仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

京都府に関連のある仕事人
みずのけんきゅうしゃ水の研究者
矢野伸二郎やのしんじろう
子供の頃の夢: 宇宙飛行士 教師
クラブ活動(中学校): なし
仕事内容
水の循環を理解し,将来に渡って豊かな水資源を守ることです。
自己紹介
今目の前にある水は,いったいどこから来るのだろう?そんな単純な疑問に答えるために研究しています。
出身高校
東邦大学付属東邦高等学校
出身大学・専門学校
東京大学大学院

※このページに書いてある内容は取材日(2019年07月04日)時点のものです

水の研究のために,やまおくの森の中へ

水の研究のために,山奥の森の中へ

わたしは,京都府そうらくぐんせいちょうにあるサントリーグローバルイノベーションセンター・水科学研究所で働く水の研究者です。水の研究といっても,からだの中の水から地球の問題まではばが広いですが,私はその中でも「森の中での水のじゅんかん」について研究しています。

研究者というと,毎日,研究室にこもってけんきょうやビーカーで実験に明けれているイメージがあるかもしれません。しかしわたしの場合は,自然の中でじゅんかんする水が研究のたいしょうです。その答えがあるのは,山や森などの自然の中。そのため,実験室にいるよりは,山や森へフィールドワークに出かけることが多くなります。

わたしつとめる飲料メーカーのサントリーでは,みなさんが飲んでいる「天然水」のすいげん,「サントリー天然水の森」を守る活動をしています。「天然水の森」は全国に15都府県21カ所にあり,そのそう面積は約12,000haにもなります。わたしは全国の「天然水の森」に出かけて,すいげんや森のじょうたいをチェック。ほかにも,地下水をみ上げる新たなすいげんこうを探して,さまざまな山に出かけています。

見えない地下水を見えるようにする

見えない地下水を見えるようにする

森に出かけるときは,わたしのような水のじゅんかんの研究者,すいしつの研究者,森やじゅもくせんもんなど,いろいろな人とチームを組みます。

森では,地上からは見えない地下水がどのように流れているかを知るためのヒントをさがします。道のないようなやまおくに入っていき,水がどこからき出て,どのように流れていくのか。季節や天候によって,その流れがどのように変わるのか。かんたんそくていを使ってその場で水のせいしつを調べ,空のペットボトルに水を入れて持ち帰り,研究室で細かくぶんせきします。

森でのフィールドワークで調べたことをもとにして,コンピュータシミュレーションを使って地上からは見えない地下水の流れを見えるようにする作業も行います。ほかにも,さまざまな分野の大学の先生やせんもんと新しくわかったしきや考え方についてろんをすること,それらをもとにろんぶんしっぴつしたり,学会で発表することも大切な仕事です。

多くの人の手にとどく「天然水」に関わる仕事へのほこ

多くの人の手に届く「天然水」に関わる仕事への誇り

この仕事の一番のやりがいは,いろいろな分野のせんもんが集まり,協力して,ものごとをやりげられることです。どうしたら「より良い水のじゅんかん」につながるのか。このたんじゅんな問いに対して,いろいろな分野のせんもんが,それぞれのてんから意見を出し合いろんします。私にとってはとてもげきてきで,じゅうじつした時間といえますね。

もうひとつのやりがいは,「サントリー天然水」というみなさんの手元にとどく商品に関わっていることです。2Lの天然水のラベルには,「およそ20年以上」という説明をさいしています。これは,「天然水の森」にった雨や雪が地中でろされ,工場でみ上げる井戸まで流れてくる年月のこと。まさにわたしたちが研究していることを,みなさんにわかりやすくお伝えしています。それを見て,「水って,おもしろいんだな。ロマンがあるな」ときょうを持ってもらえたら,とてもうれしいですね。「それだけしんけんに水と向き合っている会社の水だからおいしいんだ」と思ってもらえるように,日々がんばっています。

「わからないことが,わかるようになる」のがおもしろ

「わからないことが,わかるようになる」のが面白い

わたしは小学生のころから,なぜ地球が回っているのか,ちゅうはどんな仕組みになっているかということを考えることが大好きでした。しょうらいの夢は,ちゅうこう。理科は大好きだったのですが,その一方で,何かを覚えるのは大の苦手でした。れきの年表を覚えたり,同じ理科でもせいの名前を暗記したりするのは全然ダメ。どのような理由でけんが起こったのか,なぜそうばれるのかがセットじゃないと,頭に入ってこないんです。

小学生のときに買ってもらってちゅうで読んだのが,「ちゅうのひみつ」という本です。たいようけいの仕組みがどうなっているとか,実はたいようけいぎんけいの中心ではないとか,星をのみこむブラックホールはどうやってできるかなどがわかりやすく書かれていて,何度も読み返していました。今,り返ってみると,「どうしてそうなんだろう?」と考えることが好きだったんですね。わからないことが,わかるようになる。それが楽しくて,いつもわからないことをさがしていました。

自分の水の研究が人の役に立つかもしれない

自分の水の研究が人の役に立つかもしれない

大学は理学部に進学して,「面白そうだな」と水の研究を始めました。水のせいしつを調べると,その水がどこから来たのか,どうやってじゅんかんしているのか,といった目に見えない仕組みがかび上がってくるのが面白かったんです。研究を進めていけば,わからないことがわかるようになる。その楽しさに,どんどんのめりんでいきました。

