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名人の仕事

  • 海・川の名人
  • ごまだしの加工・販売

漁師と食卓への架け橋

  • くわはら まさ(大分県佐伯市)

    生年月日 昭和23年11月17日
    年齢 65歳
    職業 ごまだしの加工・販売
    略歴 まき網漁業の経営者の妻として漁業に携わってきて、年々地元の漁業や地域が衰退していく状況を目のあたりにしてきた中、何か自分にできないかと思い、漁村女性起業家グループ「めばる」を結成した。活魚や鮮魚の出張販売からはじめ、今では、佐伯市の伝統調味料である「ごまだし」を定番商品として加工販売をしている。これからも桑原さんの活躍が漁師と食卓への架け橋となるだろう。
  • 山田 杏実(愛媛県立宇和高等学校2年)

第12回(2013年)参加作品

自己紹介

  • 桑原 政子さん

桑原政子といいます。生年月日は昭和23年11月17日です。仕事はごまだし(魚の身、ゴマをすり潰して、醤油等を混ぜて作られる大分県佐伯市の調味料)の加工・販売をしています。生まれは大分県佐伯市で、今も佐伯市に住んでいます。今は主人と2人暮らしで子供が3人います。子供の頃は運動が嫌いだったのを覚えてる。でも、よくお茶目な子だったって言われるね。

趣味はパッチワークなんだけど、今は仕事が忙しくて余裕がなくてね。だから体力がなくなって、仕事を辞めたらやりたいな、なんて思ってる。

主人は漁師で、まき網してるんだけど、ここの漁業って男と女の役割分担がはっきりしてるから、女性が船に乗ることがまずないのね。だから56歳までずっと専業主婦してたんです。

こんな美味しい魚をなんで食べないの?一つの疑問から始まった

漁から帰ってきて、魚を選別するのは、女の人が出てたのね。私も朝の2、3時間だけど手伝ってた。朝の1時頃から上げることもあったし、機械化されてなくて、時間もかかるから、朝の競りには間に合うようにやってた。仕分けするのは難しいけど楽しかったね。でも、仕分けに出るのは毎日じゃないし、1ケ月に10回も行かないくらいだったのね。それで、選別しながらね、おばちゃんたちが話してたんですよ。当時から子供の魚離れが進んでるのをよく聞いてて、魚が売れないなー。だんだん値は安くなっていくなー。で、何でこんな美味しい魚をみんな食べんのかなー。こんな美味しい魚、食べんって、もったいないなー、って言ってたのね。それで、そのとき思ったのが、都会の人って、いったいこの美味しい魚を美味しい状態で手に入れてるんだろうか、って疑問があったんですよ。それで、当時はアジとかサバが、いいのが捕れてたから、これを大分県の朝市に持って行ってみようや、ってことになってですね、おばちゃんだけで活魚販売を突然始めたんですよ。これが漁村女性起業家グループ「めばる」の始まりです。なんで「めばる」っていう名前にしたかっていうとね、めばるって魚は目がぱっちりしてて、まるで私たちみたいじゃないですか。めばるって春の魚で美味しい魚なんです。だから女性らしい「めばる」で行こうって、みんなで話し合って、なったんですよ。女性だけだけど、周りの人に教えてもらいながらですが始めたんですよ。めばるグループって、最初、活魚の販売だったんだけど、これってね、やっぱり大変だった。持って行ってもね、やっぱ1匹のまま買ってくれる人が少なかった。ほんとにね、大変なのに売り上げは少ないしね。魚離れってよく耳にはしてたんだけど、ここまで離れてるとは思わなかったね。ほんとにビックリしたんだけど、生きてる魚見て、「これ刺身にできるんですか?」って聞かれたときにはびっくりしたね。でも現実そう。それで、販売しながら聞くのが、3枚に魚をおろせないとか、残飯が困るとか、臭いがするとか言うんですよ。でも、魚が臭いがするって言うけど、本当に臭いがするのかどうか。魚は古くなると臭くなるんよね。でも生きてる魚って、そんなに臭いもんじゃなんですよ。だからそういうところから、お客さんに伝えてた。

