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1964年 生まれ 出身地 東京都

内藤(ないとう) 伸幸(のぶゆき)
子供の頃の夢: カーレーサー
クラブ活動(中学校): 水泳部
仕事内容
日本初のタグボート型消しょう防ぼう艇てい「おおえど」船長。隊員を指し揮きし,首都東京の海の玄げん関かん口ぐち,東京港の安全と安心を守る。
自己紹介
明るく楽天的で,とにかく楽しいことが好き。苦手なことはつい後回しにして,追おい詰つめられないとやりませんが,やり始めるととことんこだわる面めん倒どうくさいタイプです。休日は趣しゅ味みのサーフィンやヨット,釣つりなどでリフレッシュ。結局,休日も海の上です。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2019年08月14日)時点のものです

東京港の安全を守る

東京港の安全を守る

私わたしは,東とう京きょう消しょう防ぼう庁ちょうの消しょう防ぼう官かんです。現げん在ざいは臨りん港こう消しょう防ぼう署しょに勤きん務むし,大型消しょう防ぼう救きゅう助じょ艇てい「おおえど」の船長として働いています。消しょう防ぼう艇ていの船長は艇ていの最高責せき任にん者しゃで,乗組員に指し示じを出して統とう括かつする乗組員のリーダー(船長)であり,災さい害がい現げん場ばで消火や救助を行うときには消しょう防ぼう隊たいのリーダー(隊長)として隊を指し揮きします。
臨りん港こう消しょう防ぼう署しょは東京の湾わん岸がんエリアにあり,東京港の海上を管かん轄かつしています。まさにウォーターフロントの消しょう防ぼう署しょです。東とう京きょう消しょう防ぼう庁ちょうは消しょう防ぼう艇ていを10艇てい所有していますが,そのうち6艇ていが臨りん港こう消しょう防ぼう署しょに配はい備びされています。
東京港は,大消費地を支ささえる日本最大の海の物流拠きょ点てんです。港内の海上は,原油や液えき化かガスなどの危き険けん物ぶつを積んだ大型船を含ふくめ,毎日多くの船で混こみ合あい,細い水路や運うん河がもあります。また沿えん岸がんにはオイルタンクや発電所,大型倉庫なども立たち並ならんでいます。
私わたしたちは,このような東京港の安全を守るため,火か災さいの警けい戒かいなどの活動を行うほか,さまざまな条じょう件けん下かでの火か災さいを想定し,日々,訓練にはげんでいます。そして,いざ火か災さいなどの災さい害がいが発生した場合は,いち早く消しょう防ぼう艇ていでかけつけ,消火活動や人命救助を行います。

日本初のタグボート型消しょう防ぼう艇てい

日本初のタグボート型消防艇

私わたしが船長として乗船している「おおえど」は,2018年に日本の消しょう防ぼう署しょでは初めて配はい備びされたタグボート型の大型消しょう防ぼう救きゅう助じょ艇ていです。馬力が大きくスピーディーな動きができ,360度旋せん回かい式しきのプロペラを2基き備そなえているため,その場での回かい頭とう(コマのように同じ場所でぐるぐる回転すること)もできます。
この俊しゅん敏びんな運動性せい能のうを生かして,火か災さいや事じ故こなどで航行できなくなった被ひ災さい船せんを押おしたり,ロープで曳ひいたりして,従じゅう来らいの消しょう防ぼう艇ていではできなかったような消しょう防ぼう活動も行えます。被ひ災さい船せんを安全な場所に移い動どうさせたり,被ひ災さい船せんの向きを変えて風下への延えん焼しょうを防ふせいだり,岸がん壁ぺきから離はなして港こう湾わん施し設せつへの延えん焼しょうを防ふせいだりすることもできます。
消火設せつ備びとしては,放ほう水すい銃じゅうや放ほう水すい砲ほうと呼よばれる消しょう防ぼうポンプ車約15台分の大量放水が可か能のうな放水設せつ備びのほか,海上約15mの高さから放水できる折りたたみ式の放ほう水すい塔とうがあるのが特とく徴ちょうです。大型船は海面からの高さがあり,7階建てのビルに相当する船もあります。「おおえど」の放ほう水すい塔とうからは,このような大型船への放水や,被ひ災さい船せんから距きょ離りをおいての放水も可か能のうです。
また,放ほう水すい塔とうの先には人が乗れるバスケットがついていて,海上から甲こう板はんまで10m以上もある大型の被ひ災さい船せんに消しょう防ぼう隊たい員いんが乗のり込こむことができます。バスケットで消火のための道具なども運べますし,船から救助した人を乗せることもできます。さらに,消しょう防ぼう艇ていは海水を使用して放水を行うため,大おお地じ震しん等により断だん水すいが起きたとしても長時間にわたり放水を行うことができる強みも持っています。

