私わたしは，「国こく立りつ研けん究きゅう開かい発はつ法ほう人じん 新しんエネルギー・産さん業ぎょう技ぎ術じゅつ総そう合ごう開かい発はつ機き構こう」（NEDO，ネド）という組そ織しきで，ロボットやAIに関する研究開発を，プロジェクトマネージャーとして支し援えんしています。
国立研究開発法人は，国が税ぜい金きんを使ってやるべきことのうち，研究・開発に関するものを担になう組そ織しきです。その中でもNEDOの事業は，「新エネルギー」と「産業技ぎ術じゅつ」の2つの分野に特化しています。もともと1973年に発生した石油危き機き（原油産出国からの供きょう給きゅうが急きゅう激げきに減へり，石油の価か格かくが上がったことで世界中の経けい済ざいが混こん乱らんした出来事）がきっかけでできた組そ織しきということもあって，最初は石油に代わる新エネルギーの開発支し援えんがメインの事業でした。そこに1988年から産業技ぎ術じゅつの分野が加わり，ロボットの開発やそのために使える材料，最近だとIoT（モノのインターネット）技ぎ術じゅつの開発支し援えんなども手がけるようになりました。
NEDOは経けい済ざい産さん業ぎょう省しょうの所管する組そ織しきで，新しい技ぎ術じゅつの研究だけに留とどまらず，研究の成果を社会の中で生かし，経けい済ざいや産業そのものを活かっ性せい化かすることまでを目指しています。また，そうした開発支し援えんを通して，諸しょ外がい国こくに日本の技ぎ術じゅつ力りょくの高さをアピールし，日本全体としての技ぎ術じゅつ力りょくを向上させていくことも目標です。
私わたしは2017年にNEDOに就しゅう職しょくし，それからずっと「ロボット・AI部」という部ぶ署しょで，ロボットや人工知ち能のう（AI）分野の研究開発を支し援えんしています。

ロボット・AI部には今，約140名の職しょく員いんがいて，その中でロボット系けいの仕事に携たずさわっている人は約40名。常つねにいくつものプロジェクトが同時進行で動いています。
私わたしがこれまでに携たずさわった仕事としては，例えばドローンを街中で安全に飛ばせるよう，航こう空くう機きのように管かん制せいする仕組みの開発支し援えんがあります。たくさんのドローンが好き勝手に飛んでいたら，衝しょう突とつしてしまう危き険けん性せいがありますよね。そこで，衝しょう突とつを防ふせぐための運うん航こうルートを計算して管理できるような仕組みをつくろうとしているのです。また，ドローンが近くにある飛行物を自ら検けん知ちして回かい避ひできるようにするための技ぎ術じゅつの開発なども支し援えんしています。
社会の中で役立つテクノロジーを安全に使うために必要な技ぎ術じゅつの開発は国が主しゅ導どうすべきですし，行ぎょう政せいからの要望もあります。国は，今後ドローンを運送業などで幅はば広ひろく活用していくためのロードマップ（進行計画案）をつくっています。NEDOではそれに沿そって，例えば「2025年までにドローンを街中で飛ばすのであれば，2021年時点ではこんな技ぎ術じゅつが開発できていないといけない」というように，技ぎ術じゅつ的てきな観点で計画を区切って開発を進めています。国や企き業ぎょうの要望をもとに具体的な事業の計画を立て，進めていくのがこの組そ織しきの役やく割わりなのです。

私わたしは今，プロジェクトマネージャーとして，自動車工場などで製せい品ひんの組み立てをするのに使うような産業用ロボットの開発支し援えん事業を進めています。「革かく新しん的てきロボット研けん究きゅう開かい発はつ基き盤ばん構こう築ちく事じ業ぎょう」という名前のこのプロジェクトは，2019年に計画を練って議ぎ論ろんを重ね，2020年にスタートしたばかりです。産業用ロボットのアーム（腕うで）のハンドリング操そう作さやロボットを遠えん隔かく操そう作さするための技ぎ術じゅつ，厳きびしい環かん境きょう下でも使える新素材の開発など4つの内ない容ように分かれ，私わたしがチームリーダーを務つとめて同じ部ぶ署しょの2人のメンバーと担たん当とうしています。
プロジェクトマネージャーの仕事はまず，事業全体の計画を立てることから始まります。今回の事業は，経けい済ざい産さん業ぎょう省しょうと日々議ぎ論ろんをしている中で，産業用ロボットの開発支し援えんが必要だという要望が上がり，具体的にどこをどう支し援えんしたらよいか，計画を立案しました。支し援えん内ない容ようや目標が決まったら，次は事業を進める企き業ぎょうや，大学などの研究機関 を集めます。事業がスタートした後は，経けい済ざい産さん業ぎょう省しょうや，参加してくれている企き業ぎょうや研究機関の方のところに現げん状じょうを確かく認にんしに行ったり，要望を聞いて資し料りょうにまとめたり，場合によっては，進しん捗ちょく状じょう況きょうに応おうじて事業全体の目標を見直したりもします。

