仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
1973年 生まれ 出身地 東京都
岡本おかもと まもる
子供の頃の夢: デザイナー
クラブ活動(中学校): 剣道部
仕事内容
きんぞくを加工し、便利で楽しく使えるものを作る。
自己紹介
子どものころから、一度始めたら最後までやりげるせいかくです。オフの日はしゅたいどう八重山やいましゃせん、DIYなどのものづくりをしてごしています。
出身高校
出身大学・専門学校
北里大学 衛生学部 化学科

※このページに書いてある内容は取材日(2022年10月19日)時点のものです

ガスライター作りでつちかったじゅつを、新たなせいひんおうようする

ガスライター作りで培った技術を、新たな製品に応用する

わたしは東京都北区にある「こうえい工業かぶしき会社」の社長をつとめています。こうえい工業は1953年にわたしが始めた会社で、じゅうぎょういんは20名です。めっき(せいひんの表面にきんぞくうすまくかぶせるじゅつのこと)などのきんぞく加工のじゅつを生かし、ライターやめい入れ、ようせいひんなどを作っています。わたしたちの会社は、もともとはガスライターを作る会社としてせつりつされました。会社ができた1953年当時は今よりも多くの人がタバコをっていて、車やうでけいと同じようにライターも高級で良いものを持ちたいと考える人がたくさんいたのです。そのためライターの点火そうから外側のそうしょくまですべてを自社で作った高級ライターを売っていました。 しかし高度けいざい成長期の終わりと同時に高級ライターのじゅようりょうも少なくなり、新たな事業を考える必要がありました。そこで目を付けたのが、1970年代後半から人気を集めたZIPPO社のオイルライター「ジッポーライター」でした。ガスライター作りでつちかっためっき加工のじゅつを生かし、ジッポーライターのそうしょくめっきをけることになったのです。そうしょくめっきとはせいひんの表面に細かなきんぞくようを入れたり、さまざまな色のじゅを使ってがらいたりするじゅつのことを言います。その後も、点火そうじゅつを生かして車のエンジンをつけるそうやアウトドア用のガスコンロを作りました。また、熱をせいぎょするじゅつを生かし、カッターの温度を上げて熱の力でムダ毛を切るヒートカッター作りなどもしてきました。自分たちが持っているきんぞく加工のじゅつおうようし、時代に合った新しいせいひんを生み出し続けているのがこうえい工業の大きなとくちょうです。

社員のせいしんせいひんかくに生かす

社員の個性を新製品の企画に生かす

こうえい工業のものづくりは、かくグループのメンバーがかくを考えるところから始まります。各メンバーが新しいかくを考え、月に一度の打ち合わせにるのです。実はこうえい工業のかくグループは、きんぞくみがいてピカピカとした見た目に仕上げる「けん」や不良品がないかをチェックする「けん」など、生産こうていたんとうしている社員たちでこうせいされています。自分たちにはどんなじゅつがあるのかをよくかいしているからこそ、どういったせいひんなら作ることができるのかをけんとうできるのです。それから、かくグループのメンバーは、ゲームやえいなどそれぞれが好きなものを持っています。わたしは「熱中してめるものがあるのなら、それを生かしてもらいたい」と考えているので、自分のきょうとく分野を生かしたしんせいひんかくしてもらっています。月に一度のペースで集まって話し合いを重ね、「だれに」「何を」売るかを決めたら、次はデザインを考えます。金や銀など数種類あるめっきの中から何を使うのか、どんなそうしょく加工をするのかなどを決めます。デザインが決まったらせいひんを作るのにかかるようが分かるので、そこに会社のえきを加えてはんばいかくせっていします。そしてせいひんあつかってくれそうなメーカーにれんらくし、デザインやはんばいかくせいひんりょくなどを伝えます。メーカーがきょうを持ってくれたら、いただいた意見をまえてデザインをしゅうせいしたり、はんばいかくを下げるための原材料の見直しなどを行ったり、最終的なサンプルをわたしてほんさいようかどうかを決めてもらいます。そしてほんさいようの場合はのうひんを決め、のうひんにあわせて生産をするという流れです。かくからのうひんまでは短いと1か月、長いものは1年くらいかかります。