ごまだしって母の味

あるとき魚だけじゃなくて、魚を加工して販売したらどうかな、って話になったんですよ。でも加工するったってね、よく干物にしたりとかあるけど、そういうのって天候に左右されるし、工場だったらお金もかかるしね。みんな主婦だから、そんなお金も持ってないし、他に何かないかなーって思ってたんですよ。ほしたらね、「ごまだし」があったんですよ。で、そのごまだしも当時佐伯市の魚屋さんの一軒の棚に何本か並んでるくらいで、まだ商品化されてなかったんですよ。ごまだしはね、私らが小さいときに母親とか婆ちゃんが作っててね。子供だった私らは、そのごりごりすり鉢でする縁ふちを持つのが仕事だったわけ。でもね、遊びに行きたくて、うずうずしてるのに持たされてね。もう嫌だなって思ってたんだけど、「魚は焼いて入れるんだな」とか、「骨を取るんだな」とか、「次はお醤油入れるんだな」とか、見てたからね、「ごまだし」が作れたんよね。ごまだしってこの佐伯市の郷土料理なんですよ。でもね、私らが瓶に入れて販売するまで、本当に各家庭の味だったんですよ。

「 ご ま だ し 」 っ て ね 、 す り 鉢 に ゴ マ を す っ て 、 そ こ に 焼 い た 魚をほぐして骨を1本1本全部取って入れて、みりんと醤油を入れてペースト状にしたものを言うんですよ。ゴマはね、すり鉢ですると、本当にいい香りがするね。ただ私らは今、めばるグループとしては量をたくさん作るから、そこまでする訳にはいかんのですよね。だからフードプロセッサーでゴマをするし、骨の魚が1本でもあったらいかんから、魚をミンチにかけるんですよ。ミンチにかけたら魚の繊維がなくなってしまうんよね。ゴマの香りも少なくなってしまうんよね。だから母親らが作る家庭のごまだしはね、絶対に美味しい。

ごまだしをもっと知ってもらいたいね

  • めばるグループの皆さんが作るごまだし(味は左からエソ・タイ・アジ)

平成19年の「おおいた・ワンコインふるさと商品」求評会にごまだしを出したんですよ。ただ単に「ごまだし」っていう、ちっちゃい手書きのラベル作って、瓶にペタって貼って出したんですよ。ほしたら優良賞をもらったのね。それで、これはちゃんとした商品になるなーって思ってね。ただ瓶に入れるだけじゃ面白くないから、それに紙をかぶせて、漁師らしく紐を結んで商品を作って、今があるんですよ。

佐伯市ではエソのごまだしが中心なんだけど、私は商品としてアジやタイのごまだしもあっていいじゃないか、ということで、今、3種類のごまだしを作ってるんですよ。で、もう1種類シイラのごまだしって作ってるんだけど、シイラって大きくなると、1メートル50センチくらいのが、うちでは捕れるんですよ。でも、この地域ではあまりシイラは食べられてなくてね。でもね、魚って命なんよね、捕ってきたからといって、ただ置いとるようじゃもったいないし、私らは魚の命をもらって「いのちき」(大分の方言で暮らし・生計)しとるんですよ。だから、「これもなんとか人に食べてもらえるようにしようや」てことで、シイラのごまだしを作ったんですよ。美味しいのがわかっててもね、なかなか売れるもんじゃないんよね。シイラっていったら、あまり良くないっていうイメージがあるみたいでね。だから、これからシイラを見返すようなものを作っていきたいな、って思ってるんよね。ごまだしを作り始めた頃ってね、佐伯市内の人はごまだしって知ってたけど、大分市とか行っても、知らない人が多くてね。なかなか売れなかったですよ。でも、賞を取ってからヒットしてきた。だんだん売り上げとして伸びてきたね。

  • めばるグループの加工場

  • (左)ごまだしうどん(右)イカコロッケ

漁村女性起業家グループ「めばる」の活動の柱

まき網の魚ってね、一度に捕れるのが、うちでは3千箱(40kg入りの箱が3千箱)くらい、最大では捕ったのね。3千箱捕ってるってことは、無駄になる魚とか多いんよね。たとえばイワシを捕っても、その中にイカがあったりとか、違う魚が入ってたら、養殖のエサとして入れられてしまうんよね。それはほんとにもったいないっていうのがまずあった。「めばる」の大きな目的としては、魚に付加価値をつけること、それから魚食普及をしようということ、それから地域の雇用、もう1つは地域の活性化、この4つがね、私らの柱なんよね。

