※このページに書いてある内容は取材日(2025年09月16日)時点のものです
幼稚園は「教育」を目的とする場所
私は東京都足立区にある「足立つばめ幼稚園」で幼稚園教諭(先生)として働いています。幼稚園は、満3歳から小学校に入るまでの子どもたちが通う施設で、私が担当しているのは年中クラスです。保育園との違いは、保育園は保護者の代わりに「保育」を行う施設であるのに対し、幼稚園は小学校就学に向けた「教育」を目的とするところです。それぞれ働くために必要な資格も違いますし、保育園は厚生労働省、幼稚園は文部科学省と、管轄する官庁も違います。また、19時ごろまで子どもを預かる保育園に対して、幼稚園では基本的には14時には子どもが降園します。ただ、最近は両親ともに働いているご家庭が多いことから、幼稚園でも通常の降園時間の後、保護者の仕事が終わるまでお子さんを預かるところが増えています。足立つばめ幼稚園でも、18時半までの「預かり保育」を行っています。2歳児のクラスもありますので、保育園のように利用されているご家庭も多いです。
子どもたちと過ごす日々
出勤は大体8時より少し前です。大体8時半から子どもたちが登園してくるので、朝の支度を手伝ったり、声をかけたりします。9時半過ぎにクラスの全員がそろうので、そこからトイレや手洗いなどをうながし、10時前後から一斉の活動が始まります。出欠を取ったり、その日のお当番を決めたりした後、図画工作などの「製作」やプール、体操などの主活動に入ります。12時から給食の準備が始まり、13時ごろまで給食の時間です。午後は天気がよければ外で、悪ければ室内で子どもたちと遊びます。13時半から帰りの準備が始まり、子どもたちに絵本や紙芝居を読んで、13時45分には子どもたちは降園となります。ただ、通園バスに乗って帰る子と保護者がお迎えに来る子たちの時間がバラバラなので、全員帰るのは大体14時45分です。全員が降園するまでは子どもたちと室内で遊んだりして過ごし、預かり保育の子は昼間とは別の先生が担当しますので、そこで交代になります。
子どもたちが帰った後は、園舎や部屋の掃除をして、その日の日誌を書きます。16時ぐらいに終礼があり、終わったら同じ学年の先生と打ち合わせや準備をして、17時15分に退勤します。
土日祝日と、夏休み、春休み、冬休みなどの長期休みは幼稚園も基本的にはお休みですが、預かり保育を希望するご家庭もあるので、先生たちは交代で出勤します。
子ども同士のトラブルに対応するのも大切な仕事
1年を通してさまざまな行事がありますが、一番忙しくなるのは11月です。というのもお遊戯会が12月にあり、その準備を行わなくてはいけないからです。運動会なども準備は必要ですが、そちらは学年全体で準備を行うのに対し、合唱や踊り、劇などを練習して発表するお遊戯会は、クラス単位で演目を準備、発表することとなります。そのため、その準備をすべて自分1人でやることになります。
主な作業は衣装を作ったり、手につける飾りや頭につける飾りを作ったり、上履きにテープを貼ったりというものです。人数分のしっかりした衣装を作らなくてはいけないので、その準備が一番大変です。
また、園と子ども、保護者の関わり方や、子どもたちのコミュニケーションのしかたが少し以前よりも変化しているように感じています。例えば、なにか思うことがあったり、お友達同士でトラブルなどがあったりしても、その場では言ってくれない子が増えた印象です。家に帰って「今日こんなことがあった」とおうちの方に報告し、保護者の方が幼稚園に相談してきて……ということが増えています。その場で解決するのではなく、後から解決しようとすると、ややこしくなってしまうこともあります。なるべくそうならないように、子どもの様子に日頃から目を配るようにはしています。
子どもたちの成長を見守れる
この仕事のやりがいは、「子どもたちの成長が見える」ところです。年少クラスの幼いときから見ていた子が、年中、年長となり、卒園していくときにはいつもすごく感動します。「こんなことができるようになったんだな」とか「おむつをはいていたのに」とか、そういった成長を近くで感じられるという点で、とても魅力的な仕事だと思っています。
また、普通の仕事よりも、「一年間の流れ」というのを意識することが多い仕事ではないでしょうか。学生のころみたいに長期休みがあり、この季節はこんな感じで、こういう行事があって、というのを、子どもたちに教えながら、自分自身も感じつつ仕事をしていきます。季節の移ろいや自然の変化も身近に感じますし、一年ごとに「今年もやりきった!」という気持ちになれるのもいいところだと思います。
あと、足立つばめ幼稚園の特色としては、開園したのが1967年と、とても長く続いている幼稚園です。そうなると、この園を卒園した子が大人になり、結婚してお子さんができて、今度は自分が通っていた幼稚園にお子さんを通わせる、という方も多いです。また、年長のときに同じクラスだった卒園生同士で結婚して、今、お子さんを通わせている方もいます。そういう再会があるのも、この仕事の魅力ですね。
