仕事人

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岡山県に関連のある仕事人
1954年 生まれ 出身地 岡山県

あさの() あつこ()
子供の頃の夢: 小説家
クラブ活動(中学校): なし
仕事内容
読者の心に深い印象を残す文章,物語を書く。
自己紹介
人っておもしろい。好きな人でも嫌きらいな人でも,どっちでもない人でも,「この人は,どうしてこうなんだろう」と観察したり,考えるのが好きです。それが高じて作家になりました。
出身大学・専門学校

※このページに書いてある内容は取材日(2017年05月30日)時点のものです

読者の世界をほんの少し広げる手伝いがしたい

読者の世界をほんの少し広げる手伝いがしたい

この世の中には,無数の世界があって,無数の人が住んでいます。それを知ったとき,自分が閉とじこもっている世界だけがすべてではないと分かったときに,人は自分の閉とじた世界から前に出られるのではないかと思います。あるいは,ほっと一息つけると思います。それを,自分が経けい験けんするよりも,人に聞いたりするよりも簡かん単たんに教えてくれるのが本(物語,小説)だと,私わたしは思っています。
私わたしは,自分の中にいる「人」を書きたくて物語を書いています。私わたしがとらえた人間というものを見てもらいたい,という気持ちが強くあります。私わたしの本を読んだ人の中で一人でもいいから,私わたしがとらえた人間を本の中から想そう像ぞうして「生きた人間」を感じてくれたら,とてもうれしく思います。「そうか,こういう人がいるのか」「こういう世界があるのか」と思ってくれたら,そして本を読む前よりほんの少し,読者の内面が豊ゆたかになるお手伝いができたら,とてもうれしくて誇ほこらしいと思います。

規き則そく正ただしい生活の中で毎日の執しつ筆ぴつが理想,だけど……

規則正しい生活の中で毎日の執筆が理想,だけど……

何か特別な用事がない限かぎり,土日を含ふくめた毎日,朝は10時から,夕方5時まで,執しつ筆ぴつ部屋でパソコンに向かっています。たまに夕ゆう御ご飯はんが終わったあと,8時頃ごろから書くこともありますが,昼間より頭が働かないので,ネットニュースを見てしまったりしてあまりはかどりません。夜中でないと書けない作家さんもいるので,執しつ筆ぴつスタイルは人それぞれです。
今はもう自分のペースで執しつ筆ぴつしていますが,若わかいときは家事や家業を優ゆう先せんせざるを得ず,とくに子どもが小さいときは,学校から帰ってきたらもう仕事はできませんでした。「家族がいなければ,子どもがいなければもう少し書けたのに」と思ったこともありますが,それは嘘うそで,やっぱりどんな状じよう況きようでも書ける人がプロになるのだ,ということがわかりました。

自分の中にいる「人」を書くことで物語をつくる

自分の中にいる「人」を書くことで物語をつくる

創そう作さくの方法は十人十色,作家さんそれぞれの方法があって,こういう書き方が正しいという答えはありませんが,私わたしの場合は,書きたい「人」が見えてきた時点で書き出します。そのため,物語のプロット(構こう成せい)は一いつ切さい考えません。
書きたい人が浮うかび上あがってくると,その人の周りが見えてくるんです。たとえば,その人が江え戸どの商人なのか,現げん代だいの中学生なのかで周りの風景は違ちがってきますし,他の大事な人物も見えてきます。主人公と背はい景けい,その周囲の人たちが見え出したあたりから書き出します。
私わたしはプロットをあらかじめ立ててしまうと,話を狭せまいところに追おい込こんでしまいがちです。作家さんによってはきちんとプロットを立てることで,完成度を上げている場合もあります。私わたしの場合は,何が起こるか分からない,というところで書いていくほうが,物語が広がりをもつように感じています。
『バッテリー』を書いたときも,主人公,原田巧たくみが最初に浮うかび上あがってきました。彼かれが浮うかんだとき,彼かれの性せい格かくでは中学校ではなかなか生いき延のびられないな,と思ったんです。そうしたら,相手の永なが倉くら豪ごうという少年が浮うかび,青せい波はという弟が浮うかび,そうやって仲間や家族ができてきて,物語が始まったのです。

