仕事人

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岡山県に関連のある仕事人
1947年 生まれ 出身地 岡山県

野﨑(のざき) 末廣(すえひろ)
子供の頃の夢: 地方公務員
クラブ活動(中学校):
仕事内容
瀬せ戸と内ない海かいで,カキの養よう殖しょくを営いとなむ。天然のカキの種しゅ苗びょう(幼よう生せい)を海中で集め,1年半ほど育てて出しゅっ荷かする。出しゅっ荷かの際さいには,殻からをむく加工も行う。
自己紹介
子どものころから生き物が大好きで,犬,ウサギ,小鳥など,いろいろな動物を飼かってきました。今は孫のためにウサギを飼かっています。最近の楽しみは,近所の同級生仲間の月1回の集まりです。幼おさないころからの友だちは,人生の宝たから物ものです。

※このページに書いてある内容は取材日(2019年12月18日)時点のものです

カキ養よう殖しょくを営いとなむ漁りょう師し

カキ養殖を営む漁師

私わたしは,岡おか山やま県けん瀬せ戸と内うち市しの虫むし明あげというところで,息むす子こと一いっ緒しょに漁りょう師しをしています。おもな仕事はカキの養よう殖しょくで,以前は妻つまも一いっ緒しょに漁をしていましたが,10年前にカキのくん製せいやオイル漬づけなどの加工と販はん売ばいを始め,今はその仕事に専せん念ねんしています。
カキの養よう殖しょくは,北ほっ海かい道どうから九きゅう州しゅうまで広く行われていますが,波が穏おだやかな瀬せ戸と内ない海かいではとくにさかんです。生産量は広ひろ島しま県けんが全国1位,宮みや城ぎ県けんが2位で,岡おか山やま県けんは3位です。虫むし明あげは,岡おか山やま県けんのカキ養よう殖しょく発はっ祥しょうの地なんです。昭和の初期に学校の先生が,漁りょう師しの収しゅう入にゅうを上げようと若わか者ものたちと一いっ緒しょに研究を始めたそうで,私わたしの叔お父じがその若わか者ものの1人でした。さまざまな失敗もあったそうですが,1960年ごろには養よう殖しょくの方法が確かく立りつされて,虫むし明あげの漁りょう師しの多くがカキの養よう殖しょくをするようになりました。
養よう殖しょくの方法は,気候や海の環かん境きょうによって地ち域いきごとに違ちがいます。岡おか山やまでは7月末~8月上じょう旬じゅんの産さん卵らん期きにホタテガイの殻からを海に入れ,カキの種しゅ苗びょう(幼よう生せい)を付着させます。これを岸の浅い所に置いておき,翌よく年ねん5月に筏いかだにつるして本ほん格かく的てきに育て始めます。収しゅう穫かくはその年の11月~翌よく年ねんの4月ごろです。出しゅっ荷かは殻からをはずした「むき身」で,身をむく作業もわれわれ漁りょう師しが行うため大おお忙いそがしです。昔は農家の人に手伝いを頼たのみましたが,今は人手不足で,ベトナム人など外国人の技ぎ能のう実習生の力を借りています。

毎日ワクワクする「つぼ網あみ漁りょう」

毎日ワクワクする「つぼ網漁」

カキ養よう殖しょくのほかに,6月~10月には「つぼ網あみ」という小型定てい置ち網あみ漁りょうも行っています。つぼ網あみは,瀬せ戸と内ない海かいの伝でん統とう漁りょうです。水深5m前後の浅い海に円形の網あみを仕し掛かけて魚などが入るのを待つ漁法で,魚だけでなくエビ,カニ,イカなどいろいろな生き物が入るので,今日はどうかなと,毎日ワクワクします。最近はもう一つ楽しみがあるんですよ。スナメリというイルカの仲間が,私わたしが網あみを上げに行くと遊びに来るんです。
最さい盛せい期きには,30軒けん近くがつぼ網あみをしていて,沿えん岸がんには200以上ものつぼ網あみがひしめいていました。しかし近年は魚離ばなれなどで魚の値ね段だんが安くなってしまい,今は私わたしのところの1軒けんだけになりました。でも,毎日ワクワクするのが楽しくて,私わたしは体が動くうちは続けようと思っています。