子どもたちみんなが「今日は楽しかった」で帰れるように
日々心がけているのは、「来たときと同じ状態で子どもを帰す」ということです。これは私が通っていた専修学校で教えられたことなのですが、登園してきた子どもがけがなどをせず、来たときと同じように元気な状態で帰宅できるように、ということです。もちろん、朝なにかがあり泣きながら登園してくる子どももいるので、そういう子は笑顔で帰れるといいですよね。最終的には、みんなが「今日は楽しかったな」という気持ちで帰れるようにしたいなと思っています。
あとは、「正しい言葉」を使うこと、汚い言葉を使わないことを心がけています。流行の言葉などもあまり使わないようにしています。また、「正しいこと」「よくないこと」をきちんと教えることも大切にしています。子どもたちがなにかよくないことや危ないことをしていたとき、軽く「ダメだよ」と流してしまうと、エスカレートしてけがにつながることもあります。悪いことをしたときは「ダメだよ」と、その都度きちんと教えるようにしています。
幼稚園の楽しい思い出が「幼稚園の先生になりたい」に
この仕事を選んだ理由は、私自身もかつて幼稚園に通っていて、幼稚園が大好きだったという記憶からです。泣きながら登園してくる子どもがいるのが不思議なくらい、幼稚園がとにかく楽しくて、熱が出て親から「今日は幼稚園には行けない」と言われたら、泣いて「行きたい!」と言うくらいに好きでした。また、自分が子どものころから小さい子どもや赤ちゃんがとても好きだったというのも理由となり、小学校低学年のころからずっと「大きくなったら幼稚園の先生になろう」と思っていました。
私は高校卒業後、幼稚園教諭と保育士の免許を取得できる専修学校に入学しましたが、幼稚園で働くには「幼稚園教諭免許状」が必要となります。この資格取得のためには大学や短大、専門学校などの決められたコースに通い、卒業と同時に免許を取得するという方法が一般的です。また、保育士免許を持っていれば、実務経験を積んだ後に幼稚園教員資格認定試験を受験するという方法もあります。私の通っていた学校もそうでしたが、保育士資格と幼稚園教諭の免許を同時に取得できる学校も多いようです。短大や専門学校では2年間で資格が取得できます。
学校卒業後に足立つばめ幼稚園に就職しましたが、実は学生時代に実習でお世話になったのがこの幼稚園でした。そのときに園の雰囲気や先生同士の空気感がとてもよく、「こんな場所で働きたいな」と思い、ちょうど採用の募集が出ていたので応募し、働くことになりました。
資格取得に役立ったピアノのスキル
私は幼稚園が大好きな子どもでしたが、実は小学校はあまり好きではありませんでした。というのも、給食が苦手で、特に牛乳が飲めず、それが理由で「学校に行きたくない」と思うことが多かったからです。しかし友達もいて、給食以外は楽しいことが多かったので、毎日きちんと通ってはいました。教科では体育や音楽の授業が好きで、座って授業を受けるよりも体を動かしていたいタイプでした。幼稚園の先生は子どもたちの前で歌ったり、体を動かしたりすることも多いので、今の仕事は合っているのではと思います。
小学4年生から中学2年生くらいまでピアノを習っていたのですが、これはそのとき既に「将来は幼稚園の先生になりたい」と思っていたからです。保育士や幼稚園の先生はピアノを弾くスキルが必要になることが多く、幼稚園教諭や保育士を養成する多くの学校の授業ではピアノのカリキュラムがあります。小さいころから習っていた人と、大人になってから授業で習う人ではどうしても差がつきます。もしも幼稚園の先生や保育士を目指すのであれば、ピアノのスキルは役に立ちますよ。
失敗を恐れず、どんなことでも楽しんでほしい
幼稚園で子どもたちと日々接していると、自分の気持ちがうまく言えなかったり、引っ込み思案だったりする子が以前より増えてきたかな、と感じます。また、自分から積極的に動く子どももいますが、「誰かにやってほしい」という子どももいて、なんとなく後者の子が増えているように思います。おそらく、その理由は「失敗を恐れていること」ではないでしょうか。今これを読んでいるみなさんには、失敗を恐れず、いろいろなことに積極的にチャレンジしてほしいです。また、行事やイベントごとなどにも恥ずかしがらずに参加して、楽しんで取り組んでほしいなと思います。
また、「幼稚園の先生になりたい」という人がいたらお伝えしたいのは、幼稚園の先生は「人と関わる仕事」であるということです。子どもや保護者など、いろいろな人と日々関わることになります。若いときからなるべくいろいろな人と関わり、自分を表現できるようになっておくといいと思います。










