※このページに書いてある内容は取材日(2023年01月16日)時点のものです
銀行の仕組みを使って、地域の活性化を応援
銀行には、お客さまのお金を預かる(預金)、お客さまにお金を貸し出す(融資)、お客さまのお金を別のお客さまに送る(為替)という3つの役割があります。さらに、最近ではこの3つに加えて、個人のお客さまや会社、地域などのお金にまつわるさまざまな相談に乗るという仕事も大切になっています。私は、横浜銀行の地域戦略統括部という部署で働いています。そこでは、観光客を増やすための施設づくりや、特産品の開発など、地域の活性化に携わっていて、その活動の中で企業や団体にお金を貸し出す(融資)ことに携わることもあります。
今、日本では、東京以外の地域にも人や企業を集めながら、国全体を元気にしようという取り組みが進んでいます。活力のある地域をつくるためには、人を呼び込む工夫が必要です。まちを住みやすく整備したり、働き場所となる企業を呼び込んだり、観光客を増やしたり……。それらは、たくさんのお金が必要なこともあります。ですから、銀行が、まちづくりをする企業や団体にお金を貸し出すことで、まちづくりをサポートしています。特に、私たち横浜銀行のように、地域に根差した銀行が地域経済の活性化をサポートすることは、その大きな役目だと思っています。
銀行はただお金を貸し出すだけではなく、お金を管理するプロとして、お客さまが計画通り利益を出せるように関わっています。例えば、事業を効果的なものとするために、地域の課題の洗い出しや、解決策を地域のみなさんと一緒に検討していきます。お貸ししたお金で施設や特産品が完成した後も、まちが元気になっていくためのサポートを続けていきます。そのため、長い期間をかけて、地域のみなさんとお付き合いします。
観光客を呼び込み、地域のみなさんの生活も豊かにするために
横浜銀行では、神奈川県内を6つの地域に分けて、地域ごとの特徴や課題に応じた取り組みを行っています。私の担当は、県央を中心とする中部地域と、県西を中心とする西部地域です。
2022年には、小田原市の活性化を進める企業が、観光施設「箱根口ガレージ」をオープンさせました。小田原市には、小田原城という素晴らしい観光資源があります。ただ、「小田原城以外の観光スポットに立ち寄らない観光客も多い……」という悩みがありました。そこで、小田原駅から小田原城を抜けた先にも観光施設を作ろうと、小田原市の企業が動き出したのです。私たち横浜銀行は、その企業と一緒に観光施設の案を練り、必要なお金を貸し出すことで、地域活性化に携わりました。
箱根口ガレージには、地域の農作物を使った定食やケーキが食べられるカフェ、地域の花屋などが入っています。また、若い世代の観光客を増やすため、建物は現代に合わせてスタイリッシュなデザインに仕上げました。その一方、小田原の歴史を感じてもらえるよう、昭和10年から昭和31年まで、小田原駅から箱根板橋駅の間を実際に走っていた路面電車の車両を施設内に展示し、誰でも車内の見学ができるよう開放しています。
人を呼び込むサポートも銀行の役目
まちづくりのプロジェクトでは、建物や施設を作って終わり、というわけではありません。施設をたくさんの人に知ってもらったり、将来にわたって地域が成長するような活動もしています。その一つとして、箱根口ガレージの計画を進めてきた企業と私たち横浜銀行が協力して、小田原の小中学生を対象に「きんじろう経済教室&はまぎん おかねの教室」を路面電車の中で開催しました。子どもたちには、お金の使い方に関する授業を受けたあと、レモンキャンディーや梅サイダーなど小田原のお土産物を実際に観光客や地域の人に販売して、お金の価値や働くことの意義について学んでもらいました。地域の未来を担う子どもたちに教育の機会を提供すると同時に、お土産物を売る子どもたちの呼び込みにより、施設は多くの人で賑わうことになり、施設のPRにもつながりました。
また、箱根口ガレージで得た売上の一部は地域のみなさんのために使われます。施設の敷地内には宅配便の営業所とコインランドリーがあります。これらは、地域のみなさんの生活が便利になるようにと、お店の売上の一部で運用しているのです。今、箱根口ガレージは、「休日は観光客が立ち寄り、平日は地域の方が利用する」という人の流れができてきています。
銀行は、いろいろなお客さまとのつながりが強み
私は、担当地域と、他の地域のお客さまを結び付ける仕事もしています。神奈川県の中部地域にある清川村(宮ケ瀬地区)の地域活性化プロジェクトに携わった時のことです。地域に「観光客の交通手段を増やしたい」という課題があったため、電動キックボードを取り扱う他の地域の企業をご紹介しました。現地の魅力である自然を存分に感じながら近隣の観光拠点に移動してもらえるよう、観光客向けに電動キックボードの貸し出しを始めるお手伝いをしたのです。
私たち横浜銀行には、地域に根差した銀行として、個人や企業、団体など、長年にわたって培った地域のネットワークがあります。こうしたネットワークを生かして、お客さまの新たな挑戦をサポートできると思っています。
