仕事人

社会にはいろいろな仕事があるよ。気になる仕事や仕事人をたくさん見つけよう!

東京都に関連のある仕事人
1960年 生まれ 出身地 東京都

杉浦(すぎうら) 孝年(たかとし)
子供の頃の夢:
クラブ活動(中学校): 剣道部
仕事内容
おいしいものを作って食べてもらう。
自己紹介
短気で早く答えを見つけようとする性せい格かくで,自分の仕事には合っています。オフは気の置けない中学高校時代の同級生と行くゴルフが楽しみです。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2017年12月01日)時点のものです

街の人に「いつもの食事」を出す

街の人に「いつもの食事」を出す

昭和33(1958)年に,私わたしの父がJR赤羽駅西口に開いたのが「三さん忠ちゅう食しょく堂どう」の始まりです。戦後の高度経けい済ざい成長期に開業しました。ずっと同じ場所で営えい業ぎょうしてきましたが,店てん舗ぽが古くなったので2017年に半年ほどお休みして改かい装そうしました。従じゅう業ぎょう員いんは私わたし,妻つま,息むす子この3人で,夜だけパートの人にも配はい膳ぜんを手伝ってもらっています。
うちは街の,ご近所の人のための定食屋で,着き飾かざってくるような,わざわざ電車を乗のり継ついで来るようなレストランではありません。お客さんは,学生もいれば会社員もいて,主しゅ婦ふも定年退たい職しょくした人も,子ども連れで来てくれる人もいます。スーツで来る人もジャージで来る人もいて,職しょく種しゅも年ねん齢れいもバラバラです。夜の10時までやっていて,多くの人に来ていただいています。
知っている人がよく通ってくれて,お客さんの7~8割わりが常じょう連れんです。お客さんどうしも,ここでだけの知り合いがたくさんいます。店内は広くないので,「ああ,こんにちは」と言い合ってお客さんどうしが自然と相席してくれる,そんなお店です。

加工品を使わず,素そ材ざいから作る

加工品を使わず,素材から作る

私わたしは調理を担たん当とうしているので,通つう常じょうは朝8時にお店に来ます。週に1回は,朝5時に市場に出向いて仕入れをしてから来ます。店に着くと8時から1時間はダシをとり,それから仕し込こみに入って,11時に開店します。
メニューは,和洋中,なんでもあります。テーブルの「お品書き」にあるものを中心に,50から60品はいつもあります。たとえば,刺さし身み,天ぷら,エビフライ,とんかつ,オムレツ,カレーライス,野菜炒いため,さばの味み噌そ煮になどです。季節のものや仕入れの関係で,そのときにできるものは壁かべ紙がみやボードに書いています。これらを合わせると,70から80品くらいになります。ほぼ家族だけで営えい業ぎょうしている食堂にしては多いですよね。減へらしたほうが楽にはなりますが,毎日来てくださる人もいるので,毎日食べても飽あきないように,多くのメニューをそろえています。
材料は魚,野菜,肉,その他,ほとんどのものを素そ材ざいから仕入れています。たとえばエビフライなら,下ごしらえのできている冷れい凍とう食品を仕入れることもできますが,そうすると仕入れの値ね段だんが上がってしまいますし,同じものを出している他の店で食べるのと同じ味になってしまいます。そのため生のエビを仕入れてワタを取り,パン粉をはたいて,自分で一から作ります。

生ものを扱あつかうため仕入れが安定しないことも

生ものを扱うため仕入れが安定しないことも

飲食業は食材,生ものが相手ですので,仕入れたものの質しつや量が一定でないことがあります。「今日は魚が不漁で高かった」ということはよくありますが,だからといって「今日はこのメニューは200円値ね上あげさせてもらおう」ということはできません。また,量を少なくしたり,素そ材ざいに合わせて味を変えてしまえば,お客さんの期待を裏うら切ぎることになってしまうので,それもできません。そこで,その日はそのメニューをやめる,あるいは店としては損そんになるとわかっていてもいつも通り出すなど,いろいろな工く夫ふう,決けつ断だんが必要になります。これがなかなか大変です。
また,飲食業界では当たり前ですが,仕事の時間は長いですね。お店の営えい業ぎょう時間は,昼は午前11時から午後3時まで,夜は午後5時から10時までですが,私わたしは毎日,午前8時から午後11時くらいまで,途と中ちゅうに休きゅう憩けいを入れながら働いています。休みは週一回で月曜日のみです。店が休みの月曜日だけしか自分のことができずに大変ですが,最初から調ちょう理り師しをしているのでそういうものだと思っているし,もう慣なれてしまっているのであまり苦労とは感じていません。

