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兵庫県に関連のある仕事人
1986年 生まれ 出身地 兵庫県

中村(なかむら) 孝一(こういち)
子供の頃の夢: 弁護士
クラブ活動(中学校): 陸上部
仕事内容
「学校に行けない」「塾じゅくに通うことができない」「勉強がわからない・嫌きらいだ」。そんな気持ちを持った子どもたちが、「勉強がわかる!学ぶことが楽しい!」と思えるように、インターネット上で学習できる教材を作る。
自己紹介
新しいことを知ったり、考えたりすることが好きです。集中力がありますが、怒おこりっぽいところもあります。人と関わることは苦手ではないですが、それほど好きではありません。休日は、とにかく自分の子どもと遊んでいます。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2026年06月15日)時点のものです

「学びをあきらめない社会」を目指して

「学びをあきらめない社会」を目指して

私わたしはNPO法人eboard(イーボード)という団だん体たいの代表を務つとめています。eboardは「eboard」というオンライン教材を用いた学習支し援えん活動を行っており、小・中・高校生向けに、授じゅ業ぎょうの動画とデジタルドリルを配信しています。「eboard」は、インターネットを通じて、無料で自由に、自分のペースで学ぶことができる教材です。経けい済ざい的てきな理由や不登校で学校や塾じゅくに通うことが難むずかしい人や、さまざまな障しょうがいや特とく性せいから学びづらさを抱かかえている人が、学ぶことをあきらめないですむ、そんな社会を目指して活動しています。
「eboard」は、聴ちょう覚かくに障しょうがいがあるろう・難なん聴ちょうの人、外国にルーツがあり日本語を勉強している人、音による説明が合わない人など、他の人と同じ方法だと学びづらいという人も使ってくれています。そのため、難むずかしい言葉やあいまいな表ひょう現げんをわかりやすく書き直した「やさしい字じ幕まく」を全ての動画につけたり、全ての漢字にルビ(ふりがな)をつけたりなど、さまざまな工く夫ふうを取り入れています。そのほか、「eboard」以外にも「学びから取り残されない」環かん境きょうをつくる取り組みをどんどん増ふやしています。

AIを使った新しい取り組みも

AIを使った新しい取り組みも

最近は、オンライン教材「eboard」だけでない、新たな取り組みも始めています。例えば、フリースクール(学校に行きたくない、行けないという人が、学んだり過すごしたりすることができる民間施し設せつ)のスタッフに向けた研けん修しゅうプログラムを開発し、自治体や施し設せつと協力して提てい供きょうしています。研けん修しゅうでは、eラーニングやグループワークを通じて、子どもと関わる大人が必要な知ち識しきや考え方を身につけることができます。子どもに寄より添そう人をサポートすることで、子どもが安心して学び、過すごせる場所を、社会全体で増ふやしていきたいと考えています。
そのほか、先ほどの「やさしい字じ幕まく」の利用者のように、日本語の文章が難むずかしいという人のためのAIツールを開発して提てい供きょうしています。このツールは子どもから大人まで使うことができ、わかりづらいと感じる文章を入力すると、すぐにわかりやすい言葉や表ひょう現げんを使って、簡かん潔けつな文章に書き直してくれます。
活動を続けるための資し金きん集めも、私わたしの重要な仕事の一つです。私わたしたちのようなNPO法人も普ふ通つうの会社のように商品やサービスを売ってお金を得えることもありますが、企き業ぎょうや財ざい団だんに申しん請せいして助成金をもらったり、寄き付ふ金きんを集めたりして、活動資し金きんを集めて活動することもあります。