立ち上げ時に事業計画の基き盤ばんをつくり上げることは，プロジェクトマネージャーのとても重要な仕事です。
中でも大事なポイントが3つあります。まず1つ目は事業自体の目標設せっ定ていをすることです。今回の事業は5年間の計画ですが，目標がボンヤリしていると進め方を見失ってしまうことがあります。そこで具ぐ体たい性せいがあって，5年後に実じつ現げんするのに高すぎず低すぎない目標を考え，いろいろな分野の専せん門もん家かと何度も議ぎ論ろんを重ねて固めていきました。
2つ目はNEDOと一いっ緒しょに事業に取り組んでいくメンバーの選出です。この事業では，実じっ際さいに産業用ロボットやその部品を製せい造ぞうしている民間企き業ぎょうにたくさん参加してもらいました。ただ，プロジェクト名にもある “革かく新しん的てき”なロボットを開発するためには，大学などで行われている，優すぐれた研究も生かしていきたい。そのように考えた結果，民間企き業ぎょうと研究機関とをバランスよく組み合わせた「産さん学がく連れん携けい」の形でメンバーを構こう成せいすることになりました。
3つ目は，予算の配分です。今回のようにたくさんの研究機関や企き業ぎょうが関わる場合，決められた予算をどこにどのくらい割わり振ふればうまく事業が進むのかを考えなくてはいけません。また，事業を進めるためには，毎年，予算を確かく保ほする必要があるのですが，なかなか思う通りに出してもらえないこともあります。そういうときにプロジェクト自体の軌き道どう修しゅう正せいや調整をしていくのも，プロジェクトマネージャーの大事な仕事です。

仕事をする中で難むずかしさを感じるのは，研究の支し援えんとしてお金を出す側のNEDO職しょく員いんの立場で企き業ぎょうや研究機関の方と話をすると，どうしても本音を語ってもらいにくくなってしまうことです。そのため，相手が本当に考えていることをできるだけ聞き出せるよう，聞き方や話し方を意い識しきして会話をするようにしています。また，私わたし自身がもともと農学部出身でロボットの専せん門もん家かではなく，技ぎ術じゅつ的てきな部分の理り解かいが難むずかしいこともあるので「今の話はこういう理り解かいで合っていますか？」など，自分の解かい釈しゃくがズレていないか，できるだけ相手に確かく認にんしながら話をしています。
たくさんの企き業ぎょうや研究機関の方の話を聞いていると，さまざまな観点の意見や問題が出てきます。みなさんの話を総そう合ごうして，本当に問題になっていることや，その問題の根底にあるのが何なのかを考えることも大切です。NEDOは予算を出す省しょう庁ちょうと企き業ぎょう・研究機関との間に立って，橋はし渡わたしをするポジションですから，企き業ぎょうや研究機関の側に予算状じょう況きょうの適てき切せつな説明をしながら，省しょう庁ちょうにはそれぞれの企き業ぎょうや研究機関の要望と，NEDOとして事業をどう進めていきたいと考えているかをしっかり伝えていく必要があります。そうすることで両者の関係をきちんと取り持てるよう，いつも心がけています。