しん事業をかいたくし、会社が進むべき道を切り開く

新規事業を開拓し、会社が進むべき道を切り開く

社長であるわたしの一番大切な仕事は新しい仕事を生み出すことです。時代とともに人々が必要とするものは変わっていくからこそ、次にこうえい工業が作るべきものをきわめ、会社が進んでいく道を切り開いていかなくてはなりません。ガスライターでつちかったじゅつを車のエンジンをつけるそうやアウトドア用コンロにおうようしてきたように「今持っているじゅつと何かを組み合わせることで新しいものを作れないか」つねに考えています。それから、毎日のようにインターネットを見て「今、何が売れているのか」「これから何が求められるのか」というじょうほうさがしています。 わたしが新しい仕事を生み出すことに力を入れるはいけいには、これまでのけいれきが関係しています。実は学生時代はこうえい工業に入社する気は全くなく、内定をいただいていた印刷会社にしゅうしょくするつもりでした。しかし大学を卒業する直前に、父がけいえいするこうえい工業のけいたんとうの社員が急死してしまい、人手が足りなくなったという理由でしばらくの間会社を手伝うことになったのです。そのためえいぎょうなど決まったやくしょくはなく、人手の足りない仕事をまかされていました。するとだいに「このせいひんを売ってきて」とえいぎょうたんとうのいないしんせいひんわたされることがえてきて、気づけば一人で新しいせいひんのサンプルを作り、むようになりました。全く英語が話せないにもかかわらず、アメリカに行ってげんのメーカーにんだこともあります。そのまましんせいひんを中心にたんとうするようになり、これまでアウトドア事業などのさまざまな新しい分野の仕事を立ち上げてきました。こうしたけいけんが、今の「新しい仕事を生み出して会社をる」という社長としてのかたにつながっていると思います。

日本の大手メーカーもみとめる「みつさ」が強み

日本の大手メーカーも認める「緻密さ」が強み

こうえい工業の強みはみつさです。めっき加工はほぼしょくにんさんの手作業で行っており、高いじゅつりょくによって細かなようひょうげんすることができます。また、ライターやコンロなど本体からけるせいひんはどれもいくつもの細かなパーツが組み合わさってできており、美しい仕上がりになっています。 ただ、こうえい工業の工場はけして広いわけではなく、すべてのせいひんを自社で作ることはできません。時には外部の工場に生産をらいすることもあります。そのため、外部の工場で作ったとしても同じくらいみつな仕上がりになるよう努力しています。例えばよう商品のシェーバーの一部は中国の工場で生産しているものもあります。中国は短期間でたくさんのものを作ることにけていますが、日本にくらべるとていねいに細かなものを作ることは苦手かもしれません。そのため最初にらいをしたときは、ひんしつに対する注文の多さに、少しだけいやな顔をされてしまいました。しかしじくをぶらさずに「みつさはぜったいに守りたい」と伝え続けたところ、なんとか協力してもらえるようになりました。さらにはこうえい工業のせいひんを作っていることを知った日本の大手メーカーから「こんなにひんしつの高いせいひんが作れるなら、うちのせいひんまかせたい」と新たな仕事のらいも入ったそうです。けしてきょうせず、こうえい工業がほこみつさにこだわり続けた結果、短期間でたくさんのものを作ることができるうえ、日本の大手メーカーをりょうするじゅつりょくまで持つ工場へと変わっていきました。

原材料のげは、より良いものづくりでえる

原材料の値上げは、より良いものづくりで乗り越える

今、一番大変なことは原材料のだんが上がっていることです。以前は1グラムあたり約5,000円だった金のだんが、今は約8,000円になっています。とてもこうなものなので、せいひんを作っているちゅうで不良品ができて金のめっきなどがになると、大きなそんしつになってしまいます。 また、原材料のだんが上がったからといって、かんたんはんばいかくを上げることができないのもこの仕事のむずかしい点です。なぜならわたしたちが作っているきんぞくせいのライターやヒートカッターなどのせいひんは、食べるものや着るもののように「毎日使う」「なくてはこまる」ものではないからです。たとえ買わなかったとしても生活にこまることはありません。「だんが上がるなら買わなくていいや」と考える人も少なからずいるでしょう。 そのため、最近は売るものから変えていかなくてはいけないと考えています。たとえはんばいかくが高くても「しい」「必要」だと思ってもらえるせいひんを作るということです。決してかんたんなことではないですが、これからも会社を続けていくために取り組んでいきたいと思っています。

