※このページに書いてある内容は取材日(2023年12月07日)時点のものです
インフルエンサーとして、聴覚障がいをはじめとする障がいの情報を発信するほか、会社経営も
私は、インフルエンサー、会社経営者、タレントとして活動している「難聴うさぎ」です。SNS総フォロワー数は60万人以上です。生まれつきほとんど耳が聞こえず、補聴器をつけて生活をしています。
インフルエンサーとして使っているSNSは主に、YouTubeやTikTok、Instagram、X(旧Twitter)で、私自身の聴覚障がいをはじめ、さまざまな障がいについての情報を発信しています。私が障がいについて発信するのは、障がいがある人にもない人にも、障がいのことを知ってもらい、障がいのある人が不自由を感じない世界をつくりたいからです。また、「障がいによって困難なことがあっても、あきらめずにチャレンジすれば、さまざまなことができる」と多くの人に伝えたいという思いもあります。
発信の中でも動画メディアの反響が大きく、TikTokでよく配信している「ダンス動画」にはたくさんの「いいね」がつきます。ほかに、さまざまな障がいのある人との「コラボ動画」も好評です。コラボをしてもらうのは、聴覚障がいだけでなく、ダウン症、骨形成不全症、トゥレット症など、さまざまな障がいのある人たちです。一緒に障がいについて語り合ったり、散歩や小旅行に出かけたりなど、和気あいあいと話をする私たちの姿を動画にして配信しています。
こういったつながりから、障がいのあるインフルエンサー仲間が増え、もっと仲間のことを知ってもらいたいと思うようになりました。そこで、「株式会社ASTOLTIA(アストルティア)」という会社を設立し、企業からのPR案件など、インフルエンサーの仕事を仲間に紹介する事業を始めました。
会話するときは、口の動きから言葉を読み取る「読唇術」を使う
私は「先天性の聴覚障がい3級・感音性難聴」という診断を受けていて、補聴器を外すとほとんど聞こえないレベルです。補聴器をつけると音は聞こえますが、かなりゆがんで聞こえます。また、聞きたい音と周囲の音が一気に耳に入ってくるので、聞きたいことを選べない感覚もあります。そこで、私は人と会って会話をするときには、相手の口の動きを見て言葉を読み取る「読唇術」を使っています。話すときには口の動きがよく見えるように、口の動きが見える正面で喋ってもらうほか、マイクから入力した会話の内容を文字にして表示してくれるスマートフォンのアプリ「UDトーク」を使うこともあります。
私は発音やイントネーションも完璧ではありません。今でも「イントネーションが違うよ」などと指摘を受けることもありますが、教えてもらえたことに感謝し、その度に正しい言い方を確認して修正するようにしています。
聴覚に障がいがある人はみんな手話ができると思われがちですが、実は聴覚障がい者の中でも日常的に手話を使って生活している人は全体の15%足らずと言われています。私も、大人になってから手話を覚えました。世界一周旅行中、船上で行われる手話教室で学んだほか、お客さまの9割が聴覚障がい者の「手話ラウンジ」で働き、手話でコミュニケーションを取りながら少しずつ慣れていったのです。
日常生活では、聴者(聴覚に障がいのない人)であるマネージャーにフォローしてもらうことも多くあります。マネージャーは手話もできるので、私が状況を把握しきれていない場合は手話で教えてくれるほか、私も人前で言いづらいことをマネージャーに手話で伝えたりしています。
SNSは、「耳が聞こえない」ことを武器に私らしさをアピールする場所
私が動画配信を始めたのは、2018年です。遊びで、友人と一緒に音楽に合わせて踊っている動画をTikTokにアップしたのが最初です。最初は難聴だということを公表していなかったのですが、あるとき思いつきで、ハッシュタグに「難聴」と入力してみました。すると、「耳が聞こえないのに踊れるなんて、すごい!」という応援コメントとともに、私の投稿がまたたく間に拡散されました。いわゆる“バズる”という現象です。こうした反響に私はやりがいを感じ、「バズるためには誰かの真似ではなく、人と違うことをしなければ」と思うようになりました。このとき、「自分らしさって何だろう」と考えて気づいたのが、「私は、聴覚障がいというユニークな特性を持っている。これが私の個性だ」ということでした。
それ以降、私らしさを伝えるために、ダンス動画、障がいのある人とのコラボ動画、日常生活の報告動画など、さまざまな動画を投稿しています。動画を作るときに心がけているのは、自分が視聴者だったらどのような動画に興味を持つかを考えて、内容や構成を決めていくことです。どんな企画が見たいのか、ハイライトになるシーンは、どの順番で入れると引き立つのか。そのコツは誰かに習ったわけではなく、ほかの人の動画をたくさん見ているうちにだんだんつかめてきました。
また、「再生回数を伸ばしたい」とだけ考えて動画を作ると、かえって再生回数が伸びなかったりもします。人に見せることを意識して大げさにふるまうのではなく、あくまで私の自然体の姿を見せる。そして何よりも、「自分が楽しむ!」という気持ちを忘れずに動画を作っています。
