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名人の仕事

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川漁師の生き方

  • あま かつのり(島根県江津市)

    職業 川漁師
  • 田村 祐一(島根県立松江農林高校2年)

第1回(2002年)参加作品

生きるたくましさというのは漁師は強いですね。たとえ内陸のちっさい漁師であってもね…

規模が小さくて寂しい貧しい生活をしているのが川漁師なんですよ。平均的にいえば。私は川漁師って言葉を、初めは抵抗していましたよ。海の大原で漁をするのと違って、川というのは範囲が狭いでしょ。

しかし、貧しい漁民ですけど生活力はありますよ。町の人に比べたらまるっきり違いますよ。川だけじゃなくて、山から食べる物を引っ張ったりきたりしてますからね。生きるたくましさというのは漁師は強いですね。例え内陸のちっさい漁師であってもね…。

川漁師というのは、シーズンを通じて漁が出来ません。上流部へ行く時は特に漁法に制限があります。ここは冬型になりますとね、西風が吹いて通ってきます。川に白波が立ってね、海から風が来る。船が出せないんですよ。だから、本当に夏だけの職業になる。夏から秋口のね。川漁師いってもどっちかいやあささやかな生活してるわけですよ。

今日捕れるけども、それはなんぼ明日にまわそうかとかね、そういう考えのもとで漁をしてきました…

絶対的な量が少ないわけですよ。資源が。だから私は、捕れるからとにかくなんぼでも捕るというわけでもなく、今日はこれだけ必要だからこれだけ捕る。そのかわり、必要なときは必要なだけ絶対に捕ってくる。それで、今日捕れるけども、それはなんぼ明日にまわそうかとかね、そういう考えのもとで漁をしてきました。

上流部の漁師の中には、捕るときには徹底的に捕るわけですよ。からっぽになるほど。集団でね。そうすると次の日は商売にならん。何日も商売にならん。それじゃ職業としてはなりませんからね、私は毎日、必要に応じて必要なだけとります。我々が生活していくのに必要な水揚げというのがありますよね。それを目標に。それ以外はあんまり背伸びをせんようにね。そうすることによって値段なんかもずいぶん維持していけるわけですよ。

漁師は捕るということに心を燃やすわけですよ。だから、それじゃ職業にならない。私はそう思うて、他の漁師さんとはまるっきり考え方を変えて漁をします。

物心ついた頃の良い夢っていうのは生涯忘れられないと思うんですよ…

小学校一年生に入学した時に父親も亡くなるし、他に学校に行くこともできんし、おじが行かせるゆうたんですけど行かんかったんですよ。

若い頃ちょっと他の仕事をしましたけども、やっぱり小さい頃に体験した良い夢というのは忘れられないですよね。特に物心ついた頃の良い夢っていうのは生涯忘れられないと思うんですよ。それでやっぱりここに舞い戻ってきて、また一から漁師を始めたわけですよ。

子供の頃は昼も夜も川へ行って戻ってこんかった。それで母親がね、「夜も川へいかんこ、夜ぐらい家に戻ってこにゃあ」とかいったんですよ。まあ、川につきっきりていうのは貧しさの象徴だったわけですよ。川ばっかり行くと人が笑うゆうたり…。昔はねえ、夏休みになると川へ行って、ちょんかけゆうてねえ、水中眼鏡で川の中で魚捕るんよ。あれが一番。用具がいらんのよ。針が二本あればいいわけだから。カジカっていう魚がおるでしょ。動きが鈍いんですよ。それを捕るんですよ。大切なタンパク質でした。

今は釣りっていやあ、レジャ-で、釣りは釣りで一つのゲームですよね。我々はえびを捕ったり、魚を捕ったりして、それを食べるわけですから。食べるために捕ったんですよ。容れものがないでしょ。それで河原に穴を掘るんですよ。逃げんように回り石積んで。平らな所はいいんですけど。瀬がある所に。、穴を掘ったらかみの方から、綺麗な水が出てきてあっという間に中が綺麗になるんですよ。「あ、河原の底に水が流れおる。」って、そう気がついたんよ。

鮎を捕り始めたのは中学二年、三年生ぐらいかな。そのころは反対におこずかいをもらわず、母親に逆にお金を渡してましたね。うなぎ捕って売りに行ったりなあ。卒業して町に出て、川の恵みを感じました。一生懸命やれば働いただけ受け入れてくれますから、魅力ですよねえ。

川漁師というのは夜の仕事が多いからね。…本当に良い物を捕ろうと思えば、夜半から夜明けになるね…

楽しいってゆうのはねえ、まあ魚が捕れるっていうことも楽しいけども、自分が予想するでしょ。今日はあっこでどれだけ捕れる。だいたいね、どれだけ捕れるか分かりますよ。川を見ただけでも。やっぱり若い頃には嬉しいもんですよ。予想があたった時にはね。

嬉しい時いやあ、お客さんから要望があって届けて、「ありがとうございました。」と言ってもらったときは嬉しいですね。(笑)

苦しいとき? 夜さし網で鮎を捕りますよね。すると朝五時には箱詰めして、浜田の市場に運んでいくわけですよ。前の日から河川の状態みて、それで高津川行こうか、八戸川が良けりゃあ八戸川へ行く。そこで釣りしてなんぼか稼いで、日中の暑い時は昼寝して…。早よ帰ってきちゃあ困るわけですよ。早よ水から揚げりゃあ、鮮度が落ちますから、夕方まで生かしとかないといけないんですよ。それで、夕方帰ってきて、ご飯食べるなり寝て。で、夜中に起きて川にまた行って。そういうのを繰り返すと、睡眠不足で頭痛がしますよね。ああいう時は苦しいですよね。睡眠不足との戦いが一番しんどいですよ。車に乗らなければ楽ですがね。川漁師というのは夜の仕事が多い。昼の魚というのは質が悪いですからね。本当に良い物を捕ろうと思えば、夜半から夜明けになるね。

