社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!
※このページに書いてある内容は取材日(2006年07月11日)時点のものです
スタジアムをつくる。言葉でいうとなんだか簡単(かんたん) なようですが,実際(じっさい) には,建設(けんせつ) 会社にいる間でひとつできるかどうかという大きな仕事なんですよ。とても長い時間をかけて,ものすごい量の材料を使い,びっくりする位たくさんの人がかかわってつくられていくものなんです。私(わたし) が埼玉(さいたま) スタジアム2002の建設(けんせつ) 現場(げんば) にいたのは,39ヶ月ですが,実は構想(こうそう) に約4年,設計(せっけい) に約3年,工事に約3年と,構想(こうそう) からから完成までには10年という時間がかかっています。材料の話をすると,例えば,コンクリートは30万トン,これは電車の車両545台分です。鉄筋(てっきん) は1万6000トンで,すべてをD10と呼(よ) ばれる太さ10ミリのものにしてつなげてみると,地球2つと月の直径を足した長さになり,鉄骨(てっこつ) は10,600トンでジャンボ機の35機分になります。そして,現場(げんば) で工事にたずさわった人の数は,のべ40万人。もう,ちょっと想像(そうぞう) がつきませんよね。
2002年に日本と韓国(かんこく) で開催(かいさい) されたW杯(はい) に向けて,埼玉(さいたま) スタジアム2OO2をつくろうと決めたのは,埼玉(さいたま) 県の人たちです。その決定をうけてから,どんなスタジアムにしようかと,設計(せっけい) 会社の人が設計図(せっけいず) をかきました。その後で,実際(じっさい) に建物を建てていく工事を担当(たんとう) したのが,私(わたし) たち建設(けんせつ) 会社です。
設計図(せっけいず) の通りにつくればスタジアムが出来上がるのかといえば,そういうものでもありません。例えば,埼玉(さいたま) スタジアムの屋根は,宙(ちゅう) に浮(う) いているように見える,白鷺(しらさぎ) という鳥の羽をイメージした大屋根ですが,設計図(せっけいず) では4本の柱だけで支(ささ) えられた完成図がかかれています。でも,いきなり宙(ちゅう) に浮(う) いたような屋根をつくることはできません。だからまず,何本もの仮(かり) に設(もう) けた鉄骨(てっこつ) 柱を立てておいて,その上で少しずつ屋根を組み立て,出来上がった後に組み立て用につくった鉄骨(てっこつ) 柱を取り外すという方法を考えました。どんな順番で,どんな組み立て方をすれば,設計図(せっけいず) にかかれたとおりの建物をつくれるのか。これを考えるのも,建設(けんせつ) 会社の仕事です。
また,工事を担当(たんとう) するといっても,建設(けんせつ) 会社の社員が,クレーンを動かしたり,屋根にまくをはったりという実際(じっさい) の作業をするわけではありません。鉄骨(てっこつ) をつくる会社,それを組み立てる「とび」,スタンドの椅子(いす) を作る会社,それを組み立てる人,電気工事をする人など,その道のプロにお願いをして,それぞれの作業をしてもらうのです。では,建設(けんせつ) 会社の社員は何をするのでしょう? むずかしい言葉でいうと「工事管理」という仕事になります。高い品質(ひんしつ) のものがつくれているか?決められた工事予算通りにできているか? 計画通りに工程(こうてい) が進んでいるか? 工事をする人たちが安心して安全に工事ができているか? まわりの環境(かんきょう) をよごしていないか?などをチェックをする。まさに,工事現場(げんば) の「かんとく」です。
工事をしていく中では,いろいろと大変なこともあります。工事現場(げんば) は屋外ですから,雨や風,暑さや寒さもつらいといえばつらい。それから,思ったとおりにできないということもよくあります。例えば,スタジアムのいす。芝(しば) の緑色を引き立たせるために,いすの色は濃(こ) い青と決められていました。でも,いわれたとおりの色でいすをつくると,いすの材料がよわくなることが分かったのです。どうしたらいいのか分からないまま,時間だけがすぎていきました。
でも,解決策(かいけつさく) は意外なところにありました。サンプルの小さな板ではなくて,実際(じっさい) のいすを,少しうすい青でつくって現場(げんば) で組み立ててみると……たくさんのいすが集まることで,不思議なことに,濃(こ) い青色に見えたのです。「できない」と思っても,ちょっとやり方を変えてみると,ふっと解決(かいけつ) したりする。こんなことは,モノづくりの現場(げんば) ではよく起こります。そして,こういうところもまた,モノづくりの面白さなのかもしれません。
モノをつくることは,子どものころから好きでした。絵をかくのも好きで,いつかは美術(びじゅつ) に関係する仕事ができたらいいなとは思っていたんです。それが,建築(けんちく) の仕事をするようになって30数年。今でも,新鮮(しんせん) な気持ちで,この仕事を楽しんでいます。同じ現場(げんば) は二度とないし,同じ建物をもういちどつくることもない。だから,あきるということがないのです。そして,なにより形に残る仕事です。子どもたちに「これがお父さんのつくった建物だよ」と見せてあげることもできるのです。
私(わたし) には今でも夢(ゆめ) があります。でも,簡単(かんたん) には口に出しません。頭の中で「やりたい! やりたい! やりたい!」と強く強く思い続けることが,大切だと思っているからです。強い思いがあれば,自然と行動を起こすことができる。がまんをしなくちゃいけないときも,もちろんあるでしょう。でも,強い思いがあれば,そのがまんもできるのです。だから,とにかく強く思い続けること。これが,夢(ゆめ) をかなえるヒケツだと思いますよ。