再生回数が伸びると、インフルエンサーとしての収益も上がります。収益のルールはSNSによって異なりますが、どのSNSもフォロワー数や動画の再生回数などによって広告収入が決まります。ですから、常に多くの人に注目される動画を投稿し続けることが大切なのです。
障がいのある人たちとコラボ。多くの人に障がいのことを知ってほしい
動画の内容を考えるときに特に意識しているのは、「私にしかできない・語れない企画かどうか」です。例えば、TikTokではダンス動画をたくさん配信しています。「耳が聞こえないのに踊れるの?」と思われるかもしれませんが、リズムとテンポがわかれば、難聴の私でもダンスを楽しく踊ることができるのです。
また、YouTubeでは、障がいのある人たちとのコラボ動画をよく企画しています。どのコラボ動画も私から直接ダイレクトメッセージを送って出演依頼をし、事前打ち合わせはせずにほぼぶっつけ本番で撮影しています。「どのような障がいがあるのか」は必ず聞くと決めていますが、そのほか私が疑問に思っていることは、本番中にストレートに質問しています。その人の話を予備知識のない状態で聞き、私のリアルな反応も一緒に届けたいからです。
アイドルグループ「仮面女子」のメンバーで、事故によって下半身不随になった猪狩ともかさんも、お互いのSNSに出演し合うコラボ仲間です。私のYouTubeでは、「ドライブスルーで月見バーガーを買ってみる」など、さまざまな企画で共演しています。
「片耳難聴」の障がいがあるみゆさんも、私から声をかけてコラボ仲間になった一人です。生まれつき両耳が聞こえない私は最初、「片耳だけでも聞こえるなんて、正直、うらやましいな」と思っていました。ですが、片耳難聴ならではのつらさや、どんなことに困るのかは、体験したことがないので私にはわかりません。動画では、片耳は聞こえるけれど会話するときには相手の口の動きから会話の内容を理解していることや、コロナ禍でマスクをする生活になったときは相手の口の動きが見えず、何度も聞き直すことが多くなったことなどを話してくれました。また、動画の後半では、私が開発に関わった、骨伝導方式の集音器を試してもらいました。このとき、彼女は生まれて初めて左耳で音を聞くことができ、「聞こえた!」と言って泣き出すほど感動していました。
「好きなこと」をやってみることが大事。続けていけば、いつか結果になる
今では動画の企画から撮影、編集、投稿まで、当たり前のようにやっていますが、初めからスムーズにできたわけではありません。パソコンの使い方が全くわからず、キーボードの配列を覚えるところから独学で勉強しました。最初は覚えることが多くて苦労しましたが、何事もやってみて、それを続けていかないと身につきません。
続けるためのコツは、「好きなことをする」ことです。私は中学生のころから「YouTuberになりたい」という夢があり、配信の仕事は自分で選んで挑戦しています。人と話すことも大好きです。言葉を理解しきれなかったり、発音も完璧でなかったりしますが、それでも相手とコミュニケーションをする努力を一生懸命してきました。
また、「世界一周旅行がしたい」という小さいころからの夢を叶えるために、一人で「ピースボート」というクルーズ船に乗ったことがあります。クラウドファンディングや仕事で資金を集め、1000人ほどの乗客と一緒に世界各国をめぐり、たくさんの人と出会うことができました。このときに、手話を使う聴覚障がい者の方と仲よくなれたのがうれしくて、乗船中に手話の勉強も始めました。
ただし、一生懸命やっても、失敗することもあります。批判的なコメントを受け取って落ちこむこともあります。そんなときにはマネージャーに話して、笑い飛ばしてもらいます。1日で暗い気持ちが収まらなくても、2、3日したら気持ちが切り替わって、また前向きになれるものです。気持ちが新しくなると、次に作る動画のアイデアも生まれやすいので、悪いことがあっても最終的にはプラスになると思っています。
安価で使いやすい骨伝導集音器の開発に協力
「株式会社ASTOLTIA」は、2021年に代表取締役の私と、取締役兼マネージャーの2名で設立しました。起業したことにより、外部の企業と協働した大きなプロジェクトに関われるようになりました。
例えば、YouTubeのコラボ動画でみゆさんに試してもらった、特許取得の骨伝導方式のイヤホン型集音器「Vibone nezu HYPER(バイボーン ネズ ハイパー)」は、音響機器メーカーから声をかけてもらって開発に協力した製品です。開発に携わろうと思ったのは、安くて使いやすい製品があるといいなと思ったからです。開発中は試作品のテストを何度も繰り返しています。「そもそも聞こえないので、最大音量を上げてほしい」「自然でクリアな音質で聞こえるようにしてほしい」「防水加工にしてほしい」「おしゃれなデザインにしてほしい」など、私もたくさんの意見を言いました。完成後には試聴会で聴覚障がいのある方々にも試していただきましたが、音が聞こえることに感動して泣いてしまう方もいらっしゃったほどです。製品化した後も改良は続けていて、現在は三代目の機器のリリースに向けて準備をしています(※2024年3月現在、リリースに向けてクラウドファンディングを実施中)。