「ちんどんや」ゆわれてね。人はええことゆうてくれたなあ思うてね…

六月の解禁っていうのはそんなに捕れない。三キロや五キロは捕ってきますけどね。六月の鮎を捕って冷凍しといても身がやわらかいし。

七月になって梅雨になって、雨が降りますよね、大きな雨が。ダムを放水しますとね、上流へそ上した鮎がまた下がってきます。その頃から刺し網も活発になってきますよね。それから水温が上がってきます。

梅雨あけると、鮎そのものも弱って餌を食べなくなります。土用下り言ってね、半分は流れて来るような格好でさがってきます。その後から鮎がよく捕れるようになる。

一番捕れるのは九月の後半から十月ですね。十月は一つの網の中にね、三十キロも三十五キロも捕れますよ。普通の船で一人ではできません。三十キロも三十五キロも一丈の網を使って一人で漁をするため、あまり動力を必要としない船を作ってます。船は独特の船です。自分で手作りで作るわけですから。一人二役するためにも。それで、前晩に仕掛けを工夫して、溶接して作るでしょ。夜中になるのがまちどおしい。早よ行って使ってみたい。そん時、上手くいった時は嬉かったり…。一つの設備をしますよね。使っているうちに二通りも、三通りも利用できてくる。何かの拍子にね。あっ、こういう方法もある、こういう時にも使える。そういう発見があったり…。

漁法の名前? 名前はねえ「天野式」と呼ぶ人もいるし、「ちんどんや」と呼ぶ人もおるし。「ちんどんや」ゆわれてね。人はええことゆうてくれたなあ思うてね。「ちんどんや」ゆうのは一人で何役もこなすでしょう。面白い思うて…。

自然の中からどんどん吸収して自分で勉強するという気持ちを持たんとね。いかに自然から学び、それをうまく利用するか…

自然と環境を意識したの? それはね、魚の質が悪くなった時。あのね、浜原ダムができてしばらくは良かったんですよ。新八戸ダムができてから、以前の何倍もの面積のダムができて、それで水が腐って、ダムから流れるところにいる鮎がだめになって…。それからね、ダムっていうのはものすごい自然に影響するもんだなあって。それで八戸川が死んでもうて。泥臭かったりね、鮎が。それだけね、環境で鮎の味も変わってくるわけですよ。肉質とかね。山であったら森林の木の実なんかが良くないと動物もいかんしね。食用にするんであれば。

水はねえ、昔はきれいだった。特に八戸川の水っていうのはね、もう川の中にもぐって水中めがねで見るとね、15m~20m先まで澄んで見える。その川ん中に入って、子どもたちが水遊びするでしょ。足がみんな見えるんよ。すごい透明力がある。あれは八戸ダムができてからだめになったんですけどね。

鮎はねえ、水が汚くても育つんですよ。排水の中でも育つんですよ。育ちますけども香りとか味がまるっきり違う。きれいな水にいる魚っていうのは、餌がきれいですからね。鮎そのものもおいしいですよね。

自然の恵みで生きようと思えばね、いろんな兆候を敏感に感じ取ってそれを生かす。その中から勉強していかないといけませんね。自然の中からどんどん吸収して自分で勉強するという気持ちを持たんとね。いかに自然から学び、それをうまく利用するか。時代によって変化しますからね。

経済効率だけを考えていくとね、森が荒廃していく。…川も荒廃していきます…

針葉樹っていうのは経済効果がある。針葉樹の面積が増えてますけど、やっぱり広葉樹を残してほしいですね。広葉樹をある程度残して保水能力を保ってもらわんとね。川の水がすぐなくなっちゃうね。いつまでも少しずつ、少しずつ流してくれる森がいいですね。経済効率だけを考えていくとね、森が荒廃していく。森の管理をしないために川も海もだめになります。だから、経済効率だけでなしでね、やっぱりいろんな人の夢もここで育ててほしいと思いますね。多少は経済的に効率が悪うてもね。それが森に住む動物にも、そっから流れ出て来る水の中に住む魚介類にも皆良い影響を与えるわけですから。人間のエゴだけで、管理するとやっぱり最終的には人間が人間の首を絞めるようになるだろうと思いますよ。

つねに先のことを読みながら、鮎捕りもやっていました…

江の川の魅力は水量が多くて、大きい。大きいとなぜいいかと言いますと、魚を簡単に捕りほすことができない。小さい川だと網漁が解禁されると皆捕ってしまう。大きい川では、親が残るから、また翌年の子ができる。捕りつくせない川っていうのが魅力。捕りにくいところで必要な漁だけ捕っていくのが一番理想だと思いますよ。

今、十の力を使っとるとしたら八は今の仕事、二つは七十歳頃の夢をみとる。絵描き始めたのはね、七十からの人生を見通して描き始めた。だからね、、つねに先のことを読みながら、鮎捕りもやってきました。そのために年をとっても売り上げを落とすことなく、働く時間も少なくなり、半分は遊び心も入ってきました。

私はもうちょっと生きとかにゃあ、まあ百枚ほどお絵描きせにゃあね、昔からの漁法や子どもたちの水遊びを描かにゃあ、浄土へ行く土産ができん。それで生きとかんといけん。(笑)

名人の仕事~森・川・海の名人たち~

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