そんなある日,大学にサントリーの水科学研究所につとめているというせんぱいがやってきて,話をする機会があったんです。それまで自分のきょう・関心のためだけに水を研究していましたが,せんぱいと話すうちに,「水って,飲むものなんだ!」と当たり前のことに気付かされました。わたしにとって,それまで水は研究のたいしょうでしかなかったんです。でも,そのせんぱいの仕事内容を聞いているうちに,もしかしたら自分の研究が「人の役に立つかもしれない」と。自分のしきじゅつを生かして,長い年月をかけて森が育んだ水のをたくさんの人たちにとどけられる──。サントリーならそんな仕事ができそうだ,と思うようになりました。

そこから,どうしてもサントリーで水の研究がしたいと考えるように。大学院での研究を終えて,念願のサントリーに入社,水科学研究所での研究がスタートしました。

「どうしたら人の役に立てるか」になやんだ日々

「どうしたら人の役に立てるか」に悩んだ日々

ところが,入社してしばらくは,自分の中で一番なやんでいた時期になりました。「人の役に立ちたい」とサントリーに入ったのに,どうやったら役に立つのかがわからなかったんです。自分のせんもんである「水のじゅんかん」が,どう商品に生かせるのかをイメージできずめいまよんだような気持ちで,「何のためにこれをやっているのだろう」と考える日々が続きました。

そんななやみをかいけつする方法を探して,研究所のせんぱい,工場のたんとうしゃ,お客さま,大学の先生など,ありとあらゆる人に話を聞きに行き,アンケートなどもお願いしました。そうやっていろいろな人の声を聞くうちに,自分の研究は,「今,使える水を大事にする」ことだけではなく,「しょうらいもお客さまに安全でおいしい水をとどける」ためになるという,なっとくのいく答えが少しずつ見えてきたんです。そして,それは「サントリー天然水」というブランドのを高めることになり,会社にとっても役に立つはずだと思えるようになりました。

みんなで取り組むことにSDGsのがある

みんなで取り組むことにSDGsの意義がある

国連が世界の目標として定めているSDGsにも,水は深く関わっています。ゴール6の「安全な水とトイレを世界中に」という目標は,まさにわたしたちサントリーが行うぎょう活動そのものです。ただわたしたちにとっては,SDGsがあるからがんろうというよりは,水を使うぎょうとして「水を守るせきにんがある」という強い思いをずっと以前からいだいて活動してきた,というのが正直な気持ちです。それが今のSDGsの活動につながったということです。

また,SDGsの「だれも置き去りにしない」という理念や「国もぎょうじんもみんないっしょがんる」という考え方には,とても共感しています。水はだれのものでもなく,そのいきどうしょくぶつふくむみんなのもの。自分たちがどう生き残るかではなく,みんなにとって大切な水の課題を,どうやってみんなでかいけつするかというてんを持って考えることがとても大切です。

しょうらいも持続的に安全でおいしい水をかくするためにはどうしたらいいのか。とつぜんしんが起こったら水の流れはどうなるのか,気候変動などがげんいんこうずいや水不足がえたらどんな世界になるのか。そうぞうりょくを働かせ,いろいろなてんで考えていかなくてはいけません。わたしたちも「水のじゅんかん」や「森と水」というてんから,けいけんていきょうしていきたいと思っています。

好きなことの理由を考えてみよう

好きなことの理由を考えてみよう

わたしは,自分のしょうらいの仕事を考えるとき,「○○が好きだから」という理由を持つことがとても大切だと思っています。好きなことならちゅうになってがんれるし,何より楽しいからです。そのときに,どうしてそれが好きなのか,それの何が好きなのかを,ぜひじっくり考えてみてください。人気者になれるから,上手にできるとうれしいから,チームで戦うのが楽しいから…。いろいろな理由があっていいと思います。

「好き」には,必ず理由があります。わたしの場合は,「わからないことが,わかるようになるのが楽しい」でした。だから,今でも水の研究が面白いし,その仕事ができる毎日がとてもじゅうじつしています。ただし,わたしには好きなことがほかにもあります。子どもたちの笑顔を見るのが好きなので,学生時代はきょうにも興味がありました。もちろん,ちゅうこうになるゆめは,今でもあきらめていません。

みなさんが大人になるときは,今はまだない仕事が生まれているかもしれません。目の前にならんでいる仕事から選ぶのではなく,自分が本当に好きなことを新しい仕事として作り出すこともできるはずです。みなさんの人生は,みなさんひとりひとりのもの。自分の人生で,自分はいったい何をしたいのか。それを考えることが,本当にやりたい仕事をするヒントになるはずです。

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科学のお話編集委員会
身近な疑問に科学の視点で答えてくれます。解説のわかりやすさと正確さのバランスが絶妙で,研究者としても勉強になります。「いくつか説があり,現在有力なのは…」という項目もいくつかあり,世の中にはまだはっきりとわかっていないことがたくさんあるということも,また面白いポイントです。

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サントリーホールディングスのSDGsへの取り組み
取材・原稿作成:株式会社日経BP