スポーツ栄えい養よう士しというのは、アスリートを対たい象しょうに活動する栄えい養よう士しです。競きょう技ぎで活かつ躍やくするアスリートが、どのようにして体をベストな状じょう態たいにもっていけるか、それを栄養面からアシストするのが主な仕事になります。具体的には、何をどう食べて毎日の試合や練習で蓄ちく積せきする疲ひ労ろうを回かい復ふくしていくか、ケガをしたときにどう治していくかなど、日々のコンディションを食からアプローチしていきます。私わたしは今、埼玉西せい武ぶライオンズで栄養サポートを行っていますが、特に体が細い若わか手て選手は、体重や筋きん肉にくをしっかり増ふやすことが求められます。このような体づくりが必要なときに、どうやって食から体をつくっていくかをアドバイスします。自じ炊すいをしたい選手にはレシピを提てい供きょうしますし、料理を作ってくれる方がいる選手であれば調理担たん当とうされる方へ向けたレシピをお渡わたしします。コンビニエンスストアや外食が中心の選手には、どのようなものを買ったり食べたりしたらいいかを示しめします。ライフスタイルはそれぞれ違ちがうので、その選手に合った形で、日にち常じょうの食事がトレーニングの一いっ環かんとなるような意い識しき付けをしていくことが私わたしの仕事だと思っています。

現げん在ざいは、埼玉西せい武ぶライオンズのファーム（2軍）を担たん当とうしていますが、チームに帯同する際さいは、練習や試合中の選手の動きを確かく認にんしたり、食しょく環かん境きょうの整せい備びや食事中のアドバイスなどのほか、遠えん征せいがあれば、宿しゅく泊はくするホテルのスタッフや調理担たん当とう者しゃとメニューの打ち合わせを行います。またチームでは定期的に体組成計けい測そくや血けつ液えき検けん査さを実じっ施ししていますが、個こ々この結果に応おうじて、問題点を明らかにして、改かい善ぜん策さくを一いっ緒しょに考えたり、栄養情じょう報ほうの発信として、掲けい示じ物ぶつを作成したり、レクチャー（講こう義ぎ）をしたりすることもあります。
宿しゅく泊はくを伴ともなうキャンプでは、すべての食事を共にできる場であるため、選手がどのような食べ方をするのかといった食傾けい向こうをリサーチすることができ、改かい善ぜんが必要な場合には、具体的なアドバイスを行うこともできるという点で非ひ常じょうに有ゆう意い義ぎな機会となります。

仕事をするうえで、スタッフとたくさん会話をすることを心がけています。例えば、選手がとる補ほ食しょくを用意する際さいにも、「どこに設せっ置ちすれば、選手の動きを妨さまたげずに効こう率りつよくとることができるか？」をみなで話し合って考えることもあります。スポーツの現げん場ばだけでなく、どの仕事でも同じことが言えますが、相手（選手）が何を求めているのかを把は握あくするためにも、関係するスタッフでより多くのコミュニケーションを図はかりながら一いっ緒しょに考えていくことが大事だと思います。私わたしたちに求められているのは「チームで選手を支ささえていくこと」です。選手だけでなく監かん督とくやコーチ、スタッフたちと話す中で、他た愛あいもない会話からいろいろ引き出せることもあります。だからこそ、連れん携けいの重要さというのを日々実感しています。そのような連れん携けいの中で得える選手の情じょう報ほうも多く、選手とのコミュニケーションで活用することができます。

スポーツ選手の栄養指し導どうというのは、普ふ通つうの人への栄養指し導どうとは異ことなる部分が多くあります。特に体をつくるために、体重を増ふやさなくてはいけないときが大変です。なぜなら、彼かれらは基き本ほん的てきに毎日練習で体を動かしているので、動く量が圧あっ倒とう的てきに多く、消しょう費ひするエネルギー量（カロリー）に食事からとるエネルギー量が追いつかないからです。普ふ通つうの食事だと体重が減げん少しょうしてしまうことが多いです。それが蓄ちく積せきしていくと、体づくりだけでなく精せい神しん面めんにもトラブルが発生するなど、弊へい害がいが生じてくるんですね。そういったことが起こらないよう、未然にどう防ふせぐか、うまく支ささえる態たい勢せいをつくるかということが求められます。選手とも、ただ「体重をこういうふうにしたい」という会話だけではなく、なぜそうしたいのか、体づくりへのモチベーションが低下しないよう、それをすると一軍でプレーするときにどうつながっていくのかという話もします。また「以前このくらいの体重のときはどうだった？」など、体重の数字一つでもなるべく会話を広げて、そこからやるべきことを提てい示じしていけるよう心がけています。