お客さんの「おいしい」がうれしい

お客さんの「おいしい」がうれしい

うちに来てくれるお客さんは,私わたしが仕入れてきたものに,私わたしがおいしいと思う味付けをしたものを,おいしいと思ってくれているから来店してくれていると思います。そうとわかっていても,「おいしかった」と言ってくれるお客さんの言葉はとてもうれしいです。また,厨ちゅう房ぼうからたまに見えるのですが,言葉はなくても,お客さんの食べているときの顔に「おいしい」と書いてあるのがわかると,こちらも笑え顔がおになります。
さらに,たまに作るメニューを残さず食べてもらったときは,ほっとします。たとえばハンバーグは,いつもあるメニューではないのですが,ときどき出しています。先日,初めて試ためす味付けで作ってみたのですが,心配で,厨ちゅう房ぼうをいっしょに担たん当とうしている息むす子こに「お客さんが食べたあとのお皿に何か残ってる?」と聞いてみました。そうすると「なんにも残ってないよ」といわれてほっとしましたし,うれしかったです。

調理は試し行こう錯さく誤ごを繰くり返かえして自分で覚えた

調理は試行錯誤を繰り返して自分で覚えた

私わたしは大学を卒業後,ゴルフ関係の会社に就しゅう職しょくしようと思っていました。両親は定食屋をやっていましたが,私わたしはそれまであまり手伝いをしたこともなく,店を継つごうとは思っていなかったのです。父親に店を継つげといわれたことも,1回もありませんでした。しかし両親を見てきて,飲食業は技ぎ術じゅつを身につければ食べていける職しょく業ぎょうだと感じていたからでしょう。結局はゴルフ関係の会社に入るのはやめて,レストランを経けい営えいしている会社に調ちょう理り師しとして就しゅう職しょくしました。その後,いくつかのレストランを経けい験けんし,27歳さいくらいで実家の店の調ちょう理り師しになりました。母に,「実家で働くほうがお金も貯たまるから店を手伝ってみないか?」と言われたからです。
実は私わたしは,調ちょう理り師しの専せん門もん学校には通ったことがありません。すべて実地で学びました。お客さんに気に入ってもらえる味と技ぎ術じゅつを身につけるためには,何度も失敗をして,何度も悔くやしい思いをして試し行こう錯さく誤ごを繰くり返かえす,これを長年続けなければなりません。言葉で伝えることがとても難むずかしく,上手な人のまねをして試し行こう錯さく誤ごを繰くり返かえすことによってしか身につかないものなんです。調ちょう理り師しはとても大変な職しょく業ぎょうだと思います。しかし,多くの人においしいと思ってもらえる技ぎ術じゅつがあれば,生活に困こまらないくらいは稼かせげる職しょく業ぎょうでもあります。

続けることの大切さを父に教わった

続けることの大切さを父に教わった

私わたしは,一度始めたことは長くやるタイプですが,子どものころはそうでもありませんでした。小学校1年生から剣けん道どうをやっていたのですが,3,4年生くらいのときに飽あきてしまったのです。そこで,父に「剣けん道どうをやめたい」と言いました。すると父が「初しょ段だんを取ったらやめていい」と言うので,そこでやめる約束をしました。ところが,初しょ段だんの昇しょう段だん審しん査さは中学1年生以上でないと受けられないことを後から知ったのです。しかし約束は約束なので,しまった,と思いましたが剣けん道どうを続け,約束通り,中学1年で初しょ段だんを取ったあとでやめました。父にしてやられたとはいえ,やはり,一度始めたらキリのいいところまで続けたほうが,気持ちがスッキリしますね。大学時代には,体育会系できつく,途と中ちゅうでやめる人も多いゴルフ部を4年間続けることができました。何でも「キリのいいところまで続ける」ことは大事だと思います。

やると決めたら,なるべく長く続けてみよう!

やると決めたら,なるべく長く続けてみよう!

社会人になって信用される人は,一つのことを長くやり続けた人です。そこで,遊びでも勉強でも何でもいいので,できればなるべく長く続けてみてください。ある程てい度どの期間続けてみないと,それが自分に向いているかいないか,いいところと悪いところがほんとうには理り解かいできないのです。「しんどいから」といった理由だけで,すぐにやめてしまうのはもったいないと思います。
調ちょう理り師しは,技ぎ術じゅつの習得に長くかかる職しょく業ぎょうです。私わたしのような定食屋だったら,ひと通り身につくまでに10年はかかります。作り方や切り方は2,3年で習得できます。しかし,自分で店を開いて,長く商売としてやっていけるようになるためには,1年を通して食材と格かく闘とうし,そのパターンを10回繰くり返かえして,自分の体で覚える必要があるのです。そうすると四季にも対たい応おうできるし,食材,素そ材ざいの変化もわかるようになります。調理法や材料に対する自分なりの答えが出せるようになります。
そうやって会え得とくした自分の味を,お金を出しておいしいといってくれる人がいると,自信とうれしさを感じることができます。調ちょう理り師しは大変ですし,決してカッコいい職しょく業ぎょうではないかもしれませんが,やりがいのある仕事です。興きょう味みがあれば,ぜひ目指してみてください。

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取材・原稿作成:東京書籍株式会社/協力:城北信用金庫