私（わたし）は尺八（しゃくはち）という和楽器を作っています。尺八（しゃくはち）は1尺（しゃく）3寸（ずん）から2尺（しゃく）3寸（ずん）まで長さの種類があり，1尺（しゃく）8寸（すん）(約54.5cm)の物が多いです。全国で尺八（しゃくはち）を作っている人は約10名いて，私（わたし）を含（ふく）めてそのうち3名が愛媛（えひめ）県内です。私（わたし）は，材料となる竹を自分で探（さが）し，根から掘（ほ）ってきます。尺八（しゃくはち）は根の部分が大事です。材料となる「真竹（まだけ）」は西条（さいじょう）産の物で2年くらい成長した物を使っています。夏は竹の中に虫が湧（わ）くので，12月から2月の冬の間しか掘（ほ）れません。以前は全国で市民会館など会場を借り，展示会（てんじかい）を開いて販売（はんばい）していましたが，今はお客さんから注文を受けて製造（せいぞう）することが多くなっています。

集中して作業をするので8時から15時まで仕事をします。 尺八（しゃくはち）を作る時は，まず，円周が10cmくらいの真竹を1m前後の長さで根から掘（ほ）ってきます。竹に付いている土やゴミを取って掃除（そうじ）をしたら，日陰（ひかげ）で3年以上乾燥（かんそう）させます。長い時間がかかりますが，乾燥（かんそう）させることによりヒビや割（わ）れを防（ふせ）ぎます。竹をよく乾燥（かんそう）させたら，次に火であぶる「油抜（あぶらぬ）き」と言う作業をします。この時，青い竹が茶色に変わります。そして，竹の節や作りたい尺八（しゃくはち）の寸法（すんぽう）に合わせて竹を切り，指でふさぐ穴（あな）を開け，尺八（しゃくはち）の命である「唄口（うたぐち）」（吹（ふ）く所）を作ります。それから，竹の中に石膏（せっこう）と漆（うるし）を混（ま）ぜた物をゆっくり流し込（こ）み，乾燥（かんそう）したら中を見ながらヤスリで削（けず）って，良い音が出るように調律（ちょうりつ）をします。さらに，竹の中に赤漆（せきしつ）を塗（ぬ）って削（けず）るという作業を3回繰（く）り返すと，赤くピカピカの美しい見栄（みば）えになり，息の通りも良くなります。最後に溶接（ようせつ）して金具をロウ付けすれば完成です。１ヶ月で10本くらい製造（せいぞう）できます。

竹が全て同じ形をしていれば機械でも尺八（しゃくはち）を作ることができるかもしれませんが，実際（じっさい）には大きさなどが一本一本違（ちが）うので，手作業で良い音が出るように作らなければなりません。調律（ちょうりつ）のために竹を削（けず）る時は精密（せいみつ）ヤスリを使いますが，ヤスリは100種類以上もあります。少し削（けず）った後，チューナーと言う音の種類を測（はか）る機械を使って，音を何度も合わせていきます。削（けず）る角度や中の直径が変わると音が狂（くる）ってくるので，尺八（しゃくはち）１本の調律（ちょうりつ）に3日以上かかることもあります。また，竹は尺八（しゃくはち）を作る前はよく乾燥（かんそう）させないと割（わ）れますが，製品（せいひん）になった後は逆（ぎゃく）に乾燥（かんそう）させると割（わ）れやすくなるので，湿度（しつど）を保（たも）てる木箱に入れて保管（ほかん）します。それから，漆（うるし）の原液（げんえき）が手以外に付くと赤くかぶれてしまうので，気を付けて作業をしています。

自分が作った尺八（しゃくはち）一つひとつに，製作者（せいさくしゃ）として自分の名前を打つことにより，責任（せきにん）が出てきます。また，私（わたし）が作った尺八（しゃくはち）がずっと残るということがやりがいの一つです。私（わたし）が作った尺八（しゃくはち）をテレビで演奏（えんそう）しているのを見たり，お客さんが尺八（しゃくはち）を海外に持って行って演奏（えんそう）してくださったりすることも嬉（うれ）しいですね。音が出しやすかった，良かったよというお客さんの声も大切にしています。

仕事が雑（ざつ）にならないように，「音」を大切に出すようにしています。良い尺八（しゃくはち）とは，竹の形や柄（がら）が良く，音の鳴り・響（ひび）きが良いものです。そういった一品には装飾（そうしょく）をして豪華（ごうか）にします。機械のチューナーでは同じ音でも，人の耳で聞くと違（ちが）って聞こえることがあります。表現（ひょうげん）することは難（むずか）しいですが，音にも硬（かた）い音と柔（やわ）らかい音があります。響（ひび）きが悪いこともあります。尺八（しゃくはち）の魅力（みりょく）は機械では出せない音色なので，その音色が引き出せるような尺八（しゃくはち）を作りたいと思います。近所の公民館で尺八（しゃくはち）の演奏（えんそう）をしたり，尺八（しゃくはち）の吹（ふ）き方の教室をしてくれていたりする人もいますが，私（わたし）は演奏（えんそう）するというより，一音一音を丁寧（ていねい）に出すことを心がけています。

叔父（おじ）が尺八（しゃくはち）を製造（せいぞう）していたのですが，跡取（あとと）りがいなかったので私（わたし）に「やってみないか」と言われたのがきっかけで，23歳（さい）の時に軽い気持ちで始めました。もしダメなら別の仕事に就（つ）けばいい！と思っていましたが，始めると尺八（しゃくはち）作りの楽しさに気づきました。尺八（しゃくはち）を吹（ふ）けなかったので，地元の西条（さいじょう）市にいる先生に3年習いました。5,6年くらい経（た）って，独（ひと）りで仕事ができるようになりました。昔は，材料は買わないとできないと思って竹を買っていましたが，竹材はとても高かったので，「自分で竹を取りに行こう」と思って山に行ってみると，西条（さいじょう）市には良い竹がたくさんありびっくりしました。

小さい時は，家にあった竹でチャンバラをしてよく遊んでいました（笑）。将来（しょうらい）尺八（しゃくはち）の製造（せいぞう）をするとは思っていませんでしたが，小学生の頃（ころ）から叔父（おじ）の手伝いをしていました。また子どもの頃（ころ）は，犬小屋を作ったり，プラモデルを買って自分で改造（かいぞう）したりしていました。ものを作ることが好きでしたね。勉強は苦手でしたが，学校へ行くと友達と一緒（いっしょ）に遊ぶことができるので学校へ行くことは好きでした。それから，握（にぎ）り寿司（ずし）が好きで寿司（すし）職人（しょくにん）になりたいと思っていました。今は，機会があれば調理師（ちょうりし）免許（めんきょ）を取りたいなと考えています。

皆（みな）さんは学校でリコーダーを習ったと思います。尺八（しゃくはち）はリコーダーのように吹（ふ）いてもすぐに音は出ませんが，早い人なら3日練習すれば音が出るようになります。ぜひ挑戦（ちょうせん）して尺八（しゃくはち）の音色を聞いてみてください。また，どんな仕事でも人から喜ばれ，必要とされるから成り立ちます。人から喜ばれることをして欲（ほ）しいですね。心の優（やさ）しい人になってください。