※このページに書いてある内容は取材日(2018年03月01日)時点のものです
信用金庫の中で働く弁護士
私は東京の北区に本部をおく城北信用金庫で,弁護士の資格を持った職員として働いています。「コンプライアンス統括部」の「法務グループ」という部署で,主に信用金庫の業務に関する法律面でのチェックや職員からの法律に関する相談,職員への研修などを担当しています。弁護士ですが,裁判に行くことはありません。
日本の多くの企業では,外部の弁護士と「顧問弁護士」の契約を結んで,業務における法律面での協力をしてもらいます。城北信用金庫では,私が入庫してから,外部の弁護士さんには裁判やビジネス関係の専門的な分野の協力をお願いし,信用金庫内ですぐに回答できることは私が担当するようにしています。外部の弁護士さんにお願いするか,信用金庫内で私が担当するかの判断をするのも私の仕事です。外部の弁護士さんにお願いするときも,私が間に入って問題を整理してから相談するので,スムーズに進みます。企業の中で働く弁護士は最近,増えてきてはいますが,信用金庫内の弁護士というのは全国的にもとても少なく,仕事範囲も広いため,試行錯誤しながらやっている面もありますね。
新たに立ち上げる事業もサポート
私のもとには,信用金庫の職員から,さまざまな相談が持ち込まれます。お客さまとの契約書の内容をどうすればいいかといったことや,信用金庫のホームページに写真や動画を掲載する際,どのような点に注意すればよいかといった相談を受けることもあります。通常,外部の顧問弁護士は,何か問題が起こったときにはじめて動きだすことが多いのですが,私の場合は,信用金庫の中の弁護士として,「これから行うこと」を法律面からサポートするのも大切な仕事ですね。信用金庫の商品などを宣伝するためのポスターやチラシの内容を確認して,使われているキャラクターの使用許可がきちんと取れているかを確認したり,特典のついたキャンペーン商品が法律に違反していないかをチェックするといったこともしています。ポスターやチラシの内容を確認する際は,法律面の確認だけでなくて,日本語として正しいかどうかや,誤字のチェックまでしているんですよ。書類のチェックは一か月に平均で150件ほど持ちこまれ,契約の更新などが集中する3月は200件を超えることもあります。
テスト問題を作る仕事も
書類のチェックや法律に関する相談以外の仕事としては,暴力団などの反社会的勢力への対応や,職員への研修があります。
暴力団などの反社会的勢力との取引につながることがないよう,毎朝,新聞やニュースの事件報道をチェックし,城北信用金庫のお客さまが関わるものがないかを確認しています。場合によっては,外部の弁護士と連携して,対応を話し合います。
職員への研修では,「コンプライアンス」についての研修をしています。ここで言う「コンプライアンス」とは「企業が法律や社会のルールを守る」といった意味の言葉です。ルールを知らずに不正をしてしまうといったことがないように,研修をしてルールを知ってもらいます。たとえばお客さまに芸能人がいて,そのプライバシーにかかわることを知っても,その内容をSNSで書いてはいけませんよね。そうした基本的なことから,最新の振り込め詐欺の手口やマネー・ローンダリング(資金洗浄)についてなど,さまざまな研修をしています。また,月1回,全店舗の職員を対象に「コンプライアンス理解度小テスト」を行うのですが,この問題や解説を作るのも,私が所属する「法務グループ」の仕事です。単純な暗記問題にならないようにするなど,問題を作るうえでもいろいろな工夫をしています。
難しい問題が解決できると達成感がある
複雑な相談案件が解決すると達成感があります。最近は外国籍のお客さまも増えているため,日本の法律では問題が解決できないこともあります。たとえば外国籍のお客さまが亡くなり,遺言書がない場合,残された預金の相続は,そのお客さまの国の法律に従って手続きをしなければなりません。こうした場合は,外国の法律について調べる必要が出てきて苦労するのですが,問題なく解決するとほっとします。
また,最近は遺言書を書く方が多いのですが,遺言書を書いてから,その方が亡くなって遺産を分けるまでの間に,遺産の受取人に指定されている方が先に亡くなってしまっている場合もあります。そうなると,遺産を分ける手続きがとても複雑になるんです。こうした相談案件がスムーズに決着して,関係する職員やお客さまが喜んでくれるとうれしいですね。
問題解決の答えは,相談者自身の中にあることも
相談には,毎回,新鮮な気持ちで対応するようにしています。同じような相談に見えても,相談してくる職員のタイプもお客さまのタイプも違うため,同じ相談は一つとしてありません。毎回,解決方法も違いますが,一件落着したときには,今回はこの方法で間違っていなかったんだ,とほっとします。
また,どんな相談も,解決方法は一つとは限らないので,選択肢は複数出して,最後の判断は相談者自身で納得できるものを選んでください,という形にもっていくようにしています。相談者は,問題解決の答えを自分自身で持っていることがよくあるものです。私が問題解決のお手伝いをすることで,その人自身の解決能力が高まるとうれしいですね。
仕事のやり方としては,「今日できることは今日する」というのがポリシーで,なるべく仕事を先送りしないようにしています。勤務時間内で仕事を終え,休日はリフレッシュのために動物園や水族館に行って,仕事に戻ったらまた集中するというスタイルです。
小学生のころ,ドラマの弁護士にあこがれた
弁護士にあこがれたきっかけは,小学校の5,6年生のころに,テレビで法律事務所を舞台にしたアメリカのドラマ『アリー・マイ・ラブ』を見たことです。弁護士が法廷で依頼人の弁護をしているのを見て,人前で堂々と話せることが,とてもかっこいいなと思いました。それもあって,高校時代の部活ではディベート部に入っていました。
大学卒業後には法科大学院(ロースクール)に進んで勉強しました。司法試験には初めての受験で合格し,就職先についてどうしようかと迷っているときに,弁護士会の就職情報サイトで,城北信用金庫が弁護士を募集していることを知りました。私は東京の板橋区で育ち,地元の近くで働きたいと思っていましたし,金融機関に就職した友だちから,仕事でよく法律問題にぶつかると聞いていたこともあり,面白そうな仕事だなと思ったんです。それで採用試験を受け,2014年に城北信用金庫へ入庫しました。
高校時代,ディベート甲子園で全国準優勝
なんでも,疑問があると,自分で納得できるまで調べないと気が済まない性格です。たとえば受験勉強で入試の過去問題を解くにしても,国語の現代文の問題は一般的な解説を読むだけでは満足できず,その著者の別の本を読み,「なるほど,こういう考え方もあったのか」と知る,というようなことをしていました。深く知るのが面白いんです。そんなふうなので,友だちからは「お前の話はむずかしい」といわれたりして,ちょっと変わっていたかもしれません。でも,生徒会の役員もやりましたし,友だちづきあいも大事にしていました。今も地元の友だちとはよく会っています。
高校時代には部活でディベート部に入っていました。ディベートは,一つのテーマについて,肯定側と否定側に分かれて討議するので,物事を色々な角度から見る必要があります。夏休みには「ディベート甲子園」(全国中学・高校ディベート選手権)というイベントに毎年,出場していました。2年生のときには全国で準優勝までいきました。ディベートに熱中したことはいい思い出になっていますし,今でもその主催団体の支部でボランティアを続けています。