天然の種しゅ苗びょうを集めて育てる

天然の種苗を集めて育てる

カキ養よう殖しょくの仕事は1年中ありますが,とくに忙いそがしいのは,まず,種しゅ苗びょうを集めるとき。次に,本ほん格かく的てきに海中に吊つるすとき。それから出しゅっ荷かの時期です。
カキの種しゅ苗びょうの採さい集しゅうには,ホタテガイの殻からを使います。殻からの中央に穴あなを開けて,60枚まいずつ針はり金がねに通した「採さい苗びょう器き」を作り,これを1000本吊つるした筏いかだを,私わたしは3台用意します。カキの卵たまごは目に見えないほど小さく,産さん卵らん期きになると毎日,漁協が海水を顕けん微び鏡きょうで調べて産さん卵らんの状じょう況きょうを教えてくれます。東風が続くと,カキの卵たまごが吹ふき寄よせられる湾わんがあるんですよ。タイミングをみて,採さい苗びょう器きの筏いかだを船でひいていって,そういう場所に設せっ置ちします。
成長しながら海中を漂うカキの幼生は,やがてホタテガイの殻に付着します。種がつくと黒い粒つぶ々つぶが肉にく眼がんでも見えるので,採さい苗びょう器きを1本ずつ筏いかだに上げて日光に数時間さらす,間引きの作業を始めます。こうすると弱い種は死んで,強い種が残るんです。
それから翌よく年ねんの春までは,岸辺の浅い海に施し設せつを作って採さい苗びょう器きを吊つるしておきます。ここは干かん潮ちょう時に水面から出てしまう過か酷こくな環かん境きょうで,あえてカキを成長させないようにするんです。弱い種をさらに間引くほか,出しゅっ荷かの時期を調整する目的もあります。
5月になると,本ほん格かく的てきにカキを育てる準じゅん備びです。まず,太い竹を組んで作った筏いかだを,内ない湾わんや島しま陰かげなど穏おだやかな海かい域いきに錨いかりで固定します。次に,採さい苗びょう器きのホタテ殻がらを針はり金がねからはずしてばらし,ロープの縄なわ目めに15cm間かん隔かくで20枚まいずつはさんでいきます。このロープを筏いかだ1台に800本ほど吊つるします。作業は船の上で行い,すべて終えるまで1か月ぐらいかかります。この時期のカキは親指の爪つめサイズで,ホタテ殻がら1枚まいにつき10~20粒つぶまで。これを私わたしは理想にしています。種をもっと多く残す人もいますが,私わたしは,少数精せい鋭えいを大きく確かく実じつに育てるという考え方です。
このあと,台風シーズンが終わるまで,大きな作業はありません。でも筏いかだをよく見回ってカキの様子を観察し,漂ひょう着ちゃくごみを取とり除のぞき,異い変へんをチェックします。この時期にどれだけ手をかけるかが,品ひん質しつや収しゅう量りょうに響ひびいてくるので手て抜ぬきも油ゆ断だんもできないんです。

