私わたしは，東とう京きょう都と文ぶん京きょう区くに本社のある「新しん北ほく斗と警けい備び保ほ障しょう株かぶ式しき会がい社しゃ」の社長です。名前の通り，警けい備びを行う会社です。社員は約400名，営えい業ぎょうや経けい理りを担たん当とうする30名ほどのスタッフ以外，全員が警けい備び員いんです。
警けい備びを行う会社は，警けい察さつ署しょに届とどけ出でて公安委員会の認にん定ていを受けています。警けい備び員いんには専せん門もんの教育を受ければなることができますが，特とく殊しゅな場所や特定の種類の警けい備びを行うには，それに準じゅんじた資し格かくが必要です。そのためほとんどの警けい備び員いんは，会社に入ってからいくつかの資し格かくを得えています。
警けい備びは，警けい備び業ぎょう法ほうという法ほう律りつによって次の４種に大別されています。ビルや商業施し設せつの警けい備びをする「１号業ぎょう務む」，工事現げん場ばや花火大会などのイベントで警けい備びをする「２号業ぎょう務む」，現げん金きん輸ゆ送そう車しゃなどを警けい備びする「３号業ぎょう務む」，人の生命や身体の安全を守る「４号業ぎょう務む」。当社では，商業施し設せつや道路工事現げん場ばなどで幅はば広ひろく警けい備びを行っていますが，中でも２号業ぎょう務む，とくに「鉄道保ほ安あん業ぎょう務む」と呼よばれる分野に力を入れています。鉄道会社が行う鉄道工事現げん場ばで，列車が来るのを監かん視しして作業員に知らせるなどの業ぎょう務むを通じて，安全と安心を守る仕事です。例えば2019年11月には，ＪＲ山やまの手て線せんの新駅「高輪たかなわゲートウェイ駅」開業に向けた大だい規き模ぼな線路切きり替かえ工事が行われましたが，このときは当社から70名の警けい備び員いんが携たずさわりました。

鉄道は，いったん線路や設せつ備びが完成して開通した後も，工事が終わることはありません。時間が経たてば，列車の通つう過かや雨風などによって傷いたむ箇か所しょが出てくるからです。そうした場合，メンテナンス工事を行います。線路の補ほ修しゅうはもちろん，駅施し設せつの改かい修しゅうやホームドアの設せっ置ち，線路脇わきに茂しげった木の枝えだの伐ばっ採さいなど，鉄道に関する工事は多種多様です。
こうした工事に携たずさわる警けい備び員いんは研けん修しゅうを受け，各鉄道会社が定める資し格かくを取しゅ得とくしなければなりません。中でも，線路へ立ち入って作業ができる資し格かくを得えた警けい備び員いんは，「列車見み張はり員」として列車と工事作業員の安全を守ります。列車の監かん視しを行い，工事現げん場ばのそばを列車が通つう過かするときは，手旗や声かけで作業員に知らせて安全な場所へ待たい避ひさせます。また，トラブルが起きて事じ故こにつながる恐おそれがある場合は，無線機や手旗，火か炎えんによって合図を送る信号炎えん管かんなどを使い，列車を緊きん急きゅう停てい止しさせる役目も担になっています。

鉄道工事は夜間，終電の１〜２時間前から始発電車が走る時じ刻こくまでの間に行われることが多いため，警けい備び員いんの多くはどうしても夜よる型がたの生活になってしまいます。また，屋外での仕事ですから，冬の寒さや夏の蒸むし暑あつさ，雨風にも耐たえなければなりません。このように，業ぎょう務む内ない容ようによっては体力的にもきつい一面のある仕事ですから，私わたしは毎日，隊員の健康を祈いのるような思いで見守っています。
駅の設せつ備び工事や，道路工事を担たん当とうする警けい備び員いんは，通行人を安全な場所に誘ゆう導どうするなど，一いっ般ぱんの方々に接せっする機会が多々あります。ときには「工事の音がうるさい」「迷めい惑わくだ」といったクレームをつけられることもあります。問題が大きくならないよう，丁てい寧ねいに対たい応おうしなければいけませんが，そのような対たい応おうの仕方は，社内の研けん修しゅうなどで伝えるようにしています。けれど最終的には，個こ人じんの持つコミュニケーション能のう力りょくがとても重要なのです。

