仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
1964年 生まれ 出身地 石川県

幸正(こうしょう) 咲織(さおり)
子供の頃の夢: 脚本家
クラブ活動(中学校): 陸上部
仕事内容
カフェというステージで、常つねにスタッフが主役として輝かがやけるような演えん出しゅつを心がけ、スタッフ⼀⼈⼀⼈の得とく意い・不ふ得とく意いを把は握あくし、役やく割わり分ぶん担たんを考えて、スムーズに業ぎょう務むを⾏えるよう指し示じやサポートをする。
自己紹介
基き本ほん、ストイックな快かい楽らく主しゅ義ぎ者しゃです。⾃分を限げん界かいまで追おい込こむのが好きで、そうすることで何か一つのことをやり遂とげた後の達成感と解かい放ほう感を味わうことができるからです。休みの日は、サウナと⽔⾵呂に、交こう互ごに繰くり返かえし⼊りながら、心身の調子を整えています。

※このページに書いてある内容は取材日(2023年11月30日)時点のものです

障しょうがいがある方にも、仕事をすることの喜よろこびを知ってほしい

障がいがある方にも、仕事をすることの喜びを知ってほしい

私わたしが働いているのは、東京都渋しぶ谷や区くにある「ローランズ原宿」というお店です。ローランズ原宿はお花屋さんとカフェが併へい設せつされたお店ですが、私わたしはカフェの店長として勤きん務むしています。
このお店の特とく徴ちょうの一つは、障しょうがいのある方たちがスタッフとして働いているところです。現げん在ざいは、それぞれ異ことなる障しょうがいを持った8人のスタッフが勤きん務むしており、私わたしを含ふくむ4人の社員がサポートする形で仕事をしています。
障しょうがいのある方が働く場所というと、工場での単たん純じゅん作業などのイメージを持つ方が多いかもしれませんが、ローランズ原宿は、原宿の北参道というとてもおしゃれな街にあり、子どもの“憧あこがれの職しょく業ぎょう”の調ちょう査さでも上位に来ることが多い「お花屋さん」や「ケーキ屋さん」といったイメージのお店です。障しょうがいがある方に、そういったキラキラとした場所で働くことの喜よろこびを感じてほしいというのが、ローランズのコンセプトの一つです。
また、ローランズでは、「障しょうがいのある人が働いているお店」だということを大きく打ち出してはいません。その背はい景けいには、障しょうがいの有う無むに関わらず、スタッフのみながいち社会人として、「お客さまに対してしっかりと価か値ちのあるものを提てい供きょうする」というプロ意い識しきを持って働いてほしいという思いがあります。障しょうがいのある人が働いているということは、ホームページには記き載さいしているため、知ったうえで来店されるお客さまもいらっしゃいますが、ほかと変わらない、“普ふ通つうのカフェ”として入ってくるお客さまがほとんどです。

スタッフが快かい適てきに働けるように環かん境きょうを整える

スタッフが快適に働けるように環境を整える

私わたしは店長という立場なので、お店の責せき任にん者しゃとしてお客さまを迎むかえる準じゅん備びをしたり、スタッフが快かい適てきに働けるように環かん境きょうを整えることが、まず大きな仕事としてあります。また、カフェの仕事が滞とどこおりなく進むよう、スタッフ全員の出しゅっ勤きんを希望する曜日や時間帯を把は握あくしてシフトを作成したり、ローランズのカフェで働きたい希望者がいた場合は、面めん接せつも行います。そのほか、カフェでの売上目標を決めて、その目標を達成するために新しいメニューを考えるなどの、運うん営えいや企き画かくも重要な仕事です。さらに、カフェの経けい営えい成せい績せきやお金の状じょう況きょうを管理する役やく割わりもあります。
また、ここで働くスタッフには、障しょうがいのある人が自立した生活を送れるように相談や助言、就しゅう労ろう支し援えんなどを行う「障しょう害がい者しゃ 福ふく祉し施し設せつ指し導どう専せん門もん員いん(生活支し援えん員いん)」がサポートについており、支し援えん員いんの方に各スタッフの状じょう況きょうを共有するという仕事もあります。何か問題が起きたとき以外にも、定期的に話し合いの機会を設もうけ、各スタッフの仕事の振ふり返りや次の目標などを話し合っています。

