仕事人

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岐阜県に関連のある仕事人
1988年 生まれ 出身地 岐阜県

和田(わだ) 真樹(まさき)
子供の頃の夢: 運転手(バス)
クラブ活動(中学校): バレーボール部
仕事内容
合がっ掌しょう造づくりの茅かや葺ぶき屋根を新しく葺ふき替かえる。
自己紹介
自然が大好き。休日になると,川や海へ釣つりに行ったり,山へキノコを採とりに出かけたりしています。釣つった魚や採とってきたキノコを家族で食べるのも,楽しみにしています。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2018年08月31日)時点のものです

屋根を葺ふき替かえ,伝でん統とう的てきな住じゅう居きょを守る

屋根を葺き替え,伝統的な住居を守る

私わたしは,「合がっ掌しょう造づくり」という建て方で建てられた住じゅう居きょの屋根を葺ふき替かえる「葺ふき師し」という仕事をしています。私わたし自身も合がっ掌しょう造づくりの家で生まれ育ち,祖そ父ふと父が葺ふき師しでした。現げん在ざいは父が立ち上げた会社に就しゅう職しょくし,葺ふき師しとしての腕うでを磨みがいています。
合がっ掌しょう造づくりとは,手の平を合わせるように木材を山形に組み合わせた,三角形の屋根を特とく徴ちょうとした住じゅう居きょです。私わたしたちが住む白しら川かわ郷ごうという地ち域いきは,冬に多くの雪が降ふるため,屋根に積もった雪が滑すべり落おちやすいよう,昔からこうした形の住じゅう居きょが造つくられてきました。
合がっ掌しょう造づくりの屋根は,ススキや稲いねわらなどの植物を材料にして造つくられています。屋根を葺ふくための植物を“茅かや”,茅かやで葺ふかれた屋根を“茅かや葺ぶき屋根”と呼よびます。茅かやを積み重ねた茅かや葺ぶき屋根は保ほ温おん性せいが高く,雪深く寒い冬の間も,室内を暖あたたかく保たもってくれます。また,通つう気き性せいにも優すぐれているため,夏も涼すずしく過すごすことができます。合がっ掌しょう造づくりの住じゅう居きょには,厳きびしい自然環かん境きょうの中で生き抜ぬくことを考えた,先人たちの知ち恵えが詰つまっているのです。葺ふき師しの仕事は,その知ち恵えと技ぎ術じゅつを受うけ継つぎ,地ち域いきの大切な住じゅう居きょを守っていく役やく割わりも持っています。

昔から続く知ち恵えと技ぎ術じゅつを受うけ継つぐ

昔から続く知恵と技術を受け継ぐ

茅かや葺ぶき屋根は毎日,日光や雨風にさらされているため,茅かやはだんだんと傷いたんでいき,20~30年に一度は葺ふき替かえが必要になります。茅かや葺ぶき屋根の葺ふき替かえは,まず古くなった屋根をすべてめくって取とり除のぞくところから始まります。そのときに,下地になっている木材も古くなったものを新しいものに取とり替かえて,茅かやを葺ふき替かえる下した準じゅん備びをします。
茅かや葺ぶき屋根は,クギなどの金物を使わず,“ネソ”と呼よばれる木で木材同士を結んで固定しています。ネソは,マンサクという弾だん力りょくのある木で作られ,山から採とってきたマンサクの木をねじったり叩たたいたりしながら,柔やわらかい縄なわのようにしていきます。屋根を葺ふき替かえるときには,新しいネソを用意し,古いものと取とり替かえて巻まき直します。新しいネソは水分を含ふくんでいるので,年月が経たつにつれて,だんだんとネソ自体が乾かん燥そうして,よりきつく木材を締しめてくれます。これは,自然の素そ材ざいが持つ性せい質しつを利用した昔からの技ぎ術じゅつです。
下地の準じゅん備びができたら,茅かやをまっすぐに並ならべ,縄なわを針はりに通して下地となっている木材に縫ぬい止とめていきます。固定された茅かやを叩たたきながら屋根の形に整え,さらに茅かやを積み重ねていくという作業を繰くり返かえし,約80cmの厚あつさの屋根を造つくります。