地域の方と打ち合わせをする際は、本部の私だけではなく、地域にある支店の職員に同席してもらいます。地域の方と日ごろ苦楽を共にし、信頼関係を培ってきた支店の職員が、地域の方の事情や想いを一番よく知っているからです。支店の職員と一緒に話をすることで、地域の希望に沿うかたちでプロジェクトを進めることができます。
仕事は事前の準備と勉強が大切
私の一日は、みなとみらいにある横浜銀行本店への出勤からスタートします。8時に到着して、メールを確認します。8時45分からは所属している部署の全体ミーティングでそれぞれの仕事に関する情報を共有します。ほかのメンバーの話は自分の業務に生かせることが多いので、大切な時間です。その後、午前中はその日に使う資料を作ったり、同僚と打ち合わせをしたりして、昼前には神奈川県内で自分が担当している地域での打ち合わせに向かいます。現地で打ち合わせを済ませ、18時ごろに仕事が終わることが多いです。
私の仕事には、神奈川県の各地域の首長(市長、町長、村長のこと)のお名前、まちの歴史、観光資源、人口などの資料をまとめた、オリジナルの手帳を役立てています。地域の方との打ち合わせでは、幅広い話題が出るので、移動中などに資料を見て予習をしています。情報が更新されるたびに中の書類を差し替えています。
調整力がみんなの想いを形にする
地域活性化に関わるプロジェクトでは、立場や年齢の違うさまざまな人が参加しますが、そこでは、意見が異なることもあります。「良いまちにしたい」という想いは同じでも、それぞれの立場や事情の違いから優先順位が異なることがある……。そんな時、私たち銀行員が間に入って意見を調整する立場を担うことがあります。
それぞれの思いや大切にしていることを個別に聞きながら、最終的にはプロジェクトに関わる全員が納得し、地域全体のためになる答えを見つけるのです。銀行は、小売業や製造業などの実業を本業としているわけではありません。そのため銀行は、事業者の方々と利害関係が起きにくい立場として、調整役を担えることがあると考えています。
これには、調整を繰り返す粘り強さと、みなさんの合意を取り付ける突破力が必要となります。みなさんと話をする際は中立的な立場でいられるよう、勘に頼らず数字などの事実をベースにした話をすることも大切です。
長い時間をかけて作った計画が完成したり、融資が実現したり、新しいお店がオープンしたりと、プロジェクトが未来に向けて前に進んでいることが実感できた時、私は、「この仕事をしていてよかったな」とうれしくなります。それは、1つの目標に向けて大勢の人が協力し合い、共に困難を乗り越えていく様子を長年見ているからなのです。計画が一つずつ進んでいくこと自体が手応えとなり、私のやりがいにもつながっています。
学生時代の経験が仕事につながっている
私は子どものころ、社会科が好きでした。社会科は、実際の生活や暮らしにつながっていると思えて楽しかったからです。社会科で習ったことは、銀行員が身に付けておくべき基礎知識に通じている部分もあります。例えば今の私でも、神奈川県の小学生向け冊子『わたしたちの神奈川県』を読むと、再発見できる情報があり、驚くことも少なくありません。
また、中学受験を経験したのですが、その際、幅広い教科を勉強したことで、さまざまな事柄に目を配る力が養われたと思います。その力は銀行員になった今も、しっかりと生かせていることを実感しています。
忙しい日々を支えてくれているのは、小学校から高校まで続けた水泳で付けた体力でした。今、みなさんが身に付けている知識や体力は、大人になってからきっと大きな力となると思います。
私の出身は東京都ですが、中学・高校時代は神奈川県で過ごし、友達にも恵まれ充実した日々でした。放課後、学校周辺を巡るうちに、1駅違うだけでまちの特徴や景色が違う神奈川県に興味を持つようになりました。「楽しい時間を過ごさせてくれた地域に恩返しをしたい」。私は、大学卒業後、その想いを胸に横浜銀行に入行しました。
さまざまな可能性がある銀行の仕事
私が仕事で大切にしていることは2つあります。それは「仕事の判断や行動のスピード」と、「話をスムーズに進めるためのコミュニケーション」です。
私たちの仕事では、同時に複数の地域活性化プロジェクトを担当し、それぞれを前に進めていかなければなりません。いくつものプロジェクトを同時に進めるためには、判断すべきことを先送りにせず、素早く実行に移していくことが大切です。
しかし、地域活性化プロジェクトは関わる人が多いので、自分だけでは判断できない場面もたくさん出てきます。そんな時は、地域のみなさんに私の意見を伝えながら最適なシナリオを探っていきます。
そんなふうに、速度を上げて取り組むことと、時間をかけて取り組むことを見極めるためには、相手が何を感じ、何を考えているのかを想像する力が必要だと思っています。きちんと一人ひとりとコミュニケーションを取って相手を知れば、相手の抱きそうな疑問や不安に先回りして対応できるので、計画がスムーズに進んでいくのです。
銀行は、従来の業務に加えて、さまざまなチャレンジを始めています。デジタルやマーケティングといった分野のスペシャリストも、今、求められる人材像です。みなさんには世の中のいろいろなものに興味と好奇心を持ち、好きな分野を深めていただきたいです。銀行の間口はどんどん広がっているので、いつか意外な形で一緒に仕事をすることになるかもしれませんね。