仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

神奈川県に関連のある仕事人
1992年 生まれ 出身地 神奈川県
子供の頃の夢: 新幹線の運転士
クラブ活動(中学校): サッカー部
仕事内容
ケガをした選手の応急処置やリハビリ,体のケアを行う。
自己紹介
負けず嫌いで,好きなことには没頭しやすい性格です。そのせいで,周りが見えなくなることも多いです。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2019年06月06日)時点のものです

選手の体をケアする仕事

選手の体をケアする仕事

私は,神奈川県に本拠地を置く「SC相模原」という,J3に属しているプロサッカークラブのアスレティックトレーナーです。選手が試合で最高のパフォーマンスを発揮できるように,「あんまマッサージ指圧師」「はり師きゅう師」などの資格や技術を活用して,選手の体のケアやケガの応急処置,リハビリの指導を行っています。私一人で,チーム全体を担当しています。
ふだんの練習や試合を通じて,選手の体には疲労がたまっていきます。そうした状態で放っておくと体が思うように動かず,ケガの原因にもなりかねません。そこで,選手の体のコンディションを整えるため,練習や試合の前後にマッサージを行うのです。基本的には,選手自身の希望に沿って行います。特にベテラン選手は入念なマッサージを望む傾向にあります。
Jリーグの各クラブには専属のトレーナーがいて,チームの一員として選手をサポートしています。私は,もともと接骨院に勤務しており,その接骨院とSC相模原が契約をしていて,チームに出向しています。

試合前日は何時間もマッサージを続ける

試合前日は何時間もマッサージを続ける

チームの練習がある日は,選手が集まる1時間ほど前にグラウンドへ到着するようにしています。マッサージ用のベッドを設置し,テーピング用テープなどを準備して,選手を待ちます。やがて選手が一人,また一人と私のもとへやって来ます。「上半身に疲れがたまっている」「左足に違和感がある」「腕を上げると背中が痛い」など,選手の抱える体の悩みはその日になってみないとわかりません。選手の話を聞き,それに応じたマッサージやテーピングを行います。選手の年齢や筋肉の質によって,マッサージのしかたも変わってきます。そのためチームの専属トレーナーは,全選手の特徴を覚えていなければなりません。
試合で遠征するときは,試合前日に現地のホテルに宿泊します。その際,1部屋を“マッサージルーム”として,選手が利用できるようにしています。試合の前日は入念なマッサージを希望する選手が多いので,みんなが受けられるよう,きちんとスケジュールを組んでおきます。一人にかける時間は約30分で,だいたい,夕方から23時くらいまでケアを続けます。私一人では間に合わないため,遠征のときは他のトレーナーにも手伝ってもらっています。

選手がプレーできるか判断するのも大事な役割

選手がプレーできるか判断するのも大事な役割

試合当日は,私もベンチに入っています。J3のリーグ戦は年間34試合あり,他にカップ戦などもあります。私はそれらの全試合で,必ずチームと動きを共にしています。サッカーの試合中,担架や救急バッグを持って,倒れた選手のもとにベンチからかけつける人を見たことがあると思いますが,それが私たちトレーナーです。ねんざや肉離れ,打撲などのケガをした選手に応急処置を行ったり,プレーの続行が可能かどうかを判断して監督に伝えたりするのもトレーナーの大切な役割なのです。
手当を受けた選手は「大丈夫,できます」とプレーの続行を希望する場合が多いのですが,もしもそのまま試合を続けてケガが悪化したら,以降の試合に出場できなくなるかもしれません。無理にプレーを続けることは,選手自身にとっても,チーム全体にとっても,大きなリスクになります。そこで,状況を冷静に判断できるトレーナーが必要とされます。選手の処置をしていたトレーナーがベンチに向かって,丸印やバツ印のサインでプレーの続行が可能かどうかを伝えるとき,そこにはプロとしての判断が反映されているのです。

判断するプレッシャー

判断するプレッシャー

この仕事に就いていちばん大変だったのは,選手の体の状態を判断しなければならないことでした。ふだんの私はチームのスケジュールに合わせて仕事をしていますが,シーズンオフや時間が空いたときは接骨院に勤務しています。治療法や患者さんの体の状態で迷ったとき,接骨院では先輩や院長に相談することもできますが,クラブにはそうした相談相手が常にいるわけではありません。選手の体の状態について間違った判断を下すことは許されないため,いつもプレッシャーを感じています。
「もう,すっかり体の調子が戻った。試合にも出られるよ」。リハビリ中の選手から,そんなふうに言われることもあります。試合に出たいという選手の気持ちはとてもよくわかりますが,トレーナーとして妥協することはできません。以前,治療中だった選手が「もう治ったから」と復帰した試合で,前と同じ部位をケガしてしまったことがあります。そのときは,「本人が言うのだから復帰できるのだろう」という私の判断がまずかったのではと,とても後悔しました。いまの私は,選手の状態を見極め,ときには選手の「出場したい」という意志に反してでも,慎重に判断を下すことが,トレーナーにとってもっとも大切なことだと思っています。

