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神奈川県に関連のある仕事人
1976年 生まれ 出身地 岡山県

ぴあのちょうりつしピアノ調律師
竹内(たけうち) 淳(じゅん)
子供の頃の夢: 教師
クラブ活動(中学校): 卓球部
仕事内容
ピアノの調律,メンテナンス,およびサポートをおこなう
自己紹介
いろんなことに好奇心(こうきしん)をかきたてられ, 人と話(はなし)をするのが好(す)き。
出身大学・専門学校
岡山大学 文学部 人間学科/国立音楽院 ピアノ調律科

※このページに書いてある内容は取材日(2016年07月11日)時点のものです

音を合わせるだけが調律(ちょうりつ)ではない

音を合わせるだけが調律ではない

私わたしはピアノ調律師ちょうりつしとして,主に一般いっぱん家庭にあるピアノの調律ちょうりつをしています。狂くるっている音を合わせることだけが調律師ちょうりつしの仕事だと思われがちですが,これはせまい意味の「調律ちょうりつ」です。調律師ちょうりつしがする作業は他にもあり,それぞれ「整調せいちょう」「整音」「修理しゅうり」といいます。
ピアノは約8,000個この部品からできています。「整調せいちょう」は,鍵盤けんばんの高さや深さをそろえるなど,それぞれの部品の位置と動きをそろえる作業のことです。目と指先の感覚を使って,ときには100分の1ミリの精度せいどで調整することもあります。「整音」は,すべての音をそろえて,お客様の好みの音に近づける作業。「修理しゅうり」は,切れた弦げんを張はりなおしたり,すり減へった部品を交換こうかんしたりする作業です。ピアノ調律師ちょうりつしは,これらの作業すべてをおこなっています。他の楽器だと,たいていは演奏えんそうする人が自分でチューニング(音の調整)をするのですが,ピアノの場合は,演奏えんそうする人とは別に,私わたしたち専門せんもんのピアノ調律師ちょうりつしがチューニングをします。そういう意味で,ピアノはめずらしい楽器です。

最後に自分で弾(ひ)いてみる

最後に自分で弾いてみる

ピアノ1台の調律ちょうりつに1時間30分から2時間くらいかかります。私わたしの場合は,1日あたり,平均へいきんで2,3軒けんのお宅たくを訪たずねて調律ちょうりつをします。定期的に調律ちょうりつをされるお客様が多いので,「そろそろかな」という時期に私わたしからお客様に電話をして,予約をしていただきます。
お宅たくを訪たずねると,まずはお客様に「何か気になっていることはないですか」と聞いてから,ふたを開けて,まずは掃除機そうじきでピアノの中のホコリを掃除そうじします。その後,ピアノを点検てんけんして「調律ちょうりつ」「整調せいちょう」「整音」「修理しゅうり」の中から必要な作業を選び,優先ゆうせんされる順に時間を割わり振ふって作業を進めていきます。
調律ちょうりつが一通り終わったら,私わたしは自分でピアノを弾ひいてみるようにしています。「調律師ちょうりつしは自分でもピアノを弾ひくのですか?」とよく質問しつもんされますが,ピアノが弾ひけなくても調律師ちょうりつしにはなれます。でも,私わたしのことでいえば,弾ひいてみてはじめておかしいなと気づくこともあるんですよ。たとえば,一部の鍵盤けんばんの動きが少し固かったり,雑音ざつおんが聞こえたり,といったことですね。だから,私わたしは最後に必ず,自分で弾ひくようにしています。

雑音(ざつおん)の原因(げんいん)を見つけるのは大変

雑音の原因を見つけるのは大変

音は目に見えないし,言葉にもしづらいので,たとえばお客様から「華はなやかな音にしてほしい」と言われても,お客様がイメージする「華はなやかな音」と私わたしがイメージする「華はなやかな音」が同じとは限かぎりません。そこは苦労しますね。調整してみて,お客様に確認かくにんしていただいて,また調整しなおすことを繰くり返かえして,少しずつお客様のイメージに近づけていくしかありません。
他に苦労するのが,雑音ざつおんの問題です。ピアノの音自体には問題がなくても,ふたなどについているネジや金具がピアノの音と共鳴(音がひびきあってしまうこと)を起こして,雑音ざつおんになってしまうことがあります。雑音ざつおんの原因げんいんは,ピアノの上に置いてある写真立てなど,ピアノとは関係のないものの場合もあります。壁かべの向こう側にある鏡が共鳴して雑音ざつおんが出ていた,ということも経験けいけんしたことがあります。雑音ざつおんが聞こえるケースは意外と多くて,2台に1台くらいの割合わりあいで出会う時期もありました。雑音ざつおんの原因げんいんを探さぐるのは大変なのですが,どこかに必ず原因げんいんがあるので,あきらめないことが大事です。

お客様に喜んでもらうことがやりがい

お客様に喜んでもらうことがやりがい

なかなか見つからなかった雑音ざつおんの原因げんいんを見つけたときは,思わず「やった!」という気持ちになりますね。でも,何といっても,仕事をしていていちばんうれしいのは,お客様に喜んでいただけることです。調律ちょうりつが終わった後,「弾ひいてみませんか」と言っても,特に子どもさんだと,恥はずかしがって,私わたしの目の前では弾ひいてくれないことが多いんですよ。でも調律ちょうりつを終えてそのお宅たくを出たとたんに,ピアノの音が聞こえてくることがあります。そういうときには,「ああ,弾ひいてもらえているんだな」と感じて,うれしくなりますね。
この仕事には,ひとつだけの正解せいかいというのはありません。調律師ちょうりつしごとに,作る音が少しずつ違ちがいますし,自分でも,新しいやり方を常つねに試しています。「もっと良くできるに違ちがいない」と,いつも思っていますね。この仕事をしていると,自分が調律師ちょうりつしとして成長していくのを,日々ひび,感じることができて,とても楽しいですよ。