ほかにも、デジタル関連の企業とパートナーシップ契約を結び、聴覚障がいがあってもなくても関係なく楽しめるメタバース空間「SILENT WORLD(サイレントワールド)」を構築するプロジェクトも進行中です。
発信することの大事さを強く意識したのは、作文の県大会で最優秀賞に選ばれた経験から
聴覚障がいの情報を発信することの大切さに気づいたのは、中学3年生のときのことでした。学校の宿題で人権作文を書くことになったのですが、いざ書き始めようと思っても何を書いていいのか最初は全く思いつきませんでした。困り果てていましたが、「自分のことなら書けるな」と思い直して難聴について書き始めたところ、最後まですらすら書くことができたのです。この作文を提出した後、先生から「あなたの作文がクラスの中で一番よかった。ぜひ、全校生徒の前で読んでほしい」と言われました。
全校生徒の前で発表してと言われても自信も勇気もないし、耳のことで注目を浴びることに不安もあり、戸惑ったのを覚えています。ですが、「発表したらどうなるのかな?」「何かが変わるかもしれない」という好奇心も湧いてきて、発表をすることにしました。
発表後、クラスメイトから「作文、とてもよかったよ」と声をかけてもらえたばかりか、作文コンクールの島根県大会で最優秀賞に選ばれて、とても驚きました。新聞にも掲載され、「感動しました」という手紙をいただいたこともあります。自分の書いた作文が多くの人に届き、心を動かしたということを知って「頑張って発信してよかった」「発信ってとても力があるものなんだ」と思いました。同時に、「耳が聞こえなくてもいいんだ」ということに気づいて、「耳が聞こえない自分を、私自身が受け入れよう」「もっともっと発信しよう」と思うようになったのです。
芸能界に憧れ、オーディションの応募用紙を何度も書いた中学時代
私は小さいころから好奇心旺盛で、特にピアノを弾くことが大好きでした。「耳が聞こえないのにピアノ?」と思う人もいるかもしれませんが、ピアノの先生をしていた母から「音が聞こえなくても楽譜が読めればピアノは弾けるようになるよ」と教えてもらっていたこともあり、「耳が聞こえないから音楽ができない」と思ったことは一度もありません。実際、ピアノに触れているうちにいつの間にか弾けるようになって、学校で合唱をするときにはピアノ伴奏を担当していました。
また、小学校5年生ぐらいから芸能界やテレビの仕事に憧れ始めました。中学生のころにはティーン誌をよく買っていて、巻末についている読者モデルのオーディション応募用紙を何度も書いては、両親に「これを送ってほしい」とお願いしていました。担任の先生にも「芸能界に入りたいです」と話していて、オーディション応募用紙を学校に持って行き、応募用紙に貼る写真を先生に選んでもらったこともあります。結局、何度受けても合格することはなかったのですが、夢をあきらめたことは一度もありませんでした。
高校のときには「芸能界に入りたい」以外にも、「社長になりたい」「YouTuberになりたい」「世界一周旅行をしたい」「本を出版したい」など将来の夢がさらに増えていきました。こういったものを一覧にした「将来やりたいことリスト」も作って、学校の先生たちに配っていたんですよ。今思えば、それらは全て叶っているんです!だから、「発信すれば、願いが叶う」「まずは、発信することが大事」だと、私は信じています。
人生の主役はあなた自身。自分自身の一番の味方になって、自分の夢を応援して
誰にでもコンプレックスはあります。私の場合は特に、難聴であることを恥ずかしいと思ったり、隠そうとしたりしていたこともありました。でも、この障がいを受け入れ、発信することで、難聴が私の武器になりました。
だからみなさんにも、自分のコンプレックスを好きになって、自分のいいところをどんどん口に出して言ってほしいと思います。口にするときに気をつけてほしいのは、人が嫌な気持ちになることは言わないこと。そして、叶ってうれしいことだけを積極的に言葉にすることです。
例えば、「私はかわいくない」という口癖がある人は、「私はかわいくない」ことが叶ってしまいます。だから、「私はかわいい」と言ってみるのです。最初は抵抗があるかもしれませんが、口にすることで、だんだんそう思えるようになります。かわいい自分を受け入れることができたら、それが自信になり、不思議と周りからも「かわいいね」と言われることが増えていきます。
難聴をはじめ、障がいがある人も、私が小さいころからそうであったように、たくさんの夢を持ち、それらの夢をあきらめないでください。多くの周りの声が気になってしまうのは仕方ないけれど、一度失敗しただけで、夢をあきらめてしまうのは本当にもったいない!たくさんの夢をノートに書いてみたり、ちょっと勇気を出して家族や仲のよい友達に言ってみたりするのもいいと思います。障がいは、個性の一つ。人生の主役は、あなた自身です。あなたの夢を応援するために、まずはあなた自身があなたの一番の味方でいてあげてくださいね。