※このページに書いてある内容は取材日(2017年08月29日)時点のものです
高層のビルも作れる建築材料,CLT
私は,岡山県真庭市にある「銘建工業」という会社に所属し,「CLT」という新しい建築材料を作る工場で,工場長をしています。「CLT」は“Cross Laminated Timber”の略で,何枚もの木の板を,木の繊維の方向が「縦・横」と順番になるように重ね,張り合わせて作る大きなパネルのことです。バランスゲームの「ジェンガ」のように,「縦・横」に木を積み重ねて作ります。いま,とても注目されている技術なんです。
CLTはもともと,ヨーロッパで広まった建築材料で,日本でCLTが使われはじめたのは,最近のことです。CLTの特徴は,木材にも関わらず,コンクリートと同じくらい,壊れにくいこと。たとえば,スギの木は,何も加工しなければ,あまり強い木材ではありません。でも,スギを加工してCLTにすれば,高層のビルも建てられるくらい,強度が上がるんです。実際に,既に海外ではCLTとRC(鉄筋コンクリート造)と集成材で18階建てのビルも建てられています。また,みなさんには,「木材は燃えやすい」というイメージがあるかもしれません。でも,何枚もの板を重ねて作るCLTは,とても厚くて,燃えにくいんですよ。
地震にも,火事にも強いので,CLTはとても安全です。さらに,材料は木なので,建物の中に熱を通しにくく,熱を逃がしにくいんです。そのため,CLTで作った建物の中では,夏も冬も,快適に過ごせます。
CLTができるまで
CLTを作るには,まず材料の木の板を「乾燥」させ,次に板を「加工」して板を組み合わせ,板と板をくっつける「圧締」を行います。
まず,製材された木材を乾燥機で乾燥させます。乾燥させた板は,かんながけをして形を整え,品質に応じて,「CLTの表面に使えるきれいな木材」や「表面には使えないが,中身には使える木材」などに仕分けをします。次に,板どうしを繋ぎ合わせて,1本の長い板に加工します。長くなった板を,もう一度かんながけをして形を整え,長い板と短い板にカットします。
続いて圧締です。木の繊維の方向が「縦・横」と順番になるように,交互に,何重にも重ねあわせていきます。重ねあわせる板には,接着剤をつけて,プレス機で1時間ほど押しつけて,固定します。最後に,接着剤が完全に乾くまで,丸1日養生させると,CLTができあがります。
完成したCLTを,お客さまの注文に合わせて加工するのも,私たちの仕事です。たとえば,「窓を取りつける部分を,くり抜いておいてほしい」という注文があったとします。その場合,まずは機械で図面に合わせて形をくり抜き,仕上げの細かい部分の加工と調整は,職人さんがやります。そうやって,注文に合わせてCLTを加工して,出荷するんです。
すべてに気を配る工場長の仕事
私が工場長をしている工場では,私を含めて,約30名の従業員が働いています。その全員を取りまとめるのが,私の仕事です。
私の一日の仕事は,その日に作るCLTの生産量を決めることから始まります。前の日までの生産量をみて,毎日,予定を修正していきます。生産量を決めたら,工場長として,工場の中がいつも安全であるように,管理するのが大切な仕事です。作業現場に顔を出して,機械が問題なく動いているかどうかを点検します。また,働いている従業員の体調に問題はないか,なども確認します。
さらに,工場見学や,お客さんの対応なども,工場長の仕事です。今年(2017年)だけでも,8月までに2000人以上の方が,工場に足を運んでくれました。CLTはこれから発展していく技術です。CLTを普及させるために,多くの方にCLTを知ってもらうことが,いま一番大事な仕事ですね。
これから発展していくCLT
昨年,2016年に,日本の法律で,一般的な建築材料としてCLTを使用することが認められました。私がいま工場長をしているCLT工場ができたのも,2016年。CLTも,私たちの工場も,ようやくスタートラインに立ったばかりです。CLTは,これから世の中に広まっていく,新しい製品であり技術です。今後,よりムダのない製造方法の開発やコストの削減など,クリアしなければいけない技術的な課題がまだたくさんあります。
国産CLTの使用を広めるためには,林業全体で協力していくことが必要だと思っています。今の日本の山には,使用されずに余っているスギがたくさんあります。そうしたスギをCLTに加工して,どんどん有効活用していく。そうすれば林業全体に仕事が増えて,日本の林業も元気になります。余っているスギの木を伐採すれば,山には新しい木が植林できて,整備されずに荒れていた山の環境も整えることもできます。つまり,環境の面でもプラスになるんです。