①付加価値をつける

私らがごまだしを作り始めてちょっとヒットしたところから、エソの値段が上がったんですよ。これって付加価値ついてるよね。それと、イワシなんかに入ってる小っちゃいイカとかが、もったいないんよね。でね、そのイカも競りに間に合うと結構な値段がつくんですよ。でも、船が朝の8時くらいに帰ってきたときには、競りに間に合わないんよね。だからといって次の競りにかけるってなると、鮮度が落ちるし、もう安いんですよ。だからその競りに間に合わなかった魚を、私らが加工してる。イカのコロッケにしたり、イカ飯や煮物にしたりとかね。それは付加価値ついてるよね。

②魚食普及

「めばる」グループで年に2回料理教室をするんですよ。どの年齢の人たちに魚食普及するのがいいか考えたときに、若いママ。ママって食卓の料理の決定権を持ってるんよね。子供に魚離れが進んでるっていうけど、この子供に魚食べさせるためには、ママなんよね。ママって子育てしてて、なかなか外に出られないんよね。だから料理教室をやって、その隣の部屋に託児ができる場所を作ったんですよ。それがママたちに評判がいいんですよ。それで、料理教室って、おばちゃんたちが料理するっていうと、煮物とか、刺身とかは教えることはできるんだけど、今の若いママたちに料理教室しますよって来てもらおうと思ったら、やっぱりかっこいい料理でないと、なかなか来てもらえないんですよ。だからね、めばるグループの料理は、美味しくて、簡単で、キレイな料理、この3つがね。特徴なんですよ。美味しいのは私らも伝えられる。簡単な料理も伝えられる。でもキレイな料理ってなったら無理なんよね。我々じゃ、だめなんよね。料理は3割方、目で見るっていうしね。だから娘が大分市で料理教室をしてるので、料理教室をするときには連れてきて一緒にしてます。料理っていっても、やっぱり基本は魚の3枚おろし。だからめばるグループの人たちが各テーブルについて3枚おろしは徹底的に教えてる。3枚おろしができると、料理の幅が広がるし、骨とかまで無駄にしないんよね。だからその場でみんなの骨を集めてダシを取ってスープを作ったりしてる。それでみんな3枚おろしが上手になってきてるんよね。私らの夢は、この佐伯市の若いママたちみんなが、3枚おろしができるようになること。これが私らの夢ですよ。

③地域の雇用・活性化

私らのごまだしは瓶に入れて、その上から和紙をかぶせて、それを紐でくくってるんよね。でも紐でくくるのは時間もかかるし、面倒なんですよ。あるテレビ番組に出たときに注文がたくさん来たんですよ。そのときに、元漁師の人にお願いして、紐をくくるのを手伝ってもらったんですよ。ほしたら元漁師やからくくるのが得意で早いんよね。上手く作ってくれたんですよ。元漁師で、今何もしてない老人が多いから、まだまだやってくれる感じがするんですよ。特にね、男の漁師は老人になって、引きこもりになる人が多いんよね。だから私らがごまだしをもっといっぱい作って売ることで、老人の方に元気になってもらえるんじゃないかな、って思うんよね。一人暮らしの老人が一番困るのは食事なのね。だからお昼ご飯で、私ら塩魚とかうどんとか、簡単な物ならすぐに作れるから、ご飯あるから手伝って言うたら喜んで来てくれるのね。

漁師と食卓への駆け橋

これほど魚は体にいいっていわれるんだけども、めんどくさいっていうのが若い人に好まれてないんかな、って思ってね。どうしたらごまだしをもっと食べてもらえるか、娘と考えていたら、ごまだしを調味料として使おう、ということになったんですよ。平成24年の11月3日に、野菜ソムリエ協会が行う調味料選手権があったんですよ。そこにごまだしをアンチョビの代わりに使った、バーニャカウダを作って出したんですよ。それで最優秀賞をもらったんですよ。でも、アンチョビって各家庭にあるわけじゃなし、あまり料理に使わないんよね。でも、コンソメだったらあるんよね。だから、コンソメの代わりに、ごまだしが使われるようになったらいいなって思ってる。

