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スギの種採り
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球果から種を出す
スギの種採りは10月以降と決められていて、秋の土用(10月20日~11月10日)が適期ですな。
種を採る地域は川上村。私はもう20年くらい前から顔パスで種採りをやらしてもらってます。吉野林業のためにと、村の人も思ってるんでしょう。
でもな、最低条件として、種を採る樹、つまり母樹は傷つけんようにするんですわ。あいつだったら、母樹を傷めんようにする、という長い間の信頼があるんと違うけ?
まずは母樹の選定ですな。良い樹から良い種を採る事は絶対条件です。なんせ、キャッチフレーズは「良い種は栄える」ですから。この樹の100年経った時の事を想像してみると、やっぱり責任の重大さを感じて母樹の選定にはだいぶ迷ったな。樹の形と、樹皮の表情を見るんです。経験がものを言います。これが完璧になるには30年かかりましたよ。
次は木登り。仕事の時はスパイク付きの地下足袋を履いとります。昔はわらじとかだったなあ。
おやじの頃はまず、一本梯子で6mまで木に登って、そこからは足縄のぼり。足縄のぼりちゅうのはサル登りや。素手で登るから、きつくてやりきれん。そんで、川上村にいた人に軽子(かるこ)登りを教わったんです。軽子ちゅうのは、ロープの両先に拍子木のような木が巻き付けてある道具の事。長さは8ヒロです。1ヒロというのは大人が両手を広げたサイズです。それを木に絡まして、足を乗せて、登っていくんや。樹の上で命綱を付ける。種採りを終って、次のスギへ移る時、一度降りると大変やないですか。だから、木から木へ、ロープを張ってターザンみたいに移動するんや。
昔、春日奥山の周囲9m50cmの大杉に登った事があるけど、いつもは、だいたい直径で50cm、周囲は150cmの木に登っとる。樹齢70~80年や。その位の樹齢の木が、勢いがあって一番いい種が採れるんです。高さ40mの木に登るんで、木の上は、爽快って言うんか、パアーっと山が見渡せるんです。鳥の気持ちがわかるわなあ。秋になると雲海が見渡せる事もありますよ。
登ったら、上げ綱で下から樹の上に鎌を運ぶんです。その鋭利な鎌で球果が付いてる枝を切り落とすんですわ。この鎌は柄が2m。滑り止めのために、柄の部分は、わざと粗雑に、だ円形で作ってあるんですよ。ヒノキの種を採る時には、たまに6mの竹の鎌を使う事もあります。種採りしてる時は集中してせな。でも、楽しくて、つい心が浮かれて歌を歌ったりしてる時があるんよ。(笑)
それから、落とした枝を束にして、背負い子に乗せて運び、持ち帰ったら2週間乾燥させて、球果の開き具合を見るんです。
まず種を取り出すために1回振るって落とす。10日間ほど置いてからもう一度。こうやってな、大きな桶に束をバサバサバサと当てて、種を落とすんです。球果の中に米粒大で厚さの薄い種がいっぱい入ってるんですよ。
それからゴミを取るために5mmのふるいに、サラサラサラとかけるんですわ。次は2mmのふるい。それから、4mmのふるい、2mmのふるい。何回も何回もやるんですよ。唐箕(とうみ)にもかけますな。仕上げはピンセットでゴミ取り。やっぱり、最後は人の手や。
こうして精選して、慎重に選んだ種を、春まで紙袋に入れて貯蔵する。種は生きとるから空気を通さんとあかんよ。