スタッフのサポートも大事な仕事

スタッフのサポートも大事な仕事

カフェで働く、さまざまな特とく性せいのあるスタッフをサポートすることも、私わたしの大切な業ぎょう務むです。具体的には、スタッフの体調を考こう慮りょしながら、臨りん機き応おう変へんに仕事を割わり振ふること、などが挙げられます。ここで働くスタッフは、2時間働いて1時間休きゅう憩けいし、その後にまた2時間働くという勤きん務む形けい態たいがほとんどです。しかし、それぞれの特とく性せいやハンディキャップによって、シフト通りに働けない日が発生することもあります。
たとえば、朝、仕事に来たけれど、精せい神しん的てき、身体的なことが原げん因いんで急に体調が悪くなってしまうケースです。そういった場合には、休きゅう憩けいをうながすこともあれば、座すわってできる作業に変へん更こうしてもらうこともあります。また、仕事中、思いもよらないところで苦手なものや悲しい記き憶おくを呼よび覚さますものを目にしたり耳にしたりしてしまい、頭がフリーズしたり、パニック状じょう態たいになってしまうスタッフもいます。そういったときには、カフェの裏うら側がわにある部屋に移動して話を聞き、落ち着いてもらうこともあります。このように、スタッフの体調や気持ちに常つねに気を配り、必要な調整や対たい応おうを行っています。

スタッフへの指し示じは具体的に

スタッフへの指示は具体的に

私わたしたちのカフェでは、フルーツや野菜を使ったスムージーを看かん板ばんメニューに、色とりどりのオープンサンドや、ドライカレーなどのメニューを提てい供きょうしています。基き本ほん的てきな調理はプロのシェフが行っており、アレンジや盛もり付つけの部分をスタッフに担たん当とうしてもらっています。その方法を教えるのも私わたしの仕事の一つです。働くスタッフの中には、曖あい昧まいな表ひょう現げんを苦手とする方も多くいるため、どんな特とく性せいがあるスタッフでも迷まよわないよう、なるべく具体的に伝えることを心がけています。
たとえばドライカレーであれば、普ふ通つうのお店では、実じっ際さいに見せながら「ご飯の量はお茶ちゃ碗わんにこれくらいね」と言えば済すむかもしれませんが、ローランズでは「これくらい」という曖あい昧まいな表ひょう現げんだと理り解かいしづらく悩なやんでしまうスタッフもいるので、「何グラムのご飯にカレーを何グラムかける」というように、数すう値ち化かして伝えるように工く夫ふうしています。看かん板ばんメニューのスムージーについても、「どの材料を何グラム入れるのか」を大きな字で記したマニュアルを準じゅん備びしています。
ほかにも、盛もり付つけ方かたや調理手順を写真で確かく認にんできるようにしたり、冷れい蔵ぞう庫こや棚たなの収しゅう納のう場所についても近くに写真を貼はり付つけて、「どこに何が入っているのか」を確かく認にんしやすいようにしています。また、透とう明めいなものが認にん識しきしにくい視し覚かく的てきなハンディキャップがあるスタッフも安全に働けるよう、ガラス製せいのものがある場所には目立つ色のシールを貼はったりして、「ここに危き険けん物ぶつがある」ことがわかるような工く夫ふうも取り入れています。

