※このページに書いてある内容は取材日(2020年10月13日)時点のものです
金属の板やパイプを切ったりつなげたりして,さまざまなものを作る
私は東京都荒川区にある「株式会社 四釜製作所」で社長を務めています。四釜製作所は金属の板やパイプを切ったり,曲げたり,熱を加えてつなげたりして,さまざまなものを作る会社です。作っているものは,ショッピングセンターや百貨店などにあるお店の看板や商品を並べる棚,階段の手すり,窓枠などです。お店の中にあって金属でできているものならば,ほとんど作ることができる会社です。また,お店以外にも,学校,図書館,空港,オフィスなどの中に設置するものを作ることもあります。
会社は1966年に私の父が創業し,現在は,14人の社員が働いています。私は他社で11年間,設計関係の仕事をした後,父の跡を継ぐために入社しました。
四釜製作所の仕事は,主に,お店全体のレイアウトを担当する設計事務所から,お店に置く金属品物の注文を受けることから始まります。まず金属品物のおおまかな設計図を基に,実際に品物を製作するための細かい寸法まで正確に記載した製作図を作成します。製作にあたっては,一人の職人が一つの品物を最初から最後まで責任を持って作り上げていくスタイルです。金属を切る,磨く,穴を開ける,曲げる,つなげるといったさまざまな技術を使い,品物を完成させます。その後,完成品を発送して仕事が完了することもありますし,お客さまからの要望があれば,お店での取り付け工事まで行います。
最近は,少し視点を変えて,新しい仕事にも挑戦しています。例えば,建物を補強するための鉄骨を組む仕事などです。そのほかに,金属食器や流し台,スチールドアの製作などにもチャレンジしています。「四釜製作所で何ができるか」を考え,仕事の幅を広げていきたいと考えています。
腕のいい職人になるには10年かかる
金属を加工する技術は一日や二日で身につくものではありません。新人の職人には,まずは先輩の職人が説明してやって見せて,その後,自分でやらせてみる,という流れで,簡単な作業から少しずつ覚えてもらいます。最初は,錆びないようにパイプについている油をきれいに拭き取る作業を通じて,さまざまな金属材料を覚えるところからスタートし,次にパイプを切断する作業を繰り返しやって,決められた寸法通りに切れるようになっていきます。続いて,尖った切断面でケガをしないように切断面を丸くする,「バリ取り」という作業,その次は,金属の板に穴を開ける作業……というふうに続いていきます。そうやって,少しずつできることを増やしていくのですが,一通りの作業ができるようになるまでに1,2年,腕のいい職人になるまでには10年くらいかかります。
営業の社員も,職人と同じように,最初は単純な形のものから担当します。簡単な製作図の読み方から学び,製作にかかる費用をまとめた見積もりを作れるようになったら,少しずつ複雑な形のものも担当できるようになっていきます。
社長の一番大切な役割は,新しいお客さまを見つけてくること
四釜製作所の一日は朝9時の朝礼から始まります。職人はそれぞれ製作を始め,12時から1時間の昼休みを取り,午後も作業を行います。15時から15分間のおやつ休憩をはさみ,18時に作業を終えます。営業の社員は,設計事務所と打ち合わせをしたり,見積もりを作ったり,協力会社である金属の材料会社や塗装会社,メッキ会社や運送会社への手配をしたりしています。
私は新しいお客さまを見つけるために,営業に出ていることが多いです。新しい仕事を受注してくることは,社長として一番大事な役割だと考えています。新しく受けた仕事がうまく進むようになったら,他の営業担当者に任せて,また新たなお客さまを探してきます。
また,社員が気持ちよく働くことができるように,社内環境を整えることも大切です。働く中で困っていることがないか話を聞くなど,社員と向き合う時間を持つようにしています。さらに,「10年後,どんな会社になっていたいか」「その目標を実現するためには,1年後までに何をすればいいか」ということを考え,これからの会社の進むべき方向性を決めるのも,私の重要な仕事だと感じています。
苦労するのは,お客さまの頭の中にあるイメージを形にすること
私が仕事をする中で最も苦労するのは,お客さまがどんなものを作りたいのかがわからないときです。お客さまも初めて作るため,どんなものを作りたいのかをうまく説明できないことがあるのです。そんなときは,設計事務所とお店を作るお客さまとの打ち合わせに私も参加し,「こんなイメージはどうですか?」「こういう形はどうですか?」などと提案をして,お客さまの頭の中にあるイメージを形にしていくのです。
