仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
1996年 生まれ 出身地 愛知県
快歩かいほ
子供の頃の夢: ものをつくる人、絵を描く人
クラブ活動(中学校): なし
仕事内容
とくしゅメイクのじゅつを活用して、見たことのない新しいものを生み出す。
自己紹介
つねに何かおもしろいことや物がないかさがしています。オフの日はえいを見たり、じゅつてんに行ったりしてごしています。植物のぞうけいにもきょうがあり、散歩中におもしろい植物を見つけたら写真をるようにしています。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2025年06月10日)時点のものです

とくしゅメイクのじゅつを使って、まだだれも見たことのないものをつくる

特殊メイクの技術を使って、まだ誰も見たことのないものをつくる

わたしは、とくしゅメイクアーティストとして、とくしゅメイク、とくしゅぞうけい、デザイン、アートディレクションなど、さまざまなひょうげん活動をしています。ジャンルとしてはミュージックビデオや音楽ライブ、えいなどのほか、最近では野外音楽フェス会場のアートディレクションといった仕事もしています。てんにも力を入れています。
とくしゅメイクは、そうしょくほどこした人工的なを顔にけるなどして、じっさいにはそんざいしないキャラクターをつくり上げるじゅつです。顔にきずや血を付けたりするメイクのほか、わかい人の顔を老人の顔にするけメイク、さらに、ようかいちゅうじんといったくうそんざいも、メイクでつくり上げることができます。
こういったじゅつを使ってわたしが目指しているのは、「まだだれも見たことのないものをそうぞうすること」です。とくしゅメイクのじゅつを使って、もっとおもしろいことができるはずだと思って、いつも新しいひょうげんさがしています。おもしろそうだったら何でもやる、というスタンスで、いわゆる「とくしゅメイク」以外にも、めんやかぶり物、人形、しょうせいさくや、イベントのアートディレクションなど、積極的に仕事のはばを広げています。せいさく活動は、3人のスタッフといっしょに、東京のたいとうにあるアトリエで行っています。

らいを受けて行う仕事は、スタッフ全体をとうかつしながら進めることも

依頼を受けて行う仕事は、スタッフ全体を統括しながら進めることも

仕事には、らいを受けて行うものと、自主的に行うものとがあります。らいを受けてする仕事は、最近は音楽関係のものが多いです。ミュージックビデオやライブのとくしゅメイクのほか、えんしゅつで使用するめんせいさくやステージデザインなどもたんとうし、これまでにKing Gnu(キングヌー)やOfficial髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)、きゃりーぱみゅぱみゅといったアーティストの作品にたずさわりました。らいは、アーティスト本人からの場合もあれば、えいぞうせいさく会社やスタッフの方からのこともあります。きゃりーぱみゅぱみゅさんの場合は、本人から夜中にちょくせつわたしらいの電話がかかってくることもあります。
えいの仕事のらいもあります。たけなかなおさんのかんとく作でのとくしゅぞうけいの仕事や、最近では2024年公開の、あさただのぶさんがかんとくされたたんぺんえい『男と鳥』で、しょうとくしゅメイクをたんとうしました。えいのプロデューサーから「不思議なかくで、かいの世界観に合うと思う」と声をかけてもらいました。
こうしたらいを受けて行う仕事の場合、スタッフのキャスティングもふくめてまかされることも多く、スタッフ全体をとうかつしながらチームで仕事を進めることがえています。ヘアメイクやスタイリスト、じゅつたんとうの方たちとチームを組んで相談しながら、ヘアスタイルやしょう、空間デザインなどもふくめて世界観をひょうげんしていきます。

てんかいさいしたことが、新しいりょういきおもしろい仕事につながった

個展を開催したことが、新しい領域の面白い仕事につながった

らいを受けての仕事とへいこうして、てんを行うことも大事にしています。これまでに3回、かいさいしました。とくしゅメイクアーティストとしてメディアに取り上げられることもえ、自分のそうさく活動を以前より多くの人に知ってもらえるようになってきましたが、まだまだわたしのことを知らない人はたくさんいます。てんには、たまたま通りかかった人にも来ていただきたいので、いつも道から会場の中が見えるスペースでかいさいするようにしています。
「LuckyFes(ラッキーフェス)」の仕事も、ふらっとてんに来てくださったプロデューサーの方から、「こういうフェスをかいさいしているのだけれど、会場のアートディレクションをやってみない?」と声をかけてもらったのがきっかけで決まりました。LuckyFesは、2022年から毎年夏に、茨城県ひたちなか市にあるこくえいひたちかいひん公園という広大な会場でかいさいされている野外音楽フェスです。フェス会場のアートディレクションを手がけたことはなかったのですが、とてもおもしろそうだったので、「やりたいです」とそくとうしました。
会場が予想以上に広くておどろきましたが、じょうちょうせんしがいのある仕事でした。去年(2024年)は、「ラッキーモンスター」というオリジナルキャラクターを10種類デザインし、このモンスターをモチーフにしたきょだいバルーンを大草原にせっするほか、モンスターが会場内を練り歩くえんしゅつを試みました。人がって歩きながら動かせる大きな人形などをつくりましたが、顔や体のぞうけいざいの選び方のほか、「本当に生きているかもしれない」と思わせるためのふうじゅつとくしゅメイクがベースになっています。今年のLuckyFesではさらに2種類のモンスターを加えて、より多くのおどろきをていきょうできればと考えています。
てんから新たな分野の仕事につながったこのような体験から、「かいのアトリエは、こんな仕事をしています」としょうかいする場所をつくることで、自分のやりたい仕事がどんどんじつげんしていくという実感を持ちました。これからも積極的にてんかいさいしていきたいと思っています。