屋根の端はしを美しく仕上げることが目標

屋根の端を美しく仕上げることが目標

5年前に葺ふき師しの仕事を始めたころは,すべてが初めてのことばかりで,縄なわの縛しばり方など1つ1つの作業を覚えるだけでも,難むずかしさを感じました。やり方は,先せん輩ぱいたちから教えてもらえるのですが,やはり見て覚えるだけでは分からないことも多く,何度も何度も繰くり返かえし練習して,感覚を身に付けていくことが必要でした。
特に難むずかしいのは,屋根の端はし部分を葺ふき替かえる作業です。この部分は斜ななめになっているため,うまく葺ふいていかないときれいな形になりません。また,端はしは最も目立つ部分なので,ここをいかに美しく仕上げられるかが,葺ふき替かえの出来を左右し,屋根の表ひょう情じょうも変わってきます。これまでは先せん輩ぱいたちがこの部分を担たん当とうしていましたが,今年から初めて,私わたしも挑ちょう戦せんする機会をもらいました。しかし,まだまだ経けい験けんが浅いからか,私わたしがやるとどうしても先せん輩ぱいのようなきれいな形にならず,悔くやしい思いをしています。これからいっそう技ぎ術じゅつを磨みがき,経けい験けんを積んで,“自分の形”を作ることができるように,努力していきたいです。

できるだけ長くもつ屋根をつくりたい

できるだけ長くもつ屋根をつくりたい

合がっ掌しょう造づくりの住じゅう居きょは,この地ち域いきの集落だけでも110棟むねほどあり,私わたしたち葺ふき師しは,毎年3棟むねくらいずつ順番に屋根を葺ふき替かえています。大きさにもよりますが,茅かや葺ぶき屋根の葺ふき替かえには,1棟むねにトラック何十台もの茅かやを使い,約1か月もの時間がかかります。また葺ふき替かえの仕事は,季節を問わず行われるため,雪が積もっているときに行うこともあれば,真夏に行うこともあります。特に夏場は,直ちょく射しゃ日光とその日光が茅かやに当たってはね返ってくる照り返しが厳きびしく,高温の中での作業となるため,体力も必要な仕事です。また,冬場,多くの雪が積もって作業ができないときは,茅かや葺ぶき屋根の雪下ろしや集落内の道路の除じょ雪せつなどを行っています。
茅かや葺ぶき屋根の葺ふき替かえは大変な作業ですが,自分が携たずさわってきた屋根が徐じょ々じょにでき上がっていく様子は,見ていてもうれしいものです。すべての葺ふき替かえが終わったときには,さらに大きな達成感を感じます。また私わたしが手がけた屋根が,30年もの間,そこに住む人の暮くらしを守っていくという点にも,大きなやりがいを感じています。屋根を葺ふき替かえるときには,できるだけこの屋根が長くもつように,思いをこめて作業をします。30年後,自分が葺ふき替かえた屋根がどんな状じょう態たいで再ふたたび葺ふき替かえの時期を迎むかえるのか,今から楽しみにしています。

伝でん統とうの“結ゆい”を次の世代へ伝える

伝統の“結”を次の世代へ伝える

白しら川かわ郷ごうではもともと,茅かや葺ぶき屋根の葺ふき替かえは田植えや稲いねの刈かり取とりと同じように,地ち域いきの住民みんなで行うのが一いっ般ぱん的てきでした。これは“結ゆい”と呼よばれ,お互たがいに助け合う精せい神しんから生まれた制せい度どとして息づいてきました。
結ゆいでは,葺ふき替かえが必要な住じゅう居きょに200人を超こえる人が集まり,職しょく人にんだけでは数か月かかる作業を数日で終わらせることができます。20~30人が屋根に上り,茅かやを送る人,縛しばる人など,それぞれの役やく割わりを総そう出でで行う様子は,この地ち域いきならではの伝でん統とう的てきな風景です。手を貸かしてくれた人には,作業の後にお酒や料理がふるまわれます。手伝ってもらった住じゅう居きょの家族は,手を貸かしてくれた人を“結ゆい帳ちょう”と呼よばれる帳面に記し,次にその家庭が葺ふき替かえをする際さいには,必ずお返しに手伝いをすることになっています。
しかし近年,普ふ段だんは会社に勤つとめている人が増ふえたり,高こう齢れい化かで人手が不足するなど,住民の暮くらしが変化して昔ながらの結ゆいを行うことが難むずかしく,私わたしたち葺ふき師しに葺ふき替かえを頼たのむ人も増ふえてきました。私わたしたちは,こうした人と人との結びつきを築きずく伝でん統とう的てきな制せい度どを守り続けていくために,1年に1棟むねは結ゆいで葺ふき替かえをすることを地ち域いきで呼よびかけています。

