仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
出身地 岩手県
名久井なくい 直子なおこ
子供の頃の夢: 数学者
クラブ活動(中学校): 美術部
仕事内容
本という物質(ぶっしつ)のデザインをする,形を作る。
自己紹介
趣味(しゅみ)は,世界中のソフトクリームの立体看板(かんばん)の写真を集めること,(ねこ)と遊ぶこと,散歩です。昔から,がまん強い性格(せいかく)です。

※このページに書いてある内容は取材日(2017年04月20日)時点のものです

表紙や本文のデザインを決めて,本の形を作る

表紙や本文のデザインを決めて,本の形を作る

(わたし)の仕事は,本の「形」をデザインすることです。本屋さんに(なら)んでいる本には,題名や著者名(ちょしゃめい),絵や写真がついていますが,どんな絵や写真を使うか,題名の字の大きさをどれくらいにして,文字の形(書体)はどうするか,どこに置いたらいいか,などを考えるのが(わたし)の仕事です。他にも,本のカバーにはどんな素材(そざい)の何色の紙を使うか,ページを開いた中(本文)の紙はどれを使うか,1行を何文字にして,1ページを何行にするか……といったことを決めていきます。
(わたし)は小説の本をデザインすることが多いのですが,著者(ちょしゃ)が書き上げた原稿(げんこう)を,読者が手にできる本の形にしていきます。その本に着せる服をデザインする仕事とも言えますね。著者(ちょしゃ)の書いた原稿(げんこう)には,どんな服が似合(にあ)うのか,どんな服を着せれば,たくさんの読者が買ってくれるのかを考えて,デザインをします。

依頼(いらい)から2か月ほどで,本が形になる

依頼から2か月ほどで,本が形になる

仕事の依頼(いらい)通常(つうじょう)出版者(しゅっぱんしゃ)編集者(へんしゅうしゃ)から来ます。依頼(いらい)が来ると,本になる前の原稿(げんこう)簡単(かんたん)に印刷した「ゲラ刷り」を読みます。イメージができたら,本文の文字の(なら)べ方を決め,外側の表紙は写真か絵か,模様(もよう)や文字だけにするか,(だれ)(たの)むか,新たに撮影(さつえい)したり()いたりしてもらうかなど,編集者(へんしゅうしゃ)と相談しながら決めていきます。例えば,イラストレーターにイラストを(たの)むときは,「ここに吸血鬼(きゅうけつき)のマークを入れて」などと具体的にお願いする場合もありますし,「体に入っても(いた)くなさそうな模様(もよう)にしてほしい」など,イメージを伝えて()いてもらう場合もあります。
1ヶ月後くらいに写真や絵ができあがってきたら,タイトル文字をどこに置くか,どんな紙にするか,ツルツルの加工にするか,カバーの下の方についている帯の色や紙はどれにするか,しおりを何色にするかなどを選んで,指示(しじ)をしたものを編集者(へんしゅうしゃ)(わた)します。この作業が1週間くらいですね。
データを印刷所に入れてからだいたい1週間後に,カバーや本文などを試しに刷った「色校正」が印刷所から上がってくるので,自分が指定した通りになっているかチェックし,修正(しゅうせい)指示(しじ)を出します。次の週にもう一度来たものを見て,直っているかを確認(かくにん)します。さらに1週間ほどで本ができ上がります。ですから依頼(いらい)されてから,だいたい2か月くらいで1(さつ)の本が終わる感じです。この作業を10(さつ)くらい同時並行(へいこう)していて,表紙カバーだけを手がける本なども(ふく)めると,1年に100(さつ)くらいを手がけています。

時間をかけて書かれたものを,丁寧(ていねい)に仕上げる

時間をかけて書かれたものを,丁寧に仕上げる

出版社(しゅっぱんしゃ)装幀(そうてい)(ブックデザイン)部門や,デザイン事務(じむ)所に(つと)めるブックデザイナーもいますが,(わたし)はフリーランスで仕事をしています。だいたい朝10時から働いて,途中(とちゅう)で食事はしますが,手を動かす作業は夜のほうが集中できるので,12時くらいまで仕事をします。昼間は打ち合せが入ることが多いですね。
仕事をするうえで,あまり苦労は感じませんが,私以外(わたしいがい)の人が書いた本なので,そういう意味で緊張(きんちょう)はします。著者(ちょしゃ)原稿(げんこう)を書き上げるまでには,たくさんの時間や手間がかかっています。加えて、読者に手に取ってもらうものですからね。お料理でも,他の人に食べてもらうときは気を(つか)いますよね。あと,納期(のうき)は必ず守るようにしています。ブックデザインは本を作るうえでの最終段階(だんかい)なので,とにかく(おく)れることは(ゆる)されないのです。

「おおっ!」と楽しめるタイミングが,たくさんある

「おおっ!」と楽しめるタイミングが,たくさんある

(わたし)がデザインするために読む「ゲラ刷り」は,書いたご本人のほかは,世界じゅうで編集者(へんしゅうしゃ)(わたし)しか読んでいないもの。まだ(だれ)も知らないものを,最初に読める喜びがまずあります。また,表紙用に依頼(いらい)したイラストや写真の現物(げんぶつ)を最初に見るときも,「おおっ!」という感じです。しかも,その絵や写真は,(わたし)がいいなと思う人に(たの)んだわけですから,よけいにうれしい。画家や写真家,イラストレーターなど,いろいろな方に会えるのも,楽しみです。予算が(ゆる)せば,その本のためだけに特別な和紙をすいてもらったり,表紙に金箔(きんぱく)をつけたり,職人(しょくにん)さんの(わざ)を生かせるのも喜びです。
そして本ができあがった時,自分が考えていたことが立体的にまとまったのを目にするのも,「おおっ!」と思う瞬間(しゅんかん)です。やがて,デザインした本が本屋さんに(なら)んでいるのを見ると,「がんばれ!」と思います。自分が関わった本が売れると,その本を生み出すチームに自分が入れたことがうれしくなります。このように,楽しむタイミング,やりがいが複数(ふくすう)あるのはこの仕事の魅力(みりょく)です。

