※このページに書いてある内容は取材日(2018年11月01日)時点のものです
高速道路の高架橋をつくるのが今の仕事
私は株式会社大林組という建設会社で,現在建設中の新東名高速道路(神奈川県から愛知県へ至る高速道路)の一部となる高架橋をつくる現場の現場監督をしています。
私たちが今,つくっているのは,静岡県の駿東郡小山町にある「中島高架橋」という長さ500メートルほどの高架橋です。高速道路をはじめとする土木構造物は,“インフラ”と呼ばれる,社会や生活を支える基盤の一つで,国や都道府県,高速道路会社などが発注者となります。
今,私が担当している高架橋の工事は,主に3つの段階に分かれています。まずは,「基礎」と呼ばれる,柱の土台になる部分の工事です。高速道路を支える大きな柱ですから,基礎部分に掘る穴も,直径が最大で12メートルもの大きさになります。この穴に鉄筋を入れてコンクリートを流し,「基礎杭」をつくります。次にこの基礎から,「橋脚」という高さ8~46メートルの柱を立ち上げます。そして,橋脚が完成したら,実際に道路が通る「橋げた」を左右に伸ばしていきます。隣の橋脚からも伸ばしていって,お互いをつないでいきます。そうやって,500メートルを7本の橋脚で支える橋を完成させます。
さまざまな部分で現場を管理・監督する
発注者や協力会社とやりとりしながら工事を進める
今の現場では,朝7時45分の朝礼から一日がスタートします。全員でラジオ体操をして体をほぐしてから,その日の作業予定と安全のポイントをチーム全員で確認し,危険の芽をつぶします。現場は体力を使うので,健康管理も欠かせません。特に夏は熱中症のリスクが高いので,朝の段階で作業員さんたちの体調に異変がないか,顔を見ながらしっかり確認します。
日中は,事務所で協力会社へ連絡をしたり,書類を作ったり,現場に出て,作業が安全に行われているかをチェックしたりします。工事を進めるための計画書を策定し,それを元に現場で作業をしてもらうための図面を作ったり,現地を測量して,詳細の計画に反映させたりもします。また,実際にコンクリートを流したり,重機で土を掘ったりという作業をしてもらう協力会社を選んで契約するのも,現場監督の仕事です。
現場監督の仕事には大きく2種類あり,現場に出て作業員さんに指示をする役割と,発注者とやり取りしながら,スケジュールやお金を管理していく役割があります。私は,現在は後者の立場なので,比較的デスクワークが多いです。若手のうちは現場のことを知るためにも,現場での管理業務がメインとなり,作業員さんたちに作業を指示しながら,いろいろなことを教えてもらいました。
日本全国,さらには海外の建設現場にも行く可能性がある
土木工事は長期間にわたることが多く,工事がスタートしてから完成するまで,必ずしも同じ現場にいられるとは限りません。基本的に,工事が進むにつれて,現場事務所にいる人員は変化していきます。最初は少人数でスタートし,工事がピークの時期には現場監督の人員は増えます。完成が近づくとそんなに多くの人員は必要なくなります。そのため,私たち現場監督は,完成を待たずに次の現場に移動する,ということもよくあります。
また,日本全国,ときには海外の現場にも行く可能性があります。私自身,最初の現場は京都でした。今は静岡県の現場に来て1年ほど経ちましたが,いつまた別の現場に行くかもわかりません。
生活する場所を変えなくてはいけないのは大変ですが,それでもやはり現場は魅力的です。就職してから3つの現場を経験し,その後はしばらく東京本社の設計部で働いていました。その間に結婚・出産を経験し,子どもが小さいうちは時間的拘束が長い現場勤務は諦めていましたが,また「現場に出たい!」と思うようになりました。会社と話し合い,希望を叶えてもらって,1年前からこの現場に赴任しています。
自然相手の工事は不測の事態だらけ
土木工事は,自然を相手にする仕事です。天候や天災が,工事の進み具合に大きく関わってきます。例えば2018年は台風が多く,その都度,夜も現場に待機して,現場に異常がないか確認していました。台風でなくても,雨や風の状況次第では,危険な作業はできません。現在の現場は富士山が近いことから,強い風が吹くことも多いんです。風速が強ければ,クレーンは使用できません。このように,自然条件で作業が制限されてしまうことが多々あります。冬になると,水道が凍って出なくなってしまったり,重機のエンジンが凍って動かなくなってしまったりということも起こるので,対策が必要になります。
また,外から見えない地中部分は,掘ってみないと何が起きるかわかりません。事前に地中を掘ってどんな地質か調べていますが,調査で掘ったところからちょっと離れると大きな石にぶつかることもあります。硬い石がゴロゴロしている地盤だと,数センチ掘り進めるのに2~3時間かかることもあります。予測していない場所から地下水が出ることもあり,地中に関しては,いつも不測の事態だらけです。そんな状況でも,工期を遅らせないようにしなくてはいけない。そのリスク管理は難しいですね。
共通のゴールに向かう一体感が好き
「風景が変わっていくのを間近で見られる」のは,この仕事の大きな魅力だと思っています。山だったところが削られ,道ができ,橋ができていく,といったように,風景が毎日変わり,同じ風景が1日もないんです。変化した景色を見て,工事を主導している私たちでも,思わず「すごい!」と感じることがあります。