今の建けん築ちく技ぎ術じゅつを学び,昔の技ぎ術じゅつを見直した

今の建築技術を学び,昔の技術を見直した

私わたしは子どものころから,父や祖そ父ふがやっていた葺ふき師しの仕事を継つぎたいと思い,建けん築ちくの知ち識しきを学べる大学に進学しました。大学では,建物がどのように建てられているか,地じ震しんに耐たえられる建物を建てるためには,どのくらいの強度が必要かなどを学びました。現げん代だい的てきな住じゅう宅たくについての知ち識しきや技ぎ術じゅつを学んだことで,合がっ掌しょう造づくりのような昔の人の知ち恵えが詰つまった技ぎ術じゅつを見直してみると,「よくあんな昔にこんなことを考えることができたな」と,その素す晴ばらしさを改めて感じることができました。
24歳さいのとき,私わたしが子どものころから住んでいた合がっ掌しょう造づくりの住じゅう居きょも,葺ふき替かえをする時期になり,屋根の片かた面めんを結ゆいで葺ふき替かえることになりました。そのとき,初めて私わたしも屋根に上って葺ふき替かえを体験し,地ち域いきの人たちと力を合わせて作業をする大切さや喜びを実感しました。葺ふき替かえをしている間,近所の方や父の会社に勤つとめる方が「故こ郷きょうに帰っておいでよ」と言ってくれて,翌よく年ねんから父の会社で葺ふき師しを目指して働き始めました。
葺ふき師しの仕事は,技ぎ術じゅつを学ぶ学校があるわけではなく,すべて仕事をしながら作業を覚えていくしかありません。先せん輩ぱいたちに作業を教わり,実じっ際さいに葺ふき替かえられていく屋根を見ながら,毎日1棟むね1棟むねに向き合って勉強を続けています。

屋根の葺ふき替かえは学校行事でも

屋根の葺き替えは学校行事でも

私わたしが小さなころから,子どもも村の一員として結ゆいの手伝いをすることは,当たり前のことでした。学校でも生徒が結ゆいを体験する機会があり,小学校高学年や中学校になると,学校行事として結ゆいを手伝いに行っていました。子どもが屋根に上って作業することはありませんでしたが,一列になって新しい茅かやを屋根の近くまで運んだり,家の周りを片かた付づけたりしていました。結ゆいには多くの人が集まるので,子どものころはまるでお祭りのような気分でした。いつも完成したときには,全員が屋根に上って記念写真を撮とるのが恒こう例れいとなっていて,いい思い出として残っています。
今でも地元の小学校では,小さな合がっ掌しょう造づくりの骨ほね組ぐみを作って,ネソの巻まき方かたなどを教わるなど,茅かや葺ぶき屋根の葺ふき替かえを学ぶ授じゅ業ぎょうが取り入れられています。私わたしも講こう師しとして,学校へ葺ふき替かえの方法を教えに行くこともあります。最近では,大学などに進学する際さいに,村を離はなれていく若わかい世代が多くなっていますが,子どものころからこうした伝でん統とうを知ることで,地元に愛着を持ってもらい,次の世代へと引ひき継ついでもらいたいと願っています。

大切にしたいことに目を向けよう

大切にしたいことに目を向けよう

職しょく業ぎょうに就つくということは,どんな仕事でも大変なことの連続です。その中で,ずっと諦あきらめることなく続けていくためには,やはり自分が本当にやりたいと思う仕事,好きなことを見つけることが大切だと思います。
自分が好きだと感じることを大事にしていると,必ずそこからつながっている仕事があります。私わたしの場合は,一度地元を出てみて,自分の生まれ育った場所に,大切にしたい伝でん統とうがあることを再さい確かく認にんすることができました。今は好きなことが見つからなくても,何かのきっかけで気がつくことがあります。それを知ったときには,ぜひ強い気持ちを持って,まっすぐに向かっていってほしいと思います。
また,私わたしたちの地ち域いきに合がっ掌しょう造づくりや結ゆいがあるように,みなさんが住んでいるところにも,それぞれ昔から守ってきた伝でん統とう的てきな文化があるはずです。そうした文化は,この時代で途と切ぎれたらそこでなくなってしまいます。地ち域いきの伝でん統とうを守ることも,これからの時代をつくっていく若わかい人の大切な役やく割わりだと思いますので,ぜひ地元に根付いている文化にも目を向けてほしいと思います。

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取材・原稿作成:船戸 梨恵(クロスワード)・岐阜新聞社 /協力:株式会社 電算システム