二度,味わえるデザインを

二度,味わえるデザインを

著者(ちょしゃ)が書いたものの雰囲気(ふんいき)裏切(うらぎ)らないようにするのは当然ですが,それ以外に(わたし)が目指していることが二つあります。一つは,本屋さんでは「買って!」と目立つけれど,家ではソファやテーブルの上にすっとなじむような本を作りたいということ。もう一つは,読む前と読んだ後で,二度味わえるようにしたいんです。例えば表紙の絵や写真を,読み終わってから改めて見てみると,「あ,そういうことか」とわかって,読む前の印象や見え方と変わるといいな,と思ってデザインしています。
この仕事は,作家が書いたものを未来に残すためのお手伝いだと思っています。例えば,夏目漱石(そうせき)の『(ぼっ)ちゃん』は,これまで,色々(いろいろ)なブックデザインで本が出ていますよね。読まれ続けるためには,時代に合わせて,その都度その都度,服を着がえていく必要があります。初めて本になるものをデザインするのは,バケツリレーの最初の一人のような感じで,責任(せきにん)重大です。ここから未来に残っていけばいいなと,いつも思っています。

会社で働きながらブックデザイナーに

会社で働きながらブックデザイナーに

小学校の時,うちに『昭和文学全集』という本があって,美しいと思いました。それが初めて本を「きれいだな」と思った瞬間(しゅんかん)で,菊池(きくち)信義(のぶよし)さんの装幀(そうてい)でした。また,中学2年生の時,吉田(よしだ)戦車(せんしゃ)さんの『伝染(うつ)るんです。』というマンガの装幀(そうてい)を見て衝撃(しょうげき)を受けました。ブックデザインが内容(ないよう)に食いこむようなデザインだったんです。祖父江(そぶえ)(しん)さんというブックデザイナーが手がけたものでした。
高校生の時は数学者になりたくて,それには一度,美術(びじゅつ)大学に行った方が良い思考ができると考えて,東京の美大に進学しました。卒業後,たまたま受けた外資系(がいしけい)の広告代理店に就職(しゅうしょく)して5年が()ったころ,友だちの歌人が本を作るから手伝ってと言われ,ブックデザインのことは何も知りませんでしたが,本を読みながら独学(どくがく)で本を作りました。2003年のことで,これが初めてのブックデザインの仕事です。その本を見た出版社(しゅっぱんしゃ)編集者(へんしゅうしゃ)から依頼(いらい)が来たのがきっかけで,仕事を受けるようになりました。
しばらくは会社での仕事と並行(へいこう)してブックデザインの仕事もしていました。会社の仕事が終わった夜中や休日にデザインをしていましたが,そんな生活を2年ほどした後に,「この仕事でやっていきたい」と思うようになり,会社を辞めて独立(どくりつ)し,今に(いた)っています。

ものづくりと本は,ずっと好きだった

ものづくりと本は,ずっと好きだった

小学2,3年生の(ころ)に作ったミニチュアのカバンがあるのですが,中に,化粧(けしょう)セット,裁縫(さいほう)セットなど色々(いろいろ)入っています。口紅(くちべに)はキャップが開くし,色鉛筆(いろえんぴつ)爪楊枝(つまようじ)の先に色を()って作ってあり,お財布(さいふ)には郵便局(ゆうびんきょく)のキャッシュカードやパン屋さんのポイントカードも入っています。本にはしおりも付いています。これは(わたし)の初めてのブックデザインですね。遊びに真剣(しんけん)で,ものを作るのが好きな子どもでした。
本の思い出としては,(おさな)いころ,家には『昭和文学全集』以外に電話帳と母の冠婚(かんこん)葬祭(そうさい)ブックくらいしかなくて,小学生ながら,結婚式(けっこんしき)のマナーに(くわ)しくなりました。また,中学生になると,デザインやイラストに興味(きょうみ)を持ち,小遣(こづか)いで専門誌(せんもんし)を買っていました。高校生のときには古文と漢文も好きになり,授業(じゅぎょう)をサボって屋上で本を読んでいたりしたこともありましたね。

自分の好きなことをどんどん好きになろう

自分の好きなことをどんどん好きになろう

自分の好きなことに対して,とっても好きになって,どんどん好きになってください。何か好きなことを見つけたら,より知っていくと,さらに世界が広がっていくと思います。
本は,別に読まなくてもいいものですが,インターネットや,まわりの大人からは得られない,誠実(せいじつ)な答えが本の中にある場合も多いと思います。自分が(さが)せば(さが)すほど,こたえてくれる世界が,本にはあります。ブックデザイナーとしては,本の形や表紙も楽しんでみてほしいですね。物質(ぶっしつ)としての本をよく見ると,意外な発見があるかもしれませんよ。

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私のおすすめ本

谷川 俊太郎
私がブックデザインを手がけた本です。この本のためだけにすいてもらった,珍しい水色の和紙を使いました。谷川さんの詩は,読む年齢によって,いろんな捉え方ができるので,いま読んでおいて,大人になってから読むと,二回楽しめます。
川上 未映子
この本も私がデザインを担当しました。川上さんは芥川賞作家で,大人向けの小説を書いていますが,この本は子どもが主人公です。私は大人になってから読みましたが,子どもの頃に読みたかった本ベスト1なので,おすすめします。
取材・原稿作成:東京書籍株式会社