大学病院で働く看護師(かんごし)です。でも実は看護師(かんごし)は病院だけではなく,区役所や保健所(ほけんじょ)などの役場や,普通(ふつう)の会社でも働いていたり,患者(かんじゃ)さんの家に訪問(ほうもん)する働き方をしている人もいるんですよ。僕(ぼく)の仕事は,病気やケガの人がその病気やケガを治したり,病気やケガと一緒(いっしょ)に生活していけるように一番良い環境(かんきょう)をつくることです。病院の中で働いている医師(いし)や薬剤師(やくざいし),看護(かんご)助手という職業(しょくぎょう)の人も仕事の目的は同じなのですが,その中でも看護師(かんごし)は患者(かんじゃ)さんやご家族の生の声を聞く機会がすごく多いのが特徴(とくちょう)です。なので,その声や表情(ひょうじょう)から患者(かんじゃ)さんに今何が必要かを考え,医師(いし)など他の医療(いりょう)者と話し合い,患者(かんじゃ)さんにいい環境(かんきょう)を提供(ていきょう)していくことが僕(ぼく)たち看護師(かんごし)の役割(やくわり)のひとつなんです。
患者(かんじゃ)さんの治療(ちりょう)方法を決めるのは医師(いし)ですが,看護師(かんごし)は患者(かんじゃ)さんが薬を飲めるようにお手伝いしたり,注射(ちゅうしゃ)を打ったり,検査(けんさ)や手術(しゅじゅつ)の準備(じゅんび)をしたりします。薬を飲むのを手伝うなんてすごく簡単(かんたん)そうに思えるかもしれませんが,患者(かんじゃ)さんに薬を渡(わた)すだけというわけにはいきません。患者(かんじゃ)さんの中には,薬を飲(の)み込(こ)むことができない人もいます。また,医師(いし)が出した薬が患者(かんじゃ)さんに合わないこともあります。そういう時は,患者(かんじゃ)さんが薬を正しく飲めるようにお手伝いしたり,医師(いし)と患者(かんじゃ)さんに合う薬について話し合うこともあります。検査(けんさ)や手術(しゅじゅつ)の時は,事前に飲む薬を準備(じゅんび)して患者(かんじゃ)さんに飲ませたり,点滴(てんてき)をしたり,検査(けんさ)や手術(しゅじゅつ)前にはご飯を食べてはいけない場合には,患者(かんじゃ)さんが飲食をしないように指導(しどう)したり,検査(けんさ)着に着替(きか)えさせたりします。検査(けんさ)や手術(しゅじゅつ)の前に,医師(いし)から患者(かんじゃ)さんに説明があるのですが,医師(いし)の説明がよく分からずとても不安がっている人もいるので,よく話を聞いて説明をして患者(かんじゃ)さんの不安を取(と)り除(のぞ)きます。不安が大きすぎる場合はもう一度医師(いし)に説明をしてもらうようにすることもあるんですよ。
入院している患者(かんじゃ)さんは24時間診(み)ていないといけないので,看護師(かんごし)は夜中も働きます。でも,毎日夜中に働くわけではありません。僕(ぼく)の病院では日勤(にっきん)(8時~16時30分)と準(じゅん)夜勤(やきん)(15時~23時30分)と夜勤(やきん)(23時~8時)の3つの時間に分かれて交代で働きます。夜勤(やきん)は月に6回くらいです。日勤(にっきん)の時は7時30分くらいには病院に来て,今日自分が受け持つ患者(かんじゃ)さんを確認(かくにん)します。それから,患者(かんじゃ)さんごとに用意されているカルテという入院理由や治療(ちりょう)経過(けいか)を書いてあるファイルを読んで患者(かんじゃ)さんの情報(じょうほう)を頭に入れます。今日一日患者(かんじゃ)さんに何をしていくかは,医師(いし)の指示(しじ)が書かれているファイルがあるのでそれを読んで,この人にはこの時間に薬を飲んでもらって,この人にはこの時間に体を拭(ふ)いてあげて…など,1日の計画を立てていくんですよ。日勤(にっきん)だと3~5人の患者(かんじゃ)さんを受け持つのでどうしたらすべての受け持ち患者(かんじゃ)さんに必要な時間に必要な援助(えんじょ)ができるかよく考えて予定をたてます。予定を立てたら後はしっかりとこなしていきます。それだけではなくて,上司に患者(かんじゃ)さんの様子に問題ないかや仕事の進み具合は順調か報告(ほうこく)したり,一緒(いっしょ)に働いている看護師(かんごし)全員で患者(かんじゃ)さんの情報(じょうほう)共有をしたり,とても忙(いそが)しく嵐(あらし)のような毎日です。