身を殻からからはずして出しゅっ荷か

身を殻からはずして出荷

10月ごろになると,いよいよ出しゅっ荷かに向けてカキを太らせるため,筏いかだを船で引っぱって潮しお通どおしのいい湾わんの外に移うつします。カキの食べ物はプランクトンです。湾わん内ないは台風の荒あら波なみから筏いかだを守ってくれますが,カキの筏いかだが密みっ集しゅうしているため,プランクトンは不足しがちです。そこで,台風シーズンが終わったら筏いかだを沖おきに出して,カキにたっぷりプランクトンを食べさせるんです。沖おきに出して10日もすると,ぐっと身が入ってくるんですよ。
出しゅっ荷かは11月ごろに始まり,翌よく年ねんの4月末まで続きます。毎日,カキを吊つるしたロープ100本を水みず揚あげして,漁港の加工施し設せつに運はこび込こみ,朝5時から午後3時まで,殻からから身をはずす作業に没ぼっ頭とうします。生産したカキの9割わりは,地元の邑お久く町ちょう漁協に出しゅっ荷かしています。午後4時にセリがあり,仲買の人たちが品ひん質しつを見て生産者ごとに値ね段だんをつけます。当然,質しつのよいものは高い値ねがつく。1年半の努力が評ひょう価かされる瞬しゅん間かんでもあるわけです。
残りの1割わりは,個こ人じんのお客さんから注文をいただき,直ちょく接せつ販はん売ばいをしています。お歳せい暮ぼや年末年始用として,12月の注文が一番多いですね。最初は,近所の人に頼たのまれて贈ぞう答とう用に販はん売ばいしていたのですが,贈おくられた人たちが気に入ってくれたのか,全国各地から注文をいただくようになりました。ありがたいことです。直売の受注や発送の仕事は,息むす子この妻つまが一手に引き受けてくれて,とても助かっています。

海の自然を観察し予よ測そくする

海の自然を観察し予測する

つぼ網あみのような,毎日どんな魚が入るかわからない「とる漁業」とは違ちがい,養よう殖しょく業ぎょうではある程てい度ど,計画的に生産できます。しかし養よう殖しょくも,自然が相手の仕事なのは同じで,人間の思いどおりにはならないものです。漁りょう師しは,天候や海の環かん境きょう,カキの様子など,自然をよく観察し予よ測そくすることで,少しでも品ひん質しつのいいものを育てようと努力しているんです。
とくにむずかしいのは,プランクトンが多い海かい域いきの見み極きわめです。陸の栄養が流ながれ込こむ河か口こう近くはプランクトンが多いのですが,条じょう件けんのいい場所は限かぎられています。そういう海かい域いきについては,漁協内のくじ引きで場所を決めて,1軒けん3台ずつぐらい筏いかだを置きます。うちは20台ほど筏いかだがあるので,残りの筏いかだは,養よう殖しょくをしてもいい区画内で,潮しおの流れや地形などからプランクトンが多い場所を予よ測そくして場所を決めるわけです。
8月末になると,台風のリスクを冒おかして湾わんの外に筏いかだを数台出し,早めにプランクトンをたっぷり食べさせることもあります。出しゅっ荷かの初期に大おお粒つぶのカキを出せるからです。ただ,台風がくると波風で筏いかだが壊こわれたりカキが落ちたりするので,台風の予よ報ほうが出るとあわてて内ない湾わんに筏いかだを戻もどします。
手間ひまをかけても,年によってはプランクトンが少なくて,身の入りがよくないこともあります。また不思議なもので,プランクトンを急に食べさせすぎても,不健康な肥ひ満まん体たいになって,おいしくないんです。カキを手元から床ゆかに落とすと,肥ひ満まんのカキはビチャッとつぶれますが,じっくり育てたほうはつぶれずに弾はずみ,甘あまくて味もいいです。
何十年と経けい験けんを積んでも,毎年が試し行こう錯さく誤ご,勉強の連続です。ですから品ひん質しつのいいカキがたくさん育つと「ああ,手をかけただけのことはあった」と,本当にうれしくなりますね。

生き物を思いやる心と正直さ

生き物を思いやる心と正直さ

養よう殖しょくは生き物を育てる仕事です。カキのことを思いやってこまめに世話をしてあげる,そんな気持ちを私わたしは大切にしています。ロープに種をはさんで海中に吊つるした後は,手を抜ぬいてもカキはそれなりに成長します。でも,たとえば筏いかだにからんだ流木1本を取とり除のぞくだけでも,カキがもまれて落下するのを防ふせげます。小さなことでも,積み重なれば大きな違ちがいになるものです。ですから,こまめに見回って,小さな異い変へんにも対たい処しょしています。
それから,正直であることも,私わたしが心がけていることです。出しゅっ荷かのときも小さいものや色のわるいものは取とり除のぞき,自信をもてる品物だけ出しゅっ荷かします。その分,出しゅっ荷か量りょうは減へりますが,品ひん質しつの評ひょう価かが上がり仲買人の信用もつきます。こんな気持ちのいいことはありません。
直ちょく接せつ販はん売ばいでは,食べる人に直ちょく接せつ届とどけるので,さらに信用が大事です。むき身はビニール袋ぶくろにパック詰づめして販はん売ばいしますが,水はほとんど入れず,500gパックなら500g以上詰つめるなど,少し多めに入れています。お客さんが喜んでくれて繰くり返かえし注文をいただけるとうれしいですし,「よし,またがんばろう」という気持ちになりますね。

