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高知県に関連のある仕事人
1955年 生まれ 出身地 海外

ロギール・() アウテンボーガルト()
子供の頃の夢:
クラブ活動(中学校): サッカー部
仕事内容
原料から育てて手すき和紙を作る。
自己紹介
好こう奇き心しんが強く,なんでも熱中するタイプ。他人からは細かい性せい格かくと言われます。篠しの笛ぶえやジョギングが趣しゅ味みです。
出身高校
Grotius Liceum (オランダ)
出身大学・専門学校
Amsterdam Grafishe School(オランダ)

※このページに書いてある内容は取材日(2017年09月21日)時点のものです

原料から育てて和紙を作る

原料から育てて和紙を作る

私わたしは高知県梼ゆす原はら町ちょうで手すき和紙を作っています。出身はオランダのハーグ市です。みなさんは和紙を見たことがありますか。ノートや本に使われている紙は,木材パルプ,古紙などを原料に作られた「洋紙」です。「和紙」は日本で千年以上前から作られてきた,個こ性せい的てきでとても美しい紙です。現げん在ざい,一いっ般ぱん的てきに使われている洋紙は百年もすればボロボロになってしまいますが,和紙はカビや虫食いから守ってやれば,千年もつこともあります。
和紙の原料はコウゾやミツマタという植物です。その皮をはいで,煮にたり叩たたいたりして植物の繊せん維いをほぐしていきます。水の中にほぐした繊せん維いを入れて,粘ねばり気けのあるトロロアオイという植物の樹じゅ液えきを加え,大きなすだれのような「簀す桁けた」という道具ですくって乾かわかせば和紙になるのです。こう言うと簡かん単たんに聞こえるかもしれませんが,和紙を作るには,経けい験けんと繊せん細さいな技ぎ術じゅつが必要です。さらに,私わたしは原料の植物も,すべて自分で栽さい培ばいしているんです。

和紙づくりを見たくて日本に

和紙づくりを見たくて日本に

私わたしは若わかいころ,オランダのアムステルダムで美び術じゅつを勉強していました。その後,製せい本ほんの仕事をしていたのですが,25歳さいの時,見たこともない種類の紙に出会いました。触さわると不思議な素そ材ざい感があり,光に透すかしてみると,半はん透とう明めいの紙の中に繊せん維いなどいろいろなものが見えました。まるで紙の中にひとつの自然がつまっているみたいで,それを見た瞬しゅん間かん,ビビッと震ふるえが来る感じがしました。それが和紙との出会いでした。
私わたしはこの和紙が作られているところを見てみたくなりました。それで,はるばるシベリア鉄道で大陸を横おう断だんして,日本を訪おとずれることにしたのです。日本に着いたら,まず東京にある「紙の博物館」に行き,和紙の産地を調べました。そして,埼さい玉たま県けんから始めて,京都や福ふく井い,鳥取,兵庫,高知,沖おき縄なわと和紙の工こう房ぼうを訪たずねて,見て回りました。
工こう房ぼうを回る中で,強く印象に残ったのは“水”でした。紙すきの作業場では,いたるところにきれいに澄すんだ水が流れています。あちらからもこちらからも,水の流れる音が聞こえてきます。私わたしはこうした,水の風景に魅みせられたのかもしれません。 そのとき,日本語は全くわかりませんでしたが,職しょく人にんさんたちはていねいに和紙の説明をしてくれました。全国の工こう房ぼうを見て回る中で,日本の田舎いなかの風景が大好きになりました。食べ物もみんなおいしくて,会う人たちの人ひと柄がらもみんな好きでした。それで,日本に来て最初の2週間で,私わたしは日本に移い住じゅうすることを決めたんです。

高知県で和紙の修しゅ行ぎょうを始める

高知県で和紙の修行を始める

全国の和紙産地を訪たずねる中で,高知県にやってきました。そして,県の「紙産業技ぎ術じゅつセンター」に行ったら,とても親切にいろいろな紙すきの技ぎ術じゅつを教えてくれたのです。和紙を見に来た外国人が初めてということもあったのでしょうが,高知の人のおおらかでオープンな人にん間げん性せいがいっぺんで好きになりました。それから高知は,原料であるミツマタやコウゾの一大産地ということがわかりました。高知県の気候が,和紙原料の植物の栽さい培ばいにぴったりなんです。旅の途と中ちゅうで会ったある紙すき屋さんが「紙すきをやるならまず原料を植えなさい」と私わたしに教えてくれました。なるほどと納なっ得とくして高知県の伊い野の町ちょう(現げん在ざいは「いの町」)に住みつき,ミツマタやコウゾを育てながら,和紙の修しゅ行ぎょうを始めたのです。1981年のことでした。

江え戸ど時代の方法で紙をすくため,梼ゆす原はら町ちょうに

江戸時代の方法で紙をすくため,梼原町に

土と佐さ和紙の産地である伊い野の町ちょうには12年いましたが,自分がめざしている紙づくりにもっと適てきした場所を求めて,92年に梼ゆす原はらに移うつりました。私わたしの和紙作りは,防ぼう腐ふ剤ざいなどの薬品を使わない,江え戸ど時代の末期と同じ方法なので,寒いところほどいいのです。和紙原料の木の皮は生ものですから,春や夏の暖あたたかい時期にはすぐに発はっ酵こうして使えなくなってしまいます。梼ゆす原はらは高知県でも一番寒い地ち域いきの一つで,冬には雪が積もります。私わたしは梼ゆす原はらならばきっといい和紙ができると考えました。紙すきに使う水は,冷たいほどよくて,10度までが限げん界かいです。それより上がると紙によくありません。私わたしが工こう房ぼうに選んだのは,梼ゆす原はらでも山やま奥おくの標高650m,四し万まん十と川がわの源げん流りゅうに近い場所で,水のきれいなことは申し分ありません。以来、この場所で紙づくりを続けています。