デザインを考えるところから始めて、細かく仕上げていく

デザインを考えるところから始めて、細かく仕上げていく

どのような仕事でも、自分のひょうげんしたい世界観をゼロからつくり上げることを大切にしていて、らいを受けて行う仕事の場合も、わたしの作品を見た上で「自由にやっていいよ」と言っていただけることが多いです。たのまれた時点では作品にどのようなキャラクターが出てきて、どのような世界観に仕上げるのかはまだ決まっておらず、わたしがデザイン画をいてていあんすることがほとんどです。
デザインが固まったら、次にとくしゅメイクのじゅんをします。人にとくしゅメイクをする場合は、最初にキャストの顔にシリコンをってかおがたを取り、固まったらそのかおがたせっこうを流しこんで、作業の土台となる顔のぞうを作ります。次に、そのぞうねんを乗せて、キャラクターの顔を細かく作りこんでいきます。顔のちょうこくが完成したら、今度はそのちょうこくと同じ形の人工を作ります。ちょうこく全体のかたを取り、最初に作ったキャストのかおがたと組み合わせ、2つのかたの間にせんようのシリコンやウレタン、りょうなどのざいを流しこんでいきます。これが固まれば人工になります。
その後は、この人工をベースに、キャラクターデザインに沿ってメイクしていきますが、このときにリアルなしつかんを出すためにさまざまなふうをしていきます。例えば、はだの色はきんいつだと、作り物っぽくなってしまいます。ですから、シリコンの上になんそうりょうを重ねて部分的に色ムラを付けたり、あえてよごしたり、メイクでシミやほくろを足したりなどの作業は欠かせません。

客観的なてんをキープすることや、アイデアのストックも大事

客観的な視点をキープすることや、アイデアのストックも大事

作品が完成するまでのていは細かい作業が多いし、よごれるし、重い物も運ぶし、大変なことばかりです。例えば、ねんで顔のパーツを作っているときに思うように進まず、「のうひんまで時間がないのに!」とあせることもあります。また、頭の中のイメージをうまくひょうげんできずに、まよったりすることもあります。
そのようなときにまず試みるのは、とりあえず手を動かし続けることです。そして、ずっと続けても何も変わらないのであれば、いったん作業を中止することも大切です。一回、作品を自分のかいから外してリセットし、時間を置いてからまた向き合うと、「ここを直せばかいけつするじゃん!」と気づくことが多くあるからです。
また、細かい作業に集中しすぎたときや、作業がいい感じに進んで楽しくなりすぎたときにも、一回、作業をやめて全体のバランスを見るようにしています。自分の世界に入りこめば入りこむほどいいかというと、そうではないんですね。やりすぎると全部がゴテゴテになってしまい、「結局、何を見せたいのか」がわからなくなってしまいます。だから、「おもしろいことをやろう」という気持ちと、「客観的に作品と向き合おう」という気持ちを両立させることを心がけています。
おもしろい作品をつくるためには、日ごろからアイデアをストックしておくことも必要です。わたしはいつも「おもしろいな」と思うことがあったら、しきのうちにそれらのイメージを頭のかたすみにインプットするようにしています。また、いそがしい時期でも、気になるてんを見たりえいを見たりといった新たなインプットは欠かさないように心がけています。そのためか、アイデアがかばなくてこまることはほぼありません。