警けい備び員いんは，社会の安全・安心を守っているという責せき任にん感かんを持っています。無む事じ故こで一日を終えることが最大の目的だと言えるでしょう。一人の警けい備び員いんが担たん当とうするのは小さな役やく割わりかもしれません。けれど，その仕事がなければ大きな工事を無事に終わらせることもできないのです。無む事じ故こで工事を終えたときに感じる達成感は，警けい備び員いんという仕事のやりがいになっています。
工事現げん場ばに限かぎらず，小学生の登下校の見守り，ビルや商業施し設せつの守しゅ衛えい，イベント会場や周辺道路の警けい備びなど，どこで仕事をしていようが，いちばん大切なのは人々の安全です。何事も起こらない日が，誰だれにとってもいちばん素す晴ばらしい日なのです。そのために警けい備び員いんは，講こう習しゅうを受けたり先せん輩ぱいから教わったりするなどして，事じ故こを未然に防ふせぐための学びを続けています。専せん門もん知ち識しきを身につけ，警けい備び員いんとしての能のう力りょくを上げることが，仕事の喜よろこびにもつながります。

警けい備び員いんは，目を光らせて異い変へんを察知し，少しでも異い変へんがあれば素す早ばやく行動に移うつすことが必要です。何か起こってからでは遅おそいのです。何も起こらないようにするのが私わたしたちの仕事ですから。
駅えき構こう内ないのATMを操そう作さするおばあさんの様子をおかしいと思い，声をかけて振ふり込こめ詐さ欺ぎを未然に防ふせいだ当社の警けい備び員いんがいます。また，具合の悪くなったお客さんが乗っていた電車の発車を，駅のホームにいた警けい備び員いんが自身の判はん断だんで停とめ，鉄道会社から感かん謝しゃ状じょうを送られたこともあります。こうした行動ができるのは，一人一人の警けい備び員いんに強い責せき任にん感かんと使命感があり，つねに周しゅう囲いに目を向けているからです。

日本は，安全・安心な国だと言われてきました。しかし残念ながらそれは過か去この話で，安全や安心は当たり前にあるものではなくなりつつあります。これからの時代には，ますます警けい備びが必要となるでしょう。
このような時代に合わせて，警けい備びにも新しい技ぎ術じゅつが取り入れられています。たとえば，悪事を働きそうな人物の行動を予よ測そくできる，AI（人工知ち能のう）を搭とう載さいした防ぼう犯はんカメラ。また，駅などの施し設せつを自動で巡じゅん回かいする警けい備びロボットもあります。こうした先せん端たん技ぎ術じゅつを活用しつつも，やはり大切なのは人間の力だと考えています。
たとえば，振ふり込こめ詐さ欺ぎの被ひ害がいに遭あいかけていたおばあさんの様子を見てとって，「どうかしましたか？」と声かけができるのは，人間ならではの力です。ATMを操そう作さしている人を見て，「あれ，なんだかおかしいぞ，振ふり込こめ詐さ欺ぎでは？」と想そう像ぞうすることは，AIにはまだ難むずかしいからです。より安全な社会を実じつ現げんするためには，機械の得とく意いなことと人間の力をかけ合わせることが大切なのです。

私わたしは，東とう京きょうの深ふか川がわという町で育ちました。いかにも下町らしく，父も近所の人たちも人にん情じょう味みにあふれていました。困こまった人がいたら，かならず誰だれかが助けてあげるのです。
私わたし自身は，いたずらが大好きなわんぱく坊ぼう主ずでした。野球，ドッジボール，探たん検けんごっこなど，外で遊ぶのが大好きで，いつも小さな傷きずが絶たえませんでした。勉強では理科が好きで，将しょう来らいの夢ゆめはパイロット。けれど視し力りょくが悪く，その夢ゆめは断だん念ねんしました。
小学生から高校生まで続けた剣けん道どうのおかげで，礼れい儀ぎ作法を身につけることができました。剣けん道どうを通して，日本の文化に触ふれたことはとてもよかったと思っています。私わたしは地ち域いきの国こく際さい交流活動を何十年も続けているのですが，外国人と交流するときにも自国の文化を知っていないと，お互たがいの国の良さを伝え合うことができません。グローバル化が進む時代だからこそ，みなさんにも日本の文化を深く知ってほしいと思います。

何かをやってみたいと思ったら，臆おくすることなくチャレンジしてみましょう。失敗したっていい。それも大きな経けい験けんとなります。どうしてもうまくいかなければ，また違ちがうことにチャレンジすればいいのです。私わたし自身も，これまでたくさんのことにチャレンジして，いろいろな失敗を繰くり返かえしてきました。それでも人生は，なんとかなるものです。そうしたチャレンジや失敗があって，いまの私わたしがいるのです。だから，チャレンジしてきたことに後こう悔かいはありません。
みなさんにはまだ早いかもしれませんが，将しょう来らいどんな仕事に就ついたとしても，ねばり強くその仕事に取り組むようにしましょう。「石の上にも三年」と言います。仕事の本当のおもしろさには，続けてみないとわからないものもあるのです。ぜひ，覚えておいてください。