※このページに書いてある内容は取材日(2023年06月26日)時点のものです
リニア中央新幹線「神奈川県駅」の建築計画を担当
私はJR東海で、建築技術者として働いています。現在の私の仕事は、リニア中央新幹線に必要な建物をつくることです。具体的には、みなさんにご利用いただく「駅」や、リニア中央新幹線に電気を送る「変電所」、車両のメンテナンス・修理を行う「車両工場・車両基地」といったものがあります。私は建築技術者として、それぞれの建物に求められる機能や使う人のことを考えながら、計画・設計をしています。
私は、リニア中央新幹線の中間駅の一つである「神奈川県駅」(仮称。以下同じ)の建築を担当しています。駅には、お客さまが利用する改札やホームのほかにも、空調設備やリニア中央新幹線を走らせるための電気設備など、設置しなくてはならない機器や設備がたくさんあります。そうした機器や設備をどのように駅の中に配置すれば効率的なのかを考えたり、駅のコンセプトやデザインを考えたりすることが私の仕事です。
駅づくりに関わるたくさんの方々と協力し、計画を進める
業務では、駅構造物やトンネルを建設する土木部門や、駅に必要な機器や設備を計画する機械・電気・信号通信部門、駅のオペレーションなどを考える運輸・営業部門といった社内関係者だけでなく、駅の設計図を描く設計会社や実際に工事を行う施工会社、行政機関など、社外の関係者とも相談・協議を繰り返しながら計画を進めています。
具体的には、社内の各部門の担当者から出た「こういう電気設備が必要」「この施設を入れたい」といった条件や意見を取りまとめ、それをもとに駅全体のレイアウトを考えていきます。駅の中の区画をどう配置するか決めたり、「この区画にはこの機械が入るから広さはこのくらいにしよう」と考えたり……。パズルを組み立てていくようなイメージで、駅をつくるために必要な計画を作成し、設計会社に設計図を描いてもらいます。また、施工会社と相談しながら、駅をつくる際の工事の方法や工事の進め方を考えるのも、私の仕事です。より良い駅になるようにと、多くの関係者とコミュニケーションを取りながら、仕事に取り組んでいます。
駅をご利用いただくみなさまに「過ごしやすい」と感じてもらえるように
駅の設計をするうえでは、訪れた人が「過ごしやすい」と感じてもらえるような空間をつくることを意識しています。特に神奈川県駅は、リニア中央新幹線の中間駅で唯一、地下につくられる駅です。そのため、太陽の光が入ってこない地下空間でも息苦しさを感じさせないような工夫が必要です。映像を表示する「デジタルサイネージ(電子看板)」を設置したり、緑をふんだんに取り入れたりと、地下でもワクワクしてもらえるような仕掛けを、設計会社と相談しながら検討しています。
また、神奈川県駅ならではの施設を取り入れることも検討中です。神奈川県駅のある相模原市は「さがみロボット産業特区」として、ロボット産業に力を入れています。さらに、宇宙の研究や開発を行っている、JAXA(ジャクサ、宇宙航空研究開発機構)の施設がある場所でもあります。今後、自治体や地域のみなさんとの相談次第ではありますが、そうした地域の特徴を駅の施設にも取り入れていくことができたらいいなとも考えています。
駅を計画するにあたってのアイデアは、プライベートで訪れた街や建物、駅を参考にすることも多いです。駅を訪れた際は、駅のデザインや構造、混雑状況や駅を利用するお客さまのにぎわいなど、技術者の視点で観察するようにしています。多くの建築物を見て、そこでの経験や感じたことを生かし、より良い空間を提案できる技術者でありたいです。
毎日勉強を欠かさずに、未来を想像しながら駅づくりに挑む
私の仕事には、一般的な建築の知識だけでなく、鉄道建築に必要な知識、さらにはリニア中央新幹線という最先端の技術についての知識も求められます。そのため、駅をつくるために守るべき法令などに加え、リニア中央新幹線と一般的な鉄道との違いや、リニア中央新幹線に必要な機械設備や電気設備にはどんなものがあるのかなどについて、毎日勉強を欠かさず仕事に挑んでいます。
なにより難しいなと感じるのは、「何もないところから計画を進めなくてはならない」ということです。リニア中央新幹線はこれまでにない鉄道プロジェクトです。前例がないため困難に直面することもありますが、日々の勉強で積み上げた知識と、これまで担当してきた東海道新幹線や在来線のプロジェクトで学んだ技術を生かして、計画を少しずつ前に進めています。
また、神奈川県駅の計画にあたっては、少し先の、まだ見ぬ未来を想像しながら検討しなければいけません。これも苦労するところです。私たちの生活スタイルが新型コロナウイルスの影響で大きく変化したように、駅に求められる機能も、これからますます変わっていくはずです。さらに、駅の中に入る機械や設備も、日々どんどん新しいものが開発されています。だからこそ、将来、駅を利用するお客さまのことを考えながら、駅の計画も常に最新のものにアップデートしていく必要があります。考えなくてはならないことが多く非常に大変ではありますが、それだけにやりがいも大きく、達成感を得られる仕事であると感じています。
相手の意見に寄り添いながら、より良い空間を提案していく
仕事をするうえで何より大切にしているのは、「常にお互いにとって良い結果になるような最善策を見出すこと」です。私の業務では、土木・機械・電気の担当者や、建築の設計図を描く設計会社、工事を行う施工会社など、たくさんの人と関わります。私の仕事は、各所からの意見を取りまとめて駅の計画を立てることですが、考え方や専門分野が違うさまざまな人がいるからこそ、意見や方針が食い違うことも多いです。ただ、そのときに相手の意見を否定して自分の考えを押し通すだけでは、問題は解決しません。
