仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
1961年 生まれ 出身地 東京都
沖倉おきくら 喜彦よしひこ
子供の頃の夢: 運転手(ダンプカー)
クラブ活動(中学校): 野球部
仕事内容
木に第二の人生をあたえる。
自己紹介
東京の森を守り,木を世に出すことに人生をかけているので,まわりからは「森の番長」とばれています。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2017年11月07日)時点のものです

山の木を家の材料に仕上げる仕事

山の木を家の材料に仕上げる仕事

わたしは,東京都あきる野市にある「おきくらせいざいしょ」の社長をしています。このせいざいしょは,わたしの父がつくったものです。木を切ったりけずったりして,家を建てる材木に仕上げるのがせいざいの仕事です。
せいざいする木は,原木市場で仕入れてきます。原木市場には山で切ったスギやヒノキが丸太のじょうたいで集められて,月に数回,市が開かれます。丸太はそこでりにかけられます。わたしたちせいざい業者は,市でとした丸太を買うわけです。木が曲がっていないか,れが入っていないか,木の中身は切ってみるまでわかりません。自分の目とけいけんたよりです。
仕入れてきた丸太は,工場の皮むき機で木の皮をむき,機械の大きなノコギリでせいざいして,角材や板を作ります。加工自体は機械で行いますが,一本の丸太からなくよい材木をせいざいするには,丸太をどこからどんな向きで切っていけばよいかなど,人間の目で見てはんだんすることが必要です。それは大切なせいざいじゅつなんです。

外から分からない木の中身を

外から分からない木の中身を見抜く

木材は中身が見えませんから,ノコギリで切ってみるまでどんな木目が出るのかわからないし,切ってみたらふしが出てくることもあります。それでもせいざいという仕事は,切らないと成り立ちません。教えてくれる学校もないので,自分で習得しなくてはいけません。それには,木をたくさん目で見て自分で買ってせいざいしてみて,それでどうなるかのけいけんを積むしかありません。
わたしの父親は15さいから山の仕事をやっていたので,スギやヒノキの木材のきはプロ中のプロでした。どんな木でもせいざいして失敗をしない。どうして分かるのかなと思っていました。でも,きができて初めてせいざいぎょうができるのです。せいざいおくが深い世界です。
木は1本1本ちがいます。同じ山で同じ時期に植えても,太さもざいしつちがう。それがわかるような目ができるまではけっこう苦労しましたよ。かみなりが落ちた木を知らないで買ってきて,せいざいしたら,中がれていてバラバラになってしまったこともありました。せいざいをしているといろんなことが起きますが,たいていのことはクリアしてきました。でも今だって,日々,勉強です。

いい木に出会うと思わずせいざいしたくなる

いい木に出会うと思わず製材したくなる

やっぱりいい木に出会うとうでが鳴りますね。原木市場でもいい木を見ると,「この木をいてみたい」と思いますよ。せいざいをやっている人だったらだれでもそう思うんじゃないかな。ぎゃくにちょっと変わった木に出会うと,それはそれでテンションが上がります。ごわい木,つまり加工するにはむずかしい木をうまく生かすことができれば,こんなに楽しいことはありません。木が生かせるというのは,木材になって人に喜ばれるわけですから,われわれの仕事としてはそれはうれしいことですよ。木は山で数十年生きてきたわけですが,それを切って作る木材は,家の柱や土台になって,さらに数十年の役目を果たすことになります。ですからせいざいぎょうは「木に第二の人生をあたえる」仕事だと,ふだんからわたしは言っています。
てきざいてきしょ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「その人が持っているのうりょくを生かせる仕事や地位につけるのがいい」という意味ですが,元々は,“家を建てるのに,柱や土台など,それぞれにてきした木を使い分ける”という意味なんです。ヒノキはくさりにくいから土台に使い,松はじょうな木だからはりに使うといった具合です。「てきざい」の「材」は木材の「材」なんですね。このように,それぞれの木にはそれぞれのとくせいがあり,木を生かすには,木の種類は当然として,その木がどのように育てられたか,木のじょうきわめることが必要です。年輪を見れば,その木がどういうふうに生きてきたか,木の中身がどうなっているかがわかるんです。

