※このページに書いてある内容は取材日(2023年11月30日)時点のものです
カフェと花屋を併設したお店で、カフェ店員として働く
私は、東京都渋谷区にある、カフェと花屋が併設された「ローランズ原宿」というお店で働いています。私が業務を担当しているカフェでは、看板メニューのフルーツや野菜を使ったスムージーのほか、パンの上に具材を乗せたオープンサンドやスープ、ドライカレーやタコライスといったメニューを提供しています。
ローランズの特徴の一つは、さまざまな障がいがある人たちがスタッフとして働いているところです。私自身にも「ADHD」という発達障がいがあり、カッとなって怒ってしまいやすかったり、順序良くものごとを進めることが苦手だったりするという特性があります。お店では、こうした自分の特性と向き合い、ほかのスタッフに助けてもらったり協力し合ったりしながら、日々、仕事をしています。
調理前の準備や洗い物など、お店を支える業務を担当
私がカフェで担当しているのは、調理前の準備のほか、料理の盛り付け、お客さまが食事をした後のテーブルの片付けや洗い物といった、バックヤードの仕事がメインです。中でも、スムージーに使うフルーツや野菜の重さを量って、一杯分ずつ袋に取り分けておく「ストック作り」は、大切な業務の一つです。その日のスムージーの売れ行きを見ながら、ストックが余りすぎたり足りなくなったりしないよう、数を考えながら作るようにしています。ほかにも、切り方を覚えた野菜やフルーツを切ったり、お店で提供するドライカレーを温め直したりというふうに、調理の補助を担当することもあります。こうした作業は基本的にほかのスタッフと一緒に行うことが多いですが、お店が忙しいときには一人で行うこともあり、状況によって柔軟に対応しています。
カフェの営業時間は11時半から18時までですが、私はオープン前の10時半から入ったり12時から入ったりと、曜日によって出勤時間や退勤時間が異なります。基本は6時間の勤務で、うち休憩は1時間です。勤務しているのは週に5日間で、今の休みは火曜日と日曜日です。
仕事に決まった順番はなく、お店の混み具合などによって、するべき仕事は変わります。たとえば、午前中に出勤して、まだお店があまり混んでいないときはスムージーのストック作りをしたり、足りない食材の買い出しに行ったりします。基本的に店長や上司から作業の指示はありますが、お店が忙しいときはテーブルの片付けや洗い物を優先するなど、様子を見ながら自分で判断して動くこともあります。
自身の特性とうまく付き合い、工夫をしながら仕事をする
私は障がいの特性で、怒りの感情をコントロールするのが苦手なところがあります。実は障がいがあると診断を受けたのは今から5年前の2018年で、成人してからのことでした。子どものころから短気で、大声で怒鳴ったり暴れたりしてしまいやすかったのですが、歳を重ねてもあまり改善せず、心配した両親のすすめで病院に行った結果、障がいがあることがわかりました。これまでを振り返ると自分でも思い当たることがあったため、診断されたときには「やっぱり」という思いでした。
今は、人前で怒りをコントロールできなくなることはほぼありませんが、小さなことでムッとしてしまうことはあります。しかし仕事を続ける中で、そうした自分の特性ともうまく付き合えるようになってきました。たとえば誰かに話しかけて、相手の反応があまり良くなかったときに、「タイミングが悪かったのかな」「疲れていてあまり機嫌が良くないのかな」などと、相手の気持ちを考えられるようになりました。
また、障がいの特性で、順序良くものごとを進めることも苦手です。作業の途中で、その後にしなくてはいけないことを忘れてしまったり、注意力が続かなかったりすることがあります。たとえば、テーブルを片付けるときには、テーブルの上にあるものを下げるだけでなく、拭いて消毒をしたり、イスを元の位置に戻したりと、いくつもの作業を行わなければなりません。しかし、私はたまに、作業がすべて終わっていないことを忘れて、別の作業に移ってしまうことがあります。後からほかのスタッフに教えてもらって気づくこともありますが、テーブルを片付けるときには、「ものをどかす、拭く、消毒する」をセットで考えるなど、作業を一連の流れで覚えるようにして、自分なりに工夫しながら業務を行っています。
作業がうまくできたときに、やりがいや達成感がある
仕事の中でやりがいを感じるのは、作業が思い通りにできたときや、気を付けたいと思っていたことがうまくできたときです。たとえば、スムージーのストックを作っているときに、野菜やフルーツの分量を正しく量ることができたり、ストックの在庫をちょうどよく調整できたりしたときには大きな達成感があります。また業務の中で、食材を買い出しに行ったときに、頼まれたものを忘れずに買うことができたときもうれしいです。
担当している業務に少しずつ慣れてきて、最近は料理の盛り付けも練習中です。いずれはお店で提供する料理すべての盛り付けをマスターしたいと思っています。今は、休憩時間にスタッフが食べるドライカレーの盛り付けなどをさせてもらって、練習しているところです。見栄えよくルーをかけてトッピングを乗せるのは難しいですが、お客さまに提供する料理の盛り付けも任せてもらえるよう、今後も練習を続けていきます。
忙しいときでも、「あわてず落ち着いて対応」を大切に