スタッフの導みちびき方に迷まよいつつも、成長する姿すがたを見ることが大きなやりがい

スタッフの導き方に迷いつつも、成長する姿を見ることが大きなやりがい

私わたしが仕事をする中で一番難むずかしいと感じているのは、採さい用ようの部分です。応おう募ぼしてくださった方がここでしっかりと働いてくださり、私わたしたちに自立のお手伝いができるかどうかを、採さい用よう面めん接せつで見み極きわめる必要があります。面めん接せつでは大だい丈じょう夫ぶだと思い採さい用ようしても、実じっ際さいに働き出してから急に様子や態たい度どが変わってしまうケースもゼロではないため、その見み極きわめをどうするべきか、今でも答えを出せずにいます。
スタッフの特とく性せいやハンディキャップをよく理り解かいしないまま、相手にそぐわない対たい応おうをしてしまうと、働き続けるのが難むずかしくなってしまう可か能のう性せいも考えられます。私わたし自身は、障しょうがい者しゃ支し援えんに関する専せん門もんの学校で学んだわけではないため、わからないことや迷まようことがたくさんあります。そのため、面めん接せつ時に、応おう募ぼしてくださる方の「働くにあたって配はい慮りょしてほしいこと」をしっかりと確かく認にんすることはもちろん、ローランズには福ふく祉しを専せん門もんとした部ぶ署しょもあるので、その部ぶ署しょのサポートも受けながら、スタッフの変化にすぐに気づけるよう常つねに目配りをして、日々、一人一人と向き合っているところです。
一方、自分で採さい用ようしたスタッフが少しずつ少しずつ成長している姿すがたを近くで見られることは、一番のやりがいです。その喜よろこびがあるから、この仕事を続けているといっても過か言ごんではありません。

「お客さまに喜よろこんでもらうために」仕事をすることを何よりも大切にしてほしい

「お客さまに喜んでもらうために」仕事をすることを何よりも大切にしてほしい

私わたしがスタッフのみなさんにいつも伝えているのは、「お客さまの喜よろこぶ顔を見ることを一番の目的として仕事をしてほしい」ということです。というのも、ここで働くスタッフは自分自身に関する悩なやみが多くなりがちで、何かを考えるとき、どうしても自分を中心に考えてしまう傾けい向こうがあります。たとえば、食器を洗あらうことはお客さまをもてなすために欠かせない仕事の一つなのに、「いつも自分ばかりが洗あらい物ものをしている……」と考えてしまうんです。でも、お客さまに喜よろこんでもらうことが一番の目的になっていれば、誰だれが食器を洗あらっているかどうかなんて、そこまで大きな問題ではないはずですよね。
どんな仕事をしていても、日々、小さなトラブルやいざこざが発生することはあります。そういったときに、「トラブルが起こるのは障しょうがい者しゃだから仕方がない」「私わたしは障しょうがい者しゃだからできません」と言ってしまったら、成長することはできずに、そこで終わってしまいます。「まずはお客さまのために自分ができることを考えましょう」という意い識しきを持って働くことの大切さを、ここで学んでもらえたらうれしいですね。

ローランズでの仕事をステップに、次のステージで輝かがやいてほしい

ローランズでの仕事をステップに、次のステージで輝いてほしい

目標を設せっ定ていするにあたって、ローランズをあくまでも“通つう過か点てん”にしてほしいと私わたしは考えています。
たとえば長期間ひきこもっていた人にとっては、最初から8時間働くことは難むずかしいかもしれません。それでも、まずは少しでもいいので外に出て仕事をして、お客さまに喜よろこんでもらい、賃ちん金ぎんをもらえる喜よろこびを知ってほしい。最初は1日に4時間、週に1日か2日しか働けなくても、それを少しずつ延のばしていき、1日に6時間、週に5日間、安定して働けるようになれば、希望するカフェや一いっ般ぱん企き業ぎょうでも働けるかもしれません。実じっ際さいに、ローランズから一いっ般ぱん企き業ぎょうに就しゅう職しょくした方もいます。もちろん、ここで社員になりたいという希望があれば、その方法を模も索さくすることもできます。そのため、「ずっとここにいていいよ」と言わないことも、私わたしにできる支し援えんの一つだと思っています。
障しょうがいがある方には、私わたしにはわかり得えない苦労や大変なことがたくさんあると思います。ですが、障しょうがいがない人にとっても、毎日働くことは簡かん単たんなことではありません。一いっ般ぱん企き業ぎょうに勤つとめて、遅ち刻こくや失敗が続けば、まったく評ひょう価かされないですよね。その点、ローランズではたくさん失敗しても大だい丈じょう夫ぶなので、次に失敗しないように、ここで学んでほしい。“普ふ通つうに働くこと”の大変さと、達成感や楽しさも味わってもらったうえで、社会に送り出すことが私わたしの一番の目標です。

