て話す仕事の方が好きです。オフはひとりの時間を大切にしたいタイプで,趣味は音楽鑑賞です。クラシックや映画音楽をよく聞きます。
※このページに書いてある内容は取材日(2018年04月23日)時点のものです
課題を見つけ,一緒に成長する
私は税理士として,東京都足立区で「青木昇税理士事務所」という事務所の所長を務めています。私の他に所員は18人います。
税理士の仕事は,依頼を受けた会社や個人事業の経営状況を確認したり,収入や支出,納税に関する書類をまとめたりといった業務を通じて,その会社や事業がどうすれば成長できるかを分析し,経営の相談に乗ったりアドバイスしたりすることです。
みなさんの家でも,家計簿をつけているかもしれませんね。それと同じようなことを会社でもやっています。税理士は,その会社がつけた帳簿をもとに,会社がどうしたらもっと利益を出せるかをアドバイスします。その際に,会計や税金に関しての専門的な知識が必要になるのです。
私の事務所では,200以上の会社と顧問契約を結んでおり,月に一度は担当者が会社まで出向いて,前の月の経営状況をまとめた資料に目を通し,会社の経営にどのような変化があったのかを見ます。これが「月次監査」と呼ばれる業務です。この月次監査を通して,無駄なお金を使っていないか,出た利益をどう会社のために生かせばよいかといった,その会社の課題を見つけだしていきます。問題があれば一緒に解決し,さらに会社を成長させるためにはどうすればいいかを一緒に考えます。
直接会って話すことを大切に
税理士であり事務所の所長である私の主な業務は,まず,所員たちからそれぞれが担当する会社についての報告を受けて,問題がないか確認することです。そして,気になる会社があれば,その会社を訪問して相談に乗り,税務上のアドバイスをします。このほか,契約先の会社に税務署による調査が入るときには必ず立ち会います。この調査は税金の申告漏れや不正がないかといったことを調べる目的で国が行うのですが,状況を把握している私が同席すれば,スムーズに進みます。
税理士というと,計算したり資料をまとめたりという室内の仕事をイメージする人もいるかもしれませんが,私は一日の業務のうち,事務所のなかで机に座って仕事をするのは,時間にして3分の1程度です。帳簿上の数字を見るだけでなく,お客さまのもとに出向いて直接お話しすることが大切だと考えているからです。
税理士が忙しいのは,会社の決算がある時期です。決算というのは,一年に一度,収入や支出を計算して,その一年間の利益や損失を確定する業務のことです。会社によって決算の時期は異なりますが,12月や3月というところが多いため,準備やとりまとめも含めると,11月ごろから5月ごろまでは忙しい時期が続きます。
数字だけではなく,人間も見る
お客さまの業績が上がらないときは苦労します。私の事務所がおつきあいしているのは大きな経営基盤のない中小企業が多く,5年あったらそのうち3年は調子がよくても残りの2年は苦労する,といった会社がほとんどです。もし一度業績が落ちてしまったら,一発逆転は難しく,またコツコツと実績を積み上げるしかありません。
そんな会社に,いかに事業を安定して継続していただくか。そのためのアドバイスこそ,私が一番大切にしている業務です。心がけているのは,会社の状況に合わせたアドバイスをすることと,数字だけではなく,経営者の人となりを見ることです。会社の規模や業種によってアドバイスの内容が変わりますし,社長の性格によっても変わってきます。経営方針を決めるのは最終的には人間ですから,よりよい方向に進むためには,相手と向き合う必要があります。数字を見る力だけではなく,人を見る目やコミュニケーション力が要求されるところです。
取引先も自分も幸せになれるのが魅力
顧問契約を結んでいる会社が発展し,利益が上がれば,自分の仕事も評価され,事務所の利益にもなります。取引先の会社が順調なときは充実感がありますし,私も取引先も,お互いに幸せですよね。一方,取引先の会社が業績を落としてしまったときに,いかに有効なアドバイスができるかどうかも,自分の腕の見せどころだと思っています。また,がんばって仕事をした結果,「青木さんなら間違いない」と,契約している会社から別の知り合いの会社を紹介していただけることもありますが,こうしたときはとてもうれしいです。
