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東京都に関連のある仕事人
1966年 生まれ 出身地 静岡県

小林(こばやし) 宏(ひろし)
子供の頃の夢: 昆虫博士
クラブ活動(中学校): バスケットボール部
仕事内容
本当に役に立つものをつくる。
自己紹介
責せき任にん感かんが強いタイプです。短気で短たん絡らく的てきなところもあります。自然が大好きですが,なかなか出かける時間が取れず,休日は仕事と家事をしていることが多いです。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2020年12月09日)時点のものです

装そう着ちゃく型がたのアシストロボット「マッスルスーツ」

装着型のアシストロボット「マッスルスーツ」

私わたしは,重いものを持ち上げるときに生じる腰こしの負ふ担たんを減へらすための装そう着ちゃく型がたアシストロボット「マッスルスーツ」の発案者です。東とう京きょう理り科か大だい学がく工学部の教きょう授じゅとして,現げん在ざいもマッスルスーツの研究開発に取り組んでいます。マッスルスーツの販はん売ばいは「株かぶ式しき会がい社しゃイノフィス」という会社が担たん当とうしており,私わたしは,大学教きょう授じゅをしながら,イノフィスの取とり締しまり役やくも兼けん任にんしています。
マッスルスーツは,リュックサックのように背せ負おってベルトを締しめるだけで,簡かん単たんに身に付けられる機械です。ロボットや機械というと「硬かたいもの」というイメージを持つ人も多いと思うのですが,マッスルスーツは,おもに「人工筋きん肉にく」と呼よばれる柔やわらかい素そ材ざいでつくられています。マッスルスーツに使われている人工筋きん肉にくはナイロンメッシュとゴムチューブでできており,このなかに空気を入れることで,使用者の動きに反はん応のうして,まるで筋きん肉にくのようにグッと力が入ったり脱だつ力りょくしたりする仕組みになっているのです。装そう着ちゃくした状じょう態たいでものを持ち上げると,マッスルスーツが使用者の腰こしをアシストするように動力を発はっ揮きして,通つう常じょうよりも少ない力で,ラクにものを持ち上げることができます。
ポンプで空気を送りこむだけで使えるため,モーターや電でん源げんが不要で,軽くて扱あつかいやすいところ,防ぼう水すい・防ぼう塵じん性があるので,屋外で使えるところも特とく徴ちょうです。現げん在ざいは,おもに,工場や倉庫など,重い荷物を持ち上げなければいけない現げん場ばで活用されています。他に,米や野菜を持ち運ばなければならない農家や,中ちゅう腰ごしの状じょう態たいでシーツ替がえや介かい助じょなどをしなければならない介かい護ご施し設せつでも重ちょう宝ほうされています。

「動けない」をなくしたい

「動けない」をなくしたい

マッスルスーツの仕組みを考え始めたのは,いまから20年ほど前のことでした。当時はAIBO(現げん名めい称しょう:aibo)やASIMOといった歩行型がたのロボットが次々と発表され,注目を集めていた時代です。いずれ非ひ産さん業ぎょう用ようロボット(※医い療りょう用ようや接せっ客きゃく用ようなど,サービス業向けロボットのこと)が,自動車産業並なみの巨きょ大だい市場になると期待されていました。
そのとき,私わたしが考えたのが,「本当に役に立つロボットとは,どんなロボットなのだろう?」ということでした。歩行型がたのロボットをどんなところでも支し障しょうなく歩けるようにつくり,暮くらしに役立てるのはとても難むずかしいことだし,AI(人工知ち能のう)も,自じ我がを持つような,本当の意味での知ち能のうと言えるところまで性せい能のうを高められるかどうかわからない。だったらもっと身近なもの,「“自分が生きるうえでもっとも嫌いやなこと”を解かい決けつするもの」をつくりたいと考えました。
私わたしが生きるうえでもっとも嫌いやなことは,動けなくなることです。手や腕うでを動かせなくなることや,歩けなくなることが一番つらい。それで,大学の自分の研究室で,マッスルスーツの原げん型けいとなる,人の腕うでや足の動きを補ほ助じょするロボットの研究開発を始めたのです。その後,研究を進めるなかで,工場で働く人の多くが腰こしを痛いためていると知って,2006年ごろには腰こしを補ほ助じょするロボットの開発に集中するようになりました。そこからは試し行こう錯さく誤ごの連続です。試作機をつくってはテストし,微び調ちょう整せいするということを繰くり返かえし,少しずつ性せい能のうを高めて,2013年に約100台の試作機が完成。同年12月に,マッスルスーツを販はん売ばいするための会社である株かぶ式しき会がい社しゃイノフィスを「大学発ベンチャー企き業ぎょう」として設せつ立りつし,2014年には製せい品ひん版ばんの本ほん格かく的てきな販はん売ばいを開始して,今に至いたっています。

