※このページに書いてある内容は取材日(2017年07月07日)時点のものです
出版取次営業は,書店と出版社をつなぐ架け橋
私はトーハンという出版総合商社で,営業を担当している会社員です。トーハンでは,出版社から仕入れた書籍・雑誌などを日々,全国約5,000店の書店に流通させています。みなさんが手に取っている本や雑誌は,トーハンのような取次会社を通して,書店に送られているわけです。私は営業職ですので,書店に出向いて市場調査をしたり,品ぞろえをチェックしたり,担当の方とお話をして,今後売れそうな本の仕入れを交渉しています。なかでも,私は神奈川支店内にある200店ほどの中から,20店を担当しています。担当店舗は200〜300坪くらいあるような大きな店舗から商店街にある10〜20坪くらいの小さな店までさまざまです。毎日,いくつかのお店に行って,お話を伺っています。私たちの仕事は,本を売るというよりは,出版社と書店をつなぐ窓口のような役目といえます。例えば,出版社からこの本を売りたいという要望があれば,担当している店舗に行って,店頭に置いてもらえないか交渉したり,書店から今売れている本が欲しいと言われたときには,出版社に本をもらえるように交渉したり,ふたつをつなぐ橋のような存在だと思っています。
最新情報を分析し,各書店の売り上げを改善
私の出社は朝8時頃です。出社してすぐ,書店や出版社から届いたメールをチェックします。その後は担当しているお店の売り上げを確認し,市場の動向調査をします。基本的に午後は外出することが多く,午前中にお店で頼まれた案件の処理や突発的な事案に対応しています。
最近では,電子書籍を配信するアプリが出てきて,出版業界全体が縮小傾向にあります。特に書店は売り上げが少なくなってしまい,営業を続けるのが難しい店舗も少なくありません。そこで,私たちに求められることは,売り上げ改善です。私たちとお取り引きいただいている書店のデータを分析した上で,全国で売れている本や売り上げが上がっている店舗を参考に,担当している店舗で展開できるものがないか,フェアができないかを提案します。午後は神奈川県内の担当店舗へ電車で行き,仕入れする本や売り方を担当者の方と一緒に考えます。18時ぐらいまでに2,3店舗を周り,そこから帰宅しています。
担当する書店に寄り添い,どうしたら本が売れるのか考える
最近,一番苦労しているのは,いろいろなメディアや媒体がある中で,どうしたらたくさんの人が紙の本を手にとってくれるのかを考えることです。本屋さんに足を運んでもらって,本を選んでもらわないと私たちの売り上げにもなりません。いかに本屋さんに来てもらうか,そのために私たちは何ができるのか,日々悩み考えている状況です。そのための解決策として,本の読み聞かせのフェアをやったり,着ぐるみを着て店頭に立ったりしてお客様を呼び込むなど,試行錯誤しています。改善点のひとつとして,お客様の読みたい本が店頭にないとき,待っているお客様のために,どこよりも早く確実にその本を届けることも大切です。しかし,その本が用意できない場合,お断りしなければいけないのですが,営業の力不足を実感します。日々お客様のニーズは変化していますので,それに合わせて私たちも変化していかなければいけません。営業には柔軟さが必要です。トーハンの社員というよりは,書店の店員のように,その書店のことを理解したうえで,一番に何をすべきか考えて,行動するのが大切だと思っています。
やりがいを感じるのは,自分の意見が売り上げに貢献できたとき
担当させていただいている店舗の方と仲良くなりますと,自分の意見や思いを売り場に反映させてもらえるようになります。例えば,今は全く売れていませんが,今後売れる可能性のある本について,その理由を丁寧に説明し,理解していただき,店内にコーナーを作ったことで,お店の売り上げに貢献できたとき,本当にやりがいを感じます。さらに,そのコーナーが全国に波及して,月10〜20冊しか売れなかったものが100冊,200冊,1,000冊と売れるようなヒット本になったときは,やっていてよかったなと思います。