船の乗組員と消しょう防ぼう隊たい員いんという2つの顔

船の乗組員と消防隊員という2つの顔

私わたしたち消しょう防ぼう艇ていの隊員は,船の乗組員と消しょう防ぼう隊たい員いんという2つの顔をもつ特とく殊しゅな部隊なんです。船長は,その両方のリーダーです。船せん舶ぱく火か災さいなどの災さい害がいが発生したら,消しょう防ぼう艇ていで災さい害がい現げん場ばに向かう間,私わたしは船長で,隊員は機関長や甲こう板はん員いんなどの乗組員です。しかしいったん災さい害がい現げん場ばに到とう着ちゃくすると,私わたしは隊長になり,他の乗組員は消しょう防ぼう隊たい員いんとして消火活動に当たります。
東とう京きょう消しょう防ぼう庁ちょうでは消しょう防ぼう艇ていや消しょう防ぼう車両に乗じょう務むするのはおもに交こう替たい制せい勤きん務むの職しょく員いんです。交こう替たい制せい勤きん務むは当番・非ひ番ばん・日にっ勤きん等のローテーションです。消しょう防ぼう艇ていに乗じょう務むするのは当番の日で,勤きん務むは朝8時30分から翌よく日じつの8時40分まで。ただし合間に休きゅう憩けいや仮か眠みんをはさみ,実働は16時間となっています。「おおえど」では,1班ぱん6名のチームで活動しており,船長は私わたしを含ふくめて3人います。

ふだんは訓練が中心

ふだんは訓練が中心

私わたしたちのふだんの仕事は,船や装そう備びの保ほ守しゅ点てん検けんと訓練が中心です。当番の日は,交こう替たいの際さいの申し送りなどが終わったら,午前中は船や装そう備びの保ほ守しゅと点てん検けん業ぎょう務むを行います。必ず船のエンジンをかけ,エンジンやプロペラが正せい常じょうに作動するか確かく認にんし,さまざまな計器類の確かく認にんや,消しょう防ぼう資し器き材ざいの点てん検けんも行います。
午後はおもに訓練です。私わたしたちには,船の乗組員と消しょう防ぼう隊たい員いんという2つの仕事があるため,日ごろの訓練は,操そう船せんと消火活動のどちらも必要になります。訓練の内ない容ようを考え,計画を立てるのは,船長であり隊長でもある私わたしの仕事です。
実じっ際さいに船を海に出す操そう船せんの訓練は,タグボートの機き能のうを使う訓練が多く,被ひ災さい船せんの向きを変える訓練,曳えい航こうのためのロープを繰くり出だす訓練などが主となります。
消しょう防ぼう隊たい員いんとしての消火の訓練は,おもに署しょ内ないの訓練施し設せつを使い,たとえば,熱気と煙けむりで視し界かいがきかない中,障しょう害がい物ぶつがたくさんある狭せまい場所で人を救助する,というような設せっ定ていをして行います。腰こしぐらいの高さにビニールひもを張はって,それより上は高熱だという設せっ定ていにし,隊員たちには目め隠かくしをさせ,ビニールひもの高さを越こえないよう,這はうように進ませます。目が見えないため,隊員たちは進む方向を見失ったり,姿し勢せいが高くなりビニールひもに引っかかったりして,なかなかクリアできません。こうした訓練を繰くり返かえすことによって体の動かし方,方向感覚,危き険けん察さっ知ち能のう力りょく,隊員同士の連れん携けい力りょくを高めることができます。
私わたしは船長そして隊長として,訓練や日にち常じょうの業ぎょう務むを通して隊員のチームワークを強め,隊全体の能のう力りょくを上げていくことを心がけています。