大学の研究室と会社を行き来する

大学の研究室と会社を行き来する

会社を設せつ立りつしたあとも,マッスルスーツの改良を続けています。より軽くなるよう,外部のコンプレッサー(強い圧あつ力りょくをかけて空気を送り出す装そう置ち)を使って動かす仕組みから,コンプレッサーを必要としない仕組みに変へん更こうしたり,多くの人に使っていただけるよう,安あん価かな材料に変へん更こうしたり。少しでも,軽く,コンパクトで,動きやすく,手に入れやすい価か格かくになるよう工く夫ふうしています。そのかいあって,発売当初は60万円だったものを,15万円程てい度どで販はん売ばいできるようになりました。最新モデルの重さは3.8㎏で,女じょ性せいやご高こう齢れいの方でも無理なく装そう着ちゃくできるようになっています。
現げん在ざいは,講こう義ぎや学生の指し導どうもしつつ,週4日,東京理科大学の研究室で,マッスルスーツの改良をはじめとする,さまざまな研究に取り組んでいます。鋼こう材ざい(金きん属ぞく)を自動で識しき別べつする画が像ぞう処しょ理りシステムや,排はい泄せつ物ぶつが飛び散らないように工く夫ふうした宇う宙ちゅう用ようのトイレ,新しい草くさ刈かり機など,いくつものテーマの研究開発を行っています。
研究に取り組みつつ,週1日,会社に出て,技ぎ術じゅつ開発関係の会議に参加しています。会議では,マッスルスーツに関する研究の過か程ていや課題,成果など,多くのことを社内の関係者にプレゼンテーションし,情じょう報ほう共有をしています。大学では工学部の教きょう授じゅや研究者として,会社では開発のトップである最高技ぎ術じゅつ責せき任にん者しゃとして,常つねに「本当に役に立つものをつくる」ということを意い識しきしながら,ものづくりに向き合っています。

50億円の資し金きん調達に成功

50億円の資金調達に成功

イノフィスは大学の研究室から生まれたベンチャー企き業ぎょうです。ベンチャー企き業ぎょうとは,独どく自じの技ぎ術じゅつやアイデアをもとにして,新しいビジネスを展てん開かいする新しん興こう企き業ぎょうのこと。企き業ぎょうや「ベンチャーキャピタル」と呼よばれる投とう資し会社などから資し金きんを提てい供きょうしてもらうことも多いのですが,私わたしたちイノフィスも,研究室でコツコツやっていた研究が認みとめられ,企き業ぎょうからの出しゅっ資しによって設せつ立りつすることができました。その後も定期的に出しゅっ資ししてもらい,これまでに約50億円の資し金きん調達に成功しています。
出しゅっ資しをしてくれるということは,つまり「売れるものである」「世の中に必要とされている事業である」と見られているということです。出しゅっ資し者しゃに対して利り益えきをもたらさなければならないため,責せき任にんは重大ですが,多くの人に支ささえられて好きな研究を存ぞん分ぶんにできる環かん境きょうがあり,非ひ常じょうに大きなやりがいと喜よろこびを感じています。

課題を解かい決けつする方法を探さがし,常つねにあがき続ける

課題を解決する方法を探し,常にあがき続ける

大変だと感じるのは,数々の要望に応こたえ続けなければならないところです。関係者やお客さまが改かい善ぜんを希望されるところというのはだいたい共通していて,しかも,私わたしたち開発者が「わかってはいるけれど解かい決けつが困こん難なんな部分」であることが多いのです。だからといって「できません」というわけにはいきませんから,改かい善ぜん要望が上がってきたら方法を探さがして,とにかくあがき続けるしかないのですよね。
「機械の上部が肩かたに当たって動きにくい」と指し摘てきされたら当たらない形にしなければいけませんし,「スイッチが使いにくい」と言われたら使いやすい仕組みに変へん更こうしなければいけません。結果的に,マッスルスーツの背はい面めん部分は四角形から三角形のデザインになり,スイッチは,そもそも使わない仕組みになりました。理由なくつくられた形,理由なく採さい用ようされた仕組みはありません。すべてが必然だと言い切れます。ユーザーの声を大切にしながら調整や試し行こう錯さく誤ごを繰くり返かえし,時間をかけて精せい査さしながらつくっているのです。