和紙のインテリアや照明も

和紙のインテリアや照明も

ミツマタやコウゾは工こう房ぼうのまわりに植えてあり,毎日その成長を見守りながら暮くらしています。和紙は気温の低い11月から4月ごろにかけて作ります。それ以外の時期には,ヨーロッパの伝でん統とう的てきな紙で,綿めんから作るコットンペーパーなどを作っています。また,2006年には敷しき地ち内ないに民宿「かみこや」をオープンして,お客さんに宿しゅく泊はくしながら紙すき体験をしてもらえるようにもしています。
日本に来たとき,家の中には障しょう子じやふすまなど,和紙が実にたくさん使われていることに驚おどろきました。和紙を通して入ってくる光は,とてもあたたかいものに感じます。私わたしは和紙を壁かべに貼はってインテリアにしたり,照明を和紙で囲って暖あたたかい光を作り出したりする仕事もしています。建けん築ちく家かの隈くま研けん吾ごさんは私わたしの和紙をインテリアやオブジェに使った建けん築ちくを発表しています。隈くまさんとは,共同で企き画かく展てんも開いています。
また,地元の小学校で子どもたちに和紙作りを教えることもしています。学校の校庭にミツマタやコウゾを植えて,子どもたちに育ててもらっています。子どもたちにも,私わたしと同じように自分で育てた原料で紙すきをしてもらいたいからです。

紙すきは毎日が違ちがう仕事

紙すきは毎日が違う仕事

紙すきの仕事は毎日が違ちがう仕事です。畑仕事,草くさ刈かり,紙の注文が入ればその準じゅん備び,もちろん和紙の制せい作さくもします。季節によって,また天候によって,その日その日の仕事があります。私わたしのところでは原料のミツマタやコウゾを無農薬・無肥料で栽さい培ばいしています。手間はかかるし収しゅう穫かくできる量は少ないのですが,このような原料から作った紙は,すごくいいものになるんです。
生活の中で和紙が使われることが減へっていますから,和紙をとりまく状じょう況きょうはそれほど明るくはありません。でも,私わたしの紙すきワークショップに参加してから,自じ宅たくの台所と風ふ呂ろ場ばで和紙を作り始めた人がいます。昔の和紙の産地を復ふっ活かつするためにうちに勉強に来ている人もいます。うちで買った紙をそのまま壁かべに貼はって,毎日眺ながめているという人がいます。また,書道家の方に,「筆を持ってあなたがすいた紙の前に立つと,ぜんぜん緊きん張ちょうしない」と言われたこともあります。こういうことがあると,とてもうれしいです。紙すきはつらいこともあるけれど,後こう悔かいしたことはありません。

一生かけて紙と向き合う

一生かけて紙と向き合う

昔の日本の農民は,畑仕事だけでなく,井い戸ど掘ほりや小屋づくり,水路の補ほ修しゅうなど,たくさんの技ぎ術じゅつを持っていないと暮くらしていくことができませんでした。このため,「百の仕事をする人」という意味で農民のことを「百ひゃく姓しょう」と呼よんだ,という説があります。この「百ひゃく姓しょう」というあり方に,私わたしは強く惹ひかれます。和紙作りも,生せい産さん性せいだけ考えるならば,皮をむく人,紙をすく人,干ほす人が分業して工場のように作った方が,紙もたくさん作れるし能のう率りつはいいでしょう。でも,本当にいい紙,千年もつような紙を作るには,もしかしたら「百ひゃく姓しょう」のように一人が全部の仕事をやることが必要かもしれない。
紙を作るのは仕事ですが,仕事のもっと奥おくの方に一体何があるのか,私わたしは紙を作りながら考えています。コウゾやミツマタの種をまいてから紙になるまでが私わたしの仕事です。伝でん統とう的てきな技ぎ法ほうで作る和紙は,作り手がしっかりつきあわなければできません。機械や薬品を使えば紙とのつきあいを省くことができますが,私わたしが好きな紙は今,私わたしがやっている技ぎ法ほうで作らなければできません。いい紙を作るには一生かかる。自然を相手にする紙作りに,終わりはありません。

自分がいいと思ったことをやってみよう

自分がいいと思ったことをやってみよう

みなさん,自分のカンを信じてください,これは私わたしの経けい験けんから言えることです。「何かをやってみたい」と自分で考えたら,周りが何を言おうと,多少自信がなくてもかまわないからとにかくやってみましょう。新しいことに挑ちょう戦せんしてみてほしいのです。それには,あまり頭で考えてばかりではいけません。いいと感じていることを,とにかくまず自分の手で実行してみて,うまくいったらどんどん掘ほり下さげてみればいいのです。
学校とか友だちとか家族のこととか,しんどいこともあると思います。でも,みんな,ひとつのことにムキになりすぎです。もっとリラックスすればいいのです。私わたしがヨーロッパの紙すきを勉強しにドイツに行った時のことなのですが,有名な紙すきの名人の前で,私わたしは必死になって紙をすきました。そうしたら彼かれは「ロギール,そんなに緊きん張ちょうしないでいいよ。これはただの紙なんだから」と言いました。「ただの紙」と聞いて私わたしの肩かたの力がすーっと抜ぬけました。ガチガチに緊きん張ちょうしていたらいい結果は出ません。リラックスすることが大事です。みなさんも何かをやろうと思った時,緊きん張ちょうしてやるよりはリラックスした方がいい結果になりますよ。いろいろなことを楽しく体験して,たくさんのことを学んでください。

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取材・原稿作成:東京書籍株式会社/協力:株式会社ファミリーマート,林野庁,NPO法人 共存の森ネットワーク