平日は練習,土日に試合
私は,神奈川県に本拠地を置くサッカーチーム「SC相模原」の選手です。SC相模原は,現在はJ3に所属しています。私はプロになって3年目,ポジションは守備的ミッドフィールダーのボランチを任されています。
J3では18チームがホーム&アウェー総当たりで,リーグ優勝をかけて戦っています。リーグ戦の年間試合数は34試合あり,基本的に土曜か日曜に開催されます。
たとえば日曜に試合があった場合,翌日の月曜はジョギングやストレッチなど,軽めの練習メニューで疲れた体をケアします。火曜日はお休みし,水曜日から次の試合に向けて練習を開始します。練習がある日は,朝7時に起床し,車で練習グラウンドに向かいます。自宅とグラウンドは同じ相模原市内にあるため,そう遠くはありません。午前中に2時間ほどチームでの練習を行い,午後はフリーの時間になります。私はその時間を,ジムやマッサージに通うなど,個人的なトレーニングと体のケアにあてています。そうやって体のコンディションを整えて,週末の試合に臨みます。
アウェーの試合は長距離移動がつらい
北は青森県から南は熊本県まで,J3のチームは全国に散らばっています。そのため,アウェーで試合を行う場合は,飛行機やバスを使って前日に移動します。現地で軽めの練習を行い,夕方にはホテルに戻ってリラックスしています。翌日の試合が夜に始まるときは,試合までたっぷり時間がありますが,ホテルの部屋で映画を見るなどして過ごしています。そういうとき,私は午前中にはあまり試合のことは考えず,午後からだんだん気持ちを切り替えていくようにしています。
試合終了後は,その日のうちに神奈川県へ帰ります。ときにはバスで7時間もかかる長旅になることもあります。サッカー選手の宿命とはいえ,長距離の移動はつらいものです。
逆にホームの相模原ギオンスタジアムで試合が行われるときは,試合前日を自宅で過ごすことができるため,心も体もずいぶん楽になります。当日は,スタジアム近くの集合場所でチームミーティングを行います。相手チームの特徴や,それに合わせた戦術などが監督やコーチから伝えられます。そうしてチーム全員で意識を統一してから,スタジアムへ向かいます。
テクニックのある中盤の選手たちにあこがれて
ボランチは,あらゆる方向からパスを受け,味方選手につなぐ場面の多いポジションです。ボールを持ったときは相手からのプレッシャーも強くかかってきます。私は身長167cmと小柄ですが,体格のいい選手に体を寄せられてもボールを奪われないよう,足元の技術をみがくようにしています。試合中は,つねに視野を広く持ってピッチ全体を意識すること,そしてトラップや,一つ一つのパスを正確に行うことを心がけています。
好きなプレーは,得意のドリブルで中盤から前線にボールを運んでいくこと。シュートを打ってゴールを決めることはもちろん楽しいですが,相手の攻撃の芽をつんだり,そこから攻めに転じたり,ときにはチームを落ち着かせたりと,いろいろな選択肢をもってプレーできるボランチの役目に,とてもやりがいを感じています。
元日本代表の中田英寿選手,中村俊輔選手,元スペイン代表のイニエスタ選手など,テクニカルな選手に子どものころからあこがれてきました。とても難しいプレーをいともたやすくこなす彼らのような,華麗なプレースタイルを身につけたいと考えています。
試合後は必ず映像でプレーを確認
サッカー選手としていちばんの喜びは,やはり試合に勝つことです。SC相模原を,つねに優勝争いのできるチームにすることが今の目標です。それだけでなく,私には,パスやドリブル,シュートなど,あらゆる場面で「こうしたい」という理想のプレーがあります。思い描いたようなプレーができたときはとても楽しいのですが,うまくいかないときもあります。試合に勝った日でも,自分のプレーでは反省することのほうが多いのです。
試合後は,必ず,録画した映像でゲームを振り返るようにしています。まずはチーム全体の動きを見て,その後に再び最初から,自分自身のプレーを見返します。チーム全体の動きについては,気がついたことがあれば選手同士で話し合うように心がけています。また,自分のプレーについては,うまくいったプレーを確認するだけでなく,うまくできなかったプレーではどうするべきだったかを考えるようにしています。
理想は高いのですが,少しずつでもそこに近づけていきたい。そう考えて,日々の練習に取り組んでいます。
中学卒業後,ひとりで名古屋に
子どものころからサッカーが大好きでした。サッカーを始めたのは,地元,新潟のチームに加入していた2人の兄の影響です。兄たちの練習についていき,小学校に入学する前からボールを蹴っていました。入学後も,つねに上級生にまじって練習していたので,どんどん上達しました。ドリブルで上級生を2,3人抜き去り,ゴールを決める,その快感を今でも覚えています。