組そ織しきの代表として、NPO法人を運うん営えい

組織の代表として、NPO法人を運営

「eboard」は2011年に、私わたしの個こ人じん的てきな活動として始まりました。最初のころは動画制せい作さくからシステムの開発・更こう新しん、使ってくれる人とのコミュニケーションまで、全て自分でこなしていました。活動を始めてから数年の間に、一人で作った動画は2000本にもなりました。2013年にNPO法人化し、現げん在ざいはスタッフも20人ほどに増ふえたので、今は、それらの仕事はメンバーに任まかせています。
その代わりに「代表」という立場で、その年の経けい営えい方ほう針しんや目標を決めるなど、団だん体たいの運うん営えいに関わる仕事をしています。そのほかに、企き業ぎょうや自治体など私わたしたちの活動に共感してくれる外部組そ織しきの人たちと、どのような取り組みができるかを話し合うことも多いです。最近では、オンライン教育や子どもの学習環かん境きょう支し援えんの専せん門もん家かとして意見を求められる機会が増ふえ、講こう演えん会かいで話したり、国や地方の政せい策さくを考えている議員の人たちに対して、提てい言げんをしたりすることもあります。
また、NPO法人eboardでは、全員がリモートワークをしていて、自分のペースで仕事をすることができます。そのかわりに、自分でその日の目標やスケジュールを決めて、仕事を進めないといけません。私わたしが時間管理で工く夫ふうしていることは、2つあります。1つ目は、平日は毎日、午後5時から9時まで仕事の予定を入れず、「パパタイム」として自分の子どもと過すごすことです。日ごろ、たくさんの子どもと関わる仕事だからこそ、自分の子どもと触ふれ合あう時間を大切にしたいと思っています。2つ目は、週に1日は必ず会議を入れない日を設もうけることです。そうやってまとまった時間を作り、新しい企き画かくのアイデアを練ったり、形にしたりするための作業に集中しています。

「誰だれかのための活動」を続けるために必要な「お金」の話

「誰かのための活動」を続けるために必要な「お金」の話

「eboard」は、必要としている人はたくさんいますが、使う人からはお金をもらわずに運うん営えいをしています。しかし、運うん営えいしていくためにはお金もかかるので、寄き付ふや他の活動でお金を稼かせぐ必要があるのです。活動を始めてから10年近くは、寄き付ふ金きんや協力してくれる企き業ぎょうもなかなか集まらないので、お金の面では長い間とても苦労しました。
そんな中、転機となったのは2020年に起こった新しん型がたコロナウイルスの流行です。多くの学校が休校になったことで「eboard」の利用者が一気に増ふえ、私わたしたちの活動が広く知られるようになりました。その後、教育のオンライン化の流れが急速に進み、塾じゅくやフリースクールがお金を出して導どう入にゅうしてくれる事例も増ふえました。自治体や企き業ぎょうから依い頼らいを受けて、お金をもらう事業として一いっ緒しょに取り組んでいる活動もあります。
現げん在ざいは赤字に悩なやむことは減へりましたが、新たな事業を行う機会や運うん営えいに携たずさわるスタッフが増ふえてきたことで、他の課題も出てきました。例えば、一人で活動していたころは「自分が頑がん張ばればどうにかなる」と無理をして乗り切ることもありました。しかし、今は他のスタッフの働き方やお給料のことも頭に入れながら、どうしたら活動資し金きんの中で実じつ現げんできるのかを考えなくてはいけません。また、新しい企き画かくを考える人材が足りていない現げん状じょうも悩なやみどころです。これまで以上に、経けい営えいや組そ織しきの運うん営えいについて真しん剣けんに考える場面が増ふえています。

子どもたちの声が原動力

子どもたちの声が原動力

今では日本全国で1万校以上に導どう入にゅうされている「eboard」ですが、初めて使いたいと言ってくれたのは、島根県の吉よし賀か町ちょうという小さな町の教育委員会でした。2013年、eboardをNPO法人化する直前のことで、「eboard」の「生徒がそれぞれのペースで学習できる」点に着目してくれました。学校での導どう入にゅうは初めての経けい験けんでしたので、町の担たん当とう者しゃと一いっ緒しょに「どうしたらもっとわかりやすくなるか」「どうしたら子どもたちが自分から学んでくれるか」について、毎日のように話し合いました。生徒のいる教室でその場でシステムの修しゅう正せい作業をしたり、私わたし自身が教きょう壇だんに立って「eboard」を使いながら授じゅ業ぎょうをしたりしたこともあります。たくさんの試し行こう錯さく誤ごを経へて、生徒たちがそれぞれ自分のペースで「eboard」で学ぶ光景を見たとき、「この活動は間ま違ちがっていなかった。続ける意い義ぎのあるものなのだ」と確かく信しんを持つことができました。NPO法人としてしっかり腰こしを据すえて活動していこうと決意したのも、このときです。
あれから10年以上がたちますが、どんなにお金がなくて苦しいときでも活動を続けてこられたのは、「『eboard』のおかげで『大だい丈じょう夫ぶ』って自信を失わずにいられた」という子どもたちからの声があったからです。同時に、まだまだ日々力不足を感じることも多く、「ここでやめるわけにはいかない」と強い責せき任にんも感じさせられます。その思いはずっと変わりません。