サポートしてくれる所員にも恵まれました。ひとりで立ち上げた事務所ですが,今や所員は18名になりました。彼らは,所内で事務の仕事をこなしたり,契約先の会社に出向いて月次監査を担当したりしてくれています。なかには勤続40年という所員もいるんですよ。18名のうち税理士は私を含めて2名で,もうひとりはまだ若くキャリアも浅いものですから,これから私の知識やノウハウを伝えていきたいと思います。
なんとなく始めた仕事が天職に
税理士になるには,国家試験に合格する必要があります。実は私は,税理士の資格を取得したときには税理士になるつもりはなかったんです。大学を卒業したあと,製造加工業の会社に就職して営業の仕事をしていたのですが,会社の方針で税理士の資格を取る必要がありました。それで,勉強して税理士の資格を取ることにしたんです。仕事は忙しかったのですが,休みの日や空いた時間に集中して勉強し,合格できました。
その会社でやっていた仕事が楽しかったものですから,いずれは自分も独立して同じような事業を始めたいと思っていました。ところが,事情があってその会社を辞めることになり,「そういえば税理士の資格を持っていたな」と思い出し,税理士業を始めることになったんです。
どうしてもやりたかった仕事というわけではありませんから,事務所を立ち上げて5年くらい経ったころ,税理士を辞めて別の仕事に就こうかと考えたこともありました。でも,あるお客さまに「青木さんが辞めてしまったら,うちはどうしたらいいの?」と言われたんです。そんなふうに自分を必要としてくれる人がいるのか,それなら……と続けるうちに40年以上経ちました。かつての自分を思うと,なんだか不思議ですね。
現場を知る強みを生かして的確なアドバイスをする
私がこれまでこの仕事を続けてこられたのは,「現場を知っている」という強みがあったからだと思っています。税理士になる人には,学生時代から志したり,税務署に勤めたあとに事務所を開いたりといった人が多いのですが,私の場合は中小企業で働いた経験を持っていますから,中小企業がどんな悩みを抱えているのかよく知っているわけです。そのぶん的確なアドバイスができます。おかげでたくさんの会社から頼りにしてもらえるようになりました。長年おつきあいいただいた方のご子息が興した会社でお手伝いさせていただいたり,知り合いをご紹介いただいたりして,いまや日本各地にお客さまがいます。
お客さまに選んでいただくために私が大切にしている心構えは,「お客さまにとって耳が痛いことであっても,言うべきことを言う勇気を持つ」ということです。はっきり,正直にお話しするほうが誠意が伝わりますし,なにより,本当にその会社のことを考えていれば,お世辞を言ってごまかすようなことはできないはずですよね。きちんと仕事をしているからこそ,言うべきことを言えるわけです。
一生の宝物になった音楽と友
私は第二次世界大戦が始まる前に生まれて,国民学校(今の小学校)に入ったのは戦争が終わった年です。なにもない時期ですから,将来を夢見られるような環境ではなくて,まずは食べること,生きることに必死でした。
そんな少年時代を過ごしたあと,私に大きな影響を与えてくれたのは,音楽でした。きっかけは,高校に入ったときに先輩に誘われて始めたバイオリンです。最初は先輩が怖くて無理をして続けていたのですが,そのうちに楽しくなってきて,みんなで文化祭で演奏したのもいい思い出です。今はあまり楽器を弾く機会はないのですが,クラシックや映画音楽のCDを聞くのがやすらぎの時間ですね。一緒にバイオリンを始めた3人の同級生とは,その後もずっとつきあいが続いています。人生において親友と呼べる仲間が3人もいるというのは,たいしたものではないかと自負しています。気のおけない友人と遊びにいったり,時間を忘れて語らったりすることは,人生の豊かさにつながるものです。
さまざまな経験を積んで,実りある人生を
みなさんには,自分が好きだと思うことに,とことん興味を持って取り組んでほしいと思います。まず興味を持つことで,経験を積めるし,勉強もできる。結果として自分に向いていなければ別のことに取り組めばいいと思いますが,まず興味を持たなければ,向いているかどうかも判断できないのではないでしょうか。
私も,高校時代には音楽に興味を持って,真剣に取り組みました。結果として仕事になったわけではありませんが,楽器を弾いたり,好きな曲を聴いたりして過ごす豊かな時間と,生涯の友人を得ることができました。
私がこの年齢になって感じるのは,人生においては,なにごとも経験が大切ということです。みなさんも,これからさまざまな経験をして,人生を実りあるものにしてもらえたらと思います。