中学生になってからは,地元のジュニアチームに加入しました。そのころには,将来はプロのサッカー選手になると考えていました。「なりたい」ではなく,「なる」です。他の職業を考えたことは一度もありません。
ある大会で,私のプレーを見た名古屋グランパスエイトのスカウトに,名古屋へ来ないかと声をかけられました。それがきっかけとなり,中学卒業後にひとりで,新潟から名古屋へ移りました。現地の高校に通いながら,グランパスのユースチームに所属して,年代別の日本代表に選ばれるまでになりました。そして卒業と同時に,ユースチームからトップチームへ昇格して,プロ選手になったのです。その年,トップチームに上がれたユース選手はわずか2人でした。場合によっては1人もトップチームに上がれない年もあるという,狭き門です。
ケガの経験から学んだこと
名古屋グランパスエイトで迎えたプロ1年目,練習中のアクシデントによって,全治7か月という大ケガを足首に負いました。プロになっていきなり,最初のシーズンを棒に振ってしまったのです。それまで大きなケガをすることなく順調に歩んできた私にとって,初めての試練でした。
最初はつらくて,先行きに不安を感じていましたが,やがて「これは体を鍛えるチャンスだ」と捉え直すことにしました。あせらずに治療を続けながら,体幹を鍛えるトレーニングをじっくりと行ったのです。また,自分の状態を記録するリハビリノートも書いていました。ケガから回復していく過程を記録するのは楽しい時間でした。
プロ2年目は出場機会を得られず,シーズンの途中でSC相模原へ移籍することになりました。そしてSC相模原で迎えたプロ3年目,今度は膝をケガして試合に出られなくなってしまったのです。でも,前回の大ケガの経験があったので,不安になることはありませんでした。治療に専念して,リハビリやトレーニングで復帰の準備を行っていました。また,休んでいる間に観客席から試合を見ることで,ピッチではわからなかったチームの改善点にも気づくことができました。そういう意味では,試合に出られないこともいい経験だったと思います。けれど,やはりサッカー選手は,つねに試合に出ていたいもの。ケガを治して,数試合ぶりにピッチに戻れたときは本当にうれしかったです。
サッカースクールで小学生を指導
いま私は,月に2回,サッカースクールで小学生の指導も行っています。コーチとして心がけているのは,サッカーが好きだという子どもたちの気持ちをつぶすことがないよう,押しつけるような指導をしないことです。
私自身,これまでにたくさんのコーチからサッカーを教わってきましたが,いざ自分が教える立場になってみると,最初はとても難しく感じました。SC相模原のチームメイトのように,相手が大人であれば言いたいこともすんなりと伝わりますが,小学生に理解させるためには,声のかけかたから工夫しないといけません。けれど,自分の考えを相手にわかりやすく伝えることがもともと好きなので,指導法を工夫することは苦ではありませんでした。また,子どもが上達するための練習メニューを,自分なりに組み立てる時間はとても楽しいです。現役選手でありながらこのような機会を得られたことを,ありがたく感じています。
サッカー選手としてはできるだけ長く現役でプレーしたいのですが,いつか引退したときは,監督など指導者になりたいと考えています。
限られた時間を大切に,チャレンジを続けよう
私が子どものころ,時間はたっぷりあると思っていました。しかし大人になった今,思うのは,時間は本当に限られたものだということです。だからこそ一日一日を無駄にせず,今,やりたいことを追求してください。もしも今,やりたいことが見つかっていない人は,視野を広げていろいろなことにチャレンジしてみてください。チャレンジを続けていると,そのうち本当に自分が好きだと思うものに出会えるでしょう。
また,サッカー選手を目指す人に伝えたいのは,まずはプレーを楽しんでほしいということです。サッカーをしていて何がいちばん楽しいのかを考え,そのことをいつまでも忘れないでください。サッカーを続けていると,つらいことや苦しいことにぶつかるときもあります。そんなとき,自分にとってのサッカーの楽しさを思い出せば,前向きな気持ちで立ち向かえるでしょう。
もっとサッカーが上達したいという人は,練習に取り組む姿勢を大切にしましょう。与えられたメニューを,何も考えずにこなしているだけではもったいない。何のためにそれをやっているのか,いま自分は何ができていないのか,課題は何なのか,そうしたことを自分の頭で考えながら練習に取り組むことが上達への道です。また,技術だけではなく,勝ちにこだわるどん欲さも大事です。たとえ負けても,悔しい気持ちを忘れずに,次の試合に向けてがんばれるようにメンタルを鍛えましょう。それを繰り返すことで,強い選手になっていくのです。