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日本は「森の国」と言われます。国土の3分の2が森に覆われた森林国です。山が多く、田畑が少ないこの国で、人々が暮らすことができたのは、世界でも有数の森の生産力と、森を最大限有効に活用する人々の知恵の集積があったからにほかなりません。
日本人は、昔から衣食住のかなりの部分を森から得てきました。家や土木に使われる材だけではなく、豊かで清涼な水、山菜や木の実などの食料、薪や炭などの燃料、織物に使う植物の繊維、屋根を葺くカヤ、田畑の肥料など、生活に必要なものの多くは森が与えてくれたのです。森をつくり、森を維持することは、人びとが生きるということと同じでした。人間も森の一部として、私たちの祖先は暮らしてきたのです。人間が木を伐り、木を植え、手入れすることによって、日本の森の多様性もまた維持されてきました。日本人の知恵と営み、その伝統や文化が、日本の森の活力を支えてきたのです。
長年、森と関わり、森とともに生きてきた「森の名手・名人」は、昔から日本人が伝えてきた知恵や技(わざ)、心を、ご自身の体験や経験とともに先人達から受け継いできた人たちです。たとえば、樵、造林手、炭焼き、山菜採り、木地師、カヤ葺き職人、竹籠づくりなど、森林に関わる職種は数多くあります。
「森の名手・名人」は、具体的な仕事や生活の技術とともに、古くから日本人が受け継いできた森と共に生きる“生き方”を私たちに教えてくれる人たちです。 -
森と共に生きるための知恵や技があるように、四方を海に囲まれた日本には、海や川の自然を守り、その恵みを得ながら暮らしていく知恵や技術が育まれてきました。
漁師や海女、船大工や釣竿づくりの職人、海や川の食文化や生活文化を継承する人。また、海や川の環境保護など、豊かな海や川を守るために活動を続ける人。このように、海や川と共に生きるため知恵や技術を先人達から受け継ぎながら、その発展に努める人々を毎年、「海・川の名人」として選定しています。
海や川の変化を敏感にとらえ、様々な工夫を凝らしながら自然と共に生きてきた「海・川の名人」は、これから持続可能な社会を考える視点を私たちに教えてくれる存在です。