人にやさしい“ざい”を使ってほしい

人に優しい“無垢材”を使ってほしい

今はもくぞうじゅうたくを建てるのに,材料の7わりは“集成材”といって,細かい木をせっちゃくざいわせたものが使われています。集成材はじょうなのですが,材料となる木のせいはあまり関係ありません。わたしせいざいしょでは“ざい”といって,材木から切り出したままの木を材料として使えるようにきょうきゅうしています。
ざいりょくは何といってもそのはだざわりのよさです。またざいには湿しっを調整する作用があります。木が湿しっんだり,ぎゃくに放出したりすることで,部屋の中の湿しつを一定にたもちます。人間がらす上で,ざいでできた空間はここいいものです。わたしは東京で育ったを生かして,家を買った人に気持ちよくらしていただきたいと思って仕事をしています。機械かんそうではなく天然かんそうさせたなら,木を守るぶんがたくさん残っているので,木のいいかおりがして,シロアリがいや木材がくさることから家を守ってくれるこうもあるんですよ。

地元の産材を地産地消で生かす

地元の多摩産材を地産地消で生かす

わたしの父親が1950年に会社をつくったころは日本の林業のさいせいでしたが,その後,外国の安い木がにゅうされるようになり,日本の林業はおとろえていきました。おきくらせいざいしょのある東京の西にしいきに多いときは600けんあったせいざいしょが,今では30けんってしまいました。
父がくなってわたしおきくらせいざいしょの社長をいだのは1990年代なかばでしたが,そのころには木材が本当に売れなくなっていてこまりました。でも,1人でなやんでいても始まらないので,あきる野市の木材業やせいざいぎょう者で作っている「秋川木材協同組合」のわかの仲間たちといっしょに,「何とかしよう」と話し合ったんです。る時期をむかえているの山の木をなんとか世に出したいと考えて,わたしたちは東京都にもこうしょうし,産材をじゅうたくや公共事業などで使ってもらえるようにしました。地元の木を使えば,木材のそうエネルギーもおさえられて,かんきょうやさしい地産地消がじつげんできます。それに,東京の気候や風土で育った木は,東京に建てる家にはさいてきだからです。
最近では,西にしいきの林業家や材木店,こうてんなどと「TOKYO WOODきゅう協会」というだんたいを作り,力を合わせて,産材の中でもさらにこうひんしつな木を「TOKYO WOOD」というブランド木として送り出しています。「グレーディングマシン」という,木のひんしつそくていする機械をどうにゅうして,木材のがんすいりつ(木にどれだけ水がふくまれているかをしめすう)とかたさをそくていして,きびしいじゅんをクリアした木だけを「TOKYO WOOD」としてしゅっしています。

せっけいしきを身につけたうえでせいざいの道へ

設計の知識を身につけたうえで製材の道へ

わたしは高校を卒業してから,大学はけんちく工学科に通いました。きょうだいで男はわたし一人でしたから,いずれは父のせいざいしょぐことを考えていましたが,せいざいというのはとくしゅな仕事なので,けんちくかくを取っておけばしょうらいの仕事にこまらないだろうと考えたんです。また,しょうらいせいざいをやるにしても,せっけいしきがあれば役に立つはずだとも考えていました。
せっけいしょをやっていたので,大学を卒業するとわたしはそのせっけいしょに入りました。けんちくかくも取り,せっけいしょせっけいのことを一から学びました。その後,せっけいしょで4年働いてから家業のせいざいしょに入りました。せっけいしきはやはり,せいざいぎょうでもになります。26さいわたしが家業について6年目に父がくなり,その年にわたしは32さいで社長になり,今にいたっています。

やろうと思えば何でもできる!

やろうと思えば何でもできる!

みなさんはしょうらいどんな仕事をしたいですか。まだわからないかもしれませんね。わたしも小さな子どものころはせいざいをやるとは思っていなかったし,父の作ったせいざい工場も“遊ぶ場所”くらいにしか思っていませんでした。でも今は全力でせいざいという仕事に,東京の山に向き合っています。みなさんが何をやりたいか,今は見えなくてもいつかきっと見えてくるはずです。大人になってどういう生き方をしたいか,それが見えてきた時は,ぶれずに信念を持ってすすんでください。そうすれば,きっと道は開けます。
わたしは人の力はげんなんじゃないかと思うことがあります。「ここまでしかできない」というものではなく,やろうと思えば何でもできます。今のみなさんは勉強や運動のことでなやんだりしているかもしれませんが,人生はこれからです。自分がやりたいことを見つけた時に,それを信じて生かせるようにしてください。

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高校生のころに読みました。「我ことにおいて後悔せず」という言葉が出てきます。自分のしたことを後悔しない,武蔵の生き方に刺激を受けました。
林以一(語り)/かくまつとむ(聞き書き)
木挽き職人が,木という素材の魅力について語った本です。山の現場で切った木をじっとにらんで,どこからノコギリを入れるか考える林さん。木挽き職人の匠の技に,製材の原点を見る思いです。

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取材・原稿作成:東京書籍株式会社/協力:株式会社ファミリーマート,林野庁,NPO法人 共存の森ネットワーク