祖そ父ふ,父の仕事を見て学んだ

祖父,父の仕事を見て学んだ

私わたしの家は代々漁りょう師しで,私わたしで6代目です。先せん祖ぞは江え戸ど時代に,土地のお殿との様さまが乗る船の漕こぎ手もしていたと,祖そ父ふから聞かされました。子どものころ,近所のお船ふな蔵ぐらの中に,その木もく造ぞう船せんがまだ残っていましたね。
私わたしは4人兄弟の長男です。当時は家の仕事を継つぐのが当たり前でしたから,中学校を卒業してすぐ漁りょう師しになりました。本当は,公こう務む員いんのような勤つとめ人にんにあこがれがあったんです。近所に国の施し設せつで働く人がいて,朝8時すぎに出かけて夕方には帰ってくるし休みもあるのが,漁りょう師しより気楽そうに見えたんです。
漁の仕事は祖そ父ふと父に教えられたというか,見て習うという感じでした。漁業はなかなか口で伝えられる仕事ではないですから。自然を観察して,自分で経けい験けんを積むしかないんです。いま,私わたしと一いっ緒しょに漁りょう師しをしている息むす子この寿ひさしも,私わたしの背せ中なかを見て仕事を覚えてきたと思いますよ。

家の手伝い,遊び,小こ遣づかい稼かせぎも海

家の手伝い,遊び,小遣い稼ぎも海

子どものころは,家の仕事をよく手伝い,よく遊びもし,勉強はあまりしなかったですね。台風で網あみが破やぶれたりすると,学校を休んで修しゅう理りの手伝いをしました。遊びに行くときは妹をおぶってお守もりをしながら,ということも多かったです。
私わたしは生き物を飼かうのが好きで,山でメジロをとってきたり,ウサギに子どもを産ませて友だちにあげたりしていました。犬も大好きでしたが,死ぬのがつらくて飼かうのをやめました。
自然の中でもよく遊びました。夏は毎日,朝から夕方までずっと海です。近所の小学生と中学生が集まって,一いっ緒しょに遊びました。岸がん壁ぺきの石いし垣がきの穴あなにかくれたウナギを,針はりをもって素す潜もぐりして釣つったり,砂すな浜はまでカレイやクルマエビを竹の先で突ついたりしましたね。小こ遣づかい稼かせぎでアサリをバケツいっぱい掘ほって,父によく市場に出してもらいました。ナマコもとって売りましたね。子どもにとっては,かなりの大金になったと思います。

自然の中で遊び,生き物としての強さを

自然の中で遊び,生き物としての強さを

子どものうちは,室内のゲームよりも,やっぱり自然の中で思いっきり体を動かして遊ぶのがいいですね。人間も生き物です。自然の中で遊ぶと,「生き物」として強くなれると思うんです。自然に学ぶことは多いものです。災さい害がい時など何かあったときの対たい応おう力りょく,変化への適てき応おう力りょくなども,自然の中で遊ぶことで身につくように思います。
もう一つ,まじめに生きることもとても大切です。正直に一いっ生しょう懸けん命めい,まじめに生きていると,必ずそれを認みとめて「支ささえてあげよう,伸のばしてあげよう」という人があらわれて,いろいろな場面で引き立ててくれます。そういう人の縁えんがつながって,人生はより楽しく豊ゆたかなものになるのではないでしょうか。

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取材・原稿作成:大浦 佳代・東京書籍株式会社/協力:公益財団法人 日本財団,NPO法人 共存の森ネットワーク