そのため、相手がなぜそういう意見を持つに至ったのか、その背景や根拠までしっかり聞いて、理解するよう心がけています。
駅を利用するお客さまの視点も忘れてはなりません。駅は、不特定多数の人が利用する場所です。高齢の方や障がいのある方も安全で快適に過ごせる空間になるよう、バリアフリーの目線で設計することや、海外の方々が利用しやすい駅であることも重要です。
このように、駅をつくる人、使う人、すべての人にとっての最善策を見つけ、全体を客観的に見て、良い方向に導いていくのが私の任務であると考えています。「良い建物や良い空間を提案できる存在」として、これからも相手に寄り添いながら建築に取り組んでいきます。
やりがいを感じるのは、自分の計画が形になり、利用してもらえるとき
この仕事の魅力は、「自分の考えた建物の計画が採用され、実際に形になり、多くの人に利用してもらえる」ことだと思います。多くの関係者や地域のみなさんと意見を交わしながら、自分が進めた計画が形になり、新しい建物や駅が生まれるということには、大きなやりがいを感じます。
過去に、名古屋にある車両工場の耐震補強を担当したことがあるのですが、そこでも、自分の意見が反映されたことがあります。耐震補強は、建物にかかる重量を減らすことが重要なのですが、工場内には古くて重いクレーンが天井に設置されていました。そのクレーンが建物の負担となっていることに気づいた私は、クレーンの取り換えを提案したのです。自分の意見が採用され、実際に地震があったときの建物への影響を軽減し、計画を見直すことができたときは、大きな自信につながりました。
また、車両工場の中にある小さな建物の改修を行う際も、入り口にスライド式のドアを設置することを提案しました。もともと、引いて開けるタイプのドアだったのですが、現場の人が台車を引いて出入りする様子を見て、スライド式のドアのほうが使いやすいと考えました。改修工事が完了した後、「使いやすくなったよ!」と、現場の人に直接声をかけてもらえ、非常にうれしかったのを覚えています。もちろん、計画を立てるときには不安やプレッシャーを感じることもありますが、駅や建物ができあがる瞬間の喜びを胸に、日々、仕事に向き合っています。
人々の記憶や思い出に残る駅をつくりたいという思いから、建築の道へ
私は小さいころから、自分の部屋のレイアウトを変えたり、友人と一緒に秘密基地をつくって遊んだりすることが大好きで、「自分で空間をつくる」ということに興味を持っていました。その後、本格的に建築を学んでみたいと考え、高等専門学校(高専)へ進学し、高専で建築を学んでいくうちに、「人々の記憶や思い出に残る建物に携われたら幸せだな」と、夢がより明確になっていきました。
人々の記憶や思い出に残る建物って何だろう、と考えたときに思いついたのが、「駅」でした。私が生まれ育った兵庫県の淡路島には鉄道がなく、初めて鉄道の駅を利用したのは中学生のときです。今でもその駅に行くと、切符の買い方がわからず焦った思い出や、初めて電車に乗ったときの快適さを思い出し、懐かしく感じます。みなさんにもきっと、「初めて改札を通った駅」や「旅行先で利用した駅」など、思い出に残っている駅があるはずです。そうした駅の建築に携わりたいという思いと、リニア中央新幹線の駅の建築に設計・計画段階から携われるということに魅力を感じ、JR東海への就職を決めました。
学生時代に育んだ、組織やチームをまとめる力
私は淡路島という自然が豊かな場所で育った影響から、外で遊ぶことが好きな子どもでした。缶けりをしたり、サッカーをしたり、みんなで釣りざおを担いで海に釣りをしに行くことも多かったです。そんな活発な子ども時代だったのですが、両親が共働きだったため自分でやらなくてはいけないことも多く、責任感は人一倍、強かったと思います。実際に、中学で委員長に選ばれたり、高専ではサッカー部のキャプテンを務めたりもしました。
高専のサッカー部は、学生が主体となって練習メニューを考え、チームの運営を行う部活でした。部活には1年生から5年生までの学生がいるので、年齢の幅があるだけでなく、人数も40から50人と多く、そのなかでチームを運営していくのは大変だったと記憶しています。しかし、学生時代からそういった役職やポジションを任せてもらえたことで、「組織やチームをまとめる力」を身につけられ、それは今の仕事にも生きていると実感しています。
たくさんの経験と出会いを通して、自分を成長させていくことが大事
みなさんはこれから大人になるにつれて、さまざまな困難にぶつかると思います。そうした困難を乗り越えられるようになるためには、今まで経験したことのない、新しい経験に飛びこんでみることが大事です。最初はわからないことでも選り好みせず、いろいろな経験をすることで、人生が豊かになるだけでなく、自分の未来が見えてくることがあると思います。また、人間関係も自分の人生を豊かにする大事な要素です。新しい人との出会いや自分の周りにいる人を大切にすることで、困難にぶつかったとき、相談できる存在となり、自分を助けてくれるはずです。たくさんの経験や、人との出会いを大切にして、自信を持って自分の成長を楽しめる大人になってほしいと思います。
特に建築の道に進みたいと考えているみなさんは、ぜひ街なかにあるいろいろな建物をよく観察してみてほしいです。街にはどんな建物があるのか、建物がどんなふうにつくられているのか、建物が人々にどのように利用されているのかを気にして見るだけでも、かけがえのない「経験」になるはずです。
リニア中央新幹線もこれまでにない「経験」を提供し、みなさんに愛されるような鉄道になるように計画を進めています。将来、多くの人から「リニアができてよかった」「リニアの駅、かっこいい!」と言ってもらえるように、私も努力し続けたいと思います。