私わたしは若わかいころから男だん性せいアスリートの栄養サポートに関わることが多かったです。今では選手たちのお母さんに近いような年ねん齢れいになっているのですが、だからこそ、選手との距きょ離り感を大切にしています。私わたしの存そん在ざいが、「逃にげ場ば」にならないよう、何かを指し導どうするときにも、いろいろと考えながら、言葉を選ぶようにします。選手のなりたい姿すがたが何なのか、どこを目指しているのか、そのために彼かれらが大事にしていることは何なのかを丁てい寧ねいに聞き出し、実じっ践せんできるような導みちびきができるように心がけています。選手と日々接せっする中で、選手から「食事の重じゅう要よう性せいがわかった」「まずは食事をきちんと考えていこうと思う」といった気づきが見られたときは、とてもうれしいです。

実はもともと目指していたのはスポーツ栄えい養よう士しではなく、アスレティックトレーナーでした。全米アスレティックトレーナーズ協会の認にん定ていトレーナー資し格かく（NATA-ATC）を目指し、大学時代はアメリカンフットボールで学生トレーナーとして従じゅう事じしていましたが、何をやっても次から次へとケガ人が増ふえる状じょう況きょうに直面しました。チームドクターとチームの問題点を探さぐる中で、もしかしたら食事が原げん因いんではないかということに行きつきました。当時、選手たちは、練習が終わると炭たん酸さん飲料を飲み、カップラーメンを食べて、タバコを吸すう……といった状じょう況きょうで、日々の食事と体づくりを結びつけて考える人はほとんどいませんでした。そこからは、ありとあらゆる角度から、選手に対して、食行動を変えるためのアプローチをしていったのを覚えています。「体はその人が食べたものでつくられている」、そんな当たり前のことを私わたし自身も再さい認にん識しきし、食べるものにフォーカスをすることによる選手のコンディションの変化の可か能のう性せいに興きょう味みをもち、スポーツ栄えい養よう士しの道を選せん択たくしました。

子どものころはどちらかというと、やや控ひかえめな性せい格かくだったと思います。年ねん齢れいを重ねるごとに、自分の性せい格かくをどう仕事に生かせるかということを考えるようになり、大学のころには漠ばく然ぜんとスポーツの現げん場ばで働くことを決めていました。ただスポーツ栄えい養よう士しの道を進むことを決めてからは、目標を実じつ現げんするために努力を惜おしまなかったと思います。何か目標を決めたら、納なっ得とくいくまでやり遂とげる性せい格かくは今も同じかもしれません。自分の将しょう来らいの道を決めたアメリカンフットボールという競きょう技ぎも、実は競きょう技ぎのことは何ひとつ知らず、勢いきおいだけで現げん場ばに飛とび込こんだ世界でしたが、結果、その先何十年と続く現げん職しょくの原点となり、どのような場所であっても、その環かん境きょうでどう自分らしく生きるのかを学んだ場となりました。

今、私わたしが取り組んでいる課題は、スポーツ栄えい養よう士しという仕事が普ふ及きゅうしていくための環かん境きょうをどうつくるかということです。志こころざし高い栄えい養よう士しの方も増ふえていますので、多くの方にこの職しょく業ぎょうを理り解かいしていただき、働きやすい環かん境きょうをつくっていかなければなりません。また、経けい験けんがある人がずっと第一線にいるのではなく、次世代の方がもっと活かつ躍やくできる環かん境きょうをつくっていきたいです。これを読んでくれている方へお伝えしたいのは、「日ひ頃ごろからさまざまなことにアンテナを張はっておいてください」ということです。私わたしが何も考えず、アメリカンフットボールの世界に飛とび込こんだように、みなさんが少しでも興きょう味みをもったもののその先には、とても素す敵てきな世界が待っているかもしれません。ぜひその気持ちを大切にしてください。