人を知るために観察し,想そう像ぞうする力をつけてほしい

人を知るために観察し,想像する力をつけてほしい

私わたしは岡おか山やま県けんのいなかで生まれ育ちました。祖そ母ぼが小さな食堂をしていたので,日々そこでいろんな人を見てきました。小さな温おん泉せん町まちの食堂なので有名人は来ないのですが,ヌードダンサーのお姉さんや芸者のおかみさん,近きん隣りんの農家のおじさんなどが,何百円か握にぎりしめて,食べに来るんですね。祖そ母ぼも含ふくめていろんな人を見て思ったのが,人って一つの鏡だけで見てはいけないな,いろんな種類の人がいるんだな,ということでした。
立りつ派ぱな人,成功した人の様子は,何もしなくとも情じよう報ほうが入ってくるのですが,そうじゃない大半の人は,広く知られることなく一生を終えていきます。そういう人が小さな温おん泉せん町まちにはいっぱいいたので,その人たちを見ているのが私わたしにはすごくおもしろかったんです。そしてその体験は,今私わたしがものを書いている上で財ざい産さんになっています。
人に対する興きよう味みを持ち続けることは,小説家になりたい人には必要ですし,そうでない人にとっても人生を確かく実じつに豊ゆたかにします。なるべく人と話をしてみる,あるいは人を眺ながめることをしてみてください。たとえば友達と駅で待ち合わせをして,友達が15分遅おくれてきたとしたら,その15分の間に行いき交かう人を見てみましょう。子どもが泣きながらお母さんについていっている,転んだんだろうか,怒おこられたんだろうか,お母さんはどんな人だろうかとか,想そう像ぞう力りよくを働かせてみてください。想そう像ぞう力りよくは使えば使うほど力をつけてきます。そうしたら,友達が遅おくれてきてくれた15分がとても大切な時間になりますよ。

本は人を知り,自分を知るための有ゆう効こうな手しゆ段だん

本は人を知り,自分を知るための有効な手段

インターネットが発達している現げん在ざい,情じよう報ほうを取り入れ,それをうまく選せん択たくして使う力は育っていくでしょう。しかし,情じよう報ほうに振ふり回まわされてしまって本当のことが見えなくなり,自分を見失って,迷まよったりすることもあると思うんです。情じよう報ほうに振ふり回まわされないために必要なことは,「自分を知っていくこと」だと私わたしは思っています。そして自分を知るためには,他の人を知ることが必要です。
そのためには,情じよう報ほうやニュースを取り入れつつ,その一方でネットではできない営いとなみをすることが大事だと思います。それは実じつ際さいに人と会ったり,音楽や運動などをしてもいいのですが,身近にできるよい方法の1つが本を読むことです。たとえば文庫本が1冊さつあったら,その1冊さつの中に人ひとりの人生が詰つまっています。人ひとりの人生と付き合おうと思うと,ものすごいエネルギーと時間を費ついやす必要がありますし,私わたしたちが実じつ際さいに付き合っていける人の人生って,どんなに飛び回っても数えるほどしかありません。それを本が代わって教えてくれます。
その人は,あなたにとって不ふ快かいな,嫌いやな人かもしれないし,すごく愛いとおしい人かもしれないし,何かちょっと気になる程てい度どの人かもしれない。自分を重ね合わせる人かもしれない。いろんな人がいろんなふうに生きているということを知ることができるのは,小説家になりたい人はもちろん,そうでない人でも,これからますます大事になっていくと思います。

小説家になるために必要なことは?

小説家になるために必要なことは?