ヒット本を作るには,専用の手書きポップをつけたり,チラシを配ったりすることが大切です。書店さんは朝から商品を並べたり,レジ打ちをしたり,なかなか時間がありませんので,ポップやポスターは私たちが準備して提供させていただくこともあります。ポップには,メッセージ性があって興味を引くような文言が書いてあると手に取ってもらえる確率が高くなります。メディアの影響も強く,テレビで紹介されたことや芸能人や有名人も読んでいることを一言入れておとくとより効果的です。
仕事に大小はなく,全力で取り組む
日々いろいろな案件が発生して,私のところにもご要望や問い合わせがあります。私の信条として,仕事に大小はありません。発注が100冊でも1冊でも待っている読者がいることに変わりはありませんので,頼まれたことには常に全力で最大限の熱意を持って取り組むことを大事にしています。最終的には本を買ってくださるお客様がいるという意識のもとで仕事をしていかないと満足度が下がってしまいます。どんな小さなことに対しても,全力で応えるのが信頼関係にもつながります。また,書店さんにここまでやってくれる営業担当者なのだと思っていただければ,お願いされやすく,逆に私からもお願いしやすいと思いますので,お店の大小に関わらず分け隔てなく仕事をすることを大切にしています。
本の素晴らしさを多くの人に紹介できる仕事
大学生の頃,就職活動をしているときは,記者やライターといった自分の思いや考え方を表現できる仕事をしたいと思っていました。そうなるとテレビ業界や出版業界にも視野が広がってきて,その中から出版取次という仕事があることを知りました。私はもともと本が好きでしたので,出版取次なら自分が好きな本や同じような考え方をしている著者が書いた本を紹介できる場が持てるのではないかと考えました。それにより,たくさんの人へ本と出会える機会を作っていけます。書店の売り場に自分の考えや意見を反映させられれば,やりがいも感じられます。最初は今のような熱意はありませんでしたが,入社4年目の今は本当に楽しく仕事しています。トーハンでは,4年目でもたくさんの仕事を任せてくれて,自分の裁量で仕事に携わることができます。営業を担当することでよい経験をさせてもらっています。
本好きの少年が出会った,バスケットボールの名作マンガ
小学校低学年の頃は本当に本が好きで,毎日図書館に通い,その日のうちに借りた本を読み終え,また次の日には借りに行くような子どもでした。今では考えられないのですが,1年間に200~300冊くらいの本を読んでいた記憶があります。たくさん本に触れたことで,考え方やいろいろな言葉を学びましたので,その気持ちが今も根底にあります。その頃はなかなか友達の輪に入れず,まさに本が友達でしたが,小学校高学年からはバスケットボールに熱中しました。バスケットボールをすることで,忍耐力や我慢を教えてもらい,根気強く仕事することにつながっています。本好きの少年だった私がバスケットボールを始めるきっかけになったのがコミックの「スラムダンク」(著者:井上雄彦)です。アニメの再放送を見て,スラムダンクを読み,バスケットに夢中になりました。今では人生のバイブル。毎年正月三が日で,1巻から31巻まで全部読み返します。この恒例行事を行うことで,今年も頑張ろうと新鮮な気持ちになれます。
10代のうちは,やりたいことにチャレンジ
私も20代後半になり,10代の頃に比べると人生の幅がはるかに狭くなっていると感じています。10代の可能性は無限大です。やはりみなさんには,若いうちにいろいろなことに挑戦してもらいたいと思います。やりたいことややってみたいことは,ためらわずガンガン挑戦してほしいです。何かを始めるタイミングに遅いということはありません。何の役にも立たないことでも,やってみることで,自分の人生の幅が大きくなり,可能性が広がっていきます。大人になりますと,もっといろいろなことにチャレンジしておけば,自分の人生は違ったのかなと思うことがあります。そういった後悔を少なくするためにも,やりたいこと,考えていることがあれば,是非挑戦してもらいたいです。もし私が10代に戻れるとしたら,海外に留学したいです。見たことのないもの,知らないところ,知らない人,知らない文化をどんどん吸収して,自分の視野を広げられたらもっと見えてくるものも違ったのかなと思っています。