お客様とピアノの声に耳を傾(かたむ)ける

お客様とピアノの声に耳を傾ける

お客様にとってベストのピアノになるよう,全力をつくすことを心がけています。 調律師ちょうりつしとして,「ピアノのせいにしない」ということは,先輩せんぱいたちにも教わりましたし,自分でも心がけています。どんなピアノにも,そのピアノなりの良いところや面白いところがあって,そのピアノにとってベストの調整というものがあります。だから,私わたしたち調律師ちょうりつしが手をかければ,必ず良くなるんですよ。
ふだん,子どもさんが弾ひいているピアノの場合,子どもさんが私わたしに「弾ひいているとどこか変だ」「何となく音がおかしい」といった,あいまいな話をしてくることがあります。そんなときは,お母さんが「子どもの言うことですから気にしないでください」と言ってくださったりもします。でも,弾ひいている本人が何かを感じているときは,よく調べると,ほとんどの場合,何かしらの原因げんいんが見つかるんですよ。ですから,実際じっさいにそのピアノを弾ひいている人の言葉に耳を傾かたむけることは大事ですし,意識いしきしてそうするようにしています。

手に職(しょく)をつけたかった

手に職をつけたかった

ピアノは5歳さいごろから成人するまで,ずっと続けていました。大学生のころは,やりたいことがなかなか見つけられなかったのですが,一般いっぱんの企業きぎょうへは就職しゅうしょくしたくなかった。むしろ手に職しょくをつけたいというか,「何をしてお金をもらうのかがわかりやすい仕事」に憧あこがれていました。その中でも,好きなピアノや音楽に関わる仕事なら長く続けられそうだと考えたのですが,ピアニストになるには,才能さいのうが必要で,厳きびしい。そこで,こつこつ努力をすればなれそうなピアノ調律師ちょうりつしを目指すことにしました。
大学卒業後,しばらくは資金しきん稼かせぎのために音楽と関係のない,工場などのアルバイトにはげんでいましたが,卒業して1年後に,ピアノ調律ちょうりつ科がある音楽専門せんもん学校に入学。専門せんもん学校を卒業後に,ピアノ調律ちょうりつ専門せんもんの会社に就職しゅうしょくしました。
現在げんざいでは,日々ひび,ピアノ調律師ちょうりつしとして仕事をしながら,一般いっぱん社団しゃだん法人 日本ピアノ調律師ちょうりつし協会という団体だんたいに所属しょぞくして,先輩せんぱい調律師ちょうりつしさんたちとの勉強会や,コンサートなどのイベント運営うんえいにも携たずさわっています。 また「ピアノ調律ちょうりつ技能士ぎのうし」という国家検定けんていが2011年からスタートし,私わたしも「ピアノ調律ちょうりつ技能士ぎのうし1級」の資格しかくを取得しました。今のところ,ピアノ調律師ちょうりつしとして仕事をするのにこの資格しかくが絶対ぜったいに必要というわけではありませんが,私自身わたしじしんはこの資格しかくは,ピアノ調律師ちょうりつしとして長く続く道のりのスタート地点に立てた証あかしだと思っています。

どうやったら面白くなるのかを考える

どうやったら面白くなるのかを考える

子どものころから,のめりこんだことはいくらでも続けられるタイプです。小学生のときは,マンガをひたすら書き写したりしていました。
高校のとき,大学受験のための受験勉強が,最初はとても嫌いやでした。進学のためだけに勉強するなんてつまらない。それなら楽しく勉強してやろうと思って,真剣しんけんに取り組むようになりました。そうすると,解ときがいのある問題にいどむのが楽しくなったんです。数学や生物が好きでしたね。自分が考えている問題の答えを,横から父に言われてしまい,ひどく怒おこったことがあります。それくらい,考えることに没頭ぼっとうしていました。
今の仕事では,必ずしも答えがあるとは限かぎらないことも多いのですが,「とことんまで自分で考える」という習慣しゅうかんは,今に生きていると思います。

自分の可能(かのう)性(せい)を閉(と)じないほうがいい

自分の可能性を閉じないほうがいい

早いうちに自分を決めてしまわないほうがいい。よく「自分はそういうキャラじゃない」とか「そういう人じゃない」と自分で決めてしまう人がいますが,そういうふうに決めてしまわないほうがいいと思います。やっていくうちに変わっていくということもありますから。
私わたしも,中学や高校時代は,知らない人と喋しゃべることが苦手だったのですが,今は,仕事でお客様とお喋しゃべりするのが好きになりました。自分で思っている自分というのは,そんなに確たしかなものではないような気がします。自分の可能かのう性せいを閉とじてしまわずに,まずは自分が好きなことをやってみるのがいいと思います。

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西岡 常一
宮大工の棟梁によるエッセイ。「遠い過去の職人さんの技術を建物が伝えている」という話が出てくるのですが,ピアノと調律師の関係にも同じことが言えるように感じて,心に残っています。また,職人として仕事に臨むうえでの厳しい心構えも書かれていて,読むたびに背筋が伸びる思いがします。
宮下 奈都
新米ピアノ調律師が悩み,失敗しながらも前に進んでいく様子と,先輩の調律師たちから主人公に投げかけられる言葉に深く共感しました。どんな職業にも置きかえて読むことができるのではないでしょうか。

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取材・原稿作成:東京書籍株式会社/協力:横浜銀行