もうひとつ苦労しているのが,仕事の依頼を受けてから,品物を完成させて納品するまでの期間が短いケースです。ショッピングセンターなどにお店を出す場合,お店は工事中も家賃を支払わなければならないため,工事期間はできるだけ短く設定します。そのため,どうしても品物の製作期間も短くなってしまうのです。そのうえ,製作途中で変更があったりすると,職人の負担が大きくなってしまうので,そういうときは彼らへの責任を感じますし,本当に申し訳ない気持ちになります。だからこそ,最初の打ち合わせの段階で,お客さまの頭の中にあるイメージをしっかり形にして,スピーディーに進めることが大切だと考えています。
一点ものを作り上げる,やりがいのある仕事
四釜製作所で作る品物の多くは,同じものが二つとない,一点ものであるという特徴があります。誰も作ったことがないものを作るのは,もちろん難しいことではあるのですが,そこに仕事の面白さや,やりがいがあると感じています。特殊な形の品物や,作るのに苦労した品物であればあるほど,完成したときの喜びは大きいものです。
オープンしたお店を訪問して,四釜製作所で製作した品物が店内を彩っているのを見たときや,お客さまに「四釜さんに頼んでよかった」と言ってもらえたときも,この仕事をしていてよかったと思います。そして,お店作りをお手伝いしたお客さまがだんだん店舗数を増やして全国に出店していき,テレビCMでもよく見るようになり有名になっていくときなど,お客さまが成長していく姿を見ることができたときも,うれしく思います。
働く環境をよりよくするため,第二工場を新設
社員たちは,限りある人生の多くの時間を使う覚悟を持って,四釜製作所に入社してきてくれているはずです。だからこそ,社長として,その覚悟に応える必要があります。より働きやすい環境にするために,昨年,第二工場を新設しました。天井が8mと高いので,信号機ぐらいの大きな品物もつり上げることができ,作業効率もよくなりました。
職人は毎日,当たり前のように作業していますが,その技術力の高さは素晴らしいものです。お客さまが見学に訪れた際には,職人の技を見た方から「すごい!」と歓声が上がります。自分たちの技術力の高さを自覚し,誇りを持って仕事をしてもらうことは,仕事のやりがいにもつながります。この第二工場では,職人の技術力の高さを象徴するモニュメントのようなものを作る試みにも挑戦してみたいと考えています。
そしてもうひとつ,地域の他の工場とのつながりも大切にしたいと考えています。会社のある荒川区は昔から町工場が多く,ものづくりの町だったのですが,近隣の町工場もだんだん減ってきてしまいました。しかしまだまだ金属加工工場やプラスチック工場,木工工場など,さまざまな町工場があります。お互いに仕事を依頼,紹介しあうなど連携することで,地域を元気にしたいと思っています。
みんなでひとつのものを作り上げる楽しさを知った中学時代
子どものころの私は,野球と水泳をやっていて,特に野球に一生懸命でした。小学校低学年のときは,思っていることが言えない消極的な性格だったのですが,野球で少しずつ実力をつけるとともに,自信もついて,積極的な性格になっていきました。身長も小学校を卒業するころには170㎝あり,大きいほうでした。学校から帰ると「ただいま!いってきます!」とカバンを放り投げて,よく遊びにも出かけました。木登りが好きで,木から木へ飛び移ったり,友達と川へ行ったり,自転車で遠くまで行って帰れなくなったり,少しやんちゃな遊びをしていましたね。
中学に入ると野球部や生徒会の活動で忙しくなり,家に帰るのは暗くなってからでした。生徒会も,はじめは嫌々やっていたのですが,だんだんみんなでひとつのものを作り上げる楽しさがわかるようになって,体育祭や文化祭の実行委員なども一生懸命やっていましたね。このころの経験があるから,みんなで協力してひとつのものを作り上げる,設計関係の仕事に進んだのかもしれません。
勉強はぜいたくであることを知ってほしい
私からみなさんに伝えたいのは,まず,仲間を大切にしてほしいということ。そうすれば,一生,付き合える友達は必ずできます。また,いろいろな場所に行って,多くのものを見て,触れるようにしてください。実際に自分の目で見て経験したことが,どんなことにも臨機応変に対応する能力を伸ばし,将来,仕事をするうえでも役に立つと思います。
もうひとつ,大人になって思うのは,「勉強はぜいたくだ」ということです。私が今から勉強しようと思うと,学費もたくさんかかりますし,自由に使える時間も多くありません。子どものころは勉強が嫌いでしたが,将来の役に立つ勉強をすることができるのは,とても貴重な時間だったと思うのです。学生のころの勉強は大人になったら簡単にはできない,ぜいたくな時間であることは知っておいてほしいと思います。