「みんな」ではなく「顔の見える一人」のために

「みんな」ではなく「顔の見える一人」のために

eboardが特に大切にしていることは、「声なき声」を聞くことです。社会では「みんな」の声を聞くことはありますが、「みんな」とは違ちがう少数の人の声はなかなか届とどきません。そんな「みんな」の中にいない人の「声なき声」を聞くことが、私わたしたちのすべきことだと考えています。だから、アンケートで「これがほしい」と大おお勢ぜいから言われたからといって機き能のうを増ふやしたり、学者や偉えらい人の意見をそのまま採さい用ようしたりすることはありません。eboardの活動は全て、不特定多数の「みんな」の声ではなく、実じっ際さいに「eboard」を使ってくれている子どもや保ほ護ご者しゃ、先生など現げん場ばの人たちからの声に応こたえるところから始まっています。
例えば「やさしい字じ幕まく」をつける際さいに、ただ音声を文字に起こすだけではなく、わかりやすい日本語に書き直しているのもその一つです。実は、字じ幕まくをつけるプロジェクトを始めた当初は、音声を文字に起こしただけのものを使えばいいと考えていました。しかし、それをろう学校の先生に見せたところ、「これでは難むずかしいと思う」と言われてしまいました。そのとき、ろう・難なん聴ちょうの人は耳からの情じょう報ほう収しゅう集しゅうができなかったり、手話が第一言語だったりするため、そうでない人よりも日本語の語ご彙いの習しゅう得とくが遅おくれる傾けい向こうにあるという課題を初めて知りました。また、日本語支し援えん団だん体たいとの交流を通じて、外国にルーツを持つ子どもの中には、日にち常じょう会話は問題なくできても、授じゅ業ぎょうで使う日本語を理り解かいできるレベルに達していない場合があることもわかりました。このような課題は見み逃のがされやすく、実じっ際さいに困こまっている人やその近くにいる人からしか聞くことができません。
私わたしたちは現げん場ばからの声をもとに、当事者である子どもたちにとってわかりやすい日本語とはどのようなものかを考えて、制せい作さくマニュアルを整せい備びし、字じ幕まくをつけていきました。多くの手間や時間がかかりましたが、1000人以上のボランティアの方が協力してくれ、eboardの全ての動画に「やさしい字じ幕まく」をつけることができました。
誰だれもが安心して学べる場をつくるために、実じっ際さいに困こまっている「顔の見える一人」の声を大切にしていきたいと思っています。