完成した作品を見た人のおどろ姿すがたを見るのが好き

完成した作品を見た人の驚く姿を見るのが好き

仕事をしていていちばんうれしいのは、作品が完成して、人に見てもらったしゅんかんです。例えば、とくしゅメイクが完成して、キャストがメイクルームからげんあらわれたしゅんかんに、みなさんが「すごい!」とリアクションしてくれるのはとてもおもしろいです。また、LuckyFesでは何万人ものお客さんが見てくれて、口々に「わぁ~!」とかんせいを上げていました。もともと、自分のてんを見に来てくれた方からのオファーだったこともあり、「それなら、自分の作品の世界観でつくってもおこられないだろう」という気持ちが強かったのですが、もんを言われないどころかとても好意的なはんのうをいただけて、本当にやってよかったと思いました。
てんでは、子どものはんのうおもしろいですね。子どもからしたら、わたしの作品は「ちょっとこわい」と感じるようですが、おそるおそる近づいてきたのに、気がついたら声を上げながら作品の周りを走り回っている子もいました。その様子がうれしくて、大人には「作品にさわらないで」と言いながらも、子どもには「遊んでいいよ」と言って自由に動き回ってもらいました。また、子どもならではのユニークなてんにもおどろかされました。「なんで、ここはこうなっているの?」と聞かれて、「なんでだろう」と改めて考えさせられたり、紙に落書きを始めた子どもの絵を見て、「この子からは、自分の作品がこんなふうに見えていたんだ」と気づかされたりしました。

とくしゅメイクは「なんでもあり」なじゅつ。もっとおもしろひょうげんちょうせんしたい

特殊メイクは「なんでもあり」な技術。もっと面白い表現に挑戦したい

仕事をする上でしきしているのは、自分ならではのおもしろひょうげんを追求することです。見たことのあるようなものはぜったいにつくりたくないし、アトリエとしてもおもしろそんざいでありたいといつも思っています。また、それをじつげんするためには、自分がやりたいと思う仕事ができるじょうきょうを、自分自身でつくっていく必要があるとも考えています。だから、いくら予算がたくさんあっても、おもしろさを感じなかったらその仕事はやらない、と決めています。つねおもしろい仕事をするために、だんからえいてんを見て発想のはばを広げるようにしたり、「こんなキャラクターがいたらおもしろいな」というラフスケッチを、だれからもたのまれることなくいたりしています。
とくしゅメイクは、「なんでもあり」なじゅつだと思います。例えば、えい『ターミネーター』シリーズに出てくるような、メカがめこまれた顔をつくる場合には、そのメカをつくるのもとくしゅメイクの一部です。いろいろな顔のぞうけいをいろいろなざいためして、いかにリアルに見せるかを追求していたら、顔以外にもさまざまなものがつくれるようになっていました。さらには、「自分がデザインしたげんじつにないキャラクターを、本物のようにひょうげんしてみよう」「空間をとくしゅメイクのじゅつを使ってデザインしてみたらどうなるだろう?」などと、ひょうげんしたいことやひょうげんできることが広がっていったのです。
今ではいっぱんてきとくしゅメイクのわくにとらわれず、着ぐるみやフェス会場のアートディレクションなどにも活動のフィールドが広がっています。これからも、とくしゅメイクのわくえて、おもしろいことにどんどんちょうせんしていきたいと思っています。商店街をげるために街ごと自分の作品でデコレーションしたり、自作のキャラクターで物語をつくってえいったりといったことも、いつかやってみたいな、できたらいいなと思っています。

自分のやりたいことをじつげんするために、あきらめずに作品をつくり続けた

自分のやりたいことを実現するために、諦めずに作品をつくり続けた

とくしゅメイクの仕事をする前は、高校のデザイン科で絵やデザインを学んでいました。高校卒業後の進路にまよっていたころに出会ったのが、ティム・バートンかんとくのホラーコメディえい『ビートルジュース』でした。とくしゅメイクでつくり出されたせいてきなキャラクターたちが生き生きとえがかれたこの作品にりょうされ、「とくしゅメイクっておもしろいかも」と思い、とくしゅメイクのスクールに入学しました。
実は、最初はとくしゅメイクを仕事にしようとは思っていませんでした。しかし、学んでいくうちにどんどんちゅうになっていました。平面でえがいたものやねんでつくったものが、とくしゅメイクのじゅつじっさいに目の前にあらわれて、動き出す。これはおもしろいと思って、気づいたら卒業後にフリーランスとしてとくしゅメイクの仕事をしていました。
当時はえいとくしゅメイクの仕事がメインで、「顔にきずを作ってほしい」といったらいがほとんどでした。あらかじめ決められたひょうげんではなく、自分なりのかいしゃくおもしろさを追求したいと思っていたわたしは、「何かちがうな」と、理想とげんじつのギャップを感じるようになりました。そこで早々に「自分のデザインで仕事をしたい」と考えて、自分の作品ばかりつくるようになります。
仕事はり、アルバイトで生活していましたが、なぜかしょうらいへの不安はありませんでした。「いつかぜったいにうまくいくはずだ」というこんきょのない自信があって、作品をせいさくしてはSNSにとう稿こうする日々を送っていました。そんなある日、とつぜん、ロックバンドKing Gnu(キングヌー)のチームから「ミュージックビデオのとくしゅメイクをお願いしたい」とれんらくがあり、わたしがデザインしたちゅうじんのようなとくしゅメイクを作品で使ってもらえることになったのです。これを機に、いろいろな人から声がかかり、より自由度の高い仕事をまかせてもらえるようになっていき、今にいたります。