技ぎ術じゅつを支し援えんする組そ織しきで働いているので，日にち常じょう的てきにロボットやAIに関する情じょう報ほう収しゅう集しゅうをしています。ゲームやスマート家電などの新しい電子機器は，もともと好きなのもあって集めています。日本の技ぎ術じゅつ開発をどう支し援えんしていくのかを考えるには，国内だけでなく，世界の動向を見ることも欠かせません。海外の情じょう報ほうは自分から取りに行かないと手に入らないものも多いので，積極的に情じょう報ほうへのアンテナを張はり巡めぐらせるようにしています。
同時に，多くの人と関わる仕事ですから，コミュニケーションをとても大事にしています。特に今は新しん型がたコロナウイルスの影えい響きょうでなかなか直ちょく接せつ，顔を合わせて話ができないため，NEDO内のチームのメンバーですら，何をしていて，どこまで業ぎょう務むが進んでいるのか見えにくい状じょう況きょうです。その中でどう意思疎そ通つうをしていくかは，大きな課題です。
仕事をしていてやりがいを感じるのは，事業に参加してくれた企き業ぎょうや研究機関の方に「NEDOの事業で研究ができてよかった」と言われるなど，成果が出たり喜よろこんでもらえたりしたときです。私わたしたちは社会のためになる事業に取り組んでいきたいと考え，日々，仕事をしています。しかし，携たずさわった事業がすべて世の中に出せるまでの形になるかというと，やはりそうはいきません。その中で，支し援えんした技ぎ術じゅつが製せい品ひん化かにつながったという話を聞くと，いい支し援えんができたのかなとうれしくなります。2017年には，以前関わった電でん動どう車くるまいす型がたロボットが製せい品ひん化かされ発売されました。そこで製せい品ひん化か後に，NEDOのホームページで製せい品ひん化かの話を紹しょう介かいするため，開発した企き業ぎょうの方に開発秘ひ話わを聞きに行ったとき，製せい品ひん化かまでの苦労話と一いっ緒しょに感かん謝しゃの言葉もいただけて，とてもモチベーションが上がりましたね。

中学・高校時代は部活でやっていたハンドボールに熱中し，ほぼ毎日練習の日々でした。大学でもハンドボール部に入っていました。部活ではまとめ役になることが多く，高校のときは部長，大学のときは副部長を務つとめました。強力なリーダーシップがあるタイプではありませんでしたが，周りを常つねに見て，気をつかう性せい格かくだったと思います。悩なやみを抱かかえていそうな部員や下級生には，特によく声をかけていました。今やっている，マネージャーとしてプロジェクトを動かす仕事もチームで取り組むものですから，普ふ段だんから周しゅう囲いを気にかけて話を聞くのは，今も昔も変わらず大事なことだと感じています。
NEDOは，大学院で同じ研究室にいた先せん輩ぱいが就しゅう職しょくしたことで知りました。当時，農学部で稲いねの研究をしていて，研究に関わる仕事をしたいと思いながら，自身が研究者として一つのテーマだけに集中するのは自分の性せい格かくに合っていないと感じていました。NEDOの事業は農学部とは全く異ことなる分野ですが，新エネルギーからロボットまで多様なテーマに関われること，研究者を支し援えんできることが魅み力りょくで応おう募ぼを決めました。
最近はロボットを使った「スマート農業」に興きょう味みがあり，新しい事業として仕事にできないかと考えています。たまたま他の仕事で農業ロボットに関わり興きょう味みをもったのですが，私わたしは農学部出身ですから，これも何かの縁えんかもしれませんね。

NEDOの仕事をしていて感じるのは，物事を少し離はなれたところから俯ふ瞰かんして見る（＝広い視し野やで見る）ことの大切さです。例えばニュースでも，ある事こと柄がらや事じ件けんに対していろいろな立場の人が自分なりの視し点てんで意見を言いますが，そのどれが本当に正しいのかは，なかなかわからないこともよくあります。他人の話をうのみにするのではなく，少し“疑うたがってみる”こと，自分でも「何が本当か」を考えながら聞くことが大事だと思います。
どんな仕事をするにしても，「この人の言うことはすべて間ま違ちがいない」という思いこみをしたまま物事を見ていると，正しい方向に進めなくなってしまいます。私わたしの仕事は国の税ぜい金きんを預あずかって行う事業で，「どうしてこんな事業をしているの？」と聞かれたときに，誰だれに対してもきちんとした説明ができなくてはいけません。そんなとき，特定の誰だれかの意見だけを信じて進めましたというのでは，説せっ得とく力りょくがありませんし，自信をもってお話できなくなってしまいます。どれほど偉えらい人の意見だったとしても，誰だれか一人の話だけを正しいとするのではなく，きちんと自分の頭を使って解かい釈しゃくし，言葉にするのは，とても重要なことです。みなさんも，さまざまな情じょう報ほうをもとに，自分で解かい釈しゃくしたり，自分で考えたりできるようになってください。