学習につまずきを抱かかえる子どもとの出会いがきっかけ

学習につまずきを抱える子どもとの出会いがきっかけ

こういう活動をしていると、昔から教育の仕事に関心があったのか、人のために働くことが好きだったのかと聞かれることがあります。たしかに、昔から戦争などの悲しいニュースに影えい響きょうを受けて自分も悲しくなってしまうようなタイプでしたが、「自分にも何かできるのでは」とか「何かしたい」と思ったことは特にありませんでした。
そんな私わたしがこの活動を始めたのは、大学生のころに講こう師しとして働いていた学がく習しゅう塾じゅくでの経けい験けんがきっかけです。そこに通っていた生徒の中に、アルファベットの「b」と「d」が書き分けられない、学習した内ない容ようの記き憶おくがなかなか続かないといった生徒がいました。でも、塾じゅくで個こ別べつに一いっ緒しょに勉強すると、確たしかにできることが増ふえていく実感はあったので、なんとか塾じゅくの時間を使って学習を進められるように工く夫ふうをしました。
例えば、彼かれが塾じゅくに通えるのは週1回の数時間だけですが、それを記き憶おくとして定着してもらうには、家でも継けい続ぞくして学習してもらう必要があります。内ない容ようを理り解かいしないままでは自習ができないので、塾じゅくではつきっきりで理り解かいするまで指し導どうし、残りの時間はなるべく自分で考えて問題が解とけるようにサポートしながら練習をしました。ところが、少しずつ点数が伸のび、彼かれもやる気になり始めたころ、家庭の事じ情じょうで塾じゅくをやめることになってしまいました。それがとても残念で、強く印いん象しょうに残っています。その後も同じように学習や家庭環かん境きょうに問題を抱かかえている子どもたちと数多く出会い、「この状じょう況きょうをどうにかしないといけない」と思うようになりました。
このときは具体的なアイデアもなく、一度は一いっ般ぱん企き業ぎょうに就しゅう職しょくをしたのですが、子どもたちの学びを支ささえられるような活動をしたいという気持ちが強く、ずっと何ができるかを考えていました。その後「eboard」のアイデアを思いつき、1年ほどで仕事を辞やめて本ほん格かく的てきに動画制せい作さくを始めました。

学校は退たい屈くつ。でも、好きなことには熱中できた

学校は退屈。でも、好きなことには熱中できた

私わたし自身は、もともと授じゅ業ぎょうでも積極的に手を挙げるような、成せい績せき優ゆう秀しゅうな優ゆう等とう生せいでした。でも、小学5年生くらいから、友達と遊んでいる最中にふと「毎日同じ遊びをしているけど、何が楽しいんだろう」と感じたり、学校でも「わかっていることでも、先生の授じゅ業ぎょうを聞かないといけないのは、なんでだろう」と感じるようになりました。そのような考えを持っていたので、自然と同級生たちとも話が合わなくなっていきました。
その後は、学校がとにかく退たい屈くつで、遅ち刻こくや欠席を繰くり返かえしていました。一方で、家ではRPGゲームに熱中し、レベルは必ず最大まで上げて、マップもすみずみまで調べて宝たから箱ばこを全部開けるくらい、一つ一つのソフトをやりこんでいました。
「eboard」の動画を一人で2000本作ったときもそうですが、好きなことや興きょう味みのあることには、とことん集中して深ふか掘ぼりしてしまいたくなる性せい格かくだと思います。今も例えばAIを使って、もっと学びやすくなる、楽しくなるといった可か能のう性せいが見えてくると、寝ねるのも忘わすれて夢む中ちゅうになって打ちこんでしまうことがあります。その傾けい向こうは変わらないのかもしれません。

逃にげた先でも居い場ば所しょは見つかる。自分のために生きよう

逃げた先でも居場所は見つかる。自分のために生きよう

私わたしはこれまで、大学時代の経けい験けんやeboardの活動を通して、学校に行けなかったり、家庭やまわりの環かん境きょうに悩なやみを抱かかえたりしている人の姿すがたをたくさん見てきました。今、関わっている子どもたちと状じょう況きょうは異ことなりますが、私わたし自身もずっと学校に行くことが嫌いやで仕方がなかった過か去こがあります。
そのような経けい験けんを踏ふまえて、私わたしがみなさんに伝えたいことはただ一つ、「逃にげてもいいんだ」ということです。今いる場所がつらいなら、そこから逃にげればいい。逃にげた先がつらければ、また逃にげればいい。そうやって逃にげた先に、どこかで自分の居い場ば所しょが見つかることもあります。見つからなくても、時間が解かい決けつしてくれることもたくさんあります。誰だれかのために我が慢まんする必要はありません。まずは、自分のために生きることを大切にしてください。

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取材・原稿作成:塩路 真理子(PlayceCUBE)・東京書籍株式会社