患者(かんじゃ)さんの希望を全部叶(かな)えてあげられないことが多いので心苦しいです。入院している患者(かんじゃ)さんはお風呂(ふろ)に入れなかったり,好きなご飯が食べられなかったりと自宅(じたく)にいる時よりも生活が制限(せいげん)されてしまいます。多くの人は,お風呂(ふろ)に入りたい,好きなものを好きな時に食べたいと思いますよね。でも看護師(かんごし)の人数が限(かぎ)られているので,一人の患者(かんじゃ)さんがお風呂(ふろ)に入るのを手伝うと他の人の検査(けんさ)の準備(じゅんび)ができなかったり,ご飯を好きなように食べてしまうと検査(けんさ)で正しい結果が出なかったりするので,それを叶(かな)えることができないのです。病院は検査(けんさ)や治療(ちりょう)を行うところなのでそうした患者(かんじゃ)さんの希望よりも,検査(けんさ)・治療(ちりょう)をすることが優先(ゆうせん)されることは仕方のないこともあるのですができるだけ患者(かんじゃ)さんの希望は叶(かな)えてあげたいですね。また治療(ちりょう)がうまくいかない患者(かんじゃ)さんに対して,何もしてあげられない場合があります。そういう時は自分の無力さを感じます。どうしても手の施(ほどこ)しようがない場合は痛(いた)みを和らげたり,心の状態(じょうたい)を落ち着けたりする為(ため)の施設(しせつ)に移動(いどう)してもらう場合も多く,患者(かんじゃ)さんやご家族と中途(ちゅうと)半端(はんぱ)な状態(じょうたい)で別れなければいけないこともあり,とても辛(つら)いです。
僕(ぼく)はケアした後に患者(かんじゃ)さんに喜んでもらえたり,患者(かんじゃ)さんの病気がだんだん良くなっていくのが分かることがとても嬉(うれ)しいです。例えば,患者(かんじゃ)さんから「先週より調子が良くなったよ」と言われたり,表情(ひょうじょう)がなかった人が笑顔を見せてくれたり,食べ物が食べられるようになったりすると,患者(かんじゃ)さんのことですが僕(ぼく)も自分のことの様に嬉(うれ)しいのです。自分の行動で患者(かんじゃ)さんに変化があると,間接(かんせつ)的に自分の仕事を意味あるものだと感じられます。
実は僕(ぼく)は高校2年生の時には保父(ほふ)さん(保育園(ほいくえん)の先生)になりたかったんですよ。人の人生に関わって人の生き方や考え方に影響(えいきょう)する仕事ってすごいなと思っていたんです。特に小さいときに関わる人はその人の性格(せいかく)や考え方にすごく影響(えいきょう)があるから,保父(ほふ)さんとして働きたいと思っていたのです。でも調べていくと,景気の悪い時期で保父(ほふ)さんとして就職(しゅうしょく)することが難(むずか)しかったんです。そんな時にふと看護師(かんごし)さんのことを思い出したんです。僕(ぼく)は2歳(さい)から中学1年生くらいまで小児喘息(ぜんそく)を患(わずら)っていて,月1回くらいは病院に行っていたので,病院を身近に感じていました。そこで医師(いし)は怖(こわ)かったり,時には僕(ぼく)にとって嫌(いや)なことをするのですが(すべての医師(いし)が怖(こわ)いわけではありませんし,苦くても私(わたし)の病気を治すために必要だから薬を飲みなさいと言ってくれていたのですが,まだ小さかったので医師(いし)が怖(こわ)くて嫌(いや)なことをする人に見えてしまっていたんですね。),看護師(かんごし)さんはにがい薬を飲むのを手伝ってくれたりやさしかったなと。自分にとってはとても大きい存在(そんざい)だったんです。よく考えたら看護師(かんごし)は小さい子からお年寄(としよ)りまでの人生の大きな節目に関わる仕事だと思い看護師(かんごし)を目指すようになりました。
僕(ぼく)は新潟(にいがた)県の出身で,とても自然に恵(めぐ)まれている環境(かんきょう)で育ちました。大学受験をしっかりしようと思うまではとにかく体を動かして遊んでいました。冬はスキーをしたり雪合戦をしたり高いところから雪の中に飛(と)び降(お)りたりしていました。朝5時に起きてザリガニとりに行ったり,トンボやどじょうを捕(と)ったりしていました。小学校も体を動かすことに力を入れている学校だったので,学校でもいつも運動していましたね。体力がつく10歳(さい)くらいまでは運動の最中に喘息(ぜんそく)の発作がでて息が苦しくて動けないこともありましたが,運動することが大好きだったので発作がおさまるとどんどん運動していました。
とにかくおもしろいと思えることをやったらいいんじゃないかと思います。大人になると一日に使える体力が限(かぎ)られているような気がしてきます。そして,自分の限(かぎ)りある体力をなるべく効率(こうりつ)よく使いたいという発想になりがちなんです。でも,子どもの頃(ころ)は興味(きょうみ)さえあれば体力は限(かぎ)りなくでてくるんですね。自分の場合も喘息(ぜんそく)でうまく呼吸(こきゅう)ができなくて,喉(のど)がヒューヒュー言っている時も遊ぶ元気は出てきました。そういう経験(けいけん)がない子どもたちは自分の可能(かのう)性(せい)がとても大きいことを知らないで大人になってしまうように思うんですね。「僕(ぼく)は,私(わたし)は,がんばればできる」と,自分のことを信じることができると,大人になってからも辛(つら)い時(とき)や頑張(がんば)らなければならない時にそれが拠(よ)り所(どころ)になります。なので,興味(きょうみ)の持つたことはどんどんやって下さい。それを極めることが目的ではなくて「自分ってこんなにパワーあるんだ」って思えるのが大事だと思います。自分のエネルギーの出し方を体験して欲(ほ)しいですね。