今、働く女性が増えてきたから、専業主婦がどんどん減ってきてるのね。だから、私らの年代ができるのは、ちょっと料理の手助けをする。ごまだしとかを作って、手間とか面倒な部分をこの年齢の人たちが引き受ける。そういうのがいいんじゃないかな、って思う。やっぱりめんどくさいから料理しないってのが多いから、そのめんどくささを我々が引き受けると、その魚が、食卓に上ると思うんよね。ごまだしが上ることがあっても、なかなか1匹の魚が食卓に上がることが少ないから、めんどくさい部分を我々が引き受けるっていうのが、漁師と食卓への架け橋だと思う。めんどくさい部分を誰かがしないと、美味しい物も食べれないからね。ほんと、そう考えたら、食べ物ほど大事なものってどこにあるんだろうと思うんよね。

最近は食べ物がおろそかにされてる。よく学校の給食とかで、残す人が多いって聞くけど、私らからしたら、とんでもないことなんよね。食べ物は大事にしてくれんとね。それは農業でも漁業でも変わらないと思う。だから食べ物は大事に食べてほしいね。

やっぱこの仕事は最高だね

  • 笑顔が素敵なめばるグループの皆さん

初めの頃は、うどんを作って販売してて「いらっしゃいませ」から次の言葉が出てこないんよね。それじゃ売れないよね。だから、この商品はこんなんなんですよ、こういう味なんですよ、ていうのを話せるようになると売れるね。売れるためには心があるかどうか。なにがあっても心がないと伝わらないね。体力的な面で販売に行ったりするのは、これからしんどくなるけど、でも、「ごまだし」を作るのはできる。そのためには、ただ売り上げだけ伸ばすことを考えるんじゃなくて、取引先をちゃんとしてくことが大切なんよね。そしたら自然と売り上げもついてくる。

今思えばほんと、失敗の話ならいっぱいある。でも、その度にいろんな人から助けられたって思うね。メンバーも取引先もみんな良い人だし、ほんと恵まれたな-って思う。めばるグループは、まず楽しむってのがあるから。みんなでお花見にも行くし、遠くに出かけたりするしね。グループを作るときに大切なのは仲間なんよね。1人でもややこしい人がいるとまとまらないんよね。ほんと、今のめばるグループのメンバーは一番いいね。最高のメンバーだって思うね。グループのリーダーだからといって、給料をたくさんもらえるわけじゃないし、仕事の量と給料を秤にかけると、仕事の方が大変だけど、やっぱお金に代えられない物があるんよね。だからやめられないんよね。6人で作る売り上げって、たいしたもんじゃないんよね。材料費とか電気代とか払うと、金はあんま残らないんよね。でも金には代えられない楽しさがあるんよね。「めばる」って生きがいよね、ってよくメンバーで話すのよ。働けるだけ働いて、ころっと逝こうねって、笑いながらみんなで言ったりしてるんよね。だからこれからもずっとめばるグループは続けていきます。

やっぱりこのめばるグループは最高ですよ。

[取材日:2013年9月29日、12月22日]

  • 取材を終えての感想

    本当に取材ってこんなに大変なんかと思いました。泊まりがけの取材。本当に私1人でできるのか不安しかありませんでした。ですが、すべてが終わって、こんな貴重な体験をさせていただけてよかったな、という思いがいっぱいです。

    桑原さんはとても目のいい方でした。店を見ただけで、この店は売れるために頑張ってるな、まだ努力が足りないな、と教えてくれました。グループを作り、ごまだしを作り、販売をしてきた桑原さんは、売れるために努力することを大事にされる方でした。もう「こんにちは」の声から違いました。物を売るには心が大切。何があっても心が大切。そう桑原さんは言われました。あいさつから心をこめて販売されている桑原さん。桑原さんには仕事の内容だけでなく、人生で大切なことを学びました。本当に桑原さんに出会えてよかったです。聞き書きに参加できて本当によかったです。

名人の仕事~森・川・海の名人たち~

CONTENTS

  • 名人とは
  • 名人の仕事
  • 聞き書き高校生の感想
  • 海・川の仕事人2020
  • 森の仕事人