役立つものをつくり,パイオニアであり続ける

役立つものをつくり,パイオニアであり続ける

仕事をするうえで大切にしているのは「本当に役に立つものをつくる」こと,それだけです。論ろん文ぶんを書いて終わりではなく,実じっ際さいに製せい品ひんをつくって,世に出し,使っていただきたい。使っていただけるようなものをつくりたいと思っています。なぜなら,それが“エンジニアの本ほん懐かい”だと思うからです。
他に,「人と違ちがうものをつくる」ということも意い識しきしています。世の中には優ゆう秀しゅうな人がたくさんいます。世界中に,その道の研究をしつくしたパイオニアが存そん在ざいしているのです。人がやっていることをやるというのは,つまりそのパイオニアを追いかけるということ。常つねに誰だれかの背せ中なかを追って勉強し続けなければなりません。しかし,自分がパイオニアならば,追いかける必要も,必死で勉強する必要もありません。比くらべられることもないわけですよね。昔から負まけず嫌ぎらいだったからだと思うのですが,現げん在ざいも,新しい研究に取り組むときは,まず「他でやられていないこと」をやるようにしています。

伊い豆ず半島の自然に囲かこまれて育った少年時代

伊豆半島の自然に囲まれて育った少年時代

私わたしは静しず岡おか県けんの伊い豆ず半島で育ちました。春はワラビやゼンマイを採とり,夏はアワビやサザエを採とって,秋には栗くりや自じ然ねん薯じょを採とる。そんな生活を送る,自然が大好きな子どもでした。大人になってから気付いたのですが,海や山で自然のものを採とるときに考えなければならないことと,ものづくりをするときに考えなければならないことって,実はすごく似にているんですよね。目当てのものを採とるには,どこに行かなければならないか,どんな道具を用意して,どのように採とるかを考えなければいけません。ロボットも,どこで,誰だれと,どんな道具や素そ材ざいを使って,どう組み立てるかを考えてからつくるものです。いま振ふり返かえると,私わたしは,自然のなかで創そう意い工く夫ふうをすることで,エンジニアリングを学んでいたのだなと思います。
自然のなかで遊ぶことだけでなく,ものづくりも大好きで,小中学生のころはよくプラモデルをつくったり,ロボットアニメ『マジンガーZ』の絵を描かいたりして遊んでいました。その延えん長ちょうで,東京理科大学の工学部に進学し,大学では好きな研究に没ぼっ頭とうする生活を送っていました。本ほん格かく的てきに研究者としての道を歩むことになったきっかけは,大学院で,研究室の助手をしていた方から,「そんなに研究が好きなら,就しゅう職しょくせずにこのまま博はく士し課か程ていに進んだら?」と言われたこと。「せっかくアドバイスをしてくださったのだからそうしよう」と博はく士し課か程ていに進み,その後,人工知ち能のうの研究で有名なスイスのチューリッヒ大学に留りゅう学がくしました。1998年にスイスから帰国して,東京理科大学の工学部に戻もどって講こう師しとなり,助じょ教きょう授じゅだった2000年からマッスルスーツの開発を始めました。

いま自分がベストだと思うことをやっていけばいい

いま自分がベストだと思うことをやっていけばいい

生きるうえで大事なのは「考えること」につきると思います。考えて選んだ道であれば納なっ得とくできるし,失敗しても糧かてにできます。その場,その場で,しっかりと考えて,自分がベストだと思うことをやっていけばいい。その積み重ねが道を拓ひらいていくと思うのです。それでも迷まよって決められない,というときは,人の意見を聞くとよいでしょう。先生でも,家族でも,友達でも構かまいません。人に相談してみて,問題を客きゃっ観かん視しすると,進むべき道が見えてくると思います。
私わたしもそうやって,進路や研究テーマを選んできました。すべての選せん択たくが正しかったとは思いませんが,「その時々にベストだと思える選せん択たくをしてきた」ということだけは自信を持って断だん言げんできます。ですから,迷まよいや後こう悔かいはありません。
やりたいことがある人だけでなく,やりたいことが見つからない人や興きょう味みの対たい象しょうがどんどん変わる人も,まずはシンプルに「いま,ベストな選せん択たくはなにか」を考えるようにしてほしい。いまを積み重ねることで今日になり,今日は必ず,明日になります。

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宮城谷 昌光
19年に及ぶ逃亡生活を経て晋を再建し,後に名君と謳われた中国の傑人,重耳(ちょうじ)の生涯を綴った歴史小説です。名を馳せた人は,どのように考え,生きたのかといったことに興味があり手に取りました。重耳をはじめとする多くの偉人たちの物語を読んでみて,改めて「千里の道も一歩から」「ローマは一日にしてならず」だと感じています。

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取材・原稿作成:秋山 由香(Playce)・東京書籍株式会社/協力:横浜銀行