誰も挑戦したことのない仕事にワクワクする
CLTは,もともと,ヨーロッパで開発された技術です。私たちがCLTを作るようになるまで,日本でCLTを作っている会社は,ひとつもありませんでした。CLTの作り方もわからなかったですし,CLTを使うための法律もなかったんです。ですからヨーロッパに何度も行って,勉強に勉強を重ねてきました。
大変ではありますが,私にとっては,そうした「誰も挑戦したことがない仕事」を担当していることが,とても楽しいです。いまは,ようやく,日本でCLTを使用するための法律もできて,CLTの実用のための準備が整ったところです。私たちの工場の機械も,国内に前例がないので特別に注文して作ったものだったり,新しいことばかりです。でも,自分たちが製造した新しい製品が,これから世の中にどんどん広まっていくことを想像すると,とてもワクワクするので,がんばれるんです。
間違いは許されない
この仕事で絶対にやってはいけないことは,「間違い」をしてしまうことです。製造する品質・規格の間違いは,絶対にあってはいけないし,CLTの加工を間違えるわけにもいきません。なにより,私たちが扱っているのは,鉄などとは違って,木という生き物です。同じ人間が二人といないように,同じ木は二つとないんです。そのため,木材を使えば,まったく一緒の製品を作ることは,絶対にできないんです。そうした繊細な材料を使っていても,安定した品質のものを提供できるように,いつも気を引き締めています。
特に,建物を作るためには,たくさんの人が関わりますし,お金も時間もかかるものです。普通の人にとっては,家を買うのは,一生に一回の,とても大きな買い物になりますよね。そうした大切な買い物のために,私たちの製品が使われていくんです。だから,絶対に,提供する製品に,間違いがあってはいけません。
幼いころから山で遊んでいた
私のうちは,山を持っていました。だから幼いころから山で遊んでいて,山や木が大好きでした。それで,将来は木材に関われるような仕事をしたいと考えていたんです。
高校は,工業高校に通っていたので,林業に関することを学ぶことはできませんでした。また,当時は林業専門の大学や学部・学科が少なかったこともあって,大学に進学することはせず,就職することを決めました。私は地元が大好きで,地元の企業に就職したかったのですが,タイミングよく,職員を募集していた今の会社を見つけて,就職することができました。大学などに通わなかった分,高校を卒業してから,この会社で働いた数年間は,本当に「学んでいる」という感覚でしたね。いろいろ学ばせてくれた会社には感謝しています。
絵に描いたような「田舎の少年」
少年時代は活発で,わんぱくな子どもでした。夏休みは,ほとんど山や川で遊んでいました。川で魚を捕ったり,クワガタを捕ったり,山菜やキノコを採って食べたり,そんなことばかりしていましたね。よく,夜になっても家に帰らなくて,親が山に入ってきて探しにきたりもしました。いつもズボンは泥まみれで,本当に,絵に描いたような「田舎の少年」でしたね。いまになって考えれば,そういった幼いころの体験が,この仕事に生きていると思います。山や木材が,大好きになりましたから。
山は素直なので,人間が手入れをしないと,すぐにダメになってしまいます。山を育てれば育てるほど,山の生態系も豊かになる。本当に奥が深いんです。もちろん,そういったことに気づいたのは,大人になってからです。しかし,幼いころの体験があったからこそ,そういった山の奥深さを,より強く,実感できたのだと思います。
自分の未来は自分で作れる,まずはやってみよう!
自然と触れ合って,山と触れ合って,木材と触れ合ってもらえれば,木材というのは,本当にいろいろなことに使えるのだと,気づけます。燃やせば燃料になりますし,加工すれば建物や家具になるんです。
みなさんに言いたいのは,みなさんも木材みたいに,何にでもなれるんだということです。みなさんの身のまわりには,チャンスがいっぱい転がっています。そういった,山ほどあるチャンスを,自分でつかみ取って,切り開いていってほしい。自分の未来は自分で作れるんです。
そのために,失敗してもいいから,チャンスがあれば,まずはやってみてください。恥ずかしがったり,遠慮したりしないで,自分がパッと前に出てやってみる。そうすれば,「あ,意外と楽しかったな」「案外うまくいったな」と思えるようになります。そうやっていけば,新しい楽しいことが,いくらでも見つかるはずですよ。