シミュレーターで操そう船せん技ぎ術じゅつをマスター

シミュレーターで操船技術をマスター

「おおえど」はタグボート型の消しょう防ぼう艇ていで,他の消しょう防ぼう艇ていとは操そう船せんの方法がまったく違ちがいます。ふつうの船は舵かじの操そう作さだけで針しん路ろを定めますが,タグボートは360度旋せん回かい式しきの2つのプロペラを操そう舵だ席せきのレバーで操そう作さして,細かい動きを実じつ現げんします。こんな船の操そう作さは初めてで,とても楽しみでしたが,操そう船せん技ぎ術じゅつのマスターには苦労もしました。
「おおえど」の船長に着ちゃく任にんしたのは,船の運用が始まる7か月ほど前で,「おおえど」はまだ建けん造ぞう中ちゅうでした。兵ひょう庫ご県けん芦あし屋や市しの海かい技ぎ大だい学がっ校こうにタグボートのシミュレーターがあり,私わたしはここで船の動かし方を一から学びました。「おおえど」を建けん造ぞうしている造ぞう船せん所しょにも行きましたね。実物を見てスケール感を肌はだで感じ,頭の中でこの船を動かすイメージを描えがきながら,シミュレーターでの訓練を重ねました。
乗組員も,何から何まで初めてです。実じっ際さいにプロペラのレバーや舵かじを握にぎる操そう舵だ員いんもシミュレーターで技ぎ術じゅつを学んでいます。また,操そう船せんだけでなく,被ひ災さい船せんを押おしたり曳ひいたりというこれまでの消しょう防ぼう艇ていとは違ちがう動きがあるので,甲こう板はんでの作業も特とく殊しゅになります。
私わたしは「おおえど」の他の2人の船長たちとも意見交こう換かんしながら,操そう船せん技ぎ術じゅつ,曳えい航こう装そう置ちの取とり扱あつかい,消火の各種機器の取とり扱あつかいなど,あらゆる作業についての訓練内ない容ようもゼロから作り上げてきました。

多いのは油漏もれの事じ故こでの出動

多いのは油漏れの事故での出動

最近では実じっ際さいに大きな船せん舶ぱく火か災さいが起こるのは,何年かに1度です。2018年は,管かん轄かつ内ないでは3件けんの船せん舶ぱく火か災さいがありましたが,幸い大きく延えん焼しょうはしませんでした。「おおえど」の運用が始まって何度も出動していますが,多いのは水面での油の流出事じ故こです。中でも印象に残っているのは,お台だい場ばの目の前の品しな川がわ埠ふ頭とう沖おきでの油漏もれの事じ故こでした。港で船に燃ねん料りょうを給油する移い動どう式しきガソリンスタンドのような“給油船”から,油が海に流出したんです。
引火することはありませんでしたが,長さ1.5km,幅はば500m以上にわたり油が海面に広がってしまいました。このときは,海かい上じょう保ほ安あん庁ちょう,東とう京きょう都と港こう湾わん局きょくと東とう京きょう消しょう防ぼう庁ちょうが連れん携けいしました。大おお型がた艇ていが横よこ並ならびに隊列を組み,海面に放水することで油を拡かく散さんして薄うすめ,無事に収しゅう束そくできました。日ひ頃ごろの訓練が生かされ,海かい上じょう保ほ安あん庁ちょうなどとの連れん携けいもスムーズで,理想的な活動ができたと思います。

災さい害がいに想定外はない

災害に想定外はない

今の仕事には,東京港の安全を守っているんだという実感があり,そのことを誇ほこりに思っています。東とう京きょう消しょう防ぼう庁ちょうには多くの消しょう防ぼう官かんがいますが,隊長になれる階級で海かい技ぎ士し免めん許きょをもち,大型消しょう防ぼう艇ていの船長になれる資し格かくがある人は,ごくわずかです。私わたしは,自分が望んだ大型消しょう防ぼう艇ていの船長になれましたし,なおかつ日本で初めて配はい備びされた最さい新しん鋭えいの消しょう防ぼう艇ていの船長に任にん命めいされたことは,とても光栄なことだと思っています。
その反面,船長は非ひ常じょうに重い責せき任にんも背せ負おっています。その任にん務むを全まっとうするため,「気になったことを,気になったままにしない」ことを,いつも自分に言い聞かせています。火か災さいや事じ故こは,いつどんな状じょう況きょうで起こるか誰だれにもわかりません。「まさかこんなことは起きないだろう」と,勝手に決めつけてしまってはダメなんです。「もしここでこんなことが起こったら?」と,あらゆる想定をしてみて,気になったことは徹てっ底てい的てきに頭の中でシミュレートして突つき詰つめるのが,考え方のくせというか習しゅう慣かんになっています。
私わたしがいろいろな状じょう況きょうを想定して新たな訓練を行うのを,隊員たちは,「今日の訓練はどんな想定でくるんだろう」と楽しみに待ち受けているようです。あらゆる想定で訓練をしておくと,実じっ際さいの現げん場ばで対たい応おうする力がつきます。「ありえない」と決めつけず,頭を柔じゅう軟なんにして豊ゆたかな発想ができるよう,ありたいものですね。

