専門的な知識を生かした営業で,お客さまの信頼を得る
私は,積水化学工業のグループ会社,積水テクノ成型株式会社で技術営業という仕事をしています。一般的な営業は,会社の商品の魅力を提案し,購入してもらう仕事ですが,技術営業は,さらに設計や技術などの専門的な知識を生かしてお客様に提案やアドバイスをし,購入を検討してもらう仕事です。
私が販売しているのは,「クロスウェーブ」という雨水を地下に溜める設備です。クロスウェーブは四角すいのような形をした突起が並んでいるもので,これを重ねてすき間のある箱の形をつくって地下に埋めることで,大雨や台風のときにそのすき間に雨水を溜めることができるというものです。
雨水を一時的にクロスウェーブに溜めて,その水を河川に少しずつ流すことで,川の水があふれ出ることを防ぎ,まちの水害対策に貢献しているのです。
見えないところでまちの安全を支える
社内外の打ち合わせや,海外出張もこなす日々
バスケットに熱中しながら,試験の成績も学年6位に
高校時代に知ったアフリカのバオバブの木が人生のテーマに
高校生のとき,朝日新聞の「天声人語」というコラムで,バオバブについての記事を読んだのが,人生の大きな転機になりました。
バオバブは,アフリカなどに生育している樹木です。樹齢1000年以上になると,高さは30メートル,幹の直径は10メートルほどの巨木になります。幹の中心は空洞になっていて,そこに水分を溜めることができるという,とても不思議な木です。
その記事を読んで,バオバブのことがとても気になるようになりました。雨季と乾季の差が激しい環境に適応するために,葉っぱを小さくして水の蒸発を防ぎ,幹に水を溜められるように自分の姿を変えていく。そんな自然の力のすばらしさを実感しました。それをきっかけに,環境問題に関わる勉強や仕事がしたいと考えるようになったんです。
また,高校時代に燃料電池について書かれた記事を目にしたことも,私の人生に大きな影響を与えました。今では車や家庭でよく見かける燃料電池ですが,20年前は知っている人は多くありませんでした。「排気ガスがゼロのクリーンなエネルギー」という燃料電池に興味を持ち,大学でもその研究をしたいと考えるようになったんです。
燃料電池に興味を感じ,大学院生とJAXAの研究員の二足のわらじ
大学では,機械工学を専攻しますが,燃料電池の研究はやっていませんでした。大学院に進んだときに教授の紹介で,宇宙開発をしているJAXAの外部研究員となりました。宇宙空間で燃料電池を使うためにJAXAでも研究を始めることになったからでした。
大学院生とJAXAの研究員の二足のわらじ生活でしたが,ほとんど大学院には行かず,JAXAで研究の毎日でしたね。
大学院修了後は,一般の企業を志望して就職活動をスタートします。燃料電池の基礎研究は学生時代にある程度できたので,今度は燃料電池を人々の生活に役立たせるようなことをやりたかったんです。燃料電池に取り組む会社はいろいろな分野にありましたが,その中のひとつに積水化学工業がありました。住宅に燃料電池を組み込む時代は,今でこそ実現していますが,当時はまだまだ未来の話でした。そういう未来を見すえて,燃料電池に取り組む姿勢に,魅力を感じたのです。
バオバブの木,燃料電池,環境というそれまでの自分の人生で大切にしてきたキーワードが,この会社なら実現できるはずだ,と思いました。
営業で学んだ,人とのコミュニケーション
入社してから7年間は営業として,住宅を建てたい人に家を売る仕事をしていました。社会人になる前は,どちらかというと一人でじっくりと何かをつくったり考えたりするのが好きで,人とのコミュニケーションは苦手でした。そこで,お客様とコミュニケーションが必要な営業の仕事は,自分に足りないものを補って成長していくために,いい経験になると思ったんです。
始めは大変でしたが,知らない人と会話しながら人間関係をつくることに,だんだんやりがいを感じるようになりました。
営業の仕事を始めてから,最初に住宅の購入をしてくれたお客さまが,契約を決めるその日に「有山くんと契約するよ」と言って,クラッカーとケーキでお祝いしてくれたことがありました。それは,本当にうれしかったですね。
バオバブの木とクロスウェーブ
7年間の営業経験のあと,違う立場で環境に取り組む仕事をしてみたい,と考えるようになりました。そんな時に,グループ会社で雨水の対策に取り組んでいる部署があるということを耳にしました。それが,クロスウェーブの製造,販売を行っている今の会社でした。
バオバブの木は,幹の中に水を溜めていると言いましたが,クロスウェーブも同じで水を溜める設備です。自然界がやっていることを人工的に行うことで,環境問題の解決に役立てるという共通点を感じました。高校生から思い描いてきたことに,少しずつ近づいている。そこに,とてもやりがいを感じますね。
クロスウェーブは大雨が降った時などに,川の水が増えてあふれ出てしまわないように,雨水を一時的に溜める水害対策の設備です。これからは,日本はもちろん,海外にもこのシステムを広げていきたいですね。一方で,水不足に苦しんでいる地域や国もあります。溜めた水を水不足に悩む場所に上手に届ける。そんな仕組みづくりにも挑戦していきたいと考えています。
個人的な夢としては,アフリカに行ってバオバブの木を自分の目で見てみたいですね。そして,いつか,クロスウェーブをアフリカでも使ってもらえる日が来たら,本当にうれしいです。
SDGsに直結した仕事に誇りを感じる
住み続けられる,環境にやさしい家やまちづくりをすることは,私たち積水化学グループの大きなテーマです。それはSDGsのゴール11「ずっと住み続けられるまちづくりを」や12「つくる責任つかう責任」,13「気候変動に具体的な対策を」など,多くの目標と密接に関係しています。自分の仕事がSDGsの目標達成に役立っているというのは,働きがいや誇りにもつながっていますね。
今の小学生のみなさんは,学校でSDGsについて学んでいると思います。そんなみなさんが大人になって社会の主役となる10年後は,社会の意識も大きく変わっているはずです。SDGsがどんどん実現しやすい世界になっているのを期待したいですね。
私の学生時代や仕事のキャリアを振り返ると,バオバブや燃料電池など,いろいろな情報に触れてきたことが,大きなターニングポイントになりました。そういうきっかけは,意外なところからやってきたりします。SNSやインターネットでは自分の興味のある分野の情報に偏りがちです。ぜひ,本やテレビ,人など,もっと広い視野でたくさんの情報にふれてみてください。知らなかったことを知ることで,私のように人生や夢が大きく変わるかもしれません。