チームで何か一つのものを目指し、達成することが子どものころから好きだった

チームで何か一つのものを目指し、達成することが子どものころから好きだった

現げん在ざいは障しょうがいのあるスタッフをサポートしつつカフェの店長をしている私わたしですが、最初からこの道を目指していたわけではありませんでした。
私わたしは子ども時代、学校から帰ってきたらランドセルを放り投げて、近所の男の子たちとソフトボールや野球をするような活発な子どもでした。転機が訪おとずれたのは中学生になったときでした。映えい画が館かんで見た『卒業』というアメリカの映えい画がにとても感動し、そこから映えい画がに夢む中ちゅうになりました。その結果、高校を卒業した後は映えい画がの専せん門もん学校に進みました。そこで、一つの映えい画がを作り上げるまでに、たくさんの工こう程ていがあって、たくさんの人が関わっていることを改めて知り、私わたしもその一いっ端たんを担にないたいと思ったのです。そうして、卒業後は映えい画がの制せい作さく現げん場ばで働きましたが、結けっ婚こんを機にその道からは離はなれることになりました。しばらく夫の仕事を手伝っていましたが、縁えんあってローランズの代表から誘さそわれ、経けい理りとして働くことになったのです。そして4年前、前ぜん任にんの店長が離り職しょくしたタイミングで、カフェの店長を引ひき継つぐことになりました。
振ふり返かえってみると、野球も映えい画がもチームプレーです。みんなで何か一つのものを目指し、成なし遂とげる達成感や充じゅう実じつ感がずっと好きだったんだと思います。今の仕事も、お客さまのためにチームで働き、日々達成感を味わえる職しょく場ばなので、大きなやりがいを感じられるのかもしれません。

失敗は成功のもと!ありのままの自分を受け入れていこう

失敗は成功のもと!ありのままの自分を受け入れていこう

私わたしがこれまで経けい験けんしてきて思うことは、いろいろなことにチャレンジして、どんどん失敗したほうがいいということです。読者のみなさんも、うまくできない自分にがっかりすることがあるかもしれません。ですが、たくさん失敗をした人のほうが、人の痛いたみもわかり、物事の良よし悪あしの判はん断だんもできるようになるはずです。カフェのスタッフにも失敗を強く恐おそれてしまう人がいるのですが、その気持ちを少しでも和やわらげられるよう、私わたし自身がわざと失敗してみせることもあります。「失敗は成功のもと」という言葉があるように、失敗は自分の「財ざい産さん」になると思って、恐おそれないで挑ちょう戦せんしてほしいです。
そして、ありのままの自分を受け入れてほしいと思っています。私わたしたちはどうしても、他人と自分を比くらべてしまいます。でも、人と比くらべてしまうと、自分に足りないものばかりを探さがしてしまうんですよね。そうではなく、今の自分を受け入れて、自分の強みを探さがしてほしいです。そして、自分の強みを生かせる道を探さがすことが、豊ゆたかな人生につながっていくはずです。

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取材・原稿作成:渡部 彩香(Playce)・楳園 麻美(Playce)・東京書籍株式会社/撮影:厚地 健太郎