※このページに書いてある内容は取材日(2020年03月10日)時点のものです
製品のブランドをつくり育てる
私は飲料メーカーのキリンビバレッジ株式会社で,「キリン 午後の紅茶」(以下,午後の紅茶)という商品の「ブランド」を育てるブランドマネージャーという仕事をしています。
ブランドとはなんでしょうか? ブランドとは,お客さまの心の中にその商品の価値や特徴が深く根づいているものだと,私は考えています。「午後の紅茶」は多くの人が,それぞれの中で「こういう見た目で,こういう味がして,こういう気分になれる飲み物だ」とイメージできると思います。同じ紅茶でも,名前やブランドがない紅茶には,そのような共通したイメージはありません。多くの人がその商品の名前やイメージを知っていて,どういうものか理解していること,それが「ブランド」といえると思います。
ブランドマネージャーは小さな会社の社長のような存在
ブランドを育てるというのは,より多くの人にブランドの存在意義や価値を知ってもらい,愛されるようにすることです。そして,「午後の紅茶」をより多くの人に買ってもらうようにすることです。
私はブランドマネージャーとして「午後の紅茶」のブランドを育てていますが,その仕事内容は一つの会社の社長のようなイメージです。私は,「午後の紅茶株式会社」の社長という感覚で,「午後の紅茶」シリーズをつくることから販売することまでのすべてに責任をもっています。
お客さまが期待する,「午後の紅茶はこうだといいな」と思っていることよりも,もっと良いものを提案することで,「午後の紅茶」のファンを,より増やすことができます。そのために,紅茶のおいしさや香りのよさ,パッケージのデザインや広告など,現在発売しているものよりも,もっと良いものにできるよう,毎日,頑張っています。
多くの人と協力して新商品を生み出す
ブランドマネージャーとしての仕事はとても幅広い分野に渡ります。例えば,新しい商品を発売するときを例に説明してみましょう。
新商品をつくるときは,まず「市場やお客様調査」をして,どんな商品なら売れそうか,たくさんのデータを見ながら新しい商品のコンセプトを考えます。コンセプトが決まったら,商品開発チームと紅茶の味をつくったり,デザインチームとパッケージのデザインを検討したりします。そこでも,どんな味がいいのか,パッケージはどんなデザインがお客さまにとって魅力的かを調査して,その結果を商品づくりに生かしていきます。味とパッケージデザインが完成したら,実際に工場で生産できるか生産チームと相談し,お客さまに届ける商品をつくります。
たくさんの人に商品を届けるために
商品が完成したら,お店で「午後の紅茶」を売ってもらうための戦略を営業チームと一緒に考えます。
紅茶,コーヒー,炭酸飲料などのソフトドリンクは,販売されている種類も多く,新商品も次々と登場します。
どうやってお店の棚に商品を並べてもらうか,そして,棚の中でもより目立つ場所に置いてもらえるかが,商品をお客さまに選んでもらう大切なポイントです。
また,たくさんの人に,新商品を知ってもらうために,テレビやウェブ広告,SNSを使ってクチコミを広めたり,ときにはメディア向けに記者発表会を開いたりもします。
そして,発売された後は,計画通りに商品が売れているか細かくチェックして,問題があればそれを解決して,売上の目標を達成できるようにしていきます。
ブランドのすべてを管理する,充実した毎日
私のチームは現在10人で,それぞれが「午後の紅茶」シリーズの担当商品を持っています。私はブランドマネージャーとして,担当者とやり取りしながら,ブランド全体を管理しています。
社内での打ち合わせや,会社の経営陣に向けたプレゼンテーションなどに加えて,広告代理店など社外の人とのやりとりも多くあります。
1つの商品を世の中に出すまでに,長い年月かけて,社内外の多くの人達と協力しながら,一歩ずつ前に進めていきます。毎日,複数のプロジェクトを進めているので,忙しいですが,充実感もすごく感じています。特に,お客様のSNSの投稿や,街で偶然「午後の紅茶」を持っている人を見かけると,ものすごく嬉しく,そして幸せな気分になります。
正解がないからこそ,最大限の努力をする
「午後の紅茶」は発売から30年以上も続く,会社を代表するブランドです。これまで多くのブランドマネージャーがたくさんの努力を続け,そして多くのお客さまに愛され続けていることが分かるからこそ,その偉大なブランドを担当することに,プレッシャーを感じる時もあります。ですが,同時に,それを上回る大きなやりがいを感じています。
ブランドを育てていく私の仕事には,「こうすればブランドが育って,必ず売れる!」という絶対的な正解がありません。「午後の紅茶」のブランドを担当した1年目は,売上を思ったように伸ばすことができず,責任を感じて落ち込みました。しかし,次の年は絶対に良い結果を残そうと気持ちを切り替え,社内外の多くの人たちと一緒に努力を積み重ねた結果,過去最高の売上を達成することができました。それまでの努力が結果につながり,とてもとてもうれしかったです。
「午後の紅茶」は,みなさんから長い間,愛され続けてきたブランドです。もっと多くの人に飲んでもらえるようになるためにも,これからも明るく前向きに,自分ができる最大限の努力を重ね,責任感を持って頑張っていこう,といつも考えています。
同じ失敗を繰り返さないことが大事
人生の分岐点で,一歩踏み出す勇気を
将来,どんな仕事につきたいのか,どんな人生を歩みたいのか。そういうことを考えるとき,「一歩踏み出す勇気」が必要なときもあります。私は,高校2年生のとき,父親の仕事の関係で中国のインターナショナルスクールに転校したのが,人生の分岐点でした。
日本に残って,仲の良い友人たちと楽しい高校生活を過ごして,そのまま日本の大学に進学するか,それとも,中国という全く違う環境で生活をするのか。その先の大学進学をどうするかも含めて,とても悩みました。
そんなときに背中を押してくれたのが,当時通っていた高校の先生の言葉です。「今,このタイミングで中国のインターナショナルスクールに通うということは,誰もができる経験ではないから,ぜひ,行ってみたら」と。その言葉に勇気をもらって,転校を決意しました。
後から振り返ると,あのとき中国に行って,新しい世界を知ったことがその後の人生を大きく変えたと思います。アメリカの大学に進むことになったのも,大好きなマーケティングの仕事ができていることも,あのときの選択のおかげです。居心地が良い今の環境を捨ててでも,新しいチャレンジをする勇気の大切さを教わりました。
多様なものの見方を身につけよう
私自身,父親の仕事の関係で,小さいころから日本と海外を行ったり来たりする生活を過ごし,海外で暮らす日本人として,「マイノリティ(少数派)」という立場を経験してきました。その経験から学んだことは,人を見た目や立場で判断せずに,いろいろな人の意見に耳を傾けながらも,自分で考えることや自分の考えを持つことがとても大切だということです。
私たち,そして,みなさんが大人になって働くころには,世界はもっとつながり,たくさんの人たちと協力しながら働く事が大切になっていきます。
そのようなとき,自分と同じような考え方を持った人としか協力できないのでは,できることがとても少なくなってしまいます。
今の自分のいる場所や環境から外に出て,今まで知らなかった新しい世界に目を向けてみてください。きっと自分の可能性が大きく広がっていくはずです。子どものうちから幅広く,いろいろな人と関係を築いてたくさんの経験をすることが,多様なものの見方を育ててくれます。そして,そうやって養った力をこれからの社会に是非役立ててもらいたいです。