また,現場にはいろいろな立場の人が関わります。私は現場を管理する立場として,協力会社の作業員さんや職人さんたちと一緒に仕事をします。それぞれの現場には「構造物を完成させる」という,共通のゴールがあります。そのゴールに向かって,全員が同じ方向を向いて動いて,長い時間をかけてゴールしたら解散する。いわば一期一会のプロジェクトチームですが,この一体感がすごく好きなんです。
自分が工事に関わった橋が開通して,車が走っているのを見ると,感無量ですね。実際に車に乗って通ると,ものの数秒のあっという間のことですが,橋の全景を見られる地点があれば,そこから眺めて「私たちがつくったこの橋も,この風景になじんでいくんだな」と思う,そういう瞬間はとてもうれしいです。
楽しく仕事ができるように,下地を作る
私たち現場監督には,発注者と現場の作業員さんや職人さんたちとの間に入る,橋渡し的な役割もあります。現場では日々,不測の事態が起こります。天候が悪く作業ができない,地中を掘ったら水が出てきてしまった……そういうときに「じゃあこういう解決をしよう」という技術的な方法を提案するのは私たちですが,「なぜその方法をとるのか」を発注者に説明する義務もあります。そこで「こういう理由があったので,この方法に変更をしました」と,根拠をもって発注者に説明するのも私たちの役目です。
日々の仕事の中では「楽しくやる」ことを心がけています。みんなが仕事をしやすい環境を整えて,現場をうまく進めていくのが私たちの役割ですが,その中で自分も楽しむし,周りにも楽しんでもらう。楽しく仕事ができるように下地を作るのが私の仕事だと思っています。
現場監督というのは人を動かす立場ですが,同じ現場にいても立場が違えば見えているものも違います。しっかりとコミュニケーションを取り,みんながちゃんと納得して,気持ちよく作業できるように,きちんと説明をします。一緒に苦労することになっても,作業員さんや職人さんたちに,また別の現場で「あいつがあそこの現場で苦労しているなら,助けに行ってやるか」と思ってもらえるような人間関係を作っていきたいと思っています。現場で過ごした日々が,思い返すと楽しく感じられるようにしたいですね。
歴史に残るものをつくれるというロマン
もともと子どものころから,橋などの大きなものを見るのが好きでした。「こんな大きなものを人がつくれるんだ。どうやってつくるんだろう」といつも思っていたんですね。また「ものづくりに携わる仕事がしたい」というのは漠然と思っていました。でも高校生になっていざ自分の進路を考えたとき,例えば化学薬品メーカーで化粧品を作ったり,機械メーカーでロボットを作ったりするのも魅力的だけど,自分は大きなものをつくりたい,という思いが湧いてきて,大学は理工学部の土木工学科に進学しました。学んでいく中で,橋やトンネルなどの土木構造物は,100年使えるように設計するというところに大きなロマンを感じました。就職のときには,インターンシップで,発注者である官公庁の仕事や,設計会社の仕事も体験しましたが,やはり「ものをつくっている実感をじかに感じたい」という思いから,今の建設会社を選びました。
興味があることは,まずやってみる
幼いころは,好奇心が旺盛で活発な子どもでした。「頑固」「変わっている」とも言われていましたね。絵を描いたり,ものを作ったりすることも好きで,森に毛布やダンボールを持ち込んで秘密基地を作っていたこともあります。高校生くらいのときは地図が好きで,よく眺めていました。今でも地図があればずっと眺めていられます。
興味があることに対してはやらないと気が済まないタイプで,なんでも「まずやってみて,それから考えよう」というところがあるかもしれません。ですから,わりと直感で物事を選択することが多いです。大学では景観デザインやまちづくりを専門にする研究室に所属しました。そこは,出身大学の土木工学科で初めて女性の教授が赴任して,新設された研究室でした。そこに入ることを選んだのも,なんだか面白いことができそうだと興味をもったから,というのが理由です。そこで土木工事が地域の風景や環境に与える影響を学んで培った価値観は,橋やトンネルなどの公共インフラをつくる今の仕事にも役立っています。
自分の選んだことが何につながるかはその後に考えればいい,まずは自分の直感を大切にしよう,という気持ちで動いてきた気がします。
好きなことを見つけるため挑戦してほしい
みなさんには,ぜひ,好きなものを見つけてほしいです。見つけるためにはいろいろな経験をたくさんしてほしいし,興味を持ったらなんでもチャレンジしてみてほしい。「百聞は一見にしかず」で,まずはやってみるほうがいいですよ。
私自身,この業界に入るときには「男性社会で大変だよ」「女の子には体力的に厳しい仕事だよ」といろいろな人に言われました。みんながそう言うならそうなのかな,とも最初は思いましたが,やってみないことにはわかりません。結果的に,今の仕事は大好きですし,とてもやりがいを感じています。実際,最初こそ現場で会う人会う人に「なんでこの仕事を選んだの?」と言われましたが,この10年ほどで女性の現場監督も増え,現場に女性用のトイレや更衣室が整備されるなど,“現場で女性が一緒に働く”ことは珍しいことではなくなりました。土木の世界で女性の働く環境がずいぶん変化した今,女性だから苦労するというようなことは,正直あまりないんです。
だから,面白そうだなと思ったら,まずはなんでも飛びこんでみてほしいな,と思います。