小説家になるには,3つのことを続けていると可か能のう性せいが高まります。まずは,たくさん読んでたくさん書くということが大事です。読むことの大切さはこれまでお伝えしてきました。
書くというと,ハードルが高いように思うかもしれませんが,最初から物語を書かなくていいのです。日記でも何でもいいので,自分の思いをつづり続けることが大切です。
書く力は筋きん肉にくトレーニングといっしょで,毎日鍛きたえていると,ある一定の力は必ずついてきます。たとえば今日原げん稿こう用紙3枚まい書いたら,書かなかった昨日よりも確かく実じつに力はついています。文章がうまくなるためには,読んで,言葉を覚えて,それを使うことが大切です。書くことによって,自分の気持ちもリアルに動きますし,言葉も覚えます。
しかし,それはある一定までのことです。その一線を越こすためにはいろいろな要よう素そが必要ですが,私わたしが言えるのは,書きたいという意い欲よくが重要だということです。本当に作家になりたいという人は,親に認みとめられるからでも,先生にほめられるからでもなく,書きたいから書き続けます。その書きたいという欲よく望ぼうが,一線を越こすひとつの原動力になります。
そして何度も言いますが,3つめは,人に対する興きよう味みを持ち続けることです。これらのことを続けることが大切ですが,できなければ途と中ちゆうでやめてしまってもいいし,また始めてもいいんです。それまでやってきたことは小説家にならなくても力になっているし,将しよう来らいあなた自身を助けてくれます。

読書よりも漫まん画がが好きだった子どもの頃ころ

読書よりも漫画が好きだった子どもの頃

私わたし自身は小さい頃ころは本を読む子ではなく,むしろ漫まん画がのほうが好きで,描かいたり読んだりしていました。あるいは外で遊んだり,祖そ母ぼの食堂でいろんな人を見ているほうが好きな子どもでした。そのため,小学生の頃ころは漫まん画が家かになりたかったんです。手て塚づか治おさ虫むとか石いしノ森もり章しよう太た郎ろうとか赤あか塚つか不ふ二じ夫おなどが出てきた漫まん画がの黄金時代で,私わたしだけでなくみんなが夢む中ちゆうになっていました。とはいえ,絵がそんなに描えがけなかったので私わたしには無理だということは,小学校高学年からわかっていました。さらに,私わたしは漫まん画がを書きたいのではなくて,ストーリーを考えるのが好きだったんだということに気がついたのも,その頃ころでした。
中学校に入ってから本をよく読むようになるのですが,海外ミステリー,コナン・ドイルやアガサ・クリスティー,エラリー・クイーンなどの,今では古典と呼よばれるものに夢む中ちゆうになりました。中学生になってから読書に目覚めたのは,小説家としては遅おそいほうかもしれません。しかしそのとき,読むだけではなく,ものを書く人になりたいと思いました。

小説家になりたい,あるいは自分の人生を豊ゆたかにしたい人へ

小説家になりたい,あるいは自分の人生を豊かにしたい人へ

読んだり書いたりすることが好きだということは,あなたの知らないうちにあなたの支ささえになっています。あなたが物語を書くことで,誰だれかを支ささえられることがあるかもしれません。それは生き方としてはとてもステキなことだと思います。
ただ,小説家という仕事は特とく殊しゆな仕事で,専せん業ぎようで生計を立てられる人はもともと少ないし,出しゆつ版ぱん不ふ況きようの現げん在ざいではさらに困こん難なんです。それでも小説家になろうと思ったら,手に職しよくをつけておいてください。ものを書く仕事は,諦あきらめさえしなければ年ねん齢れいは関係ありません。
また,人に対して興きよう味みがあるということは,小説家になるということよりも大切で,これから先のあなたの日々をおもしろいものにしてくれます。そしてあなた自身が,おもしろくて魅み力りよく的てきな人になれることでしょう。好きな人はもちろん,嫌きらいな人でもそうでない人でも,「この人はこんな人」と最初から線引きせず,先入観をもたずに,観察して,積極的にかかわってみてください。

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私のおすすめ本

アーネスト・T・シートン
小学校を卒業するちょっと前くらいから本をよく読むようになりました。私は動物が大好きだったので,はじめて夢中になったのがシートン動物記のシリーズです。とくに『おおかみ王ロボ』は,厳しい自然の中で生きるおおかみたちの誇り高さ,哀れさ,人間の優しさと残酷さを味わい,読みながらぼろぼろ泣きました。
コナン・ドイル
中学校に入ってから本格的に本を読み始めるのですが,そのきっかけはシャーロック・ホームズシリーズでした。とくにこの中編はめちゃくちゃおもしろくて,それから他のホームズシリーズを読み,さらにエラリー・クイーン,アガサ・クリスティーなどの海外の作品を読むようになり,徐々に読書の幅が広がっていきました。
取材・原稿作成:東京書籍株式会社