仕事をする上で大切にしているのは、常に落ち着いて行動することです。ローランズで仕事を始めたばかりのころは、お店が忙しくなるとつい焦ったり慌てたりしてしまい、ミスをしてしまうこともありました。しかし仕事に慣れてきた今は、たとえば何かに迷ったときも、自分で判断して進めるべきか、上司に確認してから進めるべきかをその場で考え、冷静に行動できるようになりました。障がいのあるスタッフが多く働くローランズでは、お店全体に相談しやすい雰囲気があるので、何か困ったことがあったときには、上司やほかのメンバーと話すように心がけています。また、お店には私のような発達障がいだけでなく、身体障がいや精神障がいなど、さまざまな障がいがある人が働いているので、場の空気を読みながら、相手の状態に配慮してコミュニケーションを取ることも意識しています。
学生時代のボランティアや事業所で働いた経験から、カフェの仕事に興味を持った
私はローランズで働く前は、奈良県にある、「就労継続支援B型」の事業所で仕事をしていました。「就労継続支援B型事業所」というのは、障がいのある人などが、雇用契約を結ばずに障がいや体調などに合わせて自分のペースで働けるところです。そこで担当していたのは、他の業者から請け負った軽作業や、近隣の障がい者施設で出される給食を用意する仕事です。メインは給食の仕事で、テーブルの片付けや配膳などを行っていました。
ローランズで働くきっかけになったのは、父親の古い知人が、「自立した生活を送るためにも、もっとお給料の高いところで働いたらどうか」と提案してくれ、知り合いを通じてローランズの代表を紹介してくれたことです。私がそれまで働いていた就労継続支援B型の事業所は、雇用契約ではなかったため、もらえるのはお小遣い程度の金額でしたが、ローランズは「就労継続支援A型」の事業所で、雇用契約を結び、お給料をもらって働くことができます。紹介してもらった後、オンラインで面談をさせてもらえることになり、実際にお店で実習も受けられることになりました。そのときに、カフェ部門と花屋部門のどちらで働きたいかを聞かれ、私はカフェを選びました。その理由は、事業所で給食の配膳をした経験や、学生時代にカフェでボランティアをした経験があり、カフェの仕事に興味を持っていたことと、ローランズのメニューを見て「おいしそうだな」と惹かれたからでした。実習のときはとても緊張しましたが、お店の雰囲気も良く、働いてみたい気持ちはますます強くなり、ローランズで働くことを決めました。
2022年の春にそれまで住んでいた奈良県を出て働き始め、現在に至ります。今は、奈良県の事業所で働いていたときと比べると自由に使えるお金が増えました。一人暮らしも始めることができ、生活にかかるお金と趣味に使うお金とのバランスを考えるなど、自分でお金の管理をするようになって、生活も大きく変化しました。
オーストラリア留学で多様な考えを持つ人々に出会えた
私は子どものころから好奇心旺盛で、いろいろなことに興味を持つタイプでした。将来なりたい職業も、警察官や板前、タクシーの運転手など、たくさんありました。また、中学時代は主に山登りを行う「野外活動部」に所属していて、身体を動かすことも好きでした。山のふもとにある学校に通っていたので、放課後に山登りをしたり、休みの日には県内の山に行ったり、わりとアクティブに過ごしていたと思います。
しかし昔から、怒りやすかったりする特性もあって、人間関係に悩まされることもありました。仲良くなれる人もいる一方で、自分と相性があまり良くない相手とコミュニケーションを取ることが非常に苦手で、時には言い方を間違えて相手を怒らせてしまい、相手から喧嘩を吹っ掛けられることもありました。そんな中、短大卒業後に、オーストラリアへ留学したことが一つの転機になりました。
留学したきっかけは、進路を迷っていた時期に、父親に相談したら「海外に行ってみたら?」と言われたことでした。行き先には、高校の修学旅行先でなじみのあったオーストラリアを選び、まずは旅行がてら家族で訪れて、通いたい語学学校を現地で探しました。留学を始めたのは、その1か月後くらいからです。途中で帰国したこともありますが、合計3年ほど、オーストラリアで過ごしました。通っていた語学学校には、韓国、フランス、イタリア、スイス、スペイン、ドイツなど、多様なルーツを持つ学生たちがいました。そこで出会った人たちのさまざまな考えに触れ、日本にいたときよりもうまくコミュニケーションを取って仲良くなることができました。この経験は、人間関係を考える上でも大きな経験になったと思います。
配慮してほしいことを素直に伝えることも大切
今、みなさんの中で人間関係に悩んでいる方がいたら、「ふとした瞬間に改善されることもあるよ」と伝えたいです。私自身、苦手だと思っていた人に対して「こんな素敵な一面があったんだ」と思える瞬間が訪れたことが、これまでに何度もありました。人のことを第一印象で決めつけるのではなく、別の角度から見てみたり、自分の捉え方を変えてみたりすることも大切だと思います。
また、何らかの障がいがある方に伝えたいのは、自分の特性や配慮してほしいことを周囲に素直に伝えてほしいということです。「障がいがあるから配慮してほしい」と伝えることは決して甘えではありません。周囲とうまくやっていくために自分から働きかけていくことが、お互いを理解し合うことにもつながると思います。