みんなと同じでなくてもいい。きょうのあることに熱中した子ども時代

みんなと同じでなくてもいい。興味のあることに熱中した子ども時代

子どものころから、目に見えない世界をもうそうするのが好きでした。小学校入学前に親が買ってきた、みずしげるの『はかろう』というマンガにちゅうになったことをきっかけにようかいきょうを持ち、自分でもいろいろ調べるようになりました。また、絵をいたり、ねんで何かをつくったりするのも好きで、勉強せずにきょうのあることばかりしていました。みんなと同じことをするのが苦手で、はやり物には目もくれず、友達がゲームで遊んでいても「ぜったいにやらないぞ」と思っていました。親からも、「好きなことを、どんどんしなさい」と言われていたので、「別に真面目じゃなくてもいいや」と考えていました。しゅの合う友達もいませんでしたが、だからといって友達がいなかったわけではなく、へだてなくいろいろな人と交流していたように思います。
小学4年生から部活に入ることになって、わたしは金管バンド部に入部しました。「低音がかっこいい」と思って、チューバをたんとうしていました。その部活には当初、女子しかおらず、「なんで男子1人なの?」とからかわれたりしましたが、「おれおもしろいと思っているから、それでいいじゃん」と、気にせずに活動していました。そんなことを続けていたら、入部して1年後くらいに、「男子も入っていいんだ」という空気が急に流れ始めたんです。気づけば、小学6年生のころには男子メンバーもかなりえていました。
学校外では、小学1年生から空手も習っていました。テレビで『ベスト・キッド』というえいを見て、かっこいいと思ったのがきっかけです。空手は、せいかくてきに合ったのだと思います。強いことが全てではない感じがおもしろくて、18さいまで続けました。

失敗してもだいじょうおもしろいことにどんどんチャレンジしてほしい

失敗しても大丈夫!面白いことにどんどんチャレンジしてほしい

わたしつねに、おもしろいことをやったほうがぜったいにいいと思って生きてきました。だからみなさんにも、やりたいことがあったらとことんすすんでほしいと思います。でも、何かにちょうせんするときには、うまくいかずに失敗することもあります。「自分には無理なんじゃないか」と不安になるかもしれませんが、やりたいことをまんするより、やりいたほうがぜったいに楽しいはずです。そして、失敗は決して悪いことではありません。むしろ、早いうちに失敗しておけば、「次にミスしたときには、こうしよう」とたいさくができるようになります。わたしもいまだに、「ミスしたときに考えればいいや」「ぜったいにどうにかなる」という気持ちでチャレンジを続けています。
もしこれを読んでいるあなたがものづくりや絵をくことが好きなら、どんどん作品をつくってみましょう。「きれいにけないから、自分は絵がうまくない」と思う必要は全くありません。自分がいいと思うものをめることが、せいになっていきます。
また、とくしゅメイクにきょうがある人がもしいたら、ぜひちょうせんしてみてください。げんじつてきに考えると、今後、とくしゅメイクはCGにわっていくと言われているので、しょくぎょうにするには不安と感じるかもしれません。でも、わたしは、新しいジャンルをどんどんかいたくしていく気でいるので、「ちょうせんするのをやめよう」と思ったことは一回もありません。きょうを持ってチャレンジすれば、おもしろいことは必ず起こります。だから、とりあえずやってみましょう。この記事を読んで、とくしゅメイクにきょういたり、おもしろいことにちょうせんしてみようかなと思ってくれたりした人がいたら、とてもうれしいです。どんどん、やってみてください!

私のおすすめ本

モーリス・センダック=作/じんぐう てるお=訳
モーリス・センダックは、画集を買うほど大好きな絵本作家です。この絵本は物心ついたころから家にあって、子どものころはかいじゅうの絵をまねして描いたり、大人になってからはキャラクターデザインのヒントにしたりもして、これまでにたくさんの影響を受けてきました。ストーリー展開も素晴らしいと思います。主人公の少年マックスが見た夢なのか、空想なのかわからない、不思議な出来事が次から次へと起こります。自分の寝室から木が生えて、気づいたら森になり、海が現れて、船に乗りこみ、やがて、かいじゅうたちのいるところに到着して……。大人になった今読んでも面白い、心に残る作品です。

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アトリエ
取材・原稿作成:佐藤 理子(Playce)・東京書籍株式会社