作ったものに満足してもらえることが何よりもうれしい

作ったものに満足してもらえることが何よりもうれしい

わたしがこの仕事をしていて一番よろこびを感じるのは、自分たちのせいひんを使ってもらえることです。そのため、使ってもらっていることやよろこんでもらえていることを自分の目や耳で感じることができると本当にうれしくなります。 以前、とあるモデルしょで「こうえい工業のようせいひんを知っていますか?」とアンケートをじっしました。するとアンケートに参加していたモデルさんのうち1/4の方々が「持ってる!」「ヘビーユーザーです!」と回答してくださり、とてもうれしかったことを覚えています。 また、アウトドアせいひんけていた2、30年前、とあるアウトドアショップの店長さんにせいひんの良さを必死に伝えて、店頭に置いてもらえたことがありました。後日、そのショップが新聞でしょうかいされ、店長がこうえい工業のせいひんしょうかいしていたのですが、そこで話していたないようと、わたしが説明したないようがほとんど同じだったのです。さらには「このせいひんのコンセプト、すごくおもしろいんですよ」とぜっさんしてくれていました。わたしせいひんめたおもいが伝わり、よろこんでもらえていることを実感できた出来事でした。 ものを作って売る会社としては、たくさんの人に買ってもらえるにしたことはありません。でもたとえ売れ行きが良くなかったとしても、どこかに使ってくれている人がいて、「このせいひんいいね!」と言ってもらえたら、それで十分だなと感じます。

数学の勉強を通して、物事の根本をかいする大切さを学んだ

数学の勉強を通して、物事の根本を理解する大切さを学んだ

子どものころは、とにかく絵をくことが大好きでした。家でも学校でもひまさえあれば絵をいていて、小学生のときにはノートを飛び出し、学校のつくえにまで絵をいておこられたこともあります。その一方、勉強はだいきらいで、中学時代の3年間はずっと学年ビリのせいせきでした。見かねた両親が家庭きょうをつけてくれたのですが、その先生との出会いが大きな転機となりました。家庭きょうつとめてくれていたのは、当時こうえい工業につとめていた中国人のだんせいで、中国にいたときは数学の先生をしていたそうです。かれは公式を覚えてひたすら計算式をかせるようなどうではなく、公式の意味や作り方を教えてくれました。そのおかげで、パズルをやっているかのように楽しんで勉強をしていました。すると高校2年生のときには学年でトップ10に入るくらい、勉強がとくになっていたのです。その先生から学んだ「物事の根本をかいする大切さ」は、ものを作ったり売ったりしている今でも生かされていると思います。

せいみとめられる世の中だからこそ、自分の気持ちを大切にしてほしい

個性が認められる世の中だからこそ、自分の気持ちを大切にしてほしい

「日本はものづくり大国だ」ということを聞いたことがある人もいるかもしれません。しかし、今の日本にはしょくにんばれる人の数がどんどんってしまい、身の回りの多くのものを海外からのにゅうひんたよっています。そのため、日本がものづくり大国と言われてもそうは思わない人が多いのではないでしょうか。しかし日本にしかないじゅつはまだまだたくさんあります。わたしはものづくりに対する日本人の熱量の高さは世界でもトップレベルだと考えています。それをぜひ、みなさんに知ってもらえるとうれしいです。 そして、ものづくりが好きならばものを作る仕事、ゲームが好きならゲームのプロ、食べることが好きなら料理人など、好きなことやきょうのあることをぜひ仕事にしてほしいなと思います。一人一人のせいみとめられる世の中だからこそ、自分の気持ちを大切に、やりたいことに向かって積極的にがんってみてください。

ファンすべてを見る

(京都府 小5)
(群馬県 小5)
(東京都 小4)
(山口県 小6)
(宮崎県 中1)
(愛知県 中2)
※ファン登録時の学年を表示しています

私のおすすめ本

エリヤフ・ゴールドラット
製造業の工場所長である主人公が、赤字続きの工場を立て直すビジネス小説です。目的や目標をはっきりさせる大切さを学ぶことができます。会社の机の上に置いて、頻繁に読み返しています。
髙田郁
読書好きの社員やお客さまと本の貸し借りや情報交換をしており、とある社員に髙田郁さんをおすすめされたことをきっかけに読みました。幼いころに両親を水害で亡くした主人公の澪ちゃんが、立派な料理人になっていくストーリーです。主人公の強くあたたかい姿が印象的です。

もっと知りたいこの仕事人

取材・原稿作成:横塚 瑞貴(Playce)・東京書籍株式会社/協力:城北信用金庫