トレーナーにとって勝敗よりも大切なこと

トレーナーにとって勝敗よりも大切なこと

先日,ケガから復帰した3人の選手がそれぞれゴールを決めるという試合がありました。こういうときはうれしいですね。ケガでつらい思いをしている選手が,私の作ったリハビリメニューをもくもくとこなし,ピッチに戻って活躍する姿を見ると,これからも一人でも多くの選手を手助けしていきたいとあらためて思います。
私もチームの一員ですから,リーグ優勝は大きな目標です。体をケアすることだけでなく,ちょっとした声かけでも選手のパフォーマンスは向上します。肉体と精神,両方の面から選手たちをサポートして,優勝に貢献したいと考えています。そして,トレーナーとしては,チームの勝敗ももちろん大事ですが,試合を終えた選手が無事に戻ってきてくれることが,いちばんの喜びですね。

体のささいな変化を感じとる

体のささいな変化を感じとる

チームではプロサッカー選手をケアする一方で,接骨院では小さな子どもからお年寄りまで,幅広い患者さんの治療を行っています。いずれも人に接する仕事なので,心構えは同じです。トレーナーとして,どんな人にも真剣に向き合うことを心がけています。どなたもみんな,体の具合に困って私を頼ってきてくれるのです。いいかげんな態度で接することはできないし,手を抜くことも絶対にしません。
けれど自分の中でベストをつくしても,かならずしも満足してもらえるわけではありません。だからこそ,選手や患者さんが求めていることを,どれくらい感じとれるかがとても大切なのです。まずは,相手の話にしっかりと耳を傾けること。誰もが上手に,体の状態や思いを言葉にして伝えてくれるわけではないので,こちらからも積極的に声をかけるようにしています。目と耳,指先,言葉を使ったコミュニケーションで,体のささいな変化や変調を見つけ,さらに患者さんに質問をして言葉を引き出し,体の状態を把握するのです。そうすることが,よりよい治療につながります。

ケガをきっかけにトレーナーを目指した

ケガをきっかけにトレーナーを目指した

小学生のころからサッカーが大好きで,中学,高校ではサッカー部に所属していました。
高校2年生のとき,左膝に大ケガを負ってしまい,松葉杖での生活になりました。痛くて地面に足をつくことすらできません。病院に通っても,症状はあまり改善しませんでした。そんなとき,高校の先生から,ある接骨院を紹介してもらい,そこで教わったリハビリを繰り返すうちに,膝の状態がよくなったのです。やがて,無事にグラウンドへ戻ることもできました。
その接骨院で,初めてアスレティックトレーナーという職業を知りました。高校3年で進路を選択するとき,自分もこの職業を目指してみようと,専門学校に進むことを決断しました。自分自身がサッカーをしていたこと,ケガからリハビリで回復したことは,いまの仕事をするうえで,とても役立っています。自分の体験を選手に話すこともたびたびあります。どんな経験も無駄にならないものです。

しっかり勉強して自分の可能性を広げよう

しっかり勉強して自分の可能性を広げよう

自分の決めた道や好きなことは,とことん突きつめてほしいです。それが遊びや趣味でも構いません。何かこれと決めたことがあったら,時間を忘れて没頭してみましょう。もしかしたらその経験が将来の仕事につながるかもしれません。
また,学校の勉強はしっかりやってください。私自身,中学校ではあまり勉強をしませんでした。そのせいで第一志望の高校に合格することができず,落ちこんだものです。行きたい高校や大学,そこで学びたいことややってみたいことがあるなら,まずはしっかり勉強して合格することです。そうしないと,将来の可能性をせばめてしまいます。
私の場合は幸運にも,高校でのケガをきっかけに,やりたい仕事を見つけることができました。そして,トレーナーになるという目標が決まってからは,真剣に勉強に打ち込みました。おかげで今の仕事をするための国家試験にも無事に合格して,夢をかなえることができました。みなさんもしっかり勉強して,自分自身の可能性を広げてください。

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取材・原稿作成:尾関 友詩(ユークラフト)・東京書籍株式会社/協力:横浜銀行