水すい難なん救助隊にひかれ,消しょう防ぼう隊たい員いん,そして消しょう防ぼう艇てい船長に

水難救助隊にひかれ,消防隊員,そして消防艇船長に

私わたしは水泳が好きで,大学時代にはスポーツクラブで水泳のインストラクターのアルバイトをしていました。このクラブに就しゅう職しょくするか,もっと違ちがう世界に出ていくかと悩なやんでいたとき,友人の父親が築つき地じの消しょう防ぼう署しょで働いていると聞き,魚市場と消しょう防ぼう署しょの取り合わせが面おも白しろくて興きょう味みをもちました(※魚市場は,2018年に築つき地じから豊とよ洲すに移い転てん)。東とう京きょう消しょう防ぼう庁ちょうのパンフレットを取とり寄よせて見ると,水すい難なん救助隊があるし,体力を生かせる仕事で「自分には向いている!」と,ほとんど確かく信しんしたんです。
それから猛もう勉べん強きょうして東とう京きょう消しょう防ぼう庁ちょうの採さい用よう試験に合ごう格かくし,入にゅう庁ちょうすることができました。消しょう防ぼう学校で学んだ後,配はい属ぞく先さきの調ちょう布ふ消しょう防ぼう署しょで,水すい難なん救助の資し格かくの研けん修しゅうを受け,念願だった水すい難なん救助隊員になりました。調ちょう布ふ消しょう防ぼう署しょにいた10年の間には,事じ故こや災さい害がいの捜そう索さくなどで,多た摩ま川がわや奥おく多た摩ま湖こなど,さまざまな淡たん水すいに潜もぐりました。
その後は水すい難なん救助隊がある海辺の消しょう防ぼう署しょをいくつか経けい験けんし,日に本ほん橋ばし消しょう防ぼう署しょで初めて消しょう防ぼう艇ていに乗じょう務むする水すい難なん救助隊員となりました。その後,臨りん港こう消しょう防ぼう署しょで水すい難なん救助隊長として8年間,消しょう防ぼう艇ていに乗じょう務むすることで,六級海かい技ぎ士し(航海)の免めん許きょがとれる乗船日数に達し,大型消しょう防ぼう艇ていを動かしてみたいと思って,国家試験に挑ちょう戦せんして海かい技ぎ士しの免めん許きょを取得したんです。
初めて船長になったのは,「ありあけ」という消しょう防ぼう艇ていです。船長は重い責せき務むを負う仕事ですが,夢ゆめがかなって大型消しょう防ぼう艇ていの船長として仕事ができ,とてもうれしかったです。今「おおえど」に乗っていることも,私わたしの人生の大きな喜びです。

経けい験けんが多た彩さいなほど能のう力りょくは高くなる

経験が多彩なほど能力は高くなる

将しょう来らいやりたい仕事や職しょく業ぎょうが決まっていても,決まっていなくても,子どものうちからいろいろなことに挑ちょう戦せんすることはいいことだと思います。興きょう味みのあることなら,勉強でも遊びでも何でもいいでしょう。
私わたしは子どものころによく,家族に海や山に遊びに連れて行ってもらいました。家の周辺も当時はまだ川や野原など自然が残っていて,私わたしは外での遊びが大好きでした。こうして自然の中でたくさん遊んだことで,天気や風の強さや変化を感覚的に察知する力がいつのまにか養われたように思います。これは,海の上で働く今の仕事にとても役に立っています。
もちろん,自然の中の遊びでなくても,興きょう味みをもったことなら何でもいいんです。いろんなことに挑ちょう戦せんして経けい験けんを積むと,引き出しが増ふえます。そうすると,物事に対たい応おうする能のう力りょくが上がります。たくさんある引き出しから,必要なものを出せるからです。
災さい害がい現げん場ばでは,突とっ発ぱつ的てきにいろいろなことが起こります。そんな中で,危き険けんを察知し柔じゅう軟なんに対たい応おうする能のう力りょくが高いのは,人生経けい験けんがより多た彩さいな隊員だと私わたしは感じています。消しょう防ぼうの仕事にかぎらず,経けい験けんを多く積んだ人のほうが,多面的な発想や対たい応おうができると思います。
人生にむだな経けい験けんはありません。今のうちから,ぜひいろいろなことに挑ちょう戦せんしてみてください。

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取材・原稿作成:大浦 佳代・東京書籍株式会社/協力:公益財団法人 日本財団,NPO法人 共存の森ネットワーク