• 東京都に関連のある仕事人
  • 1991年 生まれ

    出身地 佐賀県

すししょくにん寿司職人

野中のなか 海斗かいと

  • 【このページに書いてある内容は取材日(2016年09月27日)時点のものです】

野中 海斗


仕事人記事

一人前の寿司(すし)職人(しょくにん)をめざして

一人前の<ruby><rb>寿司</rb><rp>(</rp><rt>すし</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>職人</rb><rp>(</rp><rt>しょくにん</rt><rp>)</rp></ruby>をめざして

(わたし)寿司(すし)職人(しょくにん)の見習いとして,東京都足立区にある「(けん)寿司(ずし)」で働いています。魚はもちろん,米や海苔(のり),ガリにもこだわる江戸前(えどまえ)寿司屋(すしや)で,昭和47年の創業(そうぎょう)以来,(しゅん)の食材を使った一流の味を提供(ていきょう)しています。
店長をはじめ熟練(じゅくれん)した職人(しょくにん)(そろ)い,何を食べてもおいしいことが自慢(じまん)です。カウンターと座敷(ざしき)(そな)えた店内は,堅苦(かたくる)しさもなく,元気で明るい雰囲気(ふんいき)なので,(わたし)もすぐに()けこめました。
この店では,寿司(すし)だけでなく,天ぷらや(どん)もの,うなぎなど,一品料理も充実(じゅうじつ)しており,一人前の職人(しょくにん)になるには,その全てに精通(せいつう)する必要があります。高い技術(ぎじゅつ)は一朝一夕で身につくものではなく,一人前の職人(しょくにん)になるためには,何十年もかけて修行(しゅぎょう)を積む必要があります。7年前に見習いとして入った(わたし)もまだまだその途中(とちゅう)です。接客(せっきゃく)に始まり,(にぎ)りやさまざまな調理など,日々(ひび)いろいろなことを教わっています。

仕込(しこ)みから(にぎ)りまで

<ruby><rb>仕込</rb><rp>(</rp><rt>しこ</rt><rp>)</rp></ruby>みから<ruby><rb>握</rb><rp>(</rp><rt>にぎ</rt><rp>)</rp></ruby>りまで

毎朝9時からランチの仕込(しこ)みを始め,11時30分の開店に(そな)えます。お昼が()ぎたら,今度はすぐに夕食の仕込(しこ)み。夜の部は17時に始まり,そのまま23時30分まで営業(えいぎょう)します。片付(かたづ)けを終えて店を出るのは24時ごろです。
仕込(しこ)みでは,魚や野菜の下準備(したじゅんび)をしたり,寿司(すし)飯(シャリ)を用意したりします。なかでも重要なのはシャリで,()きたてのご飯に寿司(すし)()をかけて()ぜ合わせ,うちわであおいで,あら熱を取ります。単純(たんじゅん)に見えますが,米粒(こめつぶ)をつぶさず切るように()ぜる技術(ぎじゅつ)が必要で,「シャリ切り」とよばれます。一つひとつの動作の手早さ,正確(せいかく)さが寿司(すし)の味に直結するのです。
開店後は,主に接客(せっきゃく)やテーブルの片付(かたづ)けを担当(たんとう)します。厨房(ちゅうぼう)に入って魚や野菜の調理をすることもあり,店長から合格(ごうかく)をもらえたときは,お客さまにお出しします。まれに,()寿司(ずし)(にぎ)寿司(ずし)(まか)されることもありますが,カウンターに立ち,お客さまの目の前で(にぎ)るので,緊張(きんちょう)で手が(ふる)えそうになります。

一に修行(しゅぎょう),二に修行(しゅぎょう)

一に<ruby><rb>修行</rb><rp>(</rp><rt>しゅぎょう</rt><rp>)</rp></ruby>,二に<ruby><rb>修行</rb><rp>(</rp><rt>しゅぎょう</rt><rp>)</rp></ruby>

以前,刺身(さしみ)に使う魚があと1()しかないのに,さばき方を間違(まちが)えて駄目(だめ)にしてしまったことがありました。包丁の入れ方や火加減(ひかげん)をひとつ間違(まちが)えるだけで,全て台無しになってしまいます。その後は二度と()(かえ)さないよう,練習を重ねるのはもちろん,緊張感(きんちょうかん)をいっそう強めて仕事をするようになりました。また,一日の仕事の時間が長いので,体力と持久力(じきゅうりょく)も欠かせませんね。
料理の種類が多く,その一つひとつの調理法が(むずか)しいことも苦労の種です。たとえば,天ぷらのさっくりとした食感は,油の温度のわずかな(ちが)いに左右されます。(にぎ)りは,ネタの切り方,シャリを(にぎ)る強さひとつで味が変わってしまいます。そういった加減(かげん)をコントロールして,いつでもベストの味を生み出す技術(ぎじゅつ)は,まさに職人技(しょくにんわざ)。まだまだ,身につけなければいけないことが山積みです。

「おいしい!」が聞きたくて

「おいしい!」が聞きたくて

この店でお食事をしたお客さまに,「おいしい!」と喜んでいただけることがやりがいです。料理をより楽しんでいただくために,どんな接客(せっきゃく)ができるだろうと自然と考えるようにもなります。今後,自分が調理を(まか)されるようになったら,この喜びはより大きくなるはずです。道は長く,決して楽ではありませんが,一生懸命(いっしょうけんめい)練習を積んで,調理を(まか)される日に(そな)えています。
お客さまだけでなく,店長や先輩(せんぱい)職人(しょくにん)からほめられたときも,格別(かくべつ)にうれしいです。(わたし)が作った料理を味見して「うまい」と言ってもらえると,心の中で「よっしゃあ!」とガッツポーズしてしまいます。普段(ふだん)(きび)しい分,ほめてもらえるとモチベーションも上がりますね。努力しているところをしっかりと見てもらえるので,もっと頑張(がんば)りたい,上達したいと思います。

まごころを(わす)れずに

まごころを<ruby><rb>忘</rb><rp>(</rp><rt>わす</rt><rp>)</rp></ruby>れずに

心をこめて作らなければ,決しておいしい料理にはならないと,見習いを始めたときからずっと言われてきました。食べる方の喜ぶ顔を想像(そうぞう)しながら,米を研ぐときも野菜を切るときも,一つひとつ気持ちをこめること。もちろん,技術(ぎじゅつ)を身につけることが大前提(ぜんてい)ですが,まごころを(わす)れてはならないと,日々(ひび)自分に言い聞かせています。
接客(せっきゃく)では,いつも笑顔を()やさないように心がけています。お客さまをご案内するだけでなく,ときにはお話に加えていただくこともありますね。会話は,その方の好みを知るための大切な手がかりなので,()()れしくならないように気をつけつつ,気軽に話しかけていただける雰囲気(ふんいき)意識(いしき)しています。
寿司屋(すしや)敷居(しきい)の高いイメージがありますが,居心地(いごこち)の良さも大事にしたいです。お客さまに楽しく()ごしていただければ,料理の味もさらに引き立つはずですから。

野球の道から寿司(すし)の道へ

野球の道から<ruby><rb>寿司</rb><rp>(</rp><rt>すし</rt><rp>)</rp></ruby>の道へ

小さいころの(ゆめ)は,プロ野球の選手になることでした。高校は野球の強い学校に進学し,毎日練習に(はげ)みました。この店に入ったのは,野球部の監督(かんとく)紹介(しょうかい)されたことがきっかけです。卒業を前にして進路に(なや)んでいたところ,監督(かんとく)が,知り合いである(けん)寿司(ずし)の社長に会わせてくれました。その人柄(ひとがら)()かれたことが,就職(しゅうしょく)を決めた一番の理由です。社長も野球の経験(けいけん)が長く,今も店の仲間といっしょに草野球をしています。
寿司(すし)を食べるのは好きでも,職人(しょくにん)になるとは思ってもみませんでした。しかし次第に,この寿司(すし)職人(しょくにん)の世界が,ずっと続けてきた野球に通じていると思うようになりました。努力を重ね続けた者だけが(みと)められる(きび)しい世界だという点です。何十年も修練(しゅうれん)を積んだ寿司(すし)職人(しょくにん)には独特(どくとく)のオーラがあり,まぶしささえ感じます。寿司(すし)の見習いを始めてから,千本ノックのように,同じ練習をひたすら()(かえ)してきました。フィールドは変わりましたが,これからも努力を積み重ね,プロフェッショナルへの道を歩みたいです。

野球を通して(きた)えられた

野球を通して<ruby><rb>鍛</rb><rp>(</rp><rt>きた</rt><rp>)</rp></ruby>えられた

子どものころはのんびりとした性格(せいかく)でした。加えて,父の転勤(てんきん)で地方を転々(てんてん)としていたので,たいていのことには動じなかった気がします。父はトンネルを(つく)る仕事をしていて,工事が終わるごとに移動(いどう)していました。(わたし)佐賀(さが)で生まれ,そのあと,長野,新潟(にいがた)静岡(しずおか)へと(うつ)りました。自分から積極的に話すタイプではありませんでしたが,周りの子と少しずつ仲良くなって,新しい環境(かんきょう)にも()けこんでいきましたね。
野球は小さいころからやっていましたが,(きび)しい練習のおかげで,忍耐力(にんたいりょく)がついたと思います。高校は野球の強い学校だったので,朝から(ばん)まで練習()けでした。そうしたハードな日々(ひび)を卒業までやりきったことで,体力だけではなく精神(せいしん)的な強さも身につきました。長時間の立ち仕事も,野球で(きた)えた精神力(せいしんりょく)で乗り切ることができています。そして,できるまで何度でも練習する根性(こんじょう)も,今の仕事に役立っていると思います。

精一杯(せいいっぱい),努力をしよう

<ruby><rb>精一杯</rb><rp>(</rp><rt>せいいっぱい</rt><rp>)</rp></ruby>,努力をしよう

努力することが一番大切だと思います。地味でつらいことでも,こつこつと続けていれば,必ず(だれ)かが気づいてくれます。勉強でも,スポーツでも,同じではないでしょうか。見えないところでも努力をしてきた人は,いつかきっと(むく)われます。
野球をやってきた(わたし)は,自分の努力が本当に足りていたのか,今でも自問することがあります。もっと練習をしていたら,もっと上に行けたのかもしれない。そんな後悔(こうかい)がまだ残っています。その後,寿司(すし)職人(しょくにん)の道という新しい世界を歩き始めました。今度は()いのないよう,自分にできる努力を精一杯(せいいっぱい)していくつもりです。
みなさんにも,熱中していることや目指していること,やってみたいことがたくさんあると思います。どんなことでも,最大限(さいだいげん)の努力をしてみてください。結果にかかわらず,がんばった過程(かてい)は自分の力になることを(わす)れないでほしいです。

  • 取材・原稿作成:東京書籍株式会社/協力:城北信用金庫

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    あさのあつこ

    野球をやっている時期に読みました